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お天道様が見てる

 しばらく沈黙の後に、まず動いたのは意外にもユアンだった。

「と、と、と、とりあえず…………解体する?」

「人間を解体するのは犯罪だからね!?」

 アホな発言で金縛りが解けたアーサーは悲鳴を上げる。

 死体を覗き込んでいたジャックが藪の中にしゃがみ込んで視界から消えた。

「そしてジャックはジャックで何してるのかなあ!?」

「南無」


 仏教、だと……?


「あ、いやそうだよな。まずは仏さんに手を合わせることからだよな。というか死んでるよな?」

 アーサーを始め何故か全員で被害者を囲んで手を合わせる。馴染み深い……いやいや、なんでさ。ここ異世界。釈迦がいた歴史無いでしょーが。

 取り囲んだままアーサーは頭を抱えて空を仰ぐ。

「よりによってなんで見つけちゃうかなあ! ピンポイントで」

「驚き過ぎて逆に感情が抜け落ちている私がいる」

「仕事、中断して町に連れて帰る?」

「馬鹿か! 馬鹿馬鹿ジャック、そんなことをこのメンバーでしたらマズイのは君だぞ!!」

 ユアンが仕事で使っている解体包丁を片手に興奮する。

「マズイ?」

 包丁をジャックの鼻先に突きつけるユアン。いや駄目だろ、刃物を人に向けるのは。

「君が仏さんを連れて帰ったら間違いなく容疑者にされちゃうだろうが! 今度こそ捕まっちゃうだろーがー!」

 私は小首を傾げ、ジャックは俯いた。

「はあ? 顔が怖いくらいでどうして容疑者にされるのさ。前科でもあるわけ? 私達が一緒に見つけたことを証言すれば何も問題ないじゃない」

 馬鹿なユアンに意見すると、私に同意するとばかり思っていたアーサーがユアンを肯定した。

「疑われるだろうな。俺が発見者だと言っても誘導してアリバイを作ったとか穿ったことを言いかねん。なんの繋がりもない事件でも冤罪で呼び出されちゃうくらいだからな、ジャックは」

「裏世界の情報を提供しろって警察から無駄に迫られるしな」

「警察が何度も訪ねてくるから近隣から余計に警戒されちゃって」

「何か事件があるたびに怪しい人を知ってるとか通報されて」

「絶対に証拠を見つけて豚箱に送り込んでやるからなとか熱血警官に宣戦布告されちゃったりだもんな」

「この事件で拘留された後はあることないこと尾ひれ腹ひれ問い詰められて、雪だるま式に色んな冤罪を擦り付けられ」

「気が付いたら世紀の大悪人にされる」

 素直な感想を述べる。

「そんな馬鹿な展開になったら、私この国の警察信用しかねるんだけど」

 ジャックが唸る。

「でも昔そういう目にあった。その時は運良く無罪を証明出来た、けど、故郷にはいられなくなった」

「よし! 今日はジャックだけ仕事じゃなかったことにしよう」

 私の潔い提案をユアンが鼻で一笑する。

「事件現場を報告して検証されて足跡からばれたら言い訳できなくなるじゃないか。さすがガキの浅知恵だな」

 間抜けな白仮面を指で弾き上げてやる。

「うわ、わ、わ、わ、わあああああ!!?」

 とれた仮面を追いかけて蛙の如くユアンが藪の中にフィードアウトする。そしてすぐに藪から勢い込んで白仮面が生えてきた。

「君は悪魔の子か!?」

 腕を組んだアーサーに私はもう一度提案する。

「だったらアホのユアンじゃないけど、こう、あれだけど、解体してからアーサーの風魔法で跡形もなく証拠隠滅して見なかったことにするとか」

「ロッカ…………」

 責める口調で名を呼ばれる。

「でもでもだってだよ。知らない他人のご不幸なんかより、まあ短い付き合いでも知り合いの保身の方が大事だし。しかもこの国の警察の捜査がいかに信頼性に欠けるか語られた後じゃ協力する方がおかしいってもんじゃない?」

 沈黙お帰りなさい。


 本当にまだ短い付き合いで、しかも凄く特徴的であろう顔も見たことが無いので屁理屈を言えば顔見知りですらないけど、ジャックは私の隣人で、朝食を一緒にとる仲で、この異世界にたった三人しかいない知り合いだ。

 それは、後で祟られるより困る。殺人事件より怖い。


 しばらく腕を組んで私の提案について考えていたアーサーに、かぶりを振ったのはジャックだった。

「この仏を待ってる人がいるかもしれない」

 藪の中からジャックは仏さんの腕を肩に回して背に抱えた。

 悪役を買って出た甲斐もなくて、なんだか絶望的な気持ちで立ち上がろうとした。けどバランスを崩して後ろに転げる。

 まったく不便ったらありゃしない! 眼鏡が無いと感覚すら目を瞑っているみたいにレベルダウンするんだから…………。


 心臓が止まりそうになる。


 転げた衝撃に一瞬目を瞑り、草と湿った土の冷たさを背中へ感じて真上へ目を開いたら至近距離に顔があったのだ。相手も同じく硬直していた。返り血を浴びるほどメッタ刺しにしたんだろうなあと連想が浮かんだ。

 止めていた息を絞り出した。

「ぎぃやあああああああ!」

「!?」

 大音量攻撃にすぐさま踵を返して走り去る犯人(仮)。いやでも犯人でしょ、あれは!? 急に出現した人影に男共は事態を把握できず立ち尽くしている。私は立ち上がって主張した。

「犯人! 犯人すぐそこにいた!!」

 何それ超怖い!?

 だって私の背後に潜んでたってことでしょ? まかり間違ったら私は後ろから襲われてたってことでしょ!? どうなの!? そうなの!?

「ジャック!」

 アーサーが叫んで、ジャックと共に追いかける。足がすくんでいる私の横にユアンが一緒に残ってて二人の姿が藪の奥深くに消えていく。




 町へ帰る道すがら悔しそうにアーサーが言葉を垂れ流し続ける。

「捕まえれていれば問題が全て解決していたのに」

「深い森の藪の中じゃ追う方が不利に決まってるじゃないか。そう簡単にいくものか」

 それをユアンが悲観的に否定していく。

 町はもうすぐ目の前になる。

 この町を囲む壁を見慣れたわけでもないけど、前回までは怪物がいない安全区域という意味で町が近づくことに安堵を覚えていた。自分の寝泊りする部屋は自分の陣地として別格だけど、やっぱり人が周りにいるのって安心するんだ。けど、今だけは人気の無い場所に引き返さないかって言いたい気持ちでいっぱいだよ。

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