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ある国境の町の噂話

作者: 1000818

童話と言うより寓話ですが一応童話祭に投稿してみます。

ハッピーエンドとは言い難いです。

(個々人の解釈にもよりますが……)

よろしくお願いいたします。

昔、2つの国があった。

2つの国は、表向きに正常な外交関係であったものの、裏ではいつ戦争が起きてもおかしくないほどの一触即発の外交問題を抱えていた。

その2つの国同士の国境付近には、小さな町があり、町の市民たちの間では、ある噂話が流れていた。

「なぁなぁ、お前さん、噂話は聞いたか?」

「いや、俺は知らない。いったいどんな話だ?」

「なんでも、この町に隣国から軍隊が攻めてくると言う話なんだってさ」

「へぇ、そりゃ恐ろしいな。で、誰から聞いたんだい?」

「この町を通って行った旅人がそう言ってたらしい。隣国で何やら怪しげな一団を見かけたと」

「それは本当のことなのか」

「実際のところ、よく分からないな。戦争が始まらないといいが……」

「外から来るものには警戒せねばいかん。何がやってくるかわからんからな」

市民たちはこの噂話を聞き、恐れおののいていた。

そんな中、ある市民が1つの提案をした。

「そうだ、この町の外交事務所に相談してみよう」

この意見に賛同した市民たちは相談の上、この国の外務省の出先機関である外交事務所に問い合わせることにした。

外交事務所では、いかにも役人らしい堅物の男が市民らに対して応対した。

「皆さんの話はよく分かりました。国の中央の方に皆さんの情報を報告します」

「市民はこの噂話を聞いて、みな怯えております。よろしくお願いしますよ」

その役人が国へ報告をすると、国の首都からその町に1個師団の軍隊が送られ、駐屯する事になった。

市民たちは軍隊を町全体で歓迎して受け入れた。

ある市民は言った。

「軍隊が駐屯してくれるのは実に頼もしい。まぁ、敵が攻めてこなければ良いが……」


数日後、町に大勢の人間や荷物を率いた一団が訪れた。

市民たちは騒然とした。

「あれは何だろう?」

「もしかして、敵国の軍隊じゃないだろうな?」

「……いよいよ戦争が始まるのか?ああ、恐ろしい」

「戦争は嫌だ、勘弁してくれ」

「いや、どうも違うようだ。あの一団は大きな象や檻に入った猛獣をつれているぞ」

「人間の方も我々に好意的で愛想を振りまいている」

その一団は軍隊ではなく、サーカスの一座だった。

「ああよかった、サーカスか。軍隊ではなくてひと安心だ」

サーカスの一座は町で公演を行うこととなった。

市民たちはこぞって見物に訪れ、芸を行う動物や楽団、芸人などの演技を見て楽しいひとときを過ごした。

やがて、サーカスの一座は違う町へ向かうことになり、この町を離れていった。

市民たちはこの一座を歓声を上げて見送った。

敵国が攻めてくる心配がないことが分かったため、軍隊の一個師団も引き揚げていった。



時はしばらく経ち、町には再び、ある噂話が流れた。

「おい、あんた、あの噂話は聞いたか?」

「いやぁ、知らんな。どのような話だ?」

「なんでも、この町に隣国から軍隊が攻めてくるらしい」

「へぇ、またそんな噂かい。で、いったいどいつがそんな事いってたんだ?」

「この町の宿に泊まった旅人がそう言ってたらしい。向こうの国の領土内で大勢の人間を見かけたとさ」

「本当なんじゃろうか、前にもそんな噂話があった気がするが」

「さぁ、どうなんだろうかね」

「まぁ、大したことはないだろうけど、ちょっと気がかりだの」

市民たちはこの噂話について様々な意見を言い、議論していた。

そんな中、ある市民が1つの提案をした。

「以前もこんなことがあったな……一応、この町の外交事務所に相談するのがいいんじゃないか」

この意見を聞いた市民たちは相談の上、この国の外務省の出先機関である外交事務所に問い合わせることにした。

外交事務所では以前と同様、いかにも役人らしい堅物の男が市民らに対して応対した。

「皆さんの話はよく分かりました。国の中央の方に皆さんの情報を報告いたしましょう」

「ええ、たぶん問題ないでしょうけど一応、お願いします」

その役人が国へ報告をすると、国の首都からその町に1個師団の軍隊が送られ、駐屯する事になった。

市民たちは賛否両論はあるものの、軍隊を受け入れた。

ある市民は言った。

「また軍隊が来るのか、まぁ、特に心配する必要もないだろうけど……」


数日後、町に大勢の人間や荷物を率いた一団が訪れた。

市民たちは騒然とした。

「あれは何だろう?」

「敵国の軍隊ではないだろうね?」

「まさかとは思うが、戦争が起こるのか?」

「戦争だけは勘弁だ」

「どうも軍隊とは違うようだな。あの一団はやけに動きものろいし、大きな荷物を沢山引き連れている」

「どうやら武器も持っていないみたいだ」

その一団は軍隊ではなく、商人の一団だった。

「やっぱり商人たちか、警戒して損したなぁ」

商人の一団は町で商いを行うこととなった。

市民たちはこぞって見物に訪れ、滅多にお目にかかれない異国の美術品や希少品を目にしたり、お値打価格で入手できたことに大喜びをしていた。

市民たちはまた、この一座を歓声を上げて見送った。

敵国が攻めてくる心配がないことが分かったため、軍隊の一個師団もまた引き揚げていった。


時はしばらく経ち、町には三たび、ある噂話が流れた。

「ねぇねぇ、例の噂話、聞いた?」

「いや、知らないなぁ。どんな話だい?」

「この町に隣国から軍隊が攻めてくるかもしれないんだって」

「ああ、そんな噂話はよくある事じゃないか」

「先日この町を出国していった旅人がそう言ってたんだって。向こうの国の領土内で大勢の兵隊がいる師団を確かに見かけたって」

「またその話か。どうせ見間違いか何かに決まっているさ」

「さぁ、どうなんだろうね」

「どうせ、大したことはないだろう。今度は何が来るのか楽しみだなぁ」

市民たちはこの噂話について気にするものの、特に心配はしていない様子だった。

そんな中、ある市民が意見を言った。

「また似たような噂話か、特に気にする必要もないだろう」

この意見を聞いた市民たちはうなづき、のんびりと日々を過ごしていた。

国の外交官事務所も特に心配することなく、淡々とお役所仕事をしていた。

ある市民は言った。

「噂話を気にしても仕方ないよ、そんなものを気にして軍隊を駐留しても税金の無駄になるだけだろうから」


数日後、町に大勢の人間や荷物を率いた一団が訪れた。

市民たちは時に気にすることもなくその一団を見物していた。

「あれは何だろう?」

「敵国の軍隊ではないだろうね?」

「あっはっは、悪い冗談を言うなぁ。そんなはずはないだろう」

「もしかしてサーカスか商人が戻ってきたんじゃないか?楽しみだなぁ」

「いや、どうも違うようだ。あの一団は素早い動きでこちらへ向かってくる。大砲を従えて武装した兵士をたくさん引き連れているぞ」

「へぇ、どうやら軍隊のようだけど、まさか……」

町の真ん中にある外交官事務所では役人たちが騒然としていた。

国の中央から速達の伝書鳩が届いたのだ。

その伝書鳩には敵国から宣戦布告があった旨が記されていたのだ。

町の役人たちは顔を真っ青にしながら声を張り上げて市民らに警告を発していた。

「皆さん!大変です!敵国の軍隊が本当に攻めてきました!!」

「大急ぎで避難してください!!!」

その一団は、この町を侵攻する命令を受けた、本物の一団師団の軍隊だったのだ。

「大変だ!!ほ、ほほほ本当に軍隊が攻めてきたぞ!!」

油断していた市民たちは狼狽し、悲鳴を上げて逃げ惑い、この軍隊の攻撃から逃れようとしていた。

迎え撃つ用意を全くしていなかったため、軍隊の一個師団はその町をあっという間に占領してしまった。


敵国の総司令部にある一室。

軍の大将と作戦参謀が話をしている。

「作戦は大成功でした」

「うむ、よくやったな」

「しかしよくも攻略できたものだな」

「ええ、ここまで上手くいくとは意外でした。旅人に扮したスパイを送り込み、人々を不安にさせる噂話を流す。こうして市民の恐怖をこの上なく高めたところで、市民の喜ぶサーカスや商人をさりげなく送り込む。こいつらはスパイではないが、国境の町へ向かうよう政治的な工作により巧みに誘導をかけてある訳だ」

「このようなことを繰り返していけば、市民らの緊張感はゆるんでくる。それにより当然、我々の国の側の動きは気づかれにくくなるから、時を見計らって一点突破で侵攻する、と……」

けっこう古典的ですいません。

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