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どいつもこいつも

 今日も朝からアーサー宅のテーブルを囲んで、これからどうするかの話し合いをするんだけど以下略。

 もうね、こいつら「もし森の中で暮らすとしたら」とか「上手く生きていけそうな国」についてきゃっきゃうふふしてやがるし、もう一回キレたろかと思うリアルタイム。

 いやいや駄目ね、思い出して私は子供設定の大人なのよ。淑女は昨日のことを学習して馬鹿野郎共にいちいち心乱されずスルーしなきゃね。男は度胸、女は愛嬌、坊主はお経って昔から言うじゃない。

「うふふふふふ」

「お、ロッカ思い出し笑いか? いやーらしいなあ!」

 全力でハリセンを振りぬいた。

「ぶはっ!?」

 記憶にインプットしている限りでは小奇麗であるアーサーの横っ面に一閃が綺麗に決まって椅子の下にくずおれた。ハリセンを左手に叩き付けながら脳みそお花畑を見下ろす。そもそもこいつらに度胸が無いのになんで私が愛嬌を持たなきゃいけないのか。

「ちっ、人の気も知らないで」

「遂に武器実装したな凶悪ロッカめ! なんなんだい、その紙製扇は」

 椅子から立って腕でユアンが自分を全力で庇い警戒する。

「お手製の馬鹿叩きさ」

「そんな蝿叩きみたいに……」

 プルプルと床にくずおれたままアーサーが嘆いた。


「まったく社会不適合者のくせに脳みそお花畑なんだから。いつまで成り行きに任せてるわけ? 今こうしている間にも物事は悪い方に発展していくんだよ。グズグズ余計なお喋りはいいから真面目に未来を考える気ないわけ?」

 ユアンが早押しクイズの如くテーブルを叩く。

「早く森への移住を決行すべきってことか!」

「違うわ!!」

「ぶふっ」

 ああ、早くもハリセンが駄目に。進まん、絶対こいつらに考えさせると何も進まん。

「分かった、もーいい。ちょっと私だけで真面目に打開策を練るから全員黙ってなよ! 一言でも馬鹿言ったら腹に頭突きかますから」

 ああ、私は頭脳労働派じゃないってのに。




「で、何故私を誘拐監禁する話になったのだね」

 ジャックを釣り餌に追いかけてきたところを捕縛された間抜けなマザコンお巡りはいつかの私達のように縄で縛られ床に座らせられている。一人なので後手に腕を縛ったところで走って逃げられるので両足も縛ってあり横座りだ。

「公務執行妨害及び監禁の罪で全員現行犯逮捕だぞ」

「無実の私を縄で縛り付けたんだから因果応報だね。あの時マザコンお巡りは現行犯で捕まったわけ? 罰受けたわけ? 不公平で都合の良い法律だよね。恐怖政治で嫌われ者か。影で唾吐かれる爪弾きもの、胸を張れないヤクザ稼業、汚物を見る民衆の視線。やだねー、自分がされて嫌なことを権力で遂行するなんて。世の中それでいいの?」

「相変わらず口の回る少年らしい。だーが現行犯は覆らんぞ。そもそも無実などと私は認めたわけではないのだからな!」

「そういう態度だから無実の証明にこんなことまで市民がしなきゃならなくなったんじゃないさ。反省してくんないかな」

「無実の証明、だと?」

 うん。


 この町の連中はとにかく忍耐力ってものが無い。証拠の無い容疑者に襲いかかる町の人間、顔を見た私を消そうとした多分真犯人、人目があるのに愛する生きた芸術品の損傷で怒り狂う変態…………真犯人の野郎、絶対また我慢出来ずに近づいてくると思うんだよね。逃亡するなら十分時間はあったはずなのに襲ってきてるんだから、罪が発覚さえしなければ図々しくも町から出ずに何食わぬ顔で前と同じ生活を続けたいと思ってやがるのさ。

 そのためには顔を見られた私は絶対に邪魔。でもあんまり一人で行動しないから狙いにくい。一度衝動的に襲って失敗してるし、目撃者を増やしたくないから追いかけてくる男共は出来れば避けたい。そんな中で森の中一人になる私。次のチャンスがあるか分からないと考え焦って襲い掛かる馬鹿な真犯人。

「明確な殺意を持って襲ってくる現行犯をすかさず捕縛。後は私が顔を見れば現場から逃げた男か確認もとれてばっち解決というわけ。そこで難点なのが公僕に信用されていない容疑者扱いのメンバーだけで作戦実行しても信じないでしょう。だから一連の囮作戦をマザコンお巡りその他に自分で確かめさせるっていうのかキーポイントになってんのさ」

 お巡りは私の話をしばし思案していたかと思うと、なんと攻撃してきた。

「ならば真犯人とやらが出てこなければどうする。そもそも現れた第三者が証拠的悪行を働かねば単なる通りすがりの可能性もあるではないか。他人に罪を擦り付けようとする作戦、実にあくどし!」

「だから特別な用事でもなかったら普通人が通りかからないような森で実行するんだよ! もはや現れただけで何のために足を運んだのか職質するようなとこで!」

 手足を縛られたままのお巡りが気持ち悪い怪しげな動きで立ち上がった。

「よし良いだろう。ならばこのプレンデックその茶番に一度だけ付き合ってやろうではないか! しかーし、その際に真犯人の存在を証明できなければ無為に警察の捜査を撹乱したということで今度こそジャック・プイを裁かせてもらおうか」

 目が、点になった。

「はあ!? なんでそうなるのさ!」

 ユアンも思わず指をさして動揺に震える。

「そ、そ、そうだぞ! 今のどう考えても運任せの釣り作戦じゃないか! 今日は来なかったから明日も同じことして餌にかかるまで粘ろうみたいな!」

 ミノムシが体を捻りながら勢いよく顔をあげて髪の毛をパサーと後ろに流す。うざ! 超うざい!

「聞けば思いつきの軽い気分で警察を動かそうという内容ではないかね。もしくは正義を罠に嵌めんとする策謀の匂いがぷんぷんするわ。それぐらいの保証も無しに労力は割かん! さあ、どうするんだね、悪の組織め!」

「ちょっとお巡り、誘き出すって意味分かってんの? 運試しやるってんじゃないんだけど! 真犯人は仕込みじゃないんだから一回で出るわけないっちゅうの!」

 かっああああ、この世界のお巡りはあ! どこの組織のせいで面倒くせぇ事態になってると。


 どたまにきて両手で髪を掻き回し、もう頭突きでもかましたろかと前に出かけた時、ジャックが立ち上がって私の肩をつかんだ。

「分かった、それでいい」

「ジャック!?」

 アーサーとユアンが声を裏返す。しかしジャックは二人を振り返り言葉を重ねる。

「ロッカが言うなら出てくる。大丈夫」

「いやいや、大丈夫じゃないだろう!」

「そうだぞジャック、君いくらアホの子でもそこまでアホな提案に乗っちゃ駄目だろうが。最初に馬鹿ロッカが何度も釣り針にかかるまで根気良く繰り返すのが囮捜査とかいうやつだって言ってたじゃないか」

 お巡りはあくまで強気で鼻を鳴らし顎を突き出す。

「それではっ、この話は無しだ。我らはこのままジャック・プイを捕まえるため捜査を続けていくだけだ」

 顎折ったろか、こんの胸糞マザコンお巡りめ。

 ジャックは拳を構える私の前に出てお巡りの前に立つと直立したまま見下ろした。

「分かった、その条件で良い」




「何が分かったかー!!」

 もう都合の良い確約を手に入れた胸糞マザコンお巡りは、私の言葉をまる無視決め込んでスキップで離脱していきやがった。

「こういう囮捜査ってのは相手の都合がわからない状態でやるから、どのタイミングで引っ掛けられるかは未知なんだよ? 回数制限なんて馬鹿げた条件で都合良く釣れるかってんだー! ジャック、あんた失敗だった時のこと考えた? 他人の提案に安易に乗っちゃってさ、不成功のリスクを全部自分がかぶれって言われたんだよ。私の発案だからとか後で言っても責任なんかとらないからね!」

 早急にハリセンが必要だわ! 量産しとくべきだったんだわ! 床でせっせと手と口を動かしながら叱り飛ばす私に、どの面下げてるのか見えないけどジャックはテーブルで煎餅を齧りながら頷く。

「ロッカは考えた。俺も考えた」

「何を!? ねえ、何を考えるの? このあんぽんたん脳で!!」

 作りかけのハリセンを放り出して椅子に乗って軽い頭を激しく揺すり倒す。きっと軽やかな鈴の音がするはずだね! 中の脳玉が小さ過ぎて耳から転がり出てくるから気をつけなくちゃ!

 アーサーが窓辺に座って外を眺める。

「あの拗ねてだんまり決め込んじゃう子がお巡りさんの目を見て啖呵を切るなんて。お兄さん弟の成長を目撃した気分になったね」

「最近ロッカとかいう口から先に生まれたようなのに懐いてるから影響されたんだよ。やーだなあ」

「ええい、ここにはボケしかいないのかあ! お客様の中に、お客様の中にツッコミはいらっしゃいませんかあああ!!」

 解決への布石の一つにでもなればというチャレンジ策は、もう一発逆転ギャンブル策に化学変化してしまった。もっと粘って私があんなおっさん言い負かしてくれたものを。

「ロッカ、大丈夫」

 ジャックは力強く言って立ち上がった。

「出かけてくる」

「ちょ、ジャック!?」

 あ、くそ、捕まえそこねた。ちょっと空ぶってる間にとっとこジャックがアーサー宅を出て行く。しかし一拍もおかずに追いかけて扉を開けたのに人目を忍ぶのに慣れたジャックは速攻でどこかの路地に姿を消して見失ってしまった。

 くっそー、忍者にでも転職してしまえ!


 アーサーは溜息をつく。

「はあ、年少二人に任せっぱなしってのもカッコつかねえな。よし俺もやれるだけ手回ししてみるよ。ちょっと出かけてくる」

「ちょっとちょっとアーサーまで何言ってんの。あんたら出掛けただけで目立つんだから、標的を警戒させるようなアクションしないでよ」

 扉をコンコンと叩いてアーサーは笑い声で答えた。

「俺には俺が出来る準備があるんだよ。この博打は俺達みんなの進退を賭けてんだからな」

「あ!」

 私の抗議を歯牙にもかけずにアーサーが出て行った扉を唸りながら睨みつける。勢いこんで残ったユアンを振り返ると、胸を反らせて腰に手を当てた仮面男は偉そうにのたまった。

「僕は外に出ないぞ」

「知ってるわ、引き篭もり!」

 作りかけのハリセンで仮面を下から吹っ飛ばしたら悲鳴が響き渡った。




 夜になっても帰ってこない二人に対する文句を悶々と溜めながら、都合の良い妙案が出てこないか釜戸の火に薪をくべながら知恵を絞る。何もしないより攻撃に出なきゃと思ってたのに、こんな人生を賭ける博打になっちゃうなんて。

 失敗すればジャックは捕まって、私は殺されるかもと思いながら異世界で過ごすはめになるわけか。

 たった一日でご都合解決がなるものか。

「……ネガティブになってく。駄目だ、ご都合展開の方も考えてみよう」

 まず私が顔を目撃してるのは最初の段階でお巡りに言ってあるので、この囮捜査で新たな登場人物が通りすがりなんていなさそうな場所にまんまと現れてくれれば少なくとも容疑者は増えるよね? 冥途の土産に教えてやろう。殺しの動機を、とかやってくれれば面倒がなくていいんだけどな。何処にいるよ、そんな裁判いらずの親切な馬鹿が。そんなのよっぽどの馬鹿じゃん。あれ? でもそうするとサスペンスドラマの犯人の一部は馬鹿だってことに。

「でもピンチになると人類八割馬鹿になるとか父さん言ってたし、馬鹿は罪悪感で自滅すると母さんも言っていた。つまり作戦は八十%がシナリオ通りに進む計算」

「何そのサディスティックな格言。君の一族は総出でドエスなの?」

「キャバクラに行ったのを誤魔化そうとした父さんが見事に自爆したエピソードから参照。リアルタイムに居合わせた私は直後にコンビニへ逃走」

「そのコメントを今心の支えにするのはどうなんだ」


 ユアンが隣に座って薪を手に一緒になって釜戸の火を眺め始める。

「僕らみたいな不幸な運命の元に生まれた人間にポジティブな未来が寄ってくるわけないじゃないか。君もそう。よりによって僕らの仲間になって、時間をおかずにトラブルに巻き込まれて、命を狙われてる。よっぽど日頃の行いが悪かったんだろうね」

「普通だよ、普通」

「警察の準備が整えば日取りが決まってこの生活も終わりか。人生で最も安定していたのに、だから僕は森でひっそり暮らすを推したのに」

「誰もが引き篭もりを楽しめると思うなよ、この日陰生物」

 目の前に薪が突きつけられ、火の光を照り返す仮面がこちらを見ている。

「いざとなったらどうとでも生きていける。前から僕が目をつけてある住処候補は四十八にのぼるのだからな。あ、いよいよ駄目そうとなればバックれるのだから、君も解決方法ばかりじゃなく逃走方法や、逃亡後の生活についても計画しときなよね」

「ネガティブなんだかポジティブなんだか」

 目の前にある失礼な薪を奪って釜戸に放り込む。

 ただでさえ電気の通ってない家事を習得するのに苦労してんのに、今度は原始生活か。あーあ、サバイバルとかの知識ないんだけどなあ。

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