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サビ付き英雄譚【打ち切り】  作者: アッキ@瓶の蓋。
人形と怠惰の白き書
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身体を手に入れて彼はなにを思うか

 人間が人間たる理由はなんなのか。これはとある賢者が問うた疑問である。

 ある者は意思を持って戦うことだと言い、ある者は道具を使うことだと言い、ある者はこうやってそんな疑問に真剣に悩んでいることだと言い……あとは……えっと……。

 どういう話だったかと思って、俺は相棒に尋ねていた。


「なぁ、ガヤ。あれってどう言う教訓の話だっけ? 頭が良い賢者様の自慢話だっけ?」


「えー……俺、その話自体、聞いた事がないんだけど? なに、お前の作り話じゃねえの? それに俺もガヤじゃねえし」


「いやー、でも聞いた事あるんだけどなー。いやさ、なんかこういう"モノ"を扱ってるとそう言うのを考えてしまうんじゃないかなーってねー」


 俺はそう言って場所の後ろに積んでるものを、奇形児達を見ていた。

 奇形児とは人間の恥、人類の恥辱、ヒトとして扱うのが恥ずかしい道具達とされている奴らであって、簡単に言ってしまえば人間と魔物の混血児である。


 力が強かったり、特殊な力を持ったりと結構色々と役には立つんだが、どうしても魔物の力を持っている人間……魔物の特徴なんかを持っている人を見ると皆、危惧するからなぁ。

 正直、俺達もどっちかと言うと嫌いだからなぁ。


 まぁ、簡単に言ってしまえばこいつらは商品だ。奴隷だ。


 今、馬車に積んでいるのは戦用……つまりは護衛とか戦いように使うための奇形児達である。しかも"返品された"、な。

 性格的な問題とか、技術的な問題とかあるんだろうけれども、俺達一介の下っ端風情にはなにも聞かされていない。と言うか、俺達も聞かなくて良いと思ってる。


 大切なのは、俺達がなにを運んでるかなんかより、俺達の金がきちんと支払われるかって事だけだ。

 それだけがしっかりとしているならば、こんな物を運ぶ程度の仕事、きちんとやってみせるというものだ。


「しかし、この道……大丈夫かなぁ? 俺さぁ、奇形児よりもさぁ、後ろに積んでいる葉っぱの方が気になるんだよなぁ。なんか臭いしよぉ」


「良いじゃねえか。たったあれだけで俺達2人が1年遊んでいられるだけの金を貰えるんだ。しかも前金で半額貰えたからよぉ、これだけで半年は遊べるぜぇ。まぁ、臭さは俺もどうにかしてぇけどなぁ。依頼人の指定があるから守らねぇとなぁ……」


 しかし、臭さはまぁ、我慢すれば良いから良いけどよぉ。問題なのはそれよりも奇形児達だよなぁ。

 なんか「俺はもうダメだぁ」とか「……もうダメェ」とか、陰気くさくて嫌になる。でもよぉ、こいつらは物なんだから、俺達の言葉なんか分かる訳ねぇよなぁ。なにせものだからよぉ。


 しっかし、こんな魔物ばかりが居る山道で、こんな使えねぇ奇形児をこんなところまで持ってくる依頼人の気がしらねぇぜ。まぁ、俺達は依頼人の目論見通りやるだけだ。


 依頼人の、"ヴォルテックシアの騎士団隊長様"のためにもよぉ。


 なにごとも"はじめて"というのは、兎にも角にも嬉しいものだ。

 はじめて出来た友達、はじめて行われた剣術指導、はじめて出来た技、はじめての魔物との戦い。

 ともかく俺は嬉しさだらけで、とにかく2回目や3回目よりも、はじめて出来た方が俺は嬉しさが強かった。


 そんな"はじめて"のことについては基本的に喜ぶ事の多い俺であったが、


「……なんか妙な感じだな」


 女死神の力によって魂を定着して貰った俺は、新しい身体のラスティードールの感じを確かめつつ、自分があまり嬉しくないことに気付いた。

 最初は新しい身体を手に入れたんだから喜ばしい事かと思っていたんだが、どうもそういうことではないらしい。まぁ、歩きや走り、手を動かすとかはいつも当たり前のようにやっていたために新鮮味がないと言われればそうなるのだが。


「まぁ、多少の不便は仕方がありませんからね。これは結構例外的なものですし、普通じゃないのは確かです」


(不便、まぁ……この身体、正直動かし辛いからな)


 腕が思ったより動かないし、足も関節部に軋みを感じる。思ったよりもワンテンポ遅い、そう考えて動かさなければ上手く扱えない。

 身体の奥底から無限の力が流れ出ている感じだが、それと同じくらい身体から不気味な感じがするのであるのである。

 そう、この力には飲まれてはいけない。何故だか直感的にだが、そう思えて来るのだ。


「しかし……うむ。前よりかは身体も上手く動かせるな」


 この場合の"上手く"とはイメージ的な問題である。

 例えば人間の身体だと腕を180度何度も回転させるというのが難しい事だったが、この身体だとそれも可能なのだ。動かせる範囲が増えたというのは、剣術をやっている身としては嬉しい限りだ。

 身体の大きさも前と近かった事も、こうやって上手く動かせている要因の一つであろう。


 最も今の段階だと、『上手くやれる』とかよりかは、『使える範囲が増えた』という感じだが。


「……ともかく、魔物の身体は馴染みますか?」


「さぁ、な。とりあえずこっちはムリしてもらってるんだ。ぜいたくは言わない」


 本来、俺は《蒼炎》によって3日前に死んでいるはずだった。

 それを女死神の手によって新しい身体を融通してもらっているのはこちらだし、なにより魂だけでぷかぷかと浮かびながらただ悔しいと感じる日々を送っていたのだから、俺は感謝しても感謝しきれない位だ。

 だというのに、どうしてこうも親切に、大丈夫かって聞いてくれるんだろうか? 俺のイメージだと死神ってもっとこう、恐ろしいものだと思ったんだが、生と死を司ってるんだから優しい面もあって良いんだろうか? にしては、優しすぎなような気も……。


「やっぱり錆がどうしてもキツいなぁ。これがもう少しイメージ通りに、人間の身体と同じくらい動かせれば俺としてはそれで問題ない。それに、俺のために無理したのかもしれないし、もうこれで十分だ」


「それだけ……ですか? 錆意外に問題点とかは?」


「いや、今の所はない、かな」


 魔力の質と量とかが重要になって来る魔法使いや、指使いとか細かい技術が必要となって来る弓矢使い、動きが良くないとその適性を活かせない盗賊などはこの、錆びた鉄人形の身体は不評かもしれないな。


 だが、俺は騎士だ。騎士は最悪剣さえ触れるだけの筋力さえあればいいのだ。

 一説には片足だけで戦場を縦横無尽に駆け抜け、片腕だけで多くの敵を倒したとされる伝説の剣士なんかも居たらしい。その伝説の剣士ももう片方の足を斬られてしまい倒されたようであるのだが、要するに必要なのは腕と足だけという例え話だ。最も、未熟な俺の場合、せめて両脚はなんとか欲しい限りだが。


「……錆ですか。そう言えば、この辺りに魔力が満ちた泉がありましたから、そこに行けば錆も落とせるのでは?」


「泉、かぁ。じゃあ、泉に行くとするかな。えっと……泉は……」


「こっち、ですよ? ほら、着いて来てください」


「あ、あぁ……」


 なんだか、この女死神すげー親切なんだが。こっちが恐縮してしまうくらいに、親切すぎるわぁ。


「あっ、それから錆人形(ラスティードール)だからと言って、錆を取ったからって死にはしないよぉ。まぁ、稀にそういう魔物とか居るけどね」


「あぁ、居たよなぁ。盾を破壊すると死んでしまう盾騎士(ナイトシルト)かぁ」


 ナイトシルトは硬くて攻撃力も高い、青い騎士の格好をした魔物であるのだが、何故かこいつは自らが持っている盾を破壊されると自ら死を選ぶ魔物なのである。

 何故、そんな事になってしまうのかは分からないが、とりあえずそう言う風に自身が自身である事にこだわっている魔物も居る、ことなのだ。


「ですが錆人形では、錆を取ったからって死ぬ訳ではないので。

 さぁ、錆を落としに行きましょうか」


「……そうだな。さっさと行って錆を落とす、か」


 俺は錆を落とすために、女死神の後を着いて行くのであった。

よろしければご意見、ご感想をくれると嬉しいです。


#9月3日。

少し描写を追加させていただきました。主人公が人形の身体を上手く動かせる理由について追加。

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