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サビ付き英雄譚【打ち切り】  作者: アッキ@瓶の蓋。
誤解とダークエルフの黒の書

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次に繋げるためにどういう選択するのか

 女死神が死者の国へと帰った後、俺は風の国ヴォルテックシアへと帰還するために地図を開ける。


「えっと……確か、泉がここだからヴォルテックシアはこっちか。結構、遠いよな」


 元々は錆人形が大量発生した場所にしても、ヴォルテックシアから馬車でちょっとばかり軍を早めに進軍させて二、三週間ほどかけて来るような遠い場所であった。

 さらに身体の錆を取るために癒しの泉ヘイロンに向かったために、風の国ヴォルテックシアから距離がさらに離れてしまった。まぁ、それは些細な違いなので良いのだが。


「ここからヴォルテックシアを向かうのには一番最初の村として、エアストに行くべきだろうな。あそこまで行けば王都近くの村であるロスシュに行くための輸送馬車もあるってされたし……って、あぁ。そっか。俺は今は、モンスターだったか」


 エアストの村から輸送馬車も出ているけれども、それに乗るためには必ず村の中を通らないとならない。

 しかし魔物の身体である以上は村の中には入れないし、村に忍び込む事も騎士として許されざる行為であると思っている。


「村から出た場所の中に潜り込むと言うのも……ラスティードールの足では馬に追いつけないから無理だし。今から新しく、脚の早い魔物を狩ったりも難しいし、どうすれば……」


 そう言いながら、俺はチラチラと何故か付いて来るアケディアを見ていた。どうやらあの場所に1人で置いて行かれるのは本当に嫌だったらしく、どうしてもと必死の形相でついて来たのだ。

 そんなあっちがお願いしている、迷惑をかけている立場なのにも関わらず、今もなおこちらを悪魔か、狂暴なモンスターとして見ているのは本当に止めて欲しい限りである。


(泣き虫かと思いきや、寄生虫だよ……。それも人間をダメにしていくタイプの、自己陶酔が激しい自己中心的な被害者思考の持ち主だ)


 自分が悪い、だから上手くいかない。

 自分が努力していない、だから追いつけない。

 自分がやった事がない、だからする事が出来ない。


 自分に対して非常にネガティブ、そして現状を変える術を見つけていない、そんな少女。

 本来ならば、あそこで死んでいるはずの感じではあるが、彼女の奇形児としての硬い防御力が彼女を生かした。


(いや、この場合は"死なせなかった"と言うべきか)


 とりあえず性格的に向いてないとは思いつつも、きちんと攻撃に対してズラして威力を流したり、一部の防がない方が良い攻撃に対して回避する術を教えていた。

 エアストの村に行く過程で、1,2時間ほど歩いて休憩をするというペースで夜まで歩いていた。その休憩の間にその技術を教えていたのだが……まぁ、とりあえずは盾を持って防ぐ事が出来るようになったのは成長と言えるだろう。


 性格は一切変化していないために、戦闘では一切役に立たないが。


「……ともかくそろそろ最初の村のエアストに着く頃なんだが、よければ――――」


「だ、だだ、ダメ! むりむりむり!」


 そう言って目を閉じて、そして両手を大げさに振っていた。

 

「――――まぁ、魔物と同じように奇形児も嫌われているから入るのは難しいのかもしれないがな」


「で、でで、ですよね。よ、よよ、良かった……」


 はぁー、と良かったという安堵の顔をしていた。

 していたのだが……そこまで人と話したくないものだろうか。ここまで話したくないとすると、ちょっとばかり心配になってくるのだが。


「――――こうなったら、後出来る事はあまりしたくはなかったが、"あれ"だけだな」


「あ、あれって……ま、まさか村の中に入って……と、とか?」


「いや、違う。俺がやろうと思っているのは――――」


 そう、あまりに下劣で、騎士団らしくなく、なおかつ俺の品位を下げるような行動であるのだが仕方ない。


「――――盗賊、だ」


 そう。今からやる事はただの、盗賊まがいの行動である。

 責められても仕方がない、下級の人間がやる行為だ。


「え、えっとど、どど、どのような事をするのでしょうか?」


「どのようなとは言われても――――盗賊の真似事だ。

 村から出ようとしている馬車の前に現れて、こちらが迷っていると告げて逃げる。それが今から俺のやろうとしている事だ」


「え、えっと……」


 そう、俺が考えているのは馬車に頼んで入り込むだけの話である。

 しかし迷子なんかではなく、さらにはこちらの素性を騙して馬車に乗せて貰うのだ。

 俺達がモンスターや奇形児である以上、多少脅さないとならないだろう。


「考えただけでも胸の真ん中あたりが寒くなるような、おぞましい作戦で驚いただろう?」


「え、えっとその……」


「だから俺の事を罵ってくれて構わない。

 卑怯者だと、屈折していると、そんな風に言って貰っても構わない。だが、これしか方法がないのだ!」


 後で迷惑料と手切れ金としてお金を少し多めに渡さねばなるまい……。

 幸い、俺の身体は持って行かれたために財布はなかったが、騎士団の皆の魂を継ぐためのお金として皆の財布から少しずつばかりの財貨は持ってきている。

 足らないかもしれないが……それで我慢して貰うしか……。


「では、まずはそれで行くか。これ以上の選択肢があればそれを取るのだが……」


「え、えっと……その……あの、ですね」


 何か伝えたい事があるらしく、おどおどした感じでアケディアが俺の方を見ている。

 俺はどうせ大した事がないだろうと思いつつ、彼女の言葉を待っていた。


 きっと「こ、怖い……」や「い、いやです……」などの非生産的な言葉が帰って来るんだろうなと思っていたのだが……


「わ、わわ、私の案を聞いてください!」


 それは1人の弱虫な、少女が出した案であった。




 彼女が出したその案について、最初は俺は懐疑的に聞いていた。

 だが、それが彼女の手によって一つ一つ、問題を解消していく毎に俺の態度は変わっていた。

 最初はそれしかないと諦めて騎士が最も恥ずべき盗賊と同じような行為をしなければならないと思っていたのだが、彼女の話を聞いているとそれだけが方法でない事に気付いた。

 どうやら俺は……視野が狭くなってしまっていて、解決策を1つに絞っていたらしい。


「(情けない話だ……人に説教している場合では無かったな)しかし、その方法だとアケディアは……」


 この作戦に1つだけ欠点があるとするならば、アケディアについて。

 彼女に責任を、いやこの作戦で一番つらい部分を引き受ける事になってしまう。


 そんな役目を強いてしまうのは、民を守る騎士としてしてはいけないだろうに。


 しかしアケディアは何かを覚悟したような眼で、こちらを見ていたのであった。


「大丈夫です……こ、これくらいの事ならば、私は耐える事も出来ますし。

 それに……ずっと、今までそんな事をしてきたのですから」


 ――――だから、大丈夫です。


 彼女はそう言って、ぎこちない笑っていた。


 その笑顔を見て俺も覚悟を決めた。

 彼女がここまで頑張っていると言っている以上、俺も頑張って作戦をまっとうせねばなるまい。


「では……やるか。アケディア」


「い、いつでもど、どうぞ……」


 そして俺はゆっくりと彼女の肩に手をかけて、そして――――




――――数十分後。


 馬車を引く商人は目の前の2人組を見て、慌てて馬を止める。

 次の村まで行くために馬車を引いていた彼の前に現れたのは


 フードで全身を隠した男と、その男の手に引きずられるようにして顔を伏せている奇形児の少女の姿であった。


(家出した貴族か、それとも没落した貴族? どちらにしても困っているみたいだし……どうしようか……)


 商人は心配しつつ、どれくらいのお金を持っているんだろうなと打算的な目で見ており、その打算に


 フードの男が人間ではないかもという可能性は考慮していなかった。

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