妖精はだれについて語るのか
夜の帳が辺りを黒色に染めて、白い星と輝く月だけが明るく照らす中、俺達は寝ていたダークエルフの少女が起き出すのを待っていた。
「……う、う~ん」
もう少しで目を覚ましそうではあるみたいなので、俺とアケディアの2人は彼女が起き出すのを待っていた。
「とりあえず事情を聞きたいのだけれども、なかなか起き出す気配はないようだな。事情を聞けさえすれば、《蒼炎》に近付く手がかりが得られると思ったんだけれども」
俺の身体を奪って、風の国ヴォルテックシアで何かを企んでいる、青い炎を操る《蒼炎》。
女死神から与えられた情報は《蒼炎》が多くの国家転覆罪を行った犯罪者であり、死の国から死神達から逃げ出したと言う情報だけ。それ以外の情報はほとんど分かっていない。
だから出来る限り《蒼炎》、それに近しいと思われる者から情報を集めたい限りである。早く目覚めて欲しいのだが……
「なかなか目覚めないな……おっ、そろそろ起きるか?」
「うぅっ……」と今にも起きそうな声をあげて、彼女はまぶたを開けてこちらを見つめる。
そしてこちらの顔を目で見て確認した後、ぱちくりとまぶたを動かした後に眼を閉じる。
「どうやら、まだ私は囚われの身だったようなの。それに目的地ではないようだから……おやすみなさいなの」
「――――って、おい!?」
今までずっと薬かなにかで眠っていたのに、それなのにまた眠りに就くのはどうなんだろうか?
「ちょっと聞きたい事があるんだ! 起きて話をさせてくれ!」
「あ、あのあの……。寝させてあげた方がすいません私の言葉なんてどうでも良いですね?」
アケディアの言葉は本当にどうだって良いので無視して置く事にする。俺が何度もダークエルフの少女の肩を掴んで揺らすと、「うぅ……」と目を開けてこちらを見る。
「…………」
こちらを見るや否や、またしてもぱちくりとまぶたを動かして状況を確認した後、その瞳をまたしても閉じていた。
「……やはり、またしても目的地に到達していなかったようなの。ツバイト村はまだのようですね。
私を起こす際は、郵送先でもある古代文献の研究施設についたら起こしてくださいなの。それまではしばし、眠らせて――――」
「いや、話があるんだ。もう少しばかり起きてくれないか?」
「……そういわれても、こちらにも色々と事情があるなの。
いえ、私にはたしかな目的がありますので、ここで起きてしまうと目的が達成できないなの。――――そう、あのあおいほのおの……」
ダークエルフの少女がそう言うので、俺は彼女の肩を掴む。
「それって、もしや――――《蒼炎》か!? 《蒼炎》の事なのか!?」
「そ、ソウエン? たしかに、あの炎はあおかったけれども……あなたも、だれかと戦うつもりなの?」
「あ、あぁ。そうなんだ。実は――――」
そう言って俺はダークエルフの少女に事情を簡単に説明していく。
青い炎を操る男と、その男に自分の国を危機に陥れようとしている事。その男を倒すために風の国ヴォルテックシアの王都へと向かっている事についてなど。
相手が俺の身体を奪っている事については、信じて貰えないだろうから黙っておいたけれども。
一通り説明し終わると共に、ダークエルフの少女は「なるほど」と頷いていた。
「……私の知る、あおいほのおの男とはべつでしょうか? あの男、ユーリは村から離れる事なんてなかったはずなの。それに、あおいほのおに関しても、いつも使っているのは毒でしたし……」
「その、ユーリだっけか? よろしければ、どう言う人物なのかを教えて貰えると嬉しいんだが?」
「…………」
ダークエルフの少女はこちらの顔をじっと見つめる。
少女の綺麗な赤色の瞳が俺とアケディアの2人をじっと見つめると、何かを考えるように瞳を閉じていた。
「……嘘は言っていないようなの。起こされたのは残念ですが、ユーリと一緒に戦ってくれるならいいなのよ。
――――良いみたいなの? 分かりましたなの、この私、ラースが知っている情報くらいならば提供しましょうなの」
ダークエルフの少女、ラースはと言うと、その後自分の境遇について話し始めていた。
☆
ラースは普通の、白い肌のエルフの里出身ではなくて、エルフの中では迫害されているダークエルフのみがひっそりと暮らす秘境の森に居たようである。
そこではダークエルフ達がお互いにお互いを助け合いながら、エルフに見つからないようにひっそりと暮らしていたみたいである。
いつもダークエルフの数人でチームを組んで野生の獣を狩りをしたり、森の果実やキノコなどを採集していたりして生活を行っていたみたいである。
彼女は弓の腕はそれなりに良いみたいで、獣を狩るチームでも優秀な実力を誇っていたらしい。
そんな彼女の森での知り合いに、インヴィディアという名前の精霊の女の子が居たようなのである。
その精霊の少女は花や鳥と会話する特殊な能力を持っており、さらに人々を癒す術に長けていた精霊。けれどもちょっぴりドジなそんな精霊と、友達として森で仲良く暮らしていたそうである。
そんなある日、インヴィディアは森の近くにて綺麗なお花畑を見つけた。昨日までそこには花などなかったはずなのに、今日行ってみたらあったというそのお花畑に若干奇妙だなと思いつつも、他のダークエルフの人達に相談しても大丈夫だとお墨付きを貰ったので、ラースはインヴィディアと共にそのお花畑に向かった。
お花畑には淡い水色や、綺麗な青色など、青色系統の花が多かった。青空を思わせるその花畑で、ラースとインヴィディアの2人は花を摘みながら楽しんでいた。
そうやって楽しんでいる中、1人の男が近づいていた。
丸い縁の黒眼鏡をかけた赤い神官服のその男性は、その身体に大量の紫色の毒素をその身に纏っていた。
「おやおや、簡単な実験程度に考えていた花畑で精霊とダークエルフに出会えるとは僥倖。これはやはり本を読み続けた成果と言えましょう」
ゆっくりと近付いて来る、その毒を纏った男を危険だと判断したラースとインヴィディアは弓と魔法を使って攻撃。しかし――――
「危ないじゃないですか。普通の研究員だったら先程の攻撃にて死んでいたかもしれませんよ?」
その男は、澄み渡る青空を思わせるような真っ青な炎で、ラースとインヴィディアの攻撃を無と化していた。
その後、いくら攻撃しようがその男は意にも返さず、接近した後に毒を注入された。
ダークエルフと精霊と言う、森に暮らす者として普通よりも毒耐性が強いはずの彼らを、一日以上動けなくするような毒を。
そして彼は神官服のポケットからハンコのような物を取り出す。
「――――これは印だ。君達がどこに逃げようが、どこに身を隠そうが、どこまで行こうが逃がさないための刻印。大丈夫、きっと君達の肌に"馴染んでくるはずさ"」
そう言って彼は、動けなくなった2人の身体に、青い炎の刺青を施して、その場から帰って行った。
動けるようになった後で、その森の中で一番古くから生きていて、なおかつ一番知恵に秀でた大精霊によってその者が、ユーリ・フェンリーという古代の文献を探る研究者である事を知り、なおかつそれはその者が良く使うとされる所有者としての証としての刻印である事を知った。
それを知った2人は、村の者の手によっていつも以上に厳重に、外に出る時も大人の戦士と共にしか外出を許されなくなった。
「そして3日前の事なの。
私と同じく、ユーリ・フェンリーに青い炎の刺青をされたインヴィディアが、姿を消したのは」
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