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眼鏡なしで得た世界

 隠れ家の外、木の陰に潜んで一人乾パンを齧っていたらアーサーに見つかった。立ち尽くしたままムズムズとアーサーが何事かを言いあぐねて首を擦っていたけど、観念して声をかけてきた。

「女だと認めるとしても、どんな顔すれば良いか分らなくて気まずい」

「心配しなくても見えてないから。そして認めるとしてもってなんなの。まだ認めない可能性も残してるのか、あんたは」

 気まずいと言いながらアーサーは私の横にしゃがんでくる。

「物凄く女を苦手としているということも相まって、俺は朝っぱらから物凄く複雑な気分になっている。後、今までのことを振り返ると非常にまずい記憶が出てきてしまったわけだが」

「それは脳内から今すぐ抹消しろ。あれとかこれとかは私の中で握り潰した過去だ。今更思い出させないでもらおうか!」

 乾パンの袋を握る拳でアーサーの頬を明後日の方向にぐりぐりと押し付けて記憶喪失を促した。数々の暴挙は許し難いが、口に出して謝られるとそれはそれで羞恥プレイも良いところだもの。「痛い痛い」と暴力に屈しながらアーサーが笑う。

「笑いごとじゃないのよっ」

「いや、なんだかな、この狂暴性。性別が変わろうとロッカには変わりないよなって。解った悪かったよ。約束だしお前への認識は一つ改める」

 手を止めてアーサーを見る。綺麗な顔は見える距離、そこに曇りはなくて、不安だった気持ちが少し溶けて消えた。

「私のこと追い出さない?」

「俺はお前のこと好きだからな。今更距離を置くにはちょっと仲良くなり過ぎだ」

「寝言はだいぶ酷かったけど」

「む、無意識下の発言は無効だろ……俺どんな寝言漏らしてた?」

 追い出されない。

 膝を抱き寄せて私も笑いが込み上げてきた。ちゃんと、私のままで受け入れてくれた。本当の仲間だって認めてもらえた。

 なんだか凄く嬉しいから、仕方ないな。失礼な寝言はさっぱり許してやろう。


 それからアーサーは完全に私の横に腰を据えると私の持つ乾パンを食べ始めて、気軽な世間話に切り替えてきた。

「それで、こんな所で何してるんだ? お前集まって食事する方が好きだろ。もしかして俺のせいで顔合わせ辛かったとか?」

 団欒が好きだなんて口にした覚えはないのにアーサーはこういうところがやたらと鋭い。なのに都合の悪い部分で難聴盲目になるのはもうそういうフリだろうと言いたい。

「そういうわけじゃないけど、今朝ちょっとユアンと言い争いになって、まあ大した内容じゃないから気にしなくても」

 あんまり突っ込まれたくなくて話を濁そうと試みたけど、空気読まず人のアーサーは「調査隊の件か?」と話を続けてきた。やっぱり普通に鈍い気がしてきた。

「せっかく危機的状況から脱したってのに、お前らときたらもっと絆を深めて仲良くなるとかないのか?」

「しばらくは生活支援があるんだし、調査隊で各所を回りながら仕事を立て直すための市場調査と営業も兼ねてくるから、大丈夫って言ってるのに、引き篭もって休暇を楽しんで良いって言ったら、訳が分らないこと言うんだもん。キモい仮面の引き篭もりの都市伝説化してる変質者のくせに」

「酷いこと言ってやるなよ。あのなあ、そもそも町であの惨事の中、どうしてもロッカを捜してからじゃなきゃ脱出しないって言い張ったのはユアンなんだぜ?」

 乾パンを一つ取り落としてアーサーを見上げる。

「最初はあんなにお前のこと嫌がってたのに今じゃあれだもんな。度胸があるんだか無いんだか。町でロッカを捜すって言い出したユアンは最高に狂ってたしな。だからこの口ももう少し素直になろうな、ツンデレ娘」

 頬を抓られるがまま私が言葉を失った時、最悪のタイミングで隠れ家の扉が開いた。

「あ、ロッカ! 全然姿を現さないと思えば」

 最後までユアンの声が届く前に残りの乾パンをアーサーに押し付け、私は脱兎の如く目印付きの森の道を逃げ出した。




 防護柵の工事に早朝から参加していたら、後から現れたジャックがもの言いたげにこちらを至近距離で見下ろしてきた。ジャックは追及し出すと三歳児か取調室の刑事並にしつこい。私は口笛を吹いて無視をした。

「ロッカ、朝」

「あら遅かったわね、ジャック! ほーら、あっちの角材持ってきなさい。工事の遅れは復興の遅れよ。これが終わらないことにはいつまで経っても人が住める環境が整わないんだから、ほらほらほらほら」

 みなまで言わせず大きい背中を押して角材置き場に送り出すと特に抵抗せずにジャックはあっちに向かう。私がひとまず安堵の溜息をついていたら、ジャックの向かう角材置き場で材料を可能な限り抱えようとしていた男達がろくに角材を持たずにボーリングのピンよろしく蜘蛛の子を散らすように自分の作業場所に逃げ戻る露骨な状況が見えた。

 一気に胸糞悪くなる。

 誰より体格が良いジャックは特に反応も見せずに他人の二倍は角材を抱えるとこっちに戻ってこようとした。私はその場で足を踏み出し、角材を何も持ってないくせに逃げた親父の一人にジャックを差し向けた。

「ジャック、あっちの角材がもう無いみたいだから先にそっちに持っていきな!」

 私が叫んだ内容に周りが大きな動作で狼狽を示した。ジャックは一度止まって親父の方を見ると、方向転換をして一直線に向かっていく。目に見えた動作でまごついた親父だけど「はい」とジャックに声をかけられてしまえば無視することも出来ず、何事かの応対はしている様子だ。ジャックが角材置き場に戻ればすかさず「はい次はあっち!」と続けざまに指示を放つ。金槌で肩を叩きながら私は角材置き場に歩いて行った。

 その後は私の独壇場。抗議なんて出来るわけがない親父共が内心で阿鼻叫喚してるのをまるっと無視して、角材の上に乗り偉そうにジャックを顎で使いまくる。作業中の親父のところに送り込む。共同作業に加わらせる。遠巻きにしようとする親父共の行動を将棋でもする気分で指していく。ふっふっふ、こんなか弱い私に翻弄されている様をとくと馬鹿馬鹿しく思うがいいわ!


 とかやって遊んで、いや作業が効率よく進むように操作していたら女達が差し入れを持ってきて休憩の時間となった。昼食の炊き出しは数か所に分かれていて、その一か所はこの作業場だ。

「さあ食事をついでいくからたんと食べてね。飲み物は何にする? 酒は一杯だけだよ!」

 我先にと給仕に群がる男達を横に、食い意地の張っているジャックはといえば人が引くまで目も向けずに作業を続けている。昨日は私もジャックに連れ添ったまま人と離れた場所でボンヤリと食べていたが、一つの目標に向けて力を合わせているせいか他人は全員食事も一体でとっていた。つまり今までジャックだけボッチ飯ってやつだったわけだ。

 私は作業の手を止めないジャックの真下に立って笑顔で見上げる。


「ちょいと失礼しまーす」

 既に輪になって座っている親父の中にジャックを捻じ込むと私もその間に無理やり相席した。給仕してくれるのを良いことに確保した席から私は両手を上げて主張する。

「私コーヒー! こっちのお子様にはココア!」

 空気というものは時として読んだ後に無視するのも必要である。

 でも数時間も一緒に作業しているとジャックが見た目に反しているのなんて一目瞭然だし、私もあえて横暴な少年モードでジャックを弄っていたから、最初こそ委縮していた親父共も段々と普段の様子を取り戻して他愛のない会話を始めた。ジャックの肩から少しずつ力が抜けていく。

 ジャックが師匠と呼ぶメリーからは自分で印象を操作出来るまでになれと調教されているわけだけど、私は自分の堪え性が無いせいで手っ取り早く助けたくなる。成長しようとするジャックにはあまり良くないんだろうけど、成長したとはいってもジャックも私にはまだまだもどかしい。


 割り込みはしたものの、まあ私もジャックもそこまで会話に参加するでもなく炊き出しを黙々と胃に収めた。それも済んで私が食後のコーヒーに口をつける頃合い、当然の流れとしてその話題が投下された。

「ひとまずの防護柵を作るだけでも、なかなか終わりが見えないもんだなあ」

「ここまでの人数が住む場所を確保するわけだからな。一苦労だわな。既に出来上がってる町に引っ越すのとじゃ、大変さはそりゃあ段違いだろうさ」

「ろくに物を持ち出せなんだしなあ」

 突然の重苦しい空気に私はコーヒーを飲むコップへ鼻先を埋めたまま固まった。飲んでいるように見せかけたまま視線を黒い水面に集中させる。

「金なんてどうでもいいさ。家族と離ればなれになるよっかよー」

「なんでこんな目に遭わなきゃいけないんだろうな。俺も彼女がどうなったのか」

 コーヒーの水面が細かく揺れる。

 悲痛な心境を次々と漏らしていく周りに、コップの縁を噛みながら体が勝手に耳を澄ませる。私のせいじゃない。自己犠牲なんてまっぴらだもの。大変なのは私も一緒。違う。落ち着け。

「今までも順風満帆だったとは言わねえがよお、ここまで堕ちちまったらさあ、もうどうしようもねえよなあ。せめて家族が離散していなきゃ、ここまで絶望感もなかったってのにな。無事も分からねえしよお」

 泣き出す声が胸に突き刺さってくる。


「少し時間が欲しい」

 今まで一言も発していなかったジャックが口を開いた。

「噴火はいつか収まるから、町に戻ることも、出来る。居場所が分からない人、調査隊でちゃんと調べるから。手紙とか預かるし」

 私はコーヒーを持つ手をいつの間にか降ろしていた。堂々と前を向いたジャックが、大勢の大人を前に喋っている。

「諦めないで待ってて欲しい」

 言い終わっておずおずと居心地が悪そうにココアに口をつけるジャックに、親父達の息が一拍おいて漏れた。

「調査隊か。そうだな……そうだな!」

「あんたあれに志願してくれんのか?」

 今までとは全く違う優しい声音で話しかける男達に、ジャックが無言でコクコクと頷く。その肩、背中が朗らかさすら含ませて複数の人に叩かれる。

「頼むなあ。よろしく頼むなあ!」

 そんな風に希望に満ちた光景が私にはただただ眩しくて。




 休憩が終わって作業場に戻る。ジャックは身長が高いだけあって足もかなり長い。そのせいか私やお子様の隣を歩く時は至極ゆっくり歩く。だからそんな姿は傍目からすれば巨人が歩くみたいにのっしのっしって感じでさ、急に、そういうところもみんな気付けば良いのにと思った。

「ジャックは調査隊に参加することを諦めてないのよね」

「ジャンケン負けたし、テスラとの約束だから」

 向けられたことがない多勢からの好意にジャックはこそばゆそうに背中を揺らす。

「そうよね。うん、まあ。やっぱり調査隊は必要だよね。人数だって出来るだけ多い方が良いに決まってるし、任されたからには、なにがなんでも行かなきゃね」

「でも、反対」

 アーサーに言われたことを思い出したらしくジャックが肩を落とす。私は笑ってアーサーが上げた問題点への対策をジャックに話してやった。それに頷くジャックは「それでユアンの対策は?」と突いてきた。口角が引きつる。

「アーサーは納得するかもしれない。でも、ユアンはロッカが心配って」

 お馬鹿な口下手のくせにこういう時に限ってジャックは毎度刺してくる。というより最近刺してくる頻度が増えた。明らかに何か悪い影響を受けている。

 いやでも仕方ないのか。年少ジャックにとってはユアンも基本的に逆らえない相手には違いない。

「こ、このまま調査隊に強引に行っちゃえば止めようがないわよ!」

「追いかけて来ない?」

「引き篭もりがそこまでしないわよ。きっと怒って、呆れて諦めるしかなくなる。帰って来た時に……喧嘩になるくらいでしょ。大事の前の小事じゃない」

「怒って許してくれないかも」

「それは、帰って来た時に、丸め込めるように小細工したりとか、考えておけば」

「ユアン、根に持つよ」

 声が小さくなっていく私に自信が無いのを見て取ったのか、突っ込まれたくないっていう空気を読まないジャックは追撃してくる。本当にうちの男衆は空気を読まない。誰も読まない。

「な、何よ。今日はやけにしつこいわね」

「ユアンも頑固だから。ロッカが大事だから、心配だったら強行突破しても諦めないんじゃないかって思う。だからいざとなったら、俺、調査隊は一人で頑張らなきゃいけないかもって」

「ば」

 声が裏返って、咳き込んだ。胸を両手で押さえて高い位置にあるジャックから見えないように体を折り曲げて地面に向かって怒鳴りつける。

「馬鹿ね!! あんたなんてまだ一人立ちさせられるわけないでしょ!? 出発しちゃえば諦め癖のついたダメンズ仮面なんだから大丈夫に決まってるのよ。あーあ、休み過ぎたかな。体力が余って仕方ないわ。作業に戻るよ!」

 会話をぶった切ってジャックを残し作業場所に逃げる。




 夕刻になって隠れ家に光が灯る。作業が終わって、体を拭いて、ついでに寄付された新しい服に袖を通してから現在だ。どれだけゆっくり時間を潰したって夜までには部屋のベッドに戻らなくてはならない。帰りあぐねて薄暗くなっていく森に潜みながら時間を潰す私は正直頭を抱えている。ユアンが何かを作るために材料を求めて外にでも出ていかないかな、なんて玄関を見張ってみても一向に外に出ていく様子は見られない。

 その内、遂に玄関から出てきたのはアーサーと先に帰っていたジャックで、身を伏せた私に気付くことなく見回りのために森に消えていった。


 私は木にもたれかかりながら深く息を吐いた。

 違う、違う、絶対にありえない。こんな風になるなんて、気の迷いなんだから。弱って誰かに縋りたくなってるだけ。大体、私は人間じゃなくなったんだ。こんな正体で、しかも完全にバレてる相手に今更そんなのなんて分が悪いにも程がある。しかもユアン相手なんて人間だったとしたって怪しいものよ。だって、ずっと悪いとこしか見せてこなかった。精一杯可愛いこぶったって、あいつ、貶したことしかなかったんだもの。

 髪を弄りながら爪先で草をぐりぐりと苛む。

 自分がどうしたいのか全然分らなかった。このまま顔を合わせたりしたら、意味が分からないまま何か取り返しのつかないことを口走りそうで、凄く怖い。


 もうほとんど緑から黒に侵食されている正面の光景に、時間的な猶予がなくなっているのを突きつけられ恨めしくて睨みつける。ここで考えてても事態は好転しない。

 私は気配を消して外から自分の部屋に向かった。途中で出来るだけ強度のありそうな葉を選んでいくつか拾っておく。窓の前にくると私は隙間に葉を差し込んで鍵をなんとか押し上げる試みを再開した。もうすでに曲がったり千切れた葉っぱがベッドの上に無残に散乱している。二枚くらい使って補強出来ればまだこの鍵も開けられそうなのに、余暇にチマチマと建てた突貫工事だなんて言ってほとんど隙間がないんだから忌々しい。

 また葉っぱが破けて窓の中に散った。


 埒が明かない。

 窓の中に侵入を果たすのは降り積もる緑ばかり。もう外はほぼ暗闇になってきた。作戦を変えるしかない。壁伝いに移動して身を伏せながらユアンの部屋をうかがう。カーテンのせいで中は分からないけど灯りがついている。この世界の灯りはランプだ。火の元は持ち歩くはず。

 私は玄関へ回って扉に耳を当てる。室内では全く物音がしない。部屋に引き篭もっていれば顔を合わせずに正面突破出来るかもしれない。

 音を立てないように鍵を回して扉を薄く開いてみる。少しずつ開けながら部屋を見てみれば中に人影は見当たらなかった。これならいける!

 窓から入る光だけの薄暗い部屋に胸を撫で下ろす。隠れ家の中に足を踏み入れ、扉を静かに閉じて鍵をかける。そして速やかにそのまま部屋に向かおうとした矢先、玄関扉の横で腕を組んで立っている仮面が私の視界の中に。


 血の気が引いて全身から冷汗が浮かぶ。幻覚、見間違い、まさかの罠……いや、でも、まだいける。こうなったら強行突破しかない。このまま自分の部屋に駆けこんで部屋の鍵を閉めてからベッドにダイブする。

 迷っている暇はない。すぐさま決死の作戦を完遂しようと走り出した数歩先で後ろから腕をつかまれて体がつんのめった。

「やっと帰って来たと思えばまだ僕を避ける気か」

 作戦が一瞬で潰された。

「どうして逃げるのか説明してもらおうか。僕は別に今朝逃げられるようなことはしてないだろ。ちょっと怒鳴ったくらいじゃ君が撃退できるわけないんだからな」

「早朝から遅くまで外で働いていただけです。手を離してください」

「だったらグイグイ進もうとせずに止まれよ」

 つかまれた腕が熱い。振っても手がはずれない。

「どうせ調査隊について裏で何かコソコソやってたんだろう。君が何も企んでないわけがないからな」

「防護柵の工事を手伝ってただけです」

「同じ作業をしていたジャックが先に帰ってきてるんだよ。それでさっきからなんなんだ、その不自然な敬語は」

「煩い、さっさと離してください変質者」

「丁寧に喋りたいなら単語の取捨選択にも気を配れよ! 丁寧に言えばとりあえず敬語になると思うなよ!?」

 振りほどくのに疲れてきて、最後に弱く一度振って諦める。手を離す気がないユアンに力で勝てるわけがない。せめてもの抵抗は背中を向けたまま、顔を合わせないようにすることだけ。

「調査隊なんて駄目だからな」

「そんなに心配ならユアンも志願すればいいじゃない」

「冗談じゃない。僕が雑多な人間の中に身を置けるわけがないだろ」

 そうでしょうとも。予想通りのお答えありがとう。

「だから僕の目が届かない所に行くなって言ってるんだ」


 思わず振り返った。その顔は葉っぱじゃなくて白仮面に戻っている。もう、腹が立ってきて捕まってる腕を全力で引き剥がしにかかる。

「そっちこそ言葉の選び方がおかしいのよ! しかもまたそんな仮面作ってるし! そういう無駄なもの作ってる間に家具の一つでも作って世のため人のために働きなさいよ!」

「僕だって一肩は担いでるだろうが! 言っておくが、避難所で最も貢献度が高いのは確実に僕だからな! 一日に一体どれだけの物を作成して連中にくれてやってると思ってんだ。仮面については素材が葉っぱだと君への防御力が低過ぎて生活に支障をきたすから急ピッチで削ったんだよ! こんな荒削りの完成度は本来なら僕の矜持に反するっていうのにな!」

 歪んだ視界の中でも飛びぬけて目を引くあらゆる仮面。素顔を隠す仮面。表情を隠してしまう邪魔な仮面。

 不満がにじみ出る。

「諦めて仮面つけなきゃいいでしょ」

「なんと言われようがこれは僕が生活していく上で重要な世間との壁なんだよ! か、べっ!」

 力では振りほどけない。だったら、その壁を弾き飛ばして怯んだ隙に逃げてやる。


 振り上げた手が木で出来た仮面に掠った。でもそこまでだ。弾く直前で手首が握り締められていた。正面から向かい合うような形で動けなくなり、完全に詰んでしまった。

「君のその仮面への執念は一体なんなんだ」

「だって、そんなのつけてたら顔が見えない」

 息を呑んで、俯く。

 ほら、訳のわからないこと口走っちゃった。

「どうせ君は誰の顔も見えないだろ」

 見られたくない表情を一方的に曝け出されてる。こんな仕打ちってある?

「せめて、隠すなら右半分の片仮面でも良いでしょ。全部隠すから不審なのよ。それに私、仮面が嫌いなんだもん」

「別にロッカが僕を嫌いだなんて知ってたし、まったく構わないね」

 口調を強めたユアンに動揺で声が震える。

「違う」

 足に力が入らなくなって、下を向いたままへたり込む。

「始めの頃は凄く嫌いだったけど、今はそうじゃない。中身は嫌いなんかじゃない」

 それでも両手は拘束されたままで吊るされたみたいになった。ユアンは私に合わせて膝をついた。そうじゃなくて手を離せば良いのに。顔を一層低くする。覗かれたくない。


「なんなんだ。君、様子がおかし過ぎる」

 答えられるわけがない。

 黙っていると「なんか前にもこの体勢になったことがあったような」と言い出されて首から上が茹で上がった。もう絶対に顔は上げられない。アーサーとジャックが帰るまで粘ってその隙に逃げる? さっき見回りに出たばかりの二人が帰ってくるのはだいぶ後になる。それまで我慢出来る気がしない。熱があることにする? そんなことしたらドヤ顔でやっぱり体調を崩したとか言って調査隊の件で完全に分が悪くなるだけだ。

 両腕が泥になって溶けそう。熱くて痺れてて、なのにそこに集中するみたいに敏感だ。

「お願いだから見逃して。逃げるのは調査隊とか関係無いから」

 ユアンが手の拘束を強めてくる。はっきり言って、普通に痛い。

「断る。君は嘘つきだからな。他にどんな理由があるか言ってみろよ」

 目が熱くなってくる。下を向いてたら涙が零れそうで、執拗なユアンに、思考が滅茶苦茶になってる自分に、もうどうにでもなれって勢いよく顔を上げていた。

「分からないの!!」

 何キロも走った時みたいに息が苦しくなる。心臓は多分爆発手前だ。

「だって、私、こういうこと得意じゃないんだもん! 一人で反応してさ、いっつも馬鹿みたい!! でも胸が締め付けられるんだもの。こんな仮面好きになるつもりなかったのに。ユアンが悪いんじゃない。不安な時とか、弱ってる時に狙ったみたいに不用意な言葉で振り回してきてさ」

 涙が零れる。

「勝手に私が戸惑ってるだけなの。血迷ってるだけなんだから」

 肩で息をする。

「もう、暴こうとしないでよ」


 仮面の下で沈黙してるユアンは、首を回して、天井を見て、玄関を見た。

「ありえないことだけど、これはけして僕が自意識過剰だとか願望みたいなもので飛躍してるわけではなく君の言動から導き出した推論になるわけだが、つ、つまりロッカは、その、僕を他と違う意味で好きだ、という解釈で良いんだ、よな?」

「違うもん」

「ち、違わないだろ、どう考えても」

 口を引き結ぶと「黙秘するなよ。話がややこしくなるだろ」と声が弱まる。もう調査隊とは関係が無いって分かったはずなのに、両腕が解放されない。いっそトカゲを見習って両手を切り離すしかないのか。

「ど、どうして僕なんだよ。いつもなじり倒して散々なくせに」

「ユアンだって、迷惑だとか邪魔だとか言ってたのに私を命懸けで助けたりしたくせに」

「それは、仲間に対する情で説明、つくし」

 他に助け舟も無い状態で遭難者が二人に増えた。

「そ、そうだ。最近色々あったから君は錯乱して倒錯してるわけか。こんな肉を削がれた吐き気を催すような顔をした僕に他をおして気持ちが傾くわけがないしな」

「だからあんたの問題は顔じゃなくてその自意識過剰なまでのネガティブさだって普段から言ってるでしょ」

「どうしてそこはスラスラなじる言葉が吐けるんだ。君、やっぱり僕のこと嫌いだろう」

「そうでもないから困ってる」

 ユアンの唾を飲み込んだ音が聞こえる。

 それから、しばらくどちらも喋ることが出来なくなった。相手の出方を見てるのか、あちらも逃げることを考え始めたのかは分らない。


 そういえば、ユアンは一度固まったら平気で半日逃避するような男だった。このままじゃアーサーとジャックが帰って来る。これ以上、傷を広めたりしたくない。

「調査隊には行くから。あんたとも一度距離をおきたいの。こんな異世界に来て、毎日ドタバタでさ、しかも人間じゃなくなっちゃって、なのに普段から仮面つけてる怪しい偏屈相手に心乱されて。心配しなくてもこんな不毛な気持ち離れてる間に跡形もなく抹消しておくから忘れてよ」

「そ、そ、そ、そんなに早く結論を急ぐこともないだろ。君って問題が起きると単純に潰しておけばいいと思ってるよね。蓋しておけばいいとか、浅慮で」

「何年もネチネチ人生儚んだり足踏みしてれば思慮深いわけじゃないし」

「ちょっと一回黙れ。罵詈雑言聞いてたら訳が分からなくなる!」

 さっき散々黙ってたじゃないさ。

「普通は嫌がって離れて行くんだよ。面倒くさいことくらい自覚してる。娯楽感覚で仮面を剥ぐけど、こんなグロテスクなものを見たら普通は距離をおくし、見て気持ちいいものじゃない」

「嫌がらせ半分、顔が見たいのが半分」

「ゲテモノ好きか。君は相当趣味が悪い。歪んでる」

「壁を挟んで腕一本分突き放されてる感じが嫌。顔に傷があったって」

「自分勝手なんだよ。女のくせに平気で血の気が荒いトラブルに平気で関わったりする。だから僕はいつも」


 唇を噛む。

「振って」

 そうだ、こんなにグダグダ悩むくらいなら、さっさと一区切りしてしまえば良いんだ。逃げ回ったり目を背けたりするから頭がぐちゃぐちゃになる。

「もういいから、ハッキリ振って。遠回しに時間かけられるなんて拷問みたいなの嫌」

 油断してるかと思って手を振り払おうとしてみるけど、腕が揺れるだけだった。

「だから、あー、くそっ!! いきなり奇襲かけといてすぐに言葉が湧いてくるか! こっちはっ、今更君に距離なんておかれたら」

「一言で良いって言ってるでしょ。振るでも無理でも断るでもごめんでも。それ以上聞きたくない。五文字以上聞きたくない。別に縁を切るわけじゃない。気持ちの整理をさせて欲しいだけなんだから。早く断ち切って」

「分かった」

 深呼吸をしてユアンは「ロッカ」と私の名を呼んだ。

「五文字に纏めたから目を瞑れ」

 瞬きをして、私は従った。

 ずっと拘束していた手が片側だけ離れて、硬い木が床に落ちる音が真横でする。それから少し汗ばんだ手が私の顔に触れた。

「キスしたい」

 耳が拾った言葉が頭で形にならなくて、目を見開いて上げかけた私の声は、唐突に途切れた。







 調査隊として他の町に行くと知り合いと次々に会えた。

 熱血少年エベリンは汗水流して防護柵や住居を建てる工事に参加していた。

「みんながもう少し落ち着いたら俺は警察学校の寮に特別補助制度が貰える推薦で入るつもりだ。仕事は体力的に辛いが本格的に勉強を始めたんだ。食い扶持が一人でも減った方が親父も身を粉にして世間に貢献出来るだろうしな」

 飛び散る汗が煌く。何故か父親との血の繋がりを感じた。あの状況でどうなったかと思っていたけどお巡りは普通に健在していた。


 発狂しているメリーさんにも遭遇した。

「あらゆる手段を使って手も汚しながら店の評判が軌道に乗ったところでこの仕打ち!? 酷い、こんなの到底受け入れられるか、ど畜生がああああ!!」

 ジャックがまあまあと宥める中、メリーは自分のキャラを完全に脱ぎ捨てて「私が今まで店を手に入れるためにどれだけ、どれだけの泥と辛酸を舐めてきたか分かる!? ジャック君!」と当たり散らす。

「このまま落ちぶれてたまるものですか! 絶対に這い上がって取り戻してやるわ! どんな犠牲を払ってでも。何度だろうと諦めてたまるものですかぁ!!」

 多分大丈夫そうだ。


 また別の場所では見たことのある看護師にも会った。

「うちの馬鹿先生見てないかしら」

 避難先で登録されている住民一覧の確認を求められた。

「なさそう。あーあ、いよいよ雇い主変えるしかなさそうねー」

 看護師が頭を掻いて肩を落とす。避難先でも救護を引き受けているらしく、その姿は相変わらず白衣だ。

「噴火の直前から一目散に逃げた医者を追いかけてたのにはぐれたの?」

「南門の辺りで撒かれちゃってね。その時に町の中でドカーンよ。まああの爺さんなら、またどっかで野次馬しながらヘラヘラやってるでしょうよ。今度はもっとまともな医者の下で働きたいわあ。カーペンターさんが医者だったら仕事も張り合い出るのに。今からでも医者を目指したりしてくれないかしらあ」

「あらゆる人間と顔を合わせる職業がまずもって無理だと思う」

 あの医者は今のところ調査書の何処にも名を連ねていない。御使いは医者の姿をしていた。それがアーサーと同じように化けたものだったのか、あるいはあの医者自身の正体がそういうものだったのか知る術はない。このまま顔を合わせることがなければ。




 仕事を終えると相棒のジャックが調査隊の拠点にしてる天幕から出てくる。調査隊ではまだ怖がられて仲間が出来ないみたいだけど、こうやって接する努力をして友達を作れるように頑張るつもりらしい。向上心が凄まじい。ジャック曰く「強く逞しく」が目標なんだってさ。

「でも既に立派に一人立ちって感じね」

「まだロッカ頼りも多い」

「別に全部自分でやろうとまでしなくて良いのよ。誰も必要としないのが立派な大人ってわけじゃないんだから」

「お姉さん」

 そう言いながら頭を撫でる。ちぐはぐじゃないか。

 しかし不意に思い出してジャックの胸に指を突きつける。

「そういえば女だっていつから知ってたのかまだ白状してないじゃない。何故胸の大きさまで把握していたのかも含めて今日こそ吐いてもらいましょうか」

 ジャックが胸に拳をおいて顔を背ける。

「兄弟みたいで楽しかったから気付いたこと言えなかった。それに俺が知ってるって言ったら出ていくかもしれないと思った」

「ジャック……私に行く当てなんかないんだから出ていったり出来ないわよ。で、なんで知ってたの」

「あ、ロッカあそこ」

「そんなもんで誤魔化せるのはアーサーくらいよ。大体、ジャックの分際で私をたばかろうなんて生意気!」

「でもあっち、アーサー」

 仕方なく目を向けると木の上に覆面を被った一見にして只者ではない男がいた。そして問題は幹の根本に群がる女の方だ。人を地獄に引きずり込む亡者の群れみたいな光景が進行方向で繰り広げられていた。

「ひいいいい!!」

 一仕事を終えて疲れているというのに。

 アーサーの悲鳴を半眼で眺め、私は手を振り上げてその亡者の群れに振り下ろした。すると女共が木の上に手を伸ばすのを止めて「何これ?」と口々に言い出す。それを確認するなり悲鳴が上がった。

「きぃやあああああ!?」

 泥が虫の如くうねうねと肢体の上を這いずり始めたら、そりゃおぞましかろう。亡者が地獄の炎に焼かれて踊り狂う頭上をアーサーが風の力を借りて跳んだ。そして私とジャックの手をつかんで走り出す。

「助かった。逃げるぞ!」

 

 獣道や藪を飛び越えたおよそ人の道からはずれた場所まで来ないと安心出来ないアーサーが息を切らせながらようやく立ち止まる。

「はあ、はあ、なんで顔を隠してるのに身バレしちまうんだよう」

「その程度じゃ多彩なストーカー軍の連携には太刀打ち出来ないってことじゃないの」

 途中からジャックの背中にぶら下がっていた私は地面に足をつける。戦慄するアーサーは「この町周辺じゃなくて、いっそ俺の安寧のためにはもっと遠くの方でやり直した方が良い気がする」ともう毎度お馴染みになりつつある泣き言を漏らしだした。それにいつものようにジャックが「絶対ヤダ」と反対する。説得するアーサー、反抗するジャックの言い争いに溜息をついて私は、周りを見渡す。

 調査隊に志願するという説得は最終的にジャックによる押しきりで勝ちとられた。しかもこうして全員が一緒に来ることになったのは、色々な理由がある。例えばアーサーは配給を貰いに行くにも見回りに参加するのにも一人は怖いとか、そういうしょうもない理由。

 それがこの居心地の良い空気が傍に寄り添ってくれる、理由なんだって。




 もう少しで秋が終わって冬がくる。

 冷たい川から水を汲んで腰の紐を片手で確認する。一人で森を出歩く私の迷子防止策だ。とてつもなく馬鹿馬鹿しいけどこれが切れたりしたら拠点に自力で帰る手段がなくなる。でも帰りは邪魔なので桶に結び直す。

 体は拭けば満足、という男共が協力をしてくれなくても風呂は諦めない。水浴びも厳しい季節だ。何往復しようと一日の終わりの楽しみ、風呂には入ってみせる。調査隊には組み立て式の風呂桶を執念で持ち運んでいる。水がタダで手に入るこの環境を逃す手はない。

 仕事以外では当然の如く調査隊と別行動になっている。森に簡易の隠れ家を作ってまで逃げの一手。私とジャックだけなら町で普通に集団生活できたのに年長者共め、もっと真人間らしく矯正できないかしら。

 ブツブツ言いながら桶を持ち上げる。足元に気をつけながら紐を手繰って道を戻り出してすぐだ。

「ロッカ!」

 紐を反対側から辿って仮面が向かってきた。口を引き結ぶ。責めるような声音だ。これは手伝いに来たんじゃないな。

「聞いたぞ! また力を使っただろ!! しょうもないことで身を削りやがって」

 目の前まで来ると案の定だ。

「ふん。別に少しくらい良いでしょ、どうせ元に戻るんだし」

「そういうのを自傷行為って言うんだぞ」

 言い返せずに詰まった。いや、まだいける。

「力を自在に操る、修行かもしれないでしょ」

 苦し紛れに憎まれ口を叩いた。なのに私の桶を持つ手にユアンの手が重なって指先まで撫で擦られる。

「どう考えたって無限に沸く力じゃないんだ。余力がなくなれば元に戻せなくなるだろ。そんなもの使いこなさなくたっていいんだよ。君は例え大災害が起きても身を投げ打たせたりしないんだからな」

 電撃が走ったように手を振り払って身を引いた。桶がひっくり返って無残に森の草花に水を横取りされる。

「や、止めてよ! さ、触り方がなんかやらしい! きもい!」

「なんでだよ! 普段ジャック辺りにはベタベタベタベタベタベタしてるくせに」

「ジャックは犬だからね!」

「いい年した人間だからな! せめて弟って言ってやれ!?」

 口を尖らせて私は目を地面に向ける。

 むず痒くて後退るものの、衝動に任せて走り出したらそのまま遭難する。

「だって、ユアンが最近、過剰に触ってくるから、ジャックが盾に丁度良いんだもん。手の動きも、日増しに、おかしいし」

「ば!? それは、その、僕達はこういうこと込みの付き合いになったわけだし」

「不潔だ!」

「そこまで言われるようなことはまだしてない!」

「まだ!? まだって言った! そういうこと考えてるって言った!」

「べ、べ、別におかしくないだろうっ」

「こういうことには段階があるの!」

「じゃあ、何なら良いんだよ!?」

 口をつぐむ。やり場のない想いが溢れて地団太を踏みたくなる。駄目だ、やっぱりこの空気耐えられない。そういう覚悟を踏まないままでここまできてしまった。どうにもこの関係は居たたまれない。

 憮然として許容範囲を考える。

「手を、繋ぐとか」

「それ割と最初からやってたし、ほぼ他人じゃないか」

「がっついてくる、怖い。変態仮面」

「がっ」

 ユアンが言葉を失う。

 口がムズムズする。可愛くないな。私本当に可愛くない。だって可愛いって性分じゃないんだもん。

 こっそりユアンを見上げる。


「嘘、本当は、好き」


 素直じゃない口から絞り出した私の精一杯の本音に、ユアンが仮面を地面に叩きつけた。

「キスだったら良いだろ!」

 そのまま逃げられないぐらい強く木に体が押し付けられる。そして、仮面の無い顔は眼鏡が無くても見える距離まで。

【エンディングロール】


<キャラ設定>


@御手洗・六花/ミタライ ロッカ

 神経が図太く執念深い直情家。眼鏡を壊され視力0.01の障害者状態で新生活スタート。ド近眼のせいで目つきが悪い。童顔ちっぱいのため少年と間違われ、以降、少年設定でアーサーに雇われる。子供達に友達として慕われており一部には(貧乏を憐れんでオカズやお菓子を)貢がれている。仲間内唯一のリア充。兄と弟がいる。ホラーアクションが好きで大学時代は肝試しツアーなんかもよくやっていた。お菓子は塩味が好き。


@アーサー・カーペンター

 絶世の美男だが性格は至って逃げ腰の事なかれ主義。偏愛を受けてたまに闇落ちする。年に三回くらい殺されそうになっている。妹にジル・カーペンターというそら恐ろしい親族がいる。年々対人恐怖症が悪化していく。女性は特に怖くて母と妹以外はまともな知り合いはいない。子供は平気だが体格が良いと怖いらしい。自衛手段として風使いになり、かなりマニアックな術も使える。前髪はわざとガタガタにしているが効果は無いし誰も気にしない。


@ジャック・プイ

 悪人面の口下手おとぼけ青年。人夫。月に一度は犯罪者っぽいという理由で通報されたり警察の思い込み捜査で冤罪にかけられる。遠い故郷でも外見から冤罪をかけられ村八分にあい逃げてきたので家族とは絶縁。怖がられるので人目を避けて生きてきた。優しい良い子だが頭の中では割と年相応なことも思っている。ロッカをお手本にしているせいか年々それを口にするようになってきた。食いしん坊でチョコが好物。


@ユアン・マーマイル

 仮面で爛れ顔を隠す重度の対人恐怖症。特に子供が怖い。跡目争いで十代の頃に襲われ人間不信になったという何気なく元お坊ちゃん。解体屋だが物作りも得意。手先は器用だが性格の方はツンデレ不器用。世間では仮面にローブの変質者、あるいは都市伝説の怪人として後ろ指さされている。その素顔はゾンビのようだが左側は比較的元の顔付きがわかる。顔を隠すためだけの仮面かと思いきや、仮面を大量に生産して不気味過ぎるコレクション部屋を有している。珈琲中毒。


@モーラル・プレンデック

 中二病な警察官。ジャックを悪と信じて目の敵にする冤罪かけまくりの正義を愛する迷惑熱血漢。町での警察組織トップにあたる。仕事には率先してあたり困っている人あらば例え休日でも夜でも飛んでいく。でも警察官としての感を信じて突撃するので優秀とは言い難い。部下とお年寄りからの人望は意外と厚い。嫁との仲は円満だが、最近息子と上手くいかない。


@エベリン・プレンデック

 警察官を目指す正義感の強い熱血少年。短絡的なところがあるものの、間違いは素直に改められる。統率力にも長け面倒見がよく子供達のリーダーとなっている。光術の才能が無くて練習しても光を飛ばすことしか出来ない。時々中二病ちっくな発言がある。最近、父がちょっとアレなことに気付いた。


@ケトレ

 将来女を泣かせそうなちょい悪系な顔をした少年。ガサツだが意外に神経質で回し食べが出来ない。


@セバリー

 ちょっとせこい少年。年下のテスラが好きなような、気のせいなような、微妙。


@テスラ

 明るく無邪気で優しい少女。腐女子で何かと言えばメモを取り出し友達に叩き落とされる。料理が壊滅的に下手くそで化学兵器としか言いようがない。達観して大人びた発言があったかと思うと、どこか抜けている発言もオチでついてくる。


@ネリ

 オカルト大好き少女。でも怪異にあったら普通に泣いてパニックになる。呪術的な知識が豊富。


@ヘッツェ

 引っ込み思案で影が薄い少女。心を開くには数年かかる。ロッカもほぼ話したことがない。


@メリー

 喫茶店のブリッコ店長。店と金を愛する。非常に可愛らしいが自然体だと相当苛烈な性格。努力家リアリストで「ありのままでもいつか報われる」が地雷。アーサーを食い物にしているが、美形本体には用がなさそう。


@医者

 トラブルがあるところにその姿あり、野次馬根性旺盛な爺。麻酔拳という怪しい技が使える。待合室に患者がいても騒ぎがあるとみれば診療所から脱走するため、町中で見かけた時は大体看護師に血眼で追われている。そのおかげで助かる命も多いわけだが。




<噴火についての設定>


 地球は地表(60キロ)、プレート、マントル(2900キロ)、地核(100キロ*捏造)、地底空間というミルフィーユ型になっている。地表での噴火原因は2種類。


1.プレートの沈み込みによる摩擦で岩石が溶けてマグマとなり、周囲の圧力で浮上して噴火だまりで一度停滞するものの、地表が圧力に耐えられなくなって噴き出す。(日本で一番多いのはブルカノ式噴火。粘性が高い安山岩質マグマの場合に多く、爆発に伴って火山灰、火山礫、火山岩塊を大量に噴出する。溶岩流は、半ば固化した塊状溶岩となって流動速度は遅い)


2.プレートの活動により地震が起きると地底の内部圧力が高まって地球が部分的に破裂、ガスが吹き出す勢いでマグマや岩石が飛び出していく。地上へ向かってガスを流出している間はマグマや岩石は地底に向かわないが、圧力が低下すると地底にも火山灰やマグマが流入し始める。内部圧力は地震以外にも地底ガスの循環不全でも高まる場合があり、球体地盤の中でも窪んでいる部分に圧が集中してマントルとプレートに亀裂を広げていき、マグマに達すると浮上を誘発するので噴火に繋がってしまう。こうなると被害は深刻化しやすいが、大抵のマグマはガスだまりで停滞するため表立って影響しない。(溶岩は少なく揮発成分も少ない。岩石も基本大きなものは飛ばないが大規模だと歴史上数回みられた。マグマがみられた場合は流動性が非常に高く液体状で危険。爆発は繰り返さない。滅多にないが溶岩で地底内部が狭まると圧力が貯まりやすくなるのでヤバい)


 土地神の泥人形による修復が間に合わないと次回が大規模なものになる。地底での噴火被害は主に火山ガス。毒性をもつ成分による中毒や酸欠により死亡に至る。温度は数百°C以上になることもある。空気よりも密度が高いのでくぼ地にたまりやすい。(主成分は水蒸気、二酸化炭素でほかに二酸化硫黄(亜硫酸ガス)も含まれる。通常は少量の水素ガス、一酸化炭素、硫化水素、塩化水素が含まれる)。降灰が降り出し周辺を埋める他、火山ガスの後には硫酸ミストなどに覆われ日射量が減少し、気温が低下したりもする。

 ガスや熱は一度地上で吹き出して薄まるので地底での即死効果は薄いが、空気より重いので窪地噴火口の地底では徐々に濃度が上がり時間が経つほどに危険。噴石は基本小粒だが飛んで当たれば大怪我は免れない。


 泥人形による干渉が無かったり、災害規模によっては泥人形一体では容積不足となるケースがある。その場合には噴火災害後に陥没カルデラ(大量のマグマが抜けた跡、空洞や窪みとなる現象)が形成される。すると窪みが悪化することで再び亀裂が入りやすい状態におかれるため大変危険。そのため土地神はカルデラを修復するために泥人形を定期的に送り込むようになる。それに伴い土壌が非常に安定するため歴史上では噴火口周辺には人が集まり町などを形成しやすい傾向にある。


 土地神の御使い(泥人形)とかいってるが、地球にとっては人間でいうところの血小板(傷修復細胞)である。地底は内腔、地表は皮膚。各種の存在が発生させるガスは酵素。消費して還元する地底の人間はエネルギーを作るためのミトコンドリア。使命を果たさない泥人形は果たして癌細胞か、もしくは地底の暮らしを整える免疫機能か。


*ウィキペディアを参考に制作したフィクションです


@おまけ

 噴火口近くにいると高温の岩石・火山灰・火山ガスなどが物凄く早く山の斜面を滑り落ちてきて全て焼き尽くすので普通は死ぬ。噴火に遭遇して生き残った対処法例として、高温の空気を直接吸い込んでしまうと気道熱傷を起こし呼吸困難に陥るので最優先で早急に濡れたハンカチで口を覆う。火山灰は、灰という字が使われているが実際にはマグマが細かく引きちぎられてできたガラス片である。火山灰は呼吸器疾患を引き起こし、皮膚炎を起こし、結膜炎や角膜剥離を引き起こす。なので遠近に関わらず触れないように身を守った方が良い。降灰、火山ガスを避けるために風上に急いで下山する。噴石や降灰から身を守るために岩陰や避難小屋に退避する。逃げる際には頭部に噴石を直接ぶつけないよう何かで守るのが基本だそうな。


*サイト「噴火.com」を参照した、ただの作者の学びです

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