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サビ付き英雄譚【打ち切り】  作者: アッキ@瓶の蓋。
研究者と妖精の緑の書

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38/90

神官はどういった価値観を持っているのか

 ユーリ・フェンリーは黒い水たまりから出ていた、淀んだ雰囲気をその身に宿した純粋な悪とも言うべき黒い生物が有効な攻撃手段だと気付くと嬉しそうな顔で見ていた。


「どうやら劇を有効に見せる方法は今ここに発見したようだ。ならば一番良い攻撃の仕方はこの『異常性癖治療』という(きんしょ)に載っているらしいね。ならば次はこの魔法を使おう。

 禁術的治療による太陽剣(ソルティー)家族(オーズ)――――禁書目録『異常性癖治療』第五章第四節参照」


 ユーリがそう言うと共に、黒い水たまりが消えて、そこから生まれた黒い《なにか》も消えていた。

 するとその背後に真っ白な光が後光のようにさしており、光が彼の背後で2本の剣という形になってその場に現れていた。そして2本の剣が交差する事によって4本、8本、16本と倍々にその数は増えて行き、どんどん数が増えていた。


「1秒毎に倍々に増えていくこの剣は、たった10秒でその数は1024本という多さになっている。そしてそれから5秒、たった5秒(・・)で――――その数は32768 本と言う途方もない数に増える。その3万にも及ぶこの剣は異常な速さで、相手の身体を貫く。そう、かするだけでも構わない。

 気を付けた方が良いと予め言っておきましょう。なにせ、先程の【〇$!%$#】と全く同じ、精神に異常なまでに支障を来たすのだからね」


 そうやって放たれた剣はと言うと物凄い勢いで宙を舞いながら、俺の元へと迫って来ていた。


「……さっきの《なにか》と同じように精神に強く影響を及ぼすのならば、1本でも触れる事は許されませんかね。それならばこちらは一撃も受ける事は出来ないかね」


 俺はそう言いながら剣を構えて、迫って来ている剣を1本も逃さないように注視する。そして自分の身体に当たる剣を、3万本近い剣の中から選定する。


(全ての剣を落とす事は出来ない。しかし剣に一発も当たってはいけない以上は、まず選出しなければなるまい。そう、どれが当たり、どれが当たらないかと言う事を)


 3万本以上……そんなにでたらめな数の剣を撃ち落とす事は出来ない。

 それならばまず当たるかどうか、それか避けるかどうかを選択する。しかし相手の剣が誘導式になっていたり、途中で操作が出来るならば一歩、その場所を動く事だけでも攻撃が分からなくなる。

 ならば一歩も動かず、一歩も引かず、対処するしかない。


 そしてどれに対処するか、どれが対処してはいけないかを決める。

 3万本と言ってもその全てが俺の元へと真っ直ぐ向かっている訳ではない、ならば対処できる本数は3万本以下である。だと言っても、剣術で対処するには多すぎるけれども。


(ならば――――こっちを使う!)


 俺はそう言って腕から炎を発生して身体に纏わせ、それから剣に纏わせる。


「点で1本1本剣を撃ち落としては遅すぎる。線で剣を落とすのにもどうやれば良いか分からない。

 それならば――――面で(・・)、炎の剣として落とすしかない」


 俺はそう言いながら剣を炎に纏わせながら、そのまま剣を大きく振り払っていた。

 大きく振り払うと共に剣に纏わせていた炎が振り払われており、それは大きな炎の防御壁となって俺の前に突如現れて、俺を剣の攻撃から守っていた。


「――――おぉっ、騎士らしい! なんとも《正義》らしいじゃないか!」


 俺が出した炎の壁を見て、自分の攻撃が防がれたのを見て、感動した様子でパチパチと大きく手を叩いて喝采を送るユーリ・フェンリー。


「炎と言うのは実に分かりやすく、その者の正義感を示してくれる。正義の使者という立場において、多くの作品において炎を持つ能力の主人公と言うのは多く存在している。そう、この図書館にも英雄譚や創作品にて1000近い、類似の"炎"を操る正義の者が主人公の作品が存在する。勿論、炎を扱う敵が出てくる作品はその倍以上存在するが、ともかく主人公として使える能力と言うのは倍以上の数の作品で敵の能力として使われるものだ。

 だがしかし、やはり炎と言うのはいつだって特別だね。分かりやすい表現と言う形にて、読者に能力を見せつける事が出来ると言うものだよ! いやはや、素晴らしい! 素晴らしすぎるくらいだよ!」


「……どうしてそこまで喜べるのかが、俺には分からないな」


 確かに戦闘において気持ちが高揚する事はあるし、それが心地いいと感じるのも戦闘に置いてはある事だ。だけれどもここまでという事はない。


 ユーリ・フェンリー、彼の高揚感というのは少し異常である。

 戦闘に喜びを見出しているのではなく、ただ単に彼は場面が、その状況が美しいからと言う理由だけで喜びを見出している。

 彼は戦士ではない、ただ本などを読んで嬉しがる読者である。


「君にはないのかい、本に載れて嬉しいと言う感情は? 時代と言う1ページに自分の名前や自分の事が載るというような嬉しさは!

 全ては読む者のために存在し、誰かに読まれると言う事でのみ本と言う形でそこに存在している!


 そう、全ては誰かに知られるため! 誰かに伝えるため! 誰かに読まれるため!

 それこそが《本》がこの世界に存在している理由!

 読まれる事がなくなった本に存在価値はなく、読まれないように作られた本はあるだけで可哀想。


 だからボクは全ての本を平等に愛する!

 異常性愛者が自己を肯定するためだけに書いた独りよがりな本も、難しい内容を難しく伝えるために作られた専門書も、物語の内容が飛び飛びになってしまって読めない本も、伝えたい事が分からないようなちょっぴり謎めいた本も! そしてたとえ世界に破壊と混乱をまき散らす禁書であろうとも、それが本である以上はボクはその全てを愛する!

 平等に、公平に、公正に、そして中立的に!


 この世界はつまらなさすぎる!

 現実と言うのは劇的でもなければ、そこに物語と言うストーリーすらない時も、いきなりチョイ役が全てをかっさらってしまう事だってある!

 だから調整(・・)せねばなるまい! 誰かが、この世界を、本の世界のように劇的に書き替え、そして本のように読まれるために残さなくてはならない!

 それがボクが存在する理由! そのためにまずは知らねばなるまい!

 無知は罪であり、既知は物語の幅を広げる原動力だからね。そのために妖精と、エルフを拉致して、その生態を知らねばなるまい! ボクは正しい、より良い本のためならばその行動は全て肯定されるのだ! ハハハッ!」


 高らかにそう宣言するユーリ・フェンリー。

 しかし、そんな彼の横を、すーっと流れる形にて弓矢が飛ぶ。


「……!?」


「……より良い本のためならば、何をしても許される? それはちゃんちゃら可笑しな理論なの」


 弓矢を放ったラースは、狙いを定めながらそう言う。


「殺人をすれば裁かれる、それはダークエルフの里でも同じことなの。

 どんな目的があろうとも、とってはいけない手段と言うのはある事なの。

 ――――たかが(・・・)本のために、人を誘拐するなんてあってはいけない事、なの!」


 そう言ってさらにもう1射、弓矢を放つラース。


「そんな劇的でもない弓矢の攻撃、さきほどのように本に挟んであげましょう」


 ユーリは本を広げ、弓矢を先程と同じように防ぐ体勢を取る。


「――――なら、あなたが好きな《劇的》な弓矢にしてあげますなの」


 ユーリの目の前で、直前にて弓矢の軌道が変わる。いや、変わって行く。

 もう1本の、気付かれないくらい同調して放たれたもう1本の弓矢によって。


「――――影からの一撃(シャドーアロー)なの!」


 そして弓矢はユーリの、そう防ごうとしていた本にぶすりと突き刺さる。


「オー、マイ、ゴッッッッッッッッッッッッドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッ!」


 燃やす事も、濡らす事も、切断する事も出来ない禁書ではあるが、その本のページに突き刺す事は出来る。破る事も出来る。

 そう、彼女がやったように本のページに対しては無防備な禁書に攻撃する事も出来たのだ。


 しかし、未だに先程の魔法の暴風がある中で、ここまで精密に弓矢を支配(コントロール)するのは流石である。


「お、おのれぇぇぇぇぇぇぇぇ! 大人しくボクの既知に協力すれさえすれば良かったものをぉぉぉぉ! そんな君達にはこの言葉を送ろうじゃないかぁぁぁぁ!」


 本を攻撃されて、自分に攻撃された以上に激高したユーリの元に、この本棚の中で一番上にある棚の中から1冊の本が現れる。

 それは先程の、あの黒い《なにか》と同じような純粋な闇ともいうべき真っ黒な皮の装丁の本であり、見て分かるほどの邪悪な力を放出していた。


「この部屋の中で、一番呪いがきつい禁書を取り出した! 禁書の効果がないボクと言えども、この本を読みあげる事はしたくなかったんだが、致し方ない!

 さぁ、見せてやろう! 禁書の中でも最も邪悪と呼ばれる、『再生と払拭の灰の書』をねぇ!」

よろしければご意見、ご感想をくれると嬉しいです。

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