炎の大剣はなにを起こすのか
「行くぞ! バケモノ!」
俺は走って距離を詰めながら、巨大なメラメラと燃え上がる真っ赤な炎の剣を持つ大きな右腕を動かす。
その剣の矛先は、真っ青に燃え上がっている蒼炎のバケモノであるウルフヘズナルに向けられていた。
『グォォォォン! な、舐めやがってェェェェン!』
ウルフヘズナルも俺の戦闘意欲を見ると共に藍色の火炎で双刀の武器を作り出して、俺の真っ赤に激しく燃え上がる火炎の剣を防いでいた。
2人の剣のせめぎ合いによって生まれる、バチバチと弾けるような剣と剣との激しい光。
「おっ、らぁ! 薪割り斬り!」
俺が火炎の剣を縦に大きく振るうと共に、ウルフヘズナルはまず右腕の剣で防いだ後に左腕の剣で薙ぎ払うようにしていた。
「なんのっ! 次はこうだ!」
今度は横に大きく動かしながら、相手の隙を狙うように斜めに斬りかかる。それに対してウルフヘズナルはまず横に来た攻撃を双刀で受け止めようとして、いきなり斜めに方向転換したのを見て咄嗟に火炎の球を吐いて大きな剣を弾き飛ばしていた。
『ガルル……いきなりそうやって方向転換とは、焦ったじゃないかォォォォン』
俺は二振りの剣の攻撃によってこの剣がどれだけ戦えるのかを確かめつつ、ウルフヘズナルの剣術の腕を確かめていた。
(単純な攻撃は防げる、しかしそこに駆け引きなどを用いるレベルの剣術ではない。俺の大剣を見てなんの対抗意識か分からないが、同じ剣で勝負しようと思ったんだろうな。
しかし勝負出来ないくらいの剣術だとは。とは言っても、俺だってこの戦いに命をかけている以上は、剣術の腕が違う程度の話では攻撃の手を緩める事は出来ないな……)
剣術の腕は明らかに素人、だがしかし――――
『アッ、ウォォォン!』
「また来た……!」
ウルフヘズナルが息を大きく吸い込んでまた赤い色の炎を放ち、俺は剣をすぐさまズラすようにして刃で炎を防ぐ。
『ウォォォォン! もっと燃え上がるぜェェェェン!』
「――――厄介だな、あの火炎の球は」
ウルフヘズナルの剣術は素人なのだが、時折放たれる火炎の球は要注意だ。
こいつは言うなれば魔法剣士、剣術以外に魔法という攻撃手段を持つ奴らと同じ。そう考えつつ要注意して戦わねばなるまい。
今この場で戦えるのは傷を負って動けない女死神、そしてぶるぶると震えあがっているアケディアを除けば、俺だけである。
「(まぁ、良い。今は俺の剣術を披露してやる!) 喰らえ、ソニックブーム!」
俺はそう思いつつ、大剣を大きく横に振るう。横に振るうと共に大きな波状の斬撃がウルフヘズナルに襲い掛かり、ウルフヘズナルは炎のブレスを吐いてその攻撃を相殺していた。
『ガルルル! この俺の華麗なる斬撃を、見るが良いォォォォン!』
ウルフヘズナルはでたらめに双刀を上下に振るっており、俺はそんな剣の鈍さを見て右腕で地面を叩くようにして跳ぶとそのまま突っ込む。
『ガルッ!?』
「隙だらけだぜ、このオオカミヤロウ!」
俺はそんなウルフヘズナルの身体にそのまま突っ込む。俺の錆人形の身体はただ熱い炎の中を通っているようでウルフヘズナルに触れる事が出来ずにダメージを与える事が出来ない。
『ガルルル~♪ どこを狙ってやガルルゥ~?』
「それは勿論、お前の身体に……だよ!」
『グフッ!?』
俺の身体を追うようにして、後で取り付けた右腕の炎の大剣がウルフヘズナルの身体にダメージを食らわせていた。
「名付けて……後走り斬り、って所か?」
『グルルゥン! だ、だが、この俺を倒す事は出来ないぞォォォォン!』
そう言いながらさらに自身の炎の身体を激しく燃え上がらせているウルフヘズナルを見て、俺はどうしたものかと悩む。
炎の剣を使って相手にダメージを与える事は出来る、だがしかしウルフヘズナルは火炎のバケモノ……。いわば、実体のない幽霊のような存在である。
そんな相手をどうすやって倒せば……。
「……布、です!」
俺がウルフヘズナルとどうやって戦えば良いか悩んでいると、女死神がそうこちらに聞こえるように声をあげる。
「あのウルフヘズナルは、錆人形に《蒼炎》の魔力が宿った布が包まれて生まれたモンスター! ならばその炎ではなく、魔力が宿った布を断ち切れば!」
『グルル! えぇい、この女ァァァァ! 俺の事を話すなぁだォォォォン!』
ウルフヘズナルの弱点を話した女死神を許せないと言わんばかりに、ウルフヘズナルは女死神に襲い掛かっていた。
――――だが、もう既に遅い。
「狙う場所さえ分かれば、これ以上こんな相手に遅れは取らない!」
俺はそう言って、剣を高くかかげる。
高くかかげると共に剣の炎の揺らめきがさらに大きく揺れ動き動き、そして上空に大きな黒い雲が生まれる。
雲はどんどん大きさを増してゴロゴロと大きな稲妻の音が鳴り響く。
そしてピカッと雷光が輝くと共に、ドンッと大きな音と共に俺の炎の剣に雷が落ち、俺の持つ剣に雷が溜まりビリビリと光っていた。
「どうやらこの技――――まだ冴え渡るようだ」
俺はそのまま大きく炎の剣を揺らすと共に、大きな剣が上下左右に揺れるごとに雷がその激しさを増しつつある。
『お、おのれ! グルル、死ねぇだォォォォン!』
女死神に突っ込んで行くウルフヘズナルの身体を――――敵の身体の唯一炎と化していない鉄仮面の部分を視界に捉えて、俺は剣を真っ直ぐ構える。
「奥儀! 雷神招来!」
俺が剣を使ってそのまま前に大きく突く。突きの勢いに乗って、炎の龍と雷の龍――――2匹の龍が狙いである鉄仮面へと勢い良く向かって行く。
「まず一撃!」
赤い炎の龍と青白い雷の龍。元が炎と雷だけあって若干ながら速度に差があり、まず雷の龍がウルフヘズナルの鉄仮面にぶつかり、大きく上へとはらい上げる。
『ガウッ!』
鉄仮面が雷の龍によって上へと押し上げられつつ、雷龍の威力によってひびを入れさせる。
鉄仮面が飛ぶと同時に、ウルフヘズナルも同じように身体が上へと押し上げられる。
「そして次で、閉じ込める!」
そして上へと上がったもう1匹の、赤い炎の龍は大きく口を開けて、ウルフヘズナルに迫っていた。
【グォォォォォン!】
炎の龍はでかい鳴き声をあげて、そのまま世界の法則によって落ちて来たウルフヘズナルをパクリと飲み込む。
炎の龍の体内では全てを焼き消そうとする燃焼の力が、ウルフヘズナルの炎さえも燃やす勢いで激しく燃え上がって行く。そして超高温と化したその場で、ひびが入っていた鉄仮面が熱の勢いに耐えられずに悲鳴を上げる。
『ガルルッ! や、やばい! こ、このお、俺様の身体が、自由を求める俺の身体が束縛に悲鳴を上げてやがるだォォォォン!』
鉄仮面は雷のひびは、炎の熱によって徐々に広がりつつあり、その度にウルフヘズナルが苦悶の声を上げる。そして――――
「――――決着だ」
俺の掛け声と共に、炎の龍が一瞬で小さく収縮したかと思うと、上空で大きな爆発と共にその場で爆発する。
赤い爆炎がまず辺りに音と光でその存在を主張し、次に黒い爆煙が爆発があったと視覚出来るように分かりやすくその場に広がる。
カンッ、とその煙の中から1つの物体が落ちて来る。
すすだらけになって真っ黒に焼き焦げてしまったその小さな物体は、真ん中でぎざぎざのひびが入ったように2つに割れていた。
『アォォォォン~……』
除霊された幽霊のように悲しげな声をあげて、小さな物体から青白い炎と一緒にウルフヘズナルの魂は小さくなって消えていった。
「やった……のか?」
俺はそう言って、右腕のバランスが取れずにその場に倒れてしまう。
「あ、あぅ……。な、なんか乗ってる気がします……で、でも怖い。顔を上げるのがとっても怖い……」
自分の身体の上に載っている重い右腕に気付きつつも、怖くて顔を上げられないアケディア。
「クスクス……」
――――そんな、まぬけた俺達の様子を見て、女死神は小さく笑みをこぼしていた。
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