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サビ付き英雄譚【打ち切り】  作者: アッキ@瓶の蓋。
誤解とダークエルフの黒の書

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21/90

研究者が求めているのはなにか

 ――――ツバイト村。

 近くにある山で採れる黒い鉱物と、近くで牛や鶏などを飼育しているだけの、二、三十年前までは特に見所もない普通の村であった。

 しかし二、三十年前に飛来した四角い謎の物体が空から落ちてきたことによって、この村の世間の認識が変わっていた。


 その四角い物体を調査する為に来た王都の調査団は、調査のためにその村に簡易的な研究所を創設した。

 四角い物体を一週間調査する事によってそれがなんらかの書物であり、かつ人間世界では使われていない文字を使っているという2点だけは判明した。

 それ以上調査しても内容がなんて書かれているという事は分からず、なおかつそれがどこから来たもので、誰が書いたのに対してもとっかかりの一つとして見出す事が出来なかった。


 そうして何も分からないまま一年と言う月日が経過したとき、1人の青年が現れる。

 丸い縁の黒眼鏡と赤い神官服が特徴の研究者、ユーリ・フェンリーである。

 彼は古代文献に対して強い関心と知識を持ち合わせており、あらゆる研究者などが『分からない』と断じたその内容を、僅か数ページであるがその内容を読む事に成功した。


 たかが数ページ。されど数ページ。


 ユーリ・フェンリーという研究者が為した手がかりのおかげで、その本の内容が解明されていった。

 その数ページの内容に関しても、研究者の驚きを隠せないような内容ばかりだった。


 現代の魔法理念を越えた上級魔法理念という、魔法界の新たな視点。

 人類が知らなかった守護天使という、教会が知りたかった"語られなかった歴史"。

 神と人との交信という、歴史的発見。


 しかしそこまで来たのだが、研究は打ち切られることになる。新たに別の場所で、魔物の活性化という事態が起こったからである。


 魔物の活性化とは、数十年に一度起きると言われている、その土地の魔物の急激な増殖の事である。

 地脈の流れという場合や、人為的に引き起こされた大災害であるという場合もあるのだが、人々を恐れ、怖がらせる魔物が例年よりも大量に現れたと言うのはとても危険な事態である。

 一刻も早く原因を究明して、対処しなければならない事態であった。


 一方、空から落ちて来た謎の書物。

 書いてある内容がなんなのかは研究者にとって知りたい事ではあったのだが、それ以上に魔物の活性化と言う差し迫った危機をなんとかしなければならない。

 そこで研究者達の多くは魔物の活性化の事案に対処して、第一人者――――この本を最初に数ページ読んだ男、ユーリ・フェンリーを中心としたチームがこの書物の解読と言う二つの部隊に分けられる事になった。


 魔物の活性化を調査する研究者は、出かける前にユーリにこう言った。


 『絶対、その書物の内容を解明してくれ。もしかしたら人類史に残る発見が書いてあるかも知れない』と。


 むろん、ただの社交辞令なんかではなく、言った研究者は本気でそう思って言ったのだ。


 空から落ちて来たという特異性。

 人間の文化史に存在しなかった文字達。

 僅か数ページではあるが、人々に大きな関心と驚きを沸かした内容。


 この先、どんな内容が書かれているかは分からないが、人類史に残る発見があっても可笑しくはない。

 だからこそ、研究をしてそれを解明して欲しいと、ユーリに言ったのであった。


 しかし、そんな希望を込めた言葉に対して、ユーリはこう答えた。


 『いえ、もう意味がないんですよ。えぇ、これでは意味がない』と。


 どう言う意味なのかと研究者が尋ねるも、彼が答える事もなく、調査団は魔物の異常発生の現場へと向かった。


 ――――調査に行ったつもりが、誘い込まれていたんだと知る由もなく。


 調査団が謎の失踪を遂げた後、ユーリがその本を開く事はなかったという。


 ツバイト村の古代文献研究施設にて、その施設の長であるユーリ・フェンリーはこの前届いた過去の文献と言う名の資料をぺらぺらとめくっていた。

 そして読み終わって資料を閉じると、はぁ~と溜め息を吐いていた。


「――――あぁ、これもまた良い作品でしたねぇ。やはり資料を読むのはタメになるよ。

 人生を発展させ、より良い物にするためには本だよね」


 そう言って目元の涙を拭って、読んでいた資料を近くの資料が積み重なった山の上に載せていた。そしてもう一つの資料の山の一番上を取っていた。


「さて、次はどう言った資料なのでしょうかね? 楽しみすぎて困るね。さぁ、次はどんな面白い小説が見えるのかなぁ~。楽しみだね~、嬉しいなぁ~。

 これは……王都からの資料で、タイトルは……『魔法紋章乙三種理論』、ですか」


 そう言って冊子を開けて一ページ目をじっくりと見ていたのだが、カッと目を見開くと残念そうな表情で頭を押さえていた。

 そしてパラパラッと捲ると、近くの机の上から1枚のメモを取り出していた、そして筆を取り出すと、さらさらと文字を書いて行く。


「01が『f』、02が『u』、03が『p』で、04が『o』。そうやって行って……14が『m』、15が『l』、16が『R』で、っと……」


 サラサラと謎の法則性を書き終わったユーリは、それを机の上に置き直すともう一度先程読んだ資料を読み直していた。

 読み直すと共に、ユーリは残念そうな顔をしながら言葉を口に出していた。


「あぁ~……ひどい……」


 そう言うとユーリの手に自然と力がかかる。


「ひどい……ひどいひどいひどい……」


 力を込めたユーリの手。それが持っていた書類に伝わって行く。


「あぁ……ひどすぎる。もう……ダメ……」


 持っていた書類は、ユーリの手によってパリパリとそのまま書類を破いていた。

 王都から持って来られていた貴重な書類を、ただのバラバラの紙屑に変えていた。そしてその紙屑を見て、冷めた目で見てパチンと指を鳴らす。


 すると、紙くずを"青い炎"が包み込む。真っ青な炎に包まれ、無残に焼かれていく。


「表向きは魔法に対する以前に別の研究者に発表された理論を踏襲しただけの、パクリとしか呼べないお粗末な理論。それを特殊な……いや、お粗末な暗号によって解読する事によって生まれる、第二の文章。その内容に関しても、風の国ヴォルテックシアの前宰相と水の国クペルの現大臣の裏帳簿のやり取りを書いているだけ。

 要するに、ただの二国の幹部の関係を悟らせないためのダミー文書ですね。はぁ……本当に嫌だよ」


 ユーリはそう言って、紙屑となって青い炎と共に燃え尽きたダミー文書を見ていた。


「文章になれない、ただの報告書なぞに興味はない。こんなくだらないやり取りを見るために、ボクは今の地位に着いた訳ではないのだから。

 ボクが興味を持つのは、人間の感情と心情を克明に表現した文章と言う書物のみ。筆者が自分と言う人生の一部を文字として書き残して、他の人々に伝えておきたい想いを持って作られたそう言った文章にしか全くと言って良いほど興味がないのだから、ね」


 そう言いながら彼は後ろを振り返った。

 後ろを振り向くと、そこに1人の少女が研究施設に似つかわしくない黒い牢獄の中に捕まっていた。


 頭の髪が緑色の艶やかな髪と右腕が花のついた枝で巻かれているのが特徴の、とてもきれいな顔立ちと漂う大人の魅力を持つ美女。

 その美女の右腕には青い炎の刺青が刻み込まれており、その少女が人間ではないのを象徴するように糸で吊るしていないのにふわふわと宙を浮かんでいた。


「ボクは人種にも興味を示さない。何故なら、人種で区別しても面白くて、心に響く小説や作品などの文章に出会えないからである。

 だからこそボクは森にしか伝わらない話を知っている妖精族と、迫害されていったために独自の文化を身につけたダークエルフ。この2つの種族だけが知ると言う物語に、書物に実に興味がある。だからこそ教えてくれないか、インヴィディア君?」


「だ、だれが教える者ですかぁ~」


 間延びしたちょっぴり可愛らしい、だけれども本人成りの強い意思を感じさせるインヴィディアの言葉を聞いて、「そうか、残念だ」とちっとも残念そうにない、むしろワクワクした表情を見せるユーリ。


「もうすぐボクの配下が捕まえた、ダークエルフの少女のラース君がボクの研究所にやってくる。

 そうすればきっとボクは、必ず君達から物語を聞き出せると確信しているよ。


 なにせボクは書物を沢山読んでいるから、どうすれば人がどうしても言いたくなるのか熟知しているのだから」


 アーハハッハ、と悪役のように高らかに笑い声をあげるユーリ。


「……ラースちゃん」


 そして彼女の無事を心配するインヴィディア。


 ――――ラースとインヴィディアが再び会えるその時は、刻一刻と迫りつつあった。

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