その化け物はどうやって襲って来たのか
『楽しい狩猟の始まりだぜぇい! ウォォォォン!』
鉄人形は嬉しそうな雄叫びをあげて青白い炎の爪で地面を強く蹴り、手の蒼炎の爪を大きく伸ばしていた。
「とりゃあ!」
俺は泉で洗い清めた剣で爪を防ぐ。剣は爪ではなく鉄で出来た拳を防いでおり、炎の爪は俺の顔の前まで迫って来ていた。
(炎の爪……やはり剣で斬る事は出来ないか。
そりゃあそうだ、炎を斬る事も防ぐ事も出来ないし、炎はただ揺らめくもので、防ぐものではないからな)
だが、鉄である拳は防ぐ事が出来た。しかし炎の爪の熱気がむんむんとこちらへと伝わって来る。
『ハハッ! 良いね、良いねゥオオオオン! やらせてもらいますォォォォン!』
「おいおい、やる気じゃねえか……なぁ、おい!」
俺は剣でウルフヘズナルの拳を押し返して、そのまま錆びた鉄の身体に剣の一撃を叩きこんでいた。
しかし叩き込まれた側である鉄人形の魔物はと言うと、なにも喰らっていないという平気な表情でこちらを睨み付けていた。
『おいおい、何かしたのかよォン? この、羽虫がァォン!』
「……ッ!」
ウルフヘズナルは脚の蒼炎を尖った棘の形に変え、大きく脚を振って俺の身体に叩きこんでいた。
火炎による熱気と棘による刺激が同時に、俺の身体に襲い掛かる。
吹っ飛ばされた俺は、森の木の幹に叩きつけられる。その衝撃で木が揺れて、木の実がどさどさ落ちて行き、葉っぱもひらひらと俺の身体に落ちて来た。
「おいおい……(痛みや熱さそれほど感じてないぞ。感覚がいよいよ人間じゃなくなってるなぁ)」
痛みや熱をほとんど感じてない。だからと言って動かせるかどうかは別の問題のようであり、右腕から先はピクリとも動かない。どうやら損傷が激しいようである。
『グルルル……おいおいおいおいおい! 狩りはまだまだ、これからだゥオン! まだまだ楽しもゥゥゥオンオンオンオン!』
『ヘイヘイヘイ!』と楽しそうに、ウルフヘズナルはこちらへと向かって来る。
「……《蒼炎》ではないとは言え、このまま見過ごすのは生と死のバランスを保つ死神として許せません! 氷の剣・家族!」
女死神が強い意思でウルフヘズナルに向かって魔力を使うための言葉――――魔法言語を発動する。
発動された魔法は彼女の周りで凍てついた氷で出来た多数の剣が宙を舞い、そして「行け!」という言葉と共に氷の剣がウルフヘズナルに向かって放たれる。
『ヘッ! そんなのが俺に聞くかよぅォォン! オラオラオラゥゥォォォン!』
ウルフヘズナルは拳の蒼炎を鋭く磨かせた形にしており、飛ばされていた氷の剣を炎の爪で溶かして撃ち落としていた。
「やはりこれでは聞きませんか。――――ならば水の大剣!」
女死神は右手で氷の剣を制御して放ちながら、左手で大きな水の大剣を作り出していた。そして水の大剣に魔力を加えながら巨大化させていき、絶妙なタイミングを狙っていた。
「――――今です! 水の大剣!」
ウルフヘズナルに狙いを定めて氷の剣でけん制として放ちながら、水で出来た巨大な剣を目には見えないほどの速さで投げていた。
そして投げられた巨大な氷の剣はウルフヘズナルの右腕の付け根を的確に斬り付けていて、ドンッと右腕が落ちていた。
「続いて――――水の剣・家族で参りましょうかね」
『えぇい! うざいんだゥォォォン!』
ウルフヘズナルは失くした右腕を拾おうともせずに、そのまま蒼炎を大きく広がらせて新しい腕を、いや先程よりももっと獣らしい質感の炎の腕を作っていた。
炎の腕でもう片方の左腕も自ら引き散り、そして同じように青い実体のない腕を作り出していた。そして炎の尻尾は二又に分かれて、メラメラと燃え上がっていた。
『圧倒的な炎の力で、お前達生存者共をねじ伏せてやるんだよォォォォン!』
ドン、ドンドン。
地面を強く蹴り上げて、ウルフヘズナルは大きく腕を振るいながらこちらに向かって来ていた。
「水の大剣! 水の大剣!」
女死神がウルフヘズナルを倒すために大きな水の剣を放っていたが、2本の炎の腕と二又の炎の尻尾で落とし、自分の身体が攻撃されようが炎で補完していた。
『ウォォォォン!』
「――――雹鎖!」
攻撃系の魔法が効かない事に気付いた女死神は魔法陣から痛めつけるための雹の付いた鎖を放ち、その鎖でウルフヘズナルを拘束する。
『ハハッ! こんな鎖で俺様を捕まえたつもりかゥォォォォン? 俺様は自由、そう自由なのだァァァァ!』
雹の鎖はウルフヘズナルの硬い鉄の部分をしっかりと拘束して掴んでいるのだが、炎の部分には鎖が捻じ込んで行くだけで全く拘束の用途を果たしてはいなかった。
「……やはり一本では上手く行かないようですね、ならば――――」
と、女死神は今度は今にも消えてしまいそうな半透明な鎖を生み出して、生みだした鎖で炎の腕と尻尾を拘束する。
『無駄だと言ってるだゥォォォォン? それなのに何故……って、あれ?』
ガシッ、ガシガシッ。
ウルフヘズナルはさっきと同じように拘束から逃れようと腕を動かすも、半透明な鎖はしっかりと腕にしがみ付くようにして拘束していた。
「――――霧雨鎖。炎であろうとも、雷であろうとも、煙であろうとも、この鎖はしっかりと相手を拘束する。……最も、実体のない物しか力を示さない鎖ですが」
『グルルル! お、己ェェェェ! この俺様は狼、自由を愛する孤高の狼様だゥオオオン! そう簡単にやられてたまるかォン!』
ウルフヘズナルは鎖から自分の身体を退かそうとして、懸命に腕を前後に振るう。
腕から鎖を外そうと揺れ動く度に、その度に鎖が音を立てて逃がさまいと音を鳴らしていた。
「だ、大丈夫……なのか?」
「今の所は魔力が通じる限りは鎖でこの化け物を封じ込める事は出来ますけれども、魔力が切れてしまえばもう二度は通じませんでしょうね……」
俺の言葉にそう心許ない言葉にて伝えて来る女死神。俺がゆっくりとだが立ち上がった姿、そして相も変わらず泣いてばかりいるアケディアを見る。
「――――と言う事で、そこの龍人さん!」
「ひぃっ! 泣いてばかりですいません、喚いているばかりですいません! ほ、本当にすいません~!」
「動けるんでしょ! そこに居るジェラルドさんを助けてください!」
女死神の大声にびっくりしたアケディアはキョロキョロと目を回しながら、「え、えっと……」と力なく言葉を発しながらこちらに向かってゆっくりと歩く。
「だ、大丈夫ですか……え、えっとジョ、ジョジョ――――」
「……ジェラルド、だ。すまないけれども身体を支えて貰えるか? 立たせて貰えれば歩けると思うのだが……」
「は、はい。わ、分かりました」
アケディアは恐る恐るではあるが手を差し伸べて、俺は左手でその手を取って立ち上がっていた。
「えっと右腕は……っと、これは使えないな」
立ち上がった俺は取れてしまった右腕を確認するも、腕は剣が必要となっている関節部分がひしゃげてしまっていて既に使い物になりそうにない。
これでは武器としては、腕としては使えないだろう。
「一体どうすれば……この右腕じゃあ腕が曲がらないから使えないな」
「え、えっとえっと……もしよろしければあれ、とかは?」
そうやってアケディアが指差したのは、先程あった――――
「……あ、あれか? 確かにあれならば使え……そう、だな?」
俺はちょっと怪しみつつも、それに手を伸ばしていた。
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