頭痛が痛くて危険が危ない
エベリンが昨日の残り物を詰めてあるという有り難い深皿をテーブルに置きながら「昨日近道しようと思って路地通ってたら仮面に会ってさー、心臓止まりそうになった」と言って椅子に座った。
「あー、分かるー」
普通の人が暗がりから現れてもギクリとするのに、油断してる時に振り返って仮面がいたりすると完全にホラーなのよね。
もう水分が抜けきったパッサパサのパンに噛み付く。そして噛み千切るのに首を反り返らせてパンをつかむ手は下に引く。人生の中でここまで硬いパンに出会ったことがあっただろうか。ふやかすためのスープが今日は無い。釜戸で燃やす燃料を切らしたせいだ。エネルギーを摂取しながら体力を消耗するこの不毛さときたら。
「仮面の奴にはさ、ほら、例のアレのせいで家壊したから一応謝ろうと思って声掛けたんだけどな、これがまた凄い勢いで遠ざかられてさあ」
困惑してるエベリンには悪いけど軽く想像ついたわ。何やってんだか、あの変質者は。
「今度注意しとくよ。声掛けられたら挨拶くらい人として返せって」
「そもそもあのイカれた格好を注意しろよ。よく捕まんねえな」
ジャックがパンを頬張りながら「ローブは格好悪いから止めるべき」と意見を挟んできた。
「いや、ローブよりもっと駄目な部分があんだろが」
「そうそう。ジャック、口に物が入ってる時に喋るなんてマナー違反だね」
「ロッカは分かってて言ってるだろ」
私が注意するとジャックはジェスチャーでOKを出した。
アーサーがエベリンの分のお茶を出して遅れて席についた。
「それもこれもさておいて、どうして俺が結界を解除してないのにロッカの友達はここで寛いでるんだよ」
悪びれずにエベリンが肩をすくめる。
「警官になる時、解錠術使えると有利だって親父が言うから覚えた」
「術を使えても勝手に入っちゃ駄目だろうが」
「差し入れ持ってきてやってるのに玄関前でしばらく待たされんのダルいんだよ。お前ら何かっちゃ居留守使うし」
確かに。家に帰ってきてもなかなか扉開けてくんないから最初の頃は家間違ったのかと思って不安になったりしたもんね。結界の通行拒否を除外する合鍵みたいなのを貰うまでは私も相当面倒くさかった覚えがある。
「お前らってまとめないでよね。私は居候だから勝手に人を招き入れられなくて家主に任せてるだけなんだから」
ジャックが私に同意して頷く。アーサーは視線を床に投げて「結界まで張って人払いしてる意味を考えてくれよ」とかなんとか言ってたけど放置した。
「それにしてもあんた警官志望なの?」
エベリンが出されたお茶に手を伸ばす。私は自分の陣地からメリーのクッキー袋をお茶請けに出す。
「親父も警官だしなんとなくな」
「……へー」
少し間をおいてエベリンがジャックを見る。
「多分会ったことあると思うけど」
嫌な予感しかしない。話題を変えよう。
「おおっとアーサー、そういえばベッドから離れる時間が最近長くなったんじゃない? 歩く時も痛いって言葉聞かなくなったし」
「あー、まー、お陰様で」
アーサーは手に持っていたパンを呑み下して立ち上がり寝床に戻って布団を被る。
「うっ、刺された腹が」
「そろそろ仕事してもいいか医者に聞きに行こうか」
黙ってたら可能な限り引き篭ろうとする駄目な大人を連行するためジャックを顎で促す。
「はい、ジャック外出の準備ね。買い出しも行くよ」
帽子とサングラスを装着してジャックがお金の入った袋をつかむ。エベリンに目をやる。
「ついでにユアンにカビが生えてないか確認でもしに行くか。エベリンも来る?」
今日は良い天気だし出来ればユアンを日干しにして、あの閉め切って淀んだ家中の換気をしてやろう。
「謝るんでしょ?」
壊れたとこの修理は出来ないけど手伝いや掃除ならやれるし――――。
家に入れない。
ユアンの野郎、扉を開けたと思ったらエベリン見た途端に速攻で閉めやがった。扉を連続で強くノックしまくる。
「ちょっとぉ! 人が訪ねてきてんのに何なわけ、その態度!!」
あ! 内鍵掛けやがった!?
アーサーが肩をすくめ「やると思った」と頭を掻く。
「別に謝るのが目的ならほっといた方が良いと思うぜ。別にそこまで怒ってる風でもなかったんだし」
「あれは、怒ってなかった、のか?」
エベリンが戸惑うのに対してジャックが頭を撫でて「よしよし」と慰める。さすがにお年頃の少年なので「ヤメロ」と手を叩き落とされてるが。
私は笑顔で男共を振り返った。
「内側から開けてくるわ」
アーサーが頭を垂れて手を振る。
「あー、好きにしろ。何やるのか知らんが俺は診療所で用事すませてくる。あんまりユアン虐めんなよ。行くぞ、ジャック」
呼ばれたジャックは歩き出したアーサーと私を見比べて、手を振りながらアーサーの後を追う。残ってるエベリンは「別に顔も見たくねえくらい嫌われてんなら無理に引きずり出さなくても」と言いだす。
「いいや、話も聞かずに鼻先で扉閉めるとか許さない。絶対にこじ開けてやる」
「おい、目的見失ってんぞ」
「ちょっと待ってなよ」
正面玄関から右に曲がった家の隙間に入ると、なんとあそこに良い感じのダクトがあったりするんだよねー。壁と壁に手足を突っ張って上によじ登り、格子扉を開ける。
「よっこら」
ズリズリと体を突っ込むとギリギリで腰が抜けて、棚にしがみつきながら床に降り立った。
部屋に入るといつも通り薄暗いし相変わらず奇抜な臭いがする。解体やなんやで出るものらしいけど、窓も開けずにこんなダクト程度で用を成そうとするから空気も性格も淀むのよ。
作業中の物体がテーブルに置かれてるけどユアンが見当たらない。見られていなかった、ということは……次もこの手は使える!
扉に向かって歩き出したら後ろからずっこける音がした。振り返ると薄暗がりの奥から仮面が駆け寄ってきて私の腕をつかんだ。
「なんで家の中にいるんだよ! どうやって入ったわけ!?」
「ひ・み・つ!」
ちょっと可愛く指を振ってウインクするとユアンが身を引いた。
「よせよ、気持ち悪いな」
言った直後にユアンが防御の体勢をとる。やられると思っても止まらないのかその口は。その隙で足早に玄関に向かう。
「外にエベリンを待たせてるから開けるわよ」
仮面が回り込んで両腕を広げる。
「待て待て待て、それこの前の子供だろ! 昨日は案の定追いかけられたんだぞ! 引き合わせた君のせいだからな!」
「幽霊襲撃事件の現場にしちゃったから謝ろうと思ったんでしょ。あの時は混乱したまま解散だったし? 実際、人が吹き飛ぶような勢いで飛んできた物から身を挺して助けたんだからお礼も言いたいんだと思うわよ」
「ここを現場にしたのは疑いようもなくロッカのせいだったろ」
「私は当日謝りましたー」
「はあ? 謝られても家は元に戻らないわけだがあ?」
だから今日は片付けも手伝おうと思って来たんじゃないのよ。こいつ、本当ムカつくわー。
「そんなことより、あのガキ共が僕の仮面をドサクサに紛れて持って帰ってるんだけど! あいつらわざわざちょっと手間かけて彫り込んである良いやつばっかり選びやがって」
「らしいわね。今日聞いた。仮面をベッドの頭元に魔除けとして後生大事に置いてるんだってさ。あれから幽霊は出てないとか報告してきてたし、お子様達魔除け云々信じちゃったのかしら。でもまあエベリンに言えば回収してきてくれるわよ」
ユアンが口の中でモゴモゴと「効果は無いと思うけど」なんて指を落ち着きなく擦り合わせながら挙動不審になる。それを眺めてる私に気付くと肩を飛び上がらせ下手な咳払いをして腕を組む。
「……ふ、ふん。押し寄せられても困るし仮面は返さなくていいよ。僕の腕なら簡単に複製出来るんだからな」
まだ仮面を彫り続ける気か。
「そう言わずに仲良くしてみたら?」
そんな提案をした途端にユアンが頑なで冷たい口調に転じた。
「嫌に決まってるだろ」
「いきなり大勢だと緊張するっていうならビギナーコースでエベリンからいってみなって。ジャックにもすぐ慣れたし、あんたみたいな色物でも仲良くしてくれると思うわよー」
「僕は現状で満足している」
「ボッチ拗らせ過ぎでしょっ。子供くらい平気になりなさいよ!?」
こいつ私の時も結局強引に顔合わせしてたんだった。玄関に向かう。こうなったら強行突破してやる。
「人として最低限の関わりくらいもてるようになってもらわないと私が苦労するの! 子供くらいいけるでしょう!?」
腕をがっちり捕まえられる。
「子供とか世界一恐ろしいわ! 躊躇いなく残酷なこと仕掛けてくるし予測不能だし単刀直入に切り込んで……ってこれロッカに一番当てはまってるじゃないか!? 君最悪だな!」
玄関までの短距離で綱引き状態になる。引っ張っていこうとするがまったく動かない! 引っ張ろうと体重をかけ過ぎて足が滑ったら床に膝をついてしまった。力勝負で完全に分があると踏んだユアンが憎たらしくも勝ち誇り出した。
「ふふん、女のくせに力勝負で勝とうなんて考えがおかしいんだよ。解体屋がいかに力を要すかぐらい想像つかないかねえっ」
ムッとする。
仮面を叩き落としてやろうと自由な手を下から振り上げた。その手がユアンの反対の手に捕まえられる。両手を封じられた私は逆に不意を突かれて固まった。目の前の仮面が笑いを漏らした。
「ふ、ふふ、ふわあーはっはっはっは!! 君のおかげで僕も反射神経が鍛えられたもんでね、そう毎度同じ手でやられてやらないんだよ! 今日の僕は完全勝利してしまったようだなあ!」
勝ち誇った声音で高笑いを繰り出すユアンを真顔で見返す。
「悔しいだろう? 君は負けず嫌いだものなあ。しかーし僕が両手を解放しない限り君に反撃の手段は無いわけだ。その体勢からなら行儀の悪い足だって使えないだろうし、さあさあさあ、どうするんだい? どうしようもないだろ? 降参だよな!?」
私は抵抗を止めて腕の力を抜いた。それから膝立ちのまま伸び上がって仮面に向かって顔を突き出す。大口を開けているであろう口元の辺りを狙って。
ちゅっとリップ音を立てて唇を押し当ててやればユアンは馬鹿笑いを引きつらせて全身を凍りつかせた。
至近距離で囁く。
「次は、頭突き対策もしておくことね。私の、勝ちだから」
力の抜けきったユアンの手から自分の手を引き抜いて立ち上がり、玄関の扉を開け放って出ていく。歩き出しても背後は物音一つ聞こえない。
明るい表に出るとエベリンが苦笑いで体を傾ける。
「えらい大騒ぎだな。仮面の奴は? 急に静かになったけど」
「中にいるから、どーぞ。私はアーサーとジャックの様子でも見てくるわ。さっさと完治宣言貰わないことには日用品も満足に買えやしない」
診療所までの道を思い出すためにこめかみを指でコンコンと叩く。
診療所に着くと看護師に「今、診察中よ」と告げられる。中に入っていくと会話が耳に入ってきた。
「傷も綺麗だし、これで糸も抜けたから風呂に入ってもいいよ」
「この痛みはいつとれます?」
「個人差あるし、違和感程度なら一年経っても言う人は言うねえ」
「マジっすか」
「しつこい人だと死ぬまで言うねえ。逆に一週間で痛みを訴えない人もいるけど、カーペンター君、結構痛がりだし目安つけにくいよ」
「アーサー、仕事のこと」
ジャックがちゃんと付き添いの仕事しとる。お母さん嬉しいわー、と思いながら診察室の中に入ってく途中で医者が信じられないことを言い出した。
「仕事? 駄目に決まってるよ。止めてね」
私は「は!? なんでさ!」と医者のところまで一気に駆け寄った。医者は顎を撫でさすりながら「いやいや、刺されたんだよ。出歩いたりは構わないけど町の外で怪物相手に素材集めなんてガテン系の許可出るわけないでしょ。常識考えなさい」と駄目押ししてきた。
「じゃあ完治いつなの? 明後日?」
「君ね、いつも無理なこと言ってくるけど名医でも無理なもんは無理だから。短くても二週間は療養ね」
「に、二週間!? 生活どうしろってのさ! 重い物持たずに魔法撃つだけならやれるでしょう!?」
「アホかいな。軽ーい仕事でもしなさいよ。はい治療費二千円ね。次回診察は五日後くらいで来てね」
ジャックがゴソゴソとお金を探る。
「だったら内職でも紹介してくんない!? こっちは一日三千二百円で四人分の生活を賄って、いや、こうして治療費が出ていく分を差し引きすると更に少額で生活してるんだけどおお」
「そんだけ人数いたらもうちょい稼げるでしょ」
「まともな仕事が出来たらそもそも素材屋なんてアウトローなことやってないんだよね!」
医者と不毛な言い争いをし出した私の肩が叩かれて、振り返るとジャックが袋を見せてくる。
「何、お金の計算くらい出来るでしょ。自分で支払いな」
突き放したものをジャックは顔を横に振って袋を逆さまにして見せてくる。まさか中身を忘れてきたのか、と思ったがジャックは袋に手を入れて底から指を出して手を振ってきた。
アーサーが声を引きつらせる。
「おい、まさか」
涙声でジャックが言った。
「お金、落とした」
私とアーサーが無言で立ち、猛ダッシュで診療所を出る。
「こら! 待て、無払……いや、怪我人が走るなんてとんでもない! これは医者として追ってでも止めなければ! ということで待ちたまえカーペンター君!」
なんと後ろから医者が追ってきた。更にその後ろから看護師が「先生この野郎! お前ドサクサに紛れてまた仕事サボ」まで叫ぶのが聞こえた。
しかし背後のことはどうでもいい。
「何処辺りで落としたのさ!?」
医者を追い抜かして追いついたジャックが考える素振りをしたが、やっぱり首を振る。だが問い詰める間もなく来た道を戻ってる最中にジャックが「あれ!」と指した先でチビッコが地面から何か拾っていた。砂を巻き上げて急停止してチビッコに駆け寄るとビクリと震えて手元を隠される。
「それ落ちてたお金!?」
勢い込んで聞くとチビッコは強く警戒して立ち上がり後退した。
「僕が見つけたから僕のだよ」
「悪いけどそれ私達が落としたんだよ。貴重な食事代だから返してくんないかな」
下手に出てるけど焦りでいっぱいになる。こっちの気も知らずにチビッコは不遜に反抗してきた。
「証拠が無いもんね! これは僕の貴重な駄菓子代になるから駄目!」
アーサーは猫撫で声でチビッコににじり寄る。
「落ちてたお金はお巡りさんに届けようって習ってるだろ? そんな小さい内からネコババしてたら、ろくな大人になれないぞ!」
チビッコから小銭を奪いかえそうとしてる姿はどう見てもろくな大人に見えないけど、そんなこと客観視したくないからツッコまない。
「ひ、ち、近寄るなあ! これがどうなってもいいのかー!」
「わああああ!?」
大人に間合いを詰められて危機感を募らせたチビッコが手の中いっぱいに持っている硬貨をドブの上に晒した。
「止めて! すでに勢いでボロボロ落ちてるからああ!」
「早まるな! それを失ったら今日の飯どころか俺の治療費の借金が!?」
「明日の、ご飯も、無いっ!」
周りが何事かとざわめき出した。チビッコはプルプル震え、その振動でキラキラと光を反射した粒がどんどん落ちていく。
私は要求通りに近づかず、しゃがんで猫撫で声で片手を伸ばす。
「あ、あのさ、脅かしてごめんね? で、でもそれ大事な私達の全財産で」
「ふう」
チビッコがうつむいてから、大きなモーションで両腕を空に解放した。
「うわあああああああああん!」
小粒みたいな硬貨、私の視力じゃ捉えられない。でも空に広がる硬貨が回転して昼の光を跳ね返すたびに鈍く輝いてる。それがドブの方に向かって落下していこうとしている。光を求めて光だけを見て走って手を伸ばす。その横を駆け抜けて逃げていくチビッコ。後ちょっと、一粒の光でもいい!
指先に硬い感触がかする。
「よし!! 届……」
ガツ、という鈍い音と衝撃で目の前が真っ白に塗り潰される。浮遊感と一瞬途切れる生活音。なんだかスローモーションで見える景色に、ジャックとアーサーが後ろに向かって倒れていく姿が見えて…………遠くでポチャポチャポチャと連続でお金がドブに落ちる音だけいやにはっきり聞こえた。
「おーい、生きとるかー」
反響するように聞こえる呼び声がする。近いんだか遠いんだか分からない。後、頭が超痛い。
「おーい、って駄目だこりゃ。三人共見事に金を追って頭から凄い音出しとったからなあ。ナイスシンクロっちゅおうか、んー、脳震盪起こしちょるねえ」
扇型に倒れた大人三体に人生の悲哀を見た。後にとある医者がそんなことをシミジミと語ったので、ムカつくから私は診療所のトイレにソッと仮面を飾っておきました、まる。
もう夕方だ。本当に毎日が無駄に過ぎていく。泣いて良いだろうか。
ドブさらいの後に残った全財産を込めた袋の中身を哀しく見下ろす。一週間前の私はどうしてトイレの紙とか調味料を買い足してしまったんだろう。後、あんなに洗ったのにまだ自分が臭い。
夕飯の材料を持ったアーサーが荷物をかき回して、重い溜め息をついた。
「あー、そうだ。釜戸の燃料も切れてるんだった。店に買いに戻らないと」
「もう今日はユアンとこの台所強襲して使っとけばいいじゃん。どうせ最近食べに来るんだから」
「そういえば、よく差し入れくれるロッカの友達は結局ユアンと会わせたのか?」
「扉は開放しといた」
「けしかけといて見届けてこなかったのかよ」
本日二度目になるユアンの家の前で、アーサーが「ん、あれ? 開いてる」とノック無しで扉を開く。
「おーいユアーン、飯作るから台所貸してくれぇ」
アーサーに続こうとした私を抜かしてジャックが奥に突き進む。
「ユアン、サングラス壊れた。直して」
窓から差し込むオレンジの光に照らされた部屋。その真ん中で膝立ちの奇妙な格好のまま微動だにせずユアンはいた。全員の視線が集まる。アーサーが周りを見回し、誰もつっこまないので仕方なく自分で問いかけた。
「あー、なんだ、その、何してるんだ? ユアン」
ジャックが近づいて隣にしゃがみユアンを眺める。そして仮面の顎の部分を持つとおもむろにめくり上げ……元に戻した。ジャックはこちらを見た。
「心、ここに、非らず」
「止めて差し上げろ」
そんなやりとりをしている横を無視して私は痛む頭を撫でながら奥の台所を目指す。あー、どっかに気前の良い金持ち落ちてないかなあ。




