目隠し鬼さん迷路の先は
【警告】軽いグロ注意、欠損あり、苦手な方は今回と次回に向けたネタバレを別途記載するので必要があれば先にご一読ください↓
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人通りの少ない工房、職人通りには昼間でもそこまで路地に人影を見ない。町の中でも女子供は特に寄り付くことが比較的少ないし、耳を澄まして聞こえるのは鉄を叩く音に、木を削る音。隣で何をしていようが無関心な厳つい職人気質の男が多く、無駄に話しかけてくる輩もいないのが良い。こっちの様子を見極めて仕事だけを依頼し、商人、女みたいに余計な詮索もしてこない。ここで暮らすようになって心の波風は随分と平坦になった。
「ユアーン」
稀に訪ねて来るのはアーサーかジャックだったが、ここ半年でその頻度はやたら増えてきている。休みの日くらい作業に没頭したいのに邪魔で仕方ない。どうせ夕食には顔を出してるんだから用があるならその時に言えというのに聞いてやしない。特に、あの女が。
への字に歪めても右の口は緩んで閉まることは無く、剥き出しの歯が醜くみっともない。仮面で顔に蓋をして、せめてもの嫌がらせにゆっくりと扉に向かって開けてやれば、目出し帽とフードをかぶった怪しい男とジャックが立っている。
「お前なぁ」
外にいると落ち着かないアーサーには大変有効な手口だ。
「なんだよ。僕は休日を無為に過ごしてる君達と違って忙しいんだけど」
作業台に引き返す僕の後ろに二人が続いて入る。僕の家に出入り可能な窓は無い。だからこそ稀に扉を介さずに侵入しているロッカが解せないんだ。
台所から湯が沸く音が聞こえてくる。室内に入って人目が無くなるとアーサーがフードと目だし帽を脱ぎ捨てる。
「お、来客を予見してお湯を沸かしておいてくれるなんて気が利くねぇ。コーヒーよろしく」
「あれは僕の作業効率を良くするために沸かしたものであって」
「俺ココア」
「うちにココアなんて無い!」
図々しい要求を叩き伏せると、ジャックはしばし首を傾げた後、台所に入って自分でココアをついで戻ってきて飲みだした。
「おい、おい待て。なんだそれどっから出てきたんだよ! 僕は知らないぞ!?」
買った覚えのないココアの登場に思わずツッコんだらジャックが即答で「ロッカ」とだけ言った。
「だと思ったわ!」
あの女、人の家を少しずつ侵食していきやがって。あまり使わない様な場所を目敏く見つけて気付いたら勝手に家の中でちまちま侵略している。物置なんてこの間占拠された時に気付いたけど、お、女物のあれこれとかあんなとこに隠してたなんて。
沸々と思い出して苛立ちながら入れたての熱いコーヒーにストローを差して作業台に戻る。後ろの二人を放置して僕は気を鎮めながら土地神についての本の続きページをめくった。
「今日は他でもないロッカのことなんだがな、あいつどうしても気分が浮上しないみたいだから、どうしようか相談しにきたんだよ」
「ふーん。いつも煩いし僕はああやってちょっと沈んでるくらいの方が平和で良いけど。最近は全然つっかかってこないし」
「あー、張り合いがなくて寂しいってやつか」
「難聴も程々にしろ! そんなこと僕はまったくもって思ってないんだからな!?」
立ち上がって抗議する僕をよそに、ジャックがブクブクとココアのコップに息を吹き込んで遊ぶのをアーサーがどつく。歯ぎしりをしながら椅子に座り直し、落ち着くためにもストローをくわえて仮面の口穴から熱いコーヒを吸い上げる。
「でな、最近は収入に余裕があるだろ。ロッカは何かっちゃ風呂に入りたいとか言ってるし、この際温泉に連れてってやろうかと思うんだが」
「裸の付き合い、体の洗い合いっこする」
カップを倒してコーヒーを噴き出す。
「うあづぁっ!?」
仮面の口穴と内側からコーヒーが垂れ流されて胸元と足を火傷する。コーヒーをかぶった本を持ち上げて上で振るがもう遅い。
ロッカと裸体の付き合いで、にょ、にょ、女体を撫で、な、撫でまわっ……。
「無理に決まってるだろう!!」
思わず叫んで「なんでだよ」と不服な顔をされ、仮面の上から額を押える。
頭痛がする。
替えの仮面と服をとって手早く交換しながら適当な理由を考える。
「多分定期の仕事が駄目になるとか文句言うんじゃないの。そのロッカが」
「そこはほれ、上手くスケジュールを調整してだな」
「調整するのロッカだけどな」
「だからー、そこを計画しやすいようにこうやって相談に来たんだって」
そうは言っても温泉なんて行くことになったら、さすがに性別は言及することになるだろ。今こんな状態なのに余計にこじれるようなイベントは正直控えろと言いたいんだけど。ああ、面倒臭いっ。
「とにかく温泉以外でサプライズを考えなよ。僕だったら気分が沈んでる時は余計な仕事なんてしたくないし、どうしてもって言うならもう少し原因の方を」
「でも、早く元気になって欲しい」
ジャックの一言で僕は口を閉じる。それ以上何か思いつくような言葉もなくて、僕は濡れた本を振って脱いだ服に水気を吸わせてよれたページを破れないように開いた。
暗い空気になって会話が途切れた。部屋が静かになると急に外の騒がしさが耳につく。いや、煩いというより何かおかしい。
「なあ」
アーサーが口を開く。
「もしかして外から悲鳴聞こえてないか?」
尋常じゃない様子に顔を見合わせ、ジャックが立ち上がって扉に向かう。そして開け放った向こうの景色は灰色で遮断され、あまつさえ煙が室内に入り込んできた。ジャックが即刻扉を閉める。
振り返ったジャックが眉を寄せて無言でこちらを見返してきた。
「いやいやいや、こっち見たって僕だって分からないよ! 何? 今のなんな訳!?」
「か、火事とか?」
内側に入ってきた煙は卵が腐ったような異臭がする。これは硫黄か? 何処かの工房で何か変な物を燃やしてるとかじゃないだろうな!
扉に張り付いて耳をそばだてても悲鳴ばかりで要領は得難い。風がやたらと吹いて、何故か扉から熱が伝わってきた。入ってきた空気のせいで玄関口がいやに生暖かく感じる。
「おい不味いぞ、逃げた方が良いんじゃないのか!?」
カーテンを開け放って窓の外を見るアーサーの方も完全に煙で外の様子が分からないようだ。ここら一体にあれが充満してるってことか。これは火事で発生する煙の色にしては白みがかり過ぎている。
悲鳴の中、扉に近い場所で不吉な言葉が届いた。
「町の中心で噴火が!!」
聞き間違い、か?
振り返ったアーサーが「嘘だろ?」と気の抜けた声で立ち尽くす。ジャックは事態がよく分らずに僕とアーサーを交互に見返す。間違いなく、そう言ったのか。
アーサーが扉に手をかける。
「真偽についてはともかく、この様子は明らかにヤバい! 俺達も北門から逃げるぞ!」
脳の奥の方が痺れて麻痺したような、なのにさっきまで話題にしていた人間の顔が浮かぶ。
「待ちなよ。ロッカは今、何処にいる」
「繁華街へ営業に行ってる」
よりによって町の中心部? なんで僕の周りの連中はいつもこんなに間が悪いんだ!
ジャックが「どうしよう」と動揺し始める。それに対してアーサーが拳を握り締めた。
「あいつなら、きっと、大丈夫だ」
は、一瞬で目の前が真っ赤になった。
「何がだよ! ロッカは目が見えないんだぞ。こんな視界じゃ余計に身動きがとれてるわけない。回収しにいかなきゃ逃げられっこないぞ!?」
「こんな状況で人捜しはもう無理だろうが!!」
怒鳴り声を上げてアーサーが開け放った扉から生き物の様に煙が入って来る。視界が狭まる中でロッカの話が頭を過る。噴火だ土地神だのと言っていた、馬鹿げたあの話だ。
「外にいたんだからこの煙が充満する前にロッカだって逃げ出してるはずだ! 人の波に乗って一緒に走れば目が見えなくたってロッカは走れる。信じて町の外で人伝に聞いて合流するしか選択は無いっ」
「アーサー、ユアン、煙がっ」
僕は扉を力任せに閉じる。
視界がよくなるわけでも完全に侵入を防げるわけでもないがアーサーを仮面の下から睨みつけて扉を押えるのとは反対の手で襟首を捕まえた。
「町の外にいなかったら?」
悠長に考えてる間は無い。
「ロッカは最近おかしいままだ。以前ならともかく冷静に上手く逃げているイメージが僕にはまったくしてこない。捜した方が良い!」
「正気かよ。冗談じゃねえぞ」
「励まそうと思うぐらいに、身を挺して凶刃から庇うくらいにロッカを気にいってるんだろ。町を隈なく探そうってわけじゃないんだ!」
周りに人がいなくなって茫然と立ち尽くしているロッカを想像して背中が冷たくなる。僕だけじゃ駄目だ。道を見失わないために風使いのアーサーは絶対に必要になる。捜しに行って、脱出するためにもだ。
「常識で考えろよ!! 俺だってロッカは心配だし、助けられるもんなら助けたいに決まってるだろ。だからって」
顔を背けたアーサーの目に涙が浮かぶ。
「ユアンがやろうとしてるのは、例えば火事を目の前にして、もしかしたらまだ中にロッカがいるかもしれないって命懸けで燃え盛る炎の中に飛び込むことだ。俺はそこまで勇敢にはなれない。もう限界だ。ここは門が近いとはいったって噴火がどういうものか詳しく分らん。このままじゃ俺達が逃げ遅れるんだ。冷静になれよ、ユアンッ」
心臓が潰れそうなぐらいに痛んだ。
頭のどこかではアーサーが正論を言っているんだと同じ答えを出していた。僕は何をとち狂ったことを言ってるんだと。大体、町を隈なく捜すわけじゃないと言ったって何処に当たりをつけるか見当がついてるわけじゃない。全身が冷たくなって何かが込み上げてくる。久しく感じていないくらいの嫌なものが。
扉から手を離す。
悲痛な顔でアーサーは入口に手をかけてジャックを振り返った。
「ジャック、俺が風を起こして門まで誘導するから、また変な気を起こさないようにユアンを」
「繁華街のルートでロッカが使う道は二通りしかない。仕事と買い物で使う道とユアンの家に来る時の道」
言い放たれた言葉にジャックを見上げる。
「ここから繁華街に凄く早く走って見に行って、アーサーの家を通って東門から逃げればロッカと会える、かも」
「ジャックまで何言い出してんだ!? そんな一か八かに命を懸けてる場合じゃないんだぞ!!」
「そのルートが分かるんだな、ジャック」
煙のせいで表情は見えないが、ジャックはしっかりと頷いた。
「そうか。だったら、だいぶ現実的に絞れたな。ロッカが町から出るならよく知った方に逃げるはずだから北門か東門。それ以外なら誰かに誘導されて避難した可能性が高いし、それならそれでもいい。行くぞ、ジャック」
「止めろ! 町の中で道を見失って死ぬだけだぞ!」
今度こそ扉を開け放つ。
外に出ると思った以上に視界が無い。沸騰した鍋の上に体を吊るされている様な熱い空気に大雨が降る前のような薄暗さ、おまけにむせ返るこの異臭だ。肺まで吸い込みかけて手前辺りで咳き込む。だが立ち止まってられるか。この煙に構わず走り出したジャックの大きな背中を見失わないように目を見開いて走り出す。
「だああ! 待てって、ああ、もうなんなんだよこの馬鹿共!」
後ろから突風が吹いて視界が大きく開ける。その空間で前から叫びながら数人が北門の方に向かって走り抜けて行った。後ろからアーサーが連れ戻そうと追ってくる。足を止めかけたジャックの背中を押す。
「戻って来いっつってんだろ!」
視界が狭まってきたらまたアーサーが風で煙を蹴散らせる。
「待てっつってんだ、げほっげほっげほっ、う、げほっ」
狙いが逸れて煙を退ける風が細く分散し幾つかの細い筋を描いた。よほど苦しかったらしく、しばらく黙って走るアーサーと距離が離れすぎないように速度を落とすと、追いついたアーサーが並走しながら僕を思いっきり睨んできた。走りながら口を引きつらせたアーサーは僕の肩に爪を立てる。
「覚えとけよ、お前。これで逃げられなくなったり術の使い過ぎで俺がぶっ倒れて死んだら、ありとあらゆる意味で祟ってやるからな」
「生きてたらチャラか」
結局ついて来るんだからこの男も根っからのお人好しだな。そんなんだから僕やロッカに良いように謀られるんだよ。
アーサーはもう後悔に満ちた顔で前を見据え腕を振るって風を大きく広く飛ばす。
「俺にとってもロッカは大事な弟分だからだ。でも途中でトラブッた時に俺が泣いて逃げ出してもお前からの恨み言だけは一切聞かないからな」
「言わないよ。ただし、無事にこれが終わったら君達のその節穴過ぎる目に対して話がある」
すぐに迫ってくる煙をアーサーが両手の風で力任せに押し返した。
そんなやりとりを挟みながらなんとか強引に繁華街に着いたは良いが、ここにきて風の勢いがいやに小さくなる。
まだ行程半分だぞ、くそっ。
「もう限界なのかよ。根性出せよ、アーサー!」
「いい加減にしないとぶん殴るぞ、俺。体力はまだ残ってるけど今日は何か空気がおかしい。いつもより風の反応が悪いんだ、よっ!」
風が小さい分術を放つ数で補いだし、どうにも視界の確保は危うくなってきている。土地神の本で噴火の部分に書かれていた文言を思い出す。術で消費されなければ溜まり過ぎたガスで地面が裂け、ガスは地面から世界の外に抜けて消える。
「術を使うにも濃度が下がってるってことか」
ただでさえ厄介なのに、必要な時に限って面倒な。
「さすがにもうこの辺に人影は無いぞ! しかもなんかチラチラとあっちに凄い勢いで吹き上がってる風の音を感じるんだけど噴火口に近づいてんじゃねえのか、これえ!?」
繁華街のメイン通りを走りながら明らかな爆心地を横目にする。風術の勢いが弱まったせいで本当に二メートル程度しか視界を保てなくなってきて、ロッカの名前を叫んで呼びかけながら耳を澄ませる。
「全部を調べるのは本気で無理だからな! 後は俺の家のルートに向かって町の外だよな!?」
念を押してくるアーサーを尻目に道の途中で立ち止まり、僕は音が激しく唸りを上げている方を見て目を細める。
あの夜、あの訳の分からないアーサーに化けた何かがいた寺。あの土地神の寺ってのは何処だった? あの時はロッカを追うのに必死で場所をよく把握してなかった。
「おい」
アーサーの警戒心に満ちた声がする。
「ジャック、ここら辺にある寺の場所って分かるか?」
「あっち」
「うおおおい! ふっざけんなああ!!」
音がする方にジャックが走る。アーサーの切れまくった声で繰り出された大風が景色を作る。どんどん弱くなるアーサーの術はもはや気合いだけで捻り出され、見える範囲で瞬時に居場所を判断している状態だ。
ジャックが記憶を頼りに先頭で煙の壁に突っ込んだすぐ後だ。風で飛ばすまでもなく辺りが急激にドーム状にぽっかりと開けた。
「なんだ?」
想像していなかった変化に足を緩めて周りを見渡す。
「あれ」
ジャックが指した方向にはこの煙を吐き出し続ける元凶であろう太い煙の柱が空に向かって伸びていた。柱は空に届くと灰色の蓋を作ってカーブを描き、僕らの真後ろに降り注いで町を塗り固めている。
アーサーが半泣きで膝に手を当てて喘鳴を上げながら僕に視線を突き刺す。
「終わった。もう風がまったく反応しない。死んだぞ、どうすんだよ。ロッカもいなかったし」
「まだ僕に奥の手がある」
唸りを上げて渦巻きながら昇っていく煙は化け物そのものだ。僕はその柱に向かっていく。僕の家の前で感じた熱さなんて比じゃない。櫓を組んで火を付けた火柱の前で直接炙られてる温度だ。
「おい、ユアン! 何する気だ、そっちは」
仮面がパリパリと傷む音が耳の横で鳴る。何かアーサーが言ってる声は残念ながら前からくる気流でまったく届かなくなった。だがその気流のおかげで酷く崩れた寺だった壁が遂に倒れきった。その向こうに見えてきた人影が一つ。噴火の柱からいやに近く、短めの髪は乱れながら揺れて細い肩は一層縮こまっている。地面にベッタリと座り込み、首には力がこもっていないように見えた。
「ロッカアアアア!」
物凄い風圧に目元を庇いながらその背中に呼びかけても声は届いていないのかもしれないが、僅かにもこちらへ顔を向けない様子が気持ち悪い。近づけば近づいただけ熱気に炙られて、僕に顔の皮膚が焼けるあの感覚を思い出させる。
最悪だ。
「ロッカ!! こっちぐらい向け!?」
肩をつかむとロッカは体を大きく反り返らせて全身を跳ねさせた。細かく震えながらロッカの青白い顔がこちらを向く。熱気のせいで鼻先も頬も赤く焼けた顔は痛々しくて直視し難い。
だが、ロッカだ。やっと見つけた。しかも、まったく逃げていないなんて馬鹿じゃないのか!
熱気で意識が飛んだ様に目を泳がせるロッカに正気があるのか不安になって手を伸ばす。すると顔が豹変して僕の手は払いのけられた。ロッカは視線を噴火口に戻した。
「今度は、ユアンに化けたの?」
固く緊張した、ちょっと今まで聞いたことが無い敵意のある声音が発せられた。
「やるって言ってるじゃない。急かさないでよ。こっちはつい最近まで普通の人間のつもりしかなかったんだからそんな、そんな簡単に、身を投げる覚悟なんて出来ないに決まってるでしょ」
そう言うやいなや大きく肩で息をして震えながら突き出したロッカの手の指先が、いつか見た様に溶けて地面に落ちる。
焦りのままに腕をつかんで下ろさせる。よく見れば火傷以外に指がいくつか欠けていた。
「君は何をやってるんだ!?」
地面に落ちた泥にどうすべきか分からないまま鷲掴みにして元の指に押し付ける。泥は元の指になるより前に隙間から地面に零れ落ちていく。それにつられて視線を向けると、泥が蠢いて地面を這いだし噴火口に向かって吸い寄せられて飛び込んで消えた。
周りはこんなに熱いのに嫌な寒気が体の芯を通る。泥を押し付けていた手を離して、ロッカの顔を挟んでこちらを向かせる。顔は酷く熱が籠っていた。
「しっかりしろ! こんなとこで死ぬ気か!」
ロッカは鼻で笑って顔を伏せようとするが、させない。暗い目で何処を見るともなく投げやりにロッカが答える。
「この噴火口に、あのヘドロみたいに飛び込んで一気に治めろって? 冗談でしょ…………」
話が通じない。
こんなとこで四の五のやってる余裕は無い。立ち上がりそうにないロッカを無理やり抱き上げて柱から引き返す。そこで初めてロッカが戸惑いの目で僕を見上げた。この程度離れたぐらいじゃ熱線に変わりはないが、多少はマシだ。
「ロッカ!」
ジャックとアーサーが駆けよって来る。ロッカは瞬きをしてそちらにも目を向け、また僕を見上げて目を限界まで見開いた。
「まさか、本物なの? また、偽物の、嫌がらせじゃなくて?」
弱々しく質問する声にアーサーが顔を引きつらせる。
「こんな所にいるとか嘘だろ。こっちが本物かって言いたいぐらいだよ」
「逃げ遅れてないか探しながら迎えに来たよ」
ジャックがロッカの頭を撫でる。
「君も大概世話のかかる。解ったらこんな所さっさと」
正気になったと思って気がちょっと緩んだ瞬間、またロッカは顔を泥の手で覆って叫んだ。
「なんでそんな馬鹿なことを! これも土地神の導きってやつなの? 神様ってばやってくれるじゃない。私を急かすために人質まで連れてくるなんて。よくも、よくもっ!!」
「ロッカ?」
手を跳ね除けてロッカが僕から離れる。ふらついている体に手を伸ばすと、毛を逆立てて噴火口の方にジリジリと震えながら後退って威嚇してくる。
「こんなところまで来て助かるわけないじゃない! いつも逃げてばかりのくせに、どうして!? どうして私なんて探しに来たりするのよ。このままじゃ、あんた達だって死んじゃうかもしれないじゃない。噴火を止めるのだって、本当に私一人でどうにか出来るかも自信が無いのに。こんなの、酷い」
小さな石でロッカがよろめいて、膝を震わせて胸の前で服を握り締める。
僕が一歩前に出ると後ろに二歩も下がりやがった。
距離を詰めて走り出されたりしないようにそのままの位置で手を差し出す。
「まだ土地神だの噴火を治める役目を持った泥人形だの言う気か。あんなもん人間に止められるわけがないだろ。君は今とてもじゃないが正気じゃない。もう何も考えなくていいから、こっちに来い」
僕の表情なんてロッカが見えてるわけもないのに見透かしたみたいに自嘲を浮かべて反論してきた。
「私から溶けた泥が動いたの、さっき見たでしょ。あんなのを地底では人間がやれるっての?」
あの異常な光景を思い出して顔が強張る。確かに僕は、あれを見て異常だと名付けてる。
「やっぱり私は死体から出来た神様の泥人形だったんだよ。もし奇跡的に逃げられる可能性が残ってたとしても、私といればまた引き戻される。役目を果たすまで。私には監視がついてる。土地神からすれば多分こうなる前に穴を補強しろって言い分なんだよ。長年噴火もなく平和を保ってきたのに、私が失敗作だったばかりにこんな惨状になってさ、早く使命を果たせって。だから、もう、本当に良いの。あんた達が助かるなら無駄死にじゃない。私は大丈夫だから、出来るだけ遠くに逃げるか何処かの建物の中に避難しててよ」
ロッカの左手が地面に落ちた。
「…………こんな姿、見ないで」
手を見下ろす。
ロッカはいつも頑固で、自分の考えを滅多に譲りやしない。
最初からそうだ。
僕はこんな口の悪い性格の悪そうな奴を自分の行動範囲に受け入れたくはなかったのに、強引に入り込んで、いて当たり前みたいな顔をしてる。よく見てみれば子供なんてまるで嘘で、しかも女で、完全に詐欺師じゃないか。
人が嫌がってるっていうのに仮面は気軽に剥ぐわ、大男にも平気で喧嘩を売るわ、顔面を殴られてもまだ噛みつくわ。女として色々行動選択を間違え過ぎなんだよ。
だから、君が自己犠牲なんて進んでやるわけがないだろ。なのに、まだ強がりを言うか。
「正義の味方や神の御使いなんて性分か。生意気で、暴力的で、勝手なことばっかりだな、君は。そんなに震えてるくせに大丈夫なわけないだろうが」
ロッカは歯を食い縛りながら俯いて震えを止めようと無駄な足掻きをする。
「どうせ元から僕らは社会のはみ出し者なんだ。今更世界の危機だからって改心するものか。なんでもかんでも立ち向かえば良いと思うなよ。こんな時ぐらいしおらしく泣いて助けてくらい言ってろよ。僕らは困難から逃げることだけは大得意なんだ。逃げずに戦うなんて冗談じゃない。君はいつも口煩過ぎる。まだウダウダ言うなら付き合いきれないね」
下を向いている隙に距離を詰めてロッカの腕を捕まえ引き寄せる。見開いた大きな目に使命を遂げたいなんて光は無い。
「何がなんでも全員そろって神の手からだって僕は逃げ切るぞ。死ぬ覚悟なんかするな!! 四の五の言わずに、君もたまには黙って助けられていろ!」
間近で見たロッカの目から大粒の涙が零れた。小さな声だった。
「お願い、死にたくない。助けて」
やっと折れた心から本心を引きずり出した。僕は、震えるその体を今度は逃がさないようにしっかりと抱き上げた。
「で、奥の手とか言ってたけど、どうやって逃げるんだよ」
我慢強く待っていたアーサーがすぐに急かしてくる。念を押すようにアーサーが片手を振るうと煙の壁にリンゴ程度の穴が開く程度の威力しか残っていなかった。もうここに来るまでで限界だったしな。
疑いの視線が腕の中から突き刺さって来るのを感じる。
「僕はロッカと違って嘘つきじゃないからハッタリで言ったんじゃない」
「そういうの良いから早く」
アーサーが苛立ちながらロッカを抱き上げて奪い去った。そのまま猫みたいにぶら下がったロッカはジャックの方に移動させられた。途中で右足首が靴ごと地面に落ちて思わず全員が落下地点から後退る。靴が倒れて中身の泥が流れ出ると、またゆっくりと意思をもって噴火口に向かって移動していく。この光景は精神的にくるものがある。
「良いか、落ち、落ち着け」
僕が落ち着け。
「奥の手ってのはロッカの記憶が頼りだ。北門の方が比較的近いが、そこへの道は暗記してるか?」
「ユアンの家なら分かる。でもこの視界じゃ、曲がり角なんかの距離が分からないし案内なんて結局意味が」
アーサーが自信なさげなロッカの髪をグシャグシャとかき混ぜる。
「任せろ十分だ。方向感覚や距離感なら裏路地の常連だった俺達なら」
その言葉をジャックが引き継いだ。
「多分、得意」
そこまで行ければ後は真っ直ぐ突っ走れば門にぶつかる。僕は人目につかずに外と商店街に行ける場所を家に選んでいたんだからな。
ジャックに抱えられながらロッカは目を瞑って必死に道を思い出して指示を出す。それを基準に方向感覚を見失わないように「こっちだな!」と目隠し状態で走った。うっかり壁に激突もするが。
さっきから噴火の音がより一層危険な感じに悪化していってる。焦って迷ったらもう本当に一貫の終わりだな。
破裂音と共に何処かの家が破壊される音でロッカの声が途切れるとアーサーがロッカの背を叩く。
「大丈夫だ! 俺も怖いが落ち着いて思い出せ、ロッカ。こんなのな、こんなもん、絶望的な数のストーカーに囲まれるよりはマシなんだからな!」
空元気でロッカが短く笑って「二軒先を左」と案内を再開する。
走っている最中に少し距離が開けば見失い、そのたびに必死に声を上げてはぐれることだけはしないように進む。何処かで何かが壊れる音の間隔は次第に早くなっている。何も見えない、まるで世界が崩壊していくみたいに錯覚してくる。
「後はここを」
急にロッカの声が途切れた。
ジャックが先行していた後をアーサー、最後に僕が続いて、急に視界が少し回復した。噴火口付近までとはいかないまでも門から抜けたわけでもないのに不自然だ。
ジャックとアーサーが立ち止まった間に立って、道の真ん中に一人の老人が立っているのが見えた。
「賢明な判断をと言ったのに」
白衣を着た男には見覚えがあった。アーサーが刺された時に治療をしてくれた医者だ。薄っすら残る煙でそこまでよく見えるわけじゃないが、そもそも僕は白衣のままうろついている男を彼しか知らない。
何故こんな所で突っ立っているのかと問う前に、医者は僕らの道を塞いだまま言葉を垂れていた。
「余計な勇気を出してくれたものだね。星の内側は体と同じだ。人間の役割は術という便利な力を使って毒を中和して自然に還元する。上手く循環しなければ星も傷を孕む。そのいざという時に星を修復して癒すのが御使いだというのに、それがエラーを出してしまった。まあ稀にあることだがね」
僕は身構えてロッカを抱えるジャックの前に立つ。
「アーサーの時と同じ人間に化けてる悪霊か!」
ジャックが「ドッペル」と呟くと医者らしき者がそれを笑い飛ばした。
「神様の御使いに悪霊は酷いね。私はエラーを正すセーフティネットなんだよ。そして君らは私の仕事を見事無駄にしてくれた。この地球にとってはいわゆる癌だよ。体というのは緻密で無駄な細胞がなくよく出来ている。だが正常に働かない細胞に蝕まれるのもまた防ぎきれんのよね。それが繰り返されて病変が広がってしまえば、それはつまり星の病死だ。それでも君は人として生きたいのかな」
ロッカが身を起こす気配を背中越しに感じた。医者らしき者は歩いて向かってくる。
「地球が蝕まれれば誰かが死んで悲しいというものではないんだがね。土地神信仰が衰えつつあるのも嘆かわしいことだ。実に危険だよ」
得も言われぬ相手に警戒したアーサーが僕らごと壁に向かって押しやって庇いながら医者らしき者と一定の距離をとる。だけどあちらは特にこちらに寄って来るわけでもなく、たまたま会った通りすがりに挨拶でもする様に顔を向けるだけで、道の真ん中を歩いて行く。
「私じゃもうあまり容積が残っていないから少しの応急処置にしかならないんだがね」
煙がまた周りを埋めていく。
異様な男が煙の中に姿を消し、何処にいるのか見えなくなると余計に警戒心は高まった。そして煙の向こうから聞こえる声が急にアーサーの物に変化した。
「母なる大地に還りたくないのならね、ロッカ、噴火するところまで地球が傷つかないよう人間に努力してもらうがいいよ」
全員の目がアーサーに集まるが、至近距離にいるアーサーは口を閉じたまま首を大きく振る。煙の向こうから聞こえる声がまた医者のものに戻った。
「それでも傷付いた時には、次こそ君も使命を果たそうという気持ちを固めてくれていると良いんだがね。地底も結構愛すべき良い所だよ。結局は私達の故郷の裏側にある同じ星なのだからね」
ロッカが身を起こした。
「待っ」
何か言おうとした声をかき消して僕は言い放った。
「世界を救うとかそんな神の敷いた高尚なレールなんざ、知ったことか!」
「駄目人間だなあ」
勝手に断言した僕の言葉に楽しそうな笑い声が辺りに響いた。煙の中で笑い声は遠ざかっていき、やがて噴火の音に紛れて聞こえなくなる。
煙のせいでロッカの表情は分からない。
「余計なこと言うなよ、ロッカ」
アーサーが声を潜めて警告する。
「生贄の約束なんかマジで冗談じゃないぞ」
それに対してジャックが代わりに「うん」と返事をしてしまう。ロッカは言葉を封じられたまま、声も出さずに嗚咽を漏らした。いつもと違う、弱々しさで。
煙に閉ざされた中で好きなだけ泣いて良いとも言えなくて「ロッカ、まだ気を抜くな。まだ先は」と声をかけた時、また大きな爆発音がした。不吉な予感が急速に膨らむ。空気の動きで人間だって危険を察知する勘は働く。特に町の外で怪物を相手にする僕らにとって、それは、生き残るために蔑ろに出来ないものだ。
煙の中で巨大な家程もある黒い影が飛んでいた。その軌跡は煙を切り裂いて真っ直ぐこちらを目指していた。手前に落ちる、直撃する確率なんて願いが潰れるくらいここにいる全員の運は最低だ。
「は」
アーサーから引き攣れた息が漏れ、すぐさま叫びに変わった。
「走れえええええええええ!?」
鞭を打たれたように慌てて走り出したが飛んでくる噴石の速度に人間の足が勝てるわけもない。せめて家の中に飛び込んだ方がまだ。
潰れる、と思った時にジャックが急に立ち止まって背中に体当たりをしてしまった。ジャックの腕からロッカの体がぶら下がっているのが薄っすら見えた。その小柄な体から片足が大きく空中に振り上げられ足が異様に伸びたように感じた。だけどそれは伸びたんじゃない。その足は千切れ飛び、噴石に向かって矢の様に真っ直ぐと。
「あ」
煙で目視出来ない状態で噴石はこちらに届く前に粉砕した。唖然として棒立ちになる僕らの手前で屋根に石の雨が降る音が展開される。
目を横にやると、同じく茫然と空を見上げて固まっているジャックからぶら下がってるただでさえ小柄な人影から、足が一本消えていた。
「おい、ロッカ…………」
僕の声にジャックがハッと気づいて抱え直した。その体は人形みたいに力を失っていて残った四肢と首は重力で揺れている。恐る恐るロッカの顔に手を伸ばすと、気怠そうに右手だけが持ち上がり泥のついた歪な手が重なって触れてきた。
「助けに、来てくれるなんて、思ってなかったの。私」
涙が僕の手を濡らす。
「…………あ、りが」
手から力が抜けてロッカの腹の上に落ちる。
アーサーが焦る。
「おい、おい! ロッカ? 嘘だろ、ロッカ!!」
歯を強く噛みしめて、僕は首を振る。
「気絶しただけだ! 何がありがとうだよ。まだ何も終わってないし、足一本犠牲にするとか女のやることじゃないぞっ。逃げきって目が覚めたら、絶対、もう一回言わせるからな」
前を向くとどちらが道かすら分からなくて、もう逆に笑いたくなってきた。
「中断されたせいで方向が分からないぞ。誰か分かるか?」
アーサーが壁に額を当てて嘆く。
「もー終わりだ! あんだけ啖呵切ったくせにここで終わりなんて、大体道順だって日頃は景色を見て判断してるんだから分かんねえよ! ロッカの案内無しでこっからどうすんだよおおおお。どうして神様って奴はとことん俺達を追い詰めたがるの? 前世でここまでの仕打ちを受けるレベルの何かをやらかしてたとしても現世の俺にこんな罪科を押し付けるなんて陰湿過ぎるだろうがよ! うおおおおおお」
表通りなんて歩いたことがないから道順は限りなく曖昧だが、もうほとんど家の近くまでは来てるはずなんだ。壁に手をついて考える。ここが職人通りなら掲げてる工房の看板でどうにか位置を把握出来るかもしれない。
看板の名前を見るがまったく記憶にない。
「畜生! こんなことなら、せめて付き合いはしないまでも周辺の工房名くらい把握しておけば!!」
もう誰もいないだろう扉を力任せに殴りつける。
「ユアン」
僕のそばに寄ってきたジャックがロッカの体を僕に受け渡してくる。
「エベリンが練習してたやつの見様見真似だから、成功するか分からないけど」
慌ててロッカの手足がもげない様に怖々と受け取ると、ジャックは身をかがめて術具を取り出して地面に置くと両手をその上からかぶせた。
「諦めたくないから」
術なんて何も使えなかったジャックが、唸りながら地面に向けて術具を通じて光に干渉した。
「大地に光を!」
指の間から閃光が漏れた。それがすぐに掻き消えて収束した後、爆発的に目に突き刺さる光が地面に広がる。
「うわあ、目がああああああ!?」
僕はロッカで手が塞がっている。目を瞑っても眩しい光に上を向きはしたが、仮面がほとんど視界を遮ってもなお閉じた瞼の外から目を潰す明るさが襲いかかってくる。
「もうちょっと、抑える」
ジャックの声と共に、光量がやや収まって目を開けていられる位になっていく。周りを見ると煙すら突き通す光が地面から洪水の様に広がっていく。建物は壁で遮られているが家の床にも効果は広がっているらしく、中からの光で窓の形が煙の中にポツポツと浮かび上がった。建物も道も光で縁取られ、普段通っている路地に至るまで詳細に書き出されていく光景に、先に警告しろという文句も忘れて僕もアーサーも唖然とする。
しゃがんだまま肩で息をするジャックが「やった。成功?」と僕を見上げる。長い付き合いで少し読み取れるその誇らしげな顔は褒めて欲しいと言わんばかりだ。だがこの男の無駄な多才っぷりに恐れ慄いて僕は声も出ない。
「あ、うん。す、凄いな。良くやったぞ」
代わりに唖然とした棒読みのままアーサーがなんとかそう褒めていた。
「よ、よし。これなら効力が消えるまでは遭難の憂いは無くなった。とにかく不確定要素が出る前に今度こそ全力で逃げるぞ!」
その言葉に希望が湧いてロッカを見下ろす。呼吸で上下する胸と熱を持った体からもう何も落とさない様に慎重に抱え直した。
なのに言ってるそばからまた進行方向に人影が現れた。
「うおおおおおおおおおお!!」
一気に緊張が走る。その正体は噴火の音すらかき消すような叫びを上げて地面の光を浴びながら噴石の如く飛び込んできた。
「この光の道で人が見つけやすくなった! 我が正義を愛する心に神が応えたもうたか!? 我がモーラル・プレンデック、警察生命に懸けて逃げ遅れは一人も逃さん!! 誰かいたら声を出すのだああああ!!」
あまりにも見覚えのあり過ぎる警察官は、すぐさま僕達の姿に目を止めた。この煙の中なのに目から光術でも放っている様な眼光で思わず全員が横に手を振ると物凄い勢いで僕らの後方に走り抜けて行く。しかも、よく声が途切れないなと思う程に大声を張り上げ続けながらだ。
状況を一時忘れて僕らは声の方を眺めてしまった。
「…………マジかよ、あのお巡りさん死ぬ気か」
「この状況でもブレないんだな、あの警察官」
「凄い」
殺しても死にそうにはないとはいえ、あれは人として最低限引き留めるべき、だった、のか?
また噴石で屋根を突き抜く音が耳に入る。
「とにかく運にとことん呪われてる僕らがもたついてると次がきそうで怖い。今度こそ脱出するぞ」
「俺達ってちょっと不公平過ぎるくらい不運に纏わりつかれてるよな。ロッカも気絶してるし、そろそろ俺も泣いていいか?」
「ん、控えめなら」
光る道を踏みしめて僕らはやっと光る北門を走り抜けた。
そして喜びも束の間、森には既に煙が充満する絶望的な光景が広がっており、命懸けの逃走も延長が決定。結局全員泣きながら、呼吸が止まりそうになるまで相当な距離を走ることになった。




