彼の言葉はどう聞こえたのか
突如現れた青い花園。そして赤い神官服のユーリ・フェンリーと名乗る男性。
青い炎の刺青をラースとインヴィディアの2人に付けたその男、ユーリ・フェンリーとは一体何者なのだろう……。
「大精霊様は、インヴィディアの居場所を既に私達の暮らしている森から出て、村へと向かっていると言っていたなの。そして、それがインヴィディアの意思ではない事も言っていたなの」
「本人の意思とは関係なく森から出る。……誘拐か、洗脳のどちらかだと考えられるな」
「自然と会話し、あらゆる物事を知る術を持っておられる大精霊様を欺ける術がなんなのかは未だはっきりしてないなのが、恐らくはインヴィディアはあの、ユーリなる者に連れて行かれたのだと思うなの。
……それを探るために、私は誘拐されたと思った瞬間に、出来るだけ寝て置こうと思ったなの」
なるほど、目的の相手の元に辿り着いたとしても寝不足だとしたら本来の力を発揮出来ない。
睡眠薬で眠りが深いうちに力を蓄えておいて、本命の相手であるユーリに会うまで待っていると言う事なのだろう。一応、刺青を入れられる際に顔も見ているはずだから顔による判別も出来るか。
「……《蒼炎》との関連性は分からないか」
今の話からだと、確かに類似している可能性があるとは言えない。
炎を使う魔法使いは結構多いし、その中で青い炎を使う魔法使いが居る可能性もあるし。
青い炎を使う者がどれだけ居るか、分からないけれども。
「……とりあえず寝て構いませんなの? ね、眠くてしょうがないなの……。目的との戦いの際に、実力が発揮出来なくては困ってしまうなの。
私は妖精族、ダークエルフの人達を代表して、インヴィディアを救出しないといけないなの」
「なるほど……それが大切な事は良く理解した。ならば協力させてほしい」
俺がそう言うとラース、そしてアケディアの2人はびっくりした顔をしていた。特にアケディアの方は顕著だ。嫌々だと言う感情が顔からあふれ出してしまっている。
「え、えっと……その……あの……カウレッジさんの目的は、王都の《蒼炎》から姫様を助ける事……なんですよね? それなのに……べ、別の所にかまけてて、い、良いんでしょうか?」
アケディアはラースの語っていた危険性物であるユーリに絶対に会いたくない、ユーリの所に行きたくないと言った様子で馬車の壁に縋り付いてでも行きたくないと言っている。
「手伝ってくれるのは構わないなの……だけれども、どういう心情なのか教えて欲しいなの。
もしこれがなんらかの作戦である場合、私はあなた方をここで対処しなければならなくなってしまうなの」
そう言ってラースは、自分の入っていた『研究用資料』と書かれていた箱の中にその手を突っ込んでいた。
そして箱の中から一丁の赤い弓を取り出した。紅蓮に燃える、炎がイメージされたような弓。
弓矢を取り出して糸を張りながら、こちらに弓矢を突きつけていた。
「私をだますつもりならば許さないなの……私はインヴィディアを絶対に連れ戻すつもりなの。
けれども、もし単なる同情感ならば着いて来られても迷惑でしかないなの。それに本来の力を見出すために眠ろうと思っていたのに、邪魔されたと言う怒りも込めているなの。ちゃんとした理由じゃないと、この弓矢で射抜くなの」
そう言って、彼女は弓矢から手を離す。
すると、弓矢は真っ直ぐ、俺の背後の壁を射抜く。後数センチずれていたら、俺のフードに当たらんかと言うばかりの正確さ。
「……どう、なの? 降参するならば、今の内だと思うなの?」
そう言って、彼女は徐々にこちらへと近付いて来る。
しかし、こちらにも譲れない訳がある。
「騎士として、人々が困っている時に動けなくて、何が騎士だ。
俺は妖精だとしても、ダークエルフだとしても、助けられる物は助ける。それだけだ」
そう。【 】は絶対に助けなければならないのだ。
……ん?
【 】?
あれ、何を助けなければならないのだろう?
これだけは、絶対に助けないといけないと思っていたのだが、今考えてみるとそれが何なのかが思い出せない。
(いや、それは今は関係ない。俺は……ユーリと会わなければならない)
蒼い炎を操ると思われるユーリから、その妖精を助けたいと思ったのは俺の本心だ。
そう、それこそが【俺】の本心なのだ。
助けたい。
そう、困っているからこそ、騎士だからこそ、助けたいと思っているのだ。
「俺は助けたいと思ってる。だからこそ、手助けしてはいけないのか?」
「……それは」
「えっと……あの……わ、私は何も言ってないですからね。そ、そこは分かってください。ね? ね?」
何度も頭を下げながら、自分は関係ないんだと言う事を繰り返すアケディア。
……うん、本当にちょっと黙って欲しい。今はそう言う事ではないのだから。
俺の考えを、ラースがどう受け取るか。
重要なのはその一点だけだ。
俺は助けたい。
ダークエルフのラースを、そして妖精のインヴィディアの2人とも助けたい。
それが本心なのだ。
「……人を助けたい。まさかたったそれだけだとは思ってなかったなの。
――――バカにするな、なの」
彼女から返事として帰って来たのは、そう言う拒絶の言葉であった。
「人は打算と利益で生きている生物なの。
楽をしたいから行動し、怒っているのを隠したいから発散する。
嫉妬していると思われたくないから偽善に走り、欲しい物があるから動いてしまう。
人に良いように扱われたいから立ち上がり、食べたい物があるから仲間として認めてもらおうとする。
そんなものがなにもない人間なんて、本当につまらないなの。
それで認めて貰おうだなんて、可笑しいなの。
――――と言うか、顔も見せずに聞いて貰えると思う方が、傲慢なの」
彼女はそう言って、俺の言葉を、「助けたい」と言ったその言葉を否定し。
眠いからと言って箱の中へと戻って行った。
「…………」
俺はその場でただただ立ち尽くしていた。
俺は……傲慢だったのかと?
よろしければご意見、ご感想をくれると嬉しいです。




