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サビ付き英雄譚【打ち切り】  作者: アッキ@瓶の蓋。
人形と怠惰の白き書

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10/90

《蒼炎》は王国にてなにを想うか

 魔物の中には数多くの種類が居るのだがその中に、ウェアウルフという狼と人間が融合したような、全身が深い体毛に覆われている魔物が居る。

 狼の頭と獣の後ろ足を持ち、二本足で直立しているこの魔物は、普段は人間その者の姿をしているのだけれども、満月の晩だけその本性を現して人間を噛み殺すという残忍な魔物である。

 人間を最初に1人噛み殺してその人物に成り代わった後、その人間として村や町に溶け込んで満月の晩のみにその本性を現す。それこそがこのウェアウルフという魔物である。


 この魔物の恐ろしい点は、人間と混ざってしまえばその正体を看破出来ないという点である。

 満月の晩のみにその本性を現しているがそれ以外の時は普通の人間として生活しているのであり、普通の人間である時は自分でも自分がウェアウルフなどとは思ったりしていない。


 詐欺師は自分が詐欺師であると自覚しているし、嘘吐きは自身が嘘を吐いている事を知っている。

 しかし、ウェアウルフはそうではない。

 満月の晩の間だけ自身が魔物である事を思い出し、それ以外の時は自身が普通の人間であると思っている。


 嘘が嘘であるかなどは、すぐさま判断出来ない。

 人間が他の人間と成り代わっているなどと、普通の人間は考えないものである。


(まっ、今の俺はそんな下等な狼であるウェアウルフなんかと同じ状況にあるのかな。

 とはいっても、一切こちらの正体を疑っている奴が居ないのも、張り合いがないけれどもね)


 《蒼炎》は手に入れたジェラルド・カレッジという身体で、風の国ヴォルテックシアを見ていた。


 風の国ヴォルテックシア。火の国、水の国と並ぶ三大国の1つであり、風の大魔石フェルス・ヴィントを有する大国。

 王家に伝わる魔法を授かったマルティナ姫や王族達、ジェラルドを慕う騎士団の連中も、誰一人として俺が別人である事に気付かない。


(まぁ、入れ替わりだなんてこんな物だよなぁ。人間関係だなんてこんなものだよ)


 大事件の後にいきなり前までとは違う物を好きになったり、前までやっていたことをやらなくなったり、逆に今までやっていなかった事を始めたり、それから覚えていたはずのことを忘れていたり。

 疑おうと思えばいくらでも疑うような要素は多々ある。

 けれども全てたった一言、「あの事件以降、ちょっと……ね」と不安定な要素を出せば、誰も偽物だと気付かない。


(勿論、数か月とか数年であればこんなあからさまな演技など、ばれて当然だと思う。

 でもまぁ、ここに居るのも時間の問題だ)


 俺がやりたい犯罪、【国家転覆】。

 意外と難しいように見えて、これは結構楽な犯罪だ。


 国民に王家への疑念を抱かせて。

 王家に多大な失敗を行わせて。

 後は、そういった互いのすれ違いをコツコツと積み重ねて、国という土台を傾かせる。

 それこそが、国家転覆という犯罪の真髄。


「まぁ、どれでも同じようなものだけれどもね」


「どうかしましたか、ジェラルド隊長?」


 俺がこれからの自分がどうするかを考えていると、いきなり不意に声をかけられる。

 騎士団の制服をキリッと着込んでいて、両方の腰に長刀を差した女騎士……確か……


「ルルゲイル、だったけか?」


「はい、ジェラルド隊長。少し剣の稽古をつけて貰おうと思います」


 騎士団の中でも長物、つまりは槍などの武器を扱うことに対して長けている女騎士であったか。

 確かジェラルドは騎士団の隊長という事だけではなく、戦闘指南役という一面も兼ねていたよな。


「(全く……。こいつの地位と身体が必要なだけであって、こんな面倒な事まで引き受けなければならないなんてね。けれどもやっておかないと、流石に別人であるとバレてしまいそうだしね)

 分かったよ。けれども事件のせいだけあって、実践的な事は何一つ教えられないが、それでも良いか?」


「ハッ! 栄誉あるジェラルド隊長のご指導、よろしくお願い致します!」


「(まっ、あいつほど熱心に剣術なんか勉強してないし、俺なんかが指導するような事は一切ないんだけれどもね)

 さて、行くとしましょうかね~。とりあえず、今修練場に居るのは?」


「えぇ。騎乗騎士3人、特攻兵2人、それに私と同じ戦術騎士4人の合計10名です」


「(うへぇ~。確か全員、こちらが引いてしまうくらい暑苦しいのばかりだな)

 まぁ、とりあえずさっさとやらせて貰いましょうか」


 俺はそう思いつつ、修練場へと向かっていた。





 修練場には既に9名の、騎士達が各自自分の得物を振りながら鍛錬に励んでいた。

 戦術騎士は剣を自由に振るいつつ、騎乗騎士達は自前の槍を振るっていた。そして特攻兵は短刀を振るいながらと、それぞれ自主練習に備えていた。


「へぇ、なかなか様になっているじゃないか。

(ほう、こういう感じになっていたのか。これはまた、様になっているじゃないですかね)」


 あの時の、前の身体(・・・・)の時は、誰に、どの身体に狙いを定めるかという事だけを考えていたんだけれども、こうして見ると所々に隙があるな。

 まぁ、敢えてこちら側から指摘する事はしない。何故ならば、俺の正体がバレてしまった時に弱点があった方が逃げやすいからだ。


(とは言っても、俺の正体がバレる事なんてないと思うけれどもね。俺の正体を知っている人物は錆人形(ラスティードール)の際に全員始末しておいた。この身体の本来の持ち主であるジェラルドも既に死人と化している。まぁ、保険みたいなものだ。


 なにせ、死神は絶対に(・・・)俺を捕まえることはないんだからね)


 俺はそう思いながら、とりあえず弱点を避けつつ、適当なアドバイスをしながら時間を過ごしていたのであった。


 国家転覆まで、あともう少しって所か。


(あぁ……そう言えば、前に奇形児達を集めようとしたな。あの馬車って、どこにやったったかな?)


 あれはただ奇形児達が襲われる姿や運び屋の人が魔物に襲われている姿を想像すると、物凄い面白いからとか、そうすれば楽しいなと考えてやっただけだったんだが……そうだな、まだ生き残りが居ると考えればもう少し面白い事をしようかな。


 俺はそう言いながら懐から1枚の紙を取り出して、それを1回1回丁寧に折り曲げていく。


「あれ、ジェラルド隊長? 何をしているのでしょうか?」


「……ん? ちょっとばかり指の訓練、かな。ほら、指先までしっかりと動かせるようにしていけば、新しい戦略も使えるでしょう?

(まっ、あの隊長だって似たような事を教えてたし、別に不自然さを感じられないだろうし)」


 そうやって1回1回折り曲げて、1つの形を作った俺は、それを元の紙に戻す前に魔力を加えて、それを元の紙に戻した後に紙飛行機の形にしてそれを窓から放り投げる。


「隊長、あの紙飛行機はどこに行くのでしょう?」


「さぁ、どこかね?」


 ちょっと誤魔化すような感じで喋りつつ、俺は紙飛行機の行き先を見ていた。


 さぁ、パーティーはこれからだよ。生存者達☆

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