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サビ付き英雄譚【打ち切り】  作者: アッキ@瓶の蓋。
誤解とダークエルフの黒の書

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28/90

ムダ飯食らいを助ける必要はどこにあるのか

 1人の『怠惰』な少女が小さな勇気を振り絞って怪物の巣から出ようとしていたその頃、人形となってしまった騎士ジェラルド・カレッジは、森の中で巨大狼の巣を探していた。


「くそう! あの巨大狼、どこに行ったんだ?」


 青い炎を纏った巨大狼はラースを狙っていたが、アケディアが突然戦い出して箱を狼の目にぶつけて目を使えないようにして追っ払っていた。

 追っ払った代償かどうかは分からないが、巨大狼はアケディアを口にくわえて逃げてしまったみたいである。


 そして俺は巨大狼を探して巣を探しているのだが、どこを探しても痕跡一つ見つける事が出来なかった。


(なかなか見つからないな……あんなに大きかったらすぐに見つかると思うのだが)


 青い炎を持ったあんな巨体なのだから、森を抜けようとして青い炎で木の一本くらいは焼いているんじゃないかと思ったのだが。だから焼け焦げた跡を探せばすぐに巨大狼の巣を見つける事が出来ると思ったのだが……。


「居ないな……」


「当たり前なの……。人形の魔物が野生動物の生態を管理できると思わない方が良いなの」


「と言うか……なんで着いて来るんだ。ラース」


 俺は自分の後ろに着いて来る……ラースに声をかける。

 アケディアを探しに行くと言った時、彼女は「私はユーリさんの所に行って、インヴィディアを助けに行くので勝手に一人で行ってください」と言われたのだが、何故か俺の後ろを着いて来たのである。

 それも時々道を間違えようとすると、「だ・か・ら、こっちなの!」と怒りながら案内をもしてくれる始末である。どうやら彼女は巨大狼の巣が分かるみたいである。ダークエルフ恐るべし。

 彼女が居なければ、手掛かりがないまま俺はアケディアを探す事は出来なかったんじゃないかと思うくらいである。


「勘違いしないで欲しいなの」


「……まだ何も言ってないが?」


「私は……ただ助けて貰ったのにそのお礼を言わないのがイヤなだけなの。勘違いしないで欲しいなの」


 ふんっ、と少しツンとした、だけれども頬が赤く染まっている顔を見て俺は「そうか……」と小さく言っていた。そんな俺の態度に対してラースさんはキョトンとした顔を向ける。


「……意外、なの」


「どう言う意味だ? 俺が巨大狼を倒す事が変だと言う事か? 俺はこう見えても正義感に溢れる男なんだよ。だから民が困るような、あの巨大狼を倒そうと思うのは別に不思議な事ではない」


 その後に「信じて貰えないけどな」と俺は言葉を付け加えていた。そんな自虐に満ちた俺の言葉に対して、ラースは「そうじゃないなの」と答えていた。


「私が見る限り、あのアケディアという少女はなにも使い物にならないなの。確かにあの天性の防御力は賞賛に値する者があると思うなのが、それ以外は何も使い物にならないなの。性格も使い物にならないなの、そして助けたとしても彼女が感謝するとは思えないなの。

 彼女は助けても感謝は多分言わないと思うなの。彼女にとって助けられる事は半ば必然のようなもの、だから心の底から感謝すると言う事はないと思うなの。役立たずや足手まといは狩猟においては切り捨てる、

弱肉強食は人間界にとっては当然の事なの。なのに助けるなの?」


 彼女はそう聞いて来た。確かに彼女の言う事は正しい。

 龍の特徴を持つ奇形児、アケディア。アケディアは防御力こそ高いが、それ以外は特に取り立てて良い所がない、争い事がある時は終わるまで待っていれば良いと思ってるような奴である。

 確かに助け出す価値もないような少女ではないのかもしれないけれども。


「……それに魔物であるあなたが人間を助け出すと言うのもなにかの冗談としか思えませんなの。一体どう言う事を考えているのか、勘ぐってしまいますなの」


「可笑しな事は何一つ……ない。

 民を守るために巨大狼を倒すのと同じように、民を助けたいと思うのは何も間違っては居ない。そこに使えない・戦えない・感謝されないからと言う理由だけで、助けないと言う理由はない。それだけの話だ」


 俺がそう言い切ると、ラースはキョトンとした顔を向けていた。瞳を閉じて、俺の言葉を何度も確かめるように口にしたかと思うと、「……納得しましたなの」と言葉にしていた。


「未だに全容を理解したつもりはないなのが、納得する部分もあるなの。

 ……あなたが見ず知らずのインヴィディアを助けたいと言ったのも、今ならば理解出来ますなの。要するにあなたは度し難いほどの、正義感を持った人間だと言う事が良く理解出来ましたなの」


「……………」


 なんだろう。全く褒められている感じがしないのは気のせいだろうか……。


「……こっち、なの」


 と、ラースは俺が行こうとしていた緑溢れる山とは逆方向の、まだ積雪が残っている山を指差していた。

 トボトボと、そちらの方に行ってしまっていたが、後ろを振り返って俺が着いて来ないのを確認すると急にこちらに戻って来て俺の手を取る。


「先程言いましたなの。あなたが探している巨大狼とアケディアさんならば、こちらなの。あの巨大狼は……ハイエナウルフだと思うなの。恐らく私の狩猟としての本能と知識がこちらだと告げていますなの」


「あの巨大狼が……ハイエナウルフが変化した姿だという確証はあるのか? ハイエナウルフを配下として操っていた以外で、あの巨大狼がハイエナウルフだと言い切るのは……」


 俺のそんな質問に対して、ラースは「"配下がハイエナウルフだけだった"、それが問題なのです」とそう答えていた。


「ハイエナウルフ……自身では狩りをしない、言うなれば森の中でも最下級に位置する魔物だと言えますなの。そんなハイエナウルフしか扱えないと鳴ると、敵さんはよほど人望がないと言う事なの。

 つまり元はそれほど格がない魔物ではないと言う事ならば、同じハイエナウルフと考えるのが自然なの」


「確かにそうだな……そう考えるのが自然だ。それならば後はハイエナウルフの巣を探せば、自然にアケディアの居場所が分かると言う事か。それがあの雪山だと?」


「ハイエナウルフの巣は基本的に寒い場所が多いなの。自分で獲物を取らない代わりに、その獲物を長期保存する為に寒い場所を巣穴として選ぶみたいなの。この近くだとあの雪山の洞穴がピンポイントで良いと思いますなの」


 狩りを得意としているエルフの言葉だから疑う事はないだろう……。

 俺を嵌めるために彼女が嘘を吐いている可能性がなければ、あのハイエナウルフのなれの果てである巨大狼はあそこに居る可能性が高い。


「私の住んでいた村では、狩りに出る際に役に立たなかった足手まといには報酬は支払われないなの。自然の恵みに感謝し、自然の一部を刈り取って自らの糧とするはずなのにそれを手伝わなかった無能と言う役立たずに支払われる対価は存在しないなの。

 彼女、アケディアもそれに当たると思うなの。戦いにはうずくまって参加してはいないし、肝心の戦闘に関しては何一つとして覚えがないみたいなの。そんな役立たずの事をわが村では、"草潰し(くさつぶし)"――――森の草木を無意味に使っている者と言うなの。普通の者ならば、そんな者を助けるだけムダだと言うなの」


「それを助けるのはダークエルフとしては可笑しい、そう言う事か?」


 そんな俺の質問に対して、彼女は笑顔で。


「――――いや、私も助けるべきだと思うなの。だって、役立たずだったとしても、助けると言うのは別に可笑しな事ではないなの。

 あなたにどうして見ず知らずのインヴィディアを助けるのか、なんて聞いて反省するなの。ただのお節介だったなのね」


 と、そう言ってくれた。

 ただ「それでも魔物の助けはいらないなの」、とまだ警戒している事をにおわせる文章を一文、追加させられてしまっていたが。

よろしければご意見、ご感想をくれると嬉しいです。

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