新年の真夜中の怪
深夜のこと。
俺はパソコンに向かい、小説の続きを書いていた。
職業が小説家、というわけじゃない。ただ何となく、ためしに書いてみようと思ったところ、意外とやめられなくなり、今ではれっきとした俺の趣味になっている。以前はファンタジーや恋愛モノを書き、今挑戦しているのはホラーだ。
しかし身体は疲れているようだ。睡魔が襲ってくる。今日は、友人たちと新年会があった。昼間から飲んだし、年甲斐もなく騒いでしまったことは否めない。それなのに、こういう時の創作意欲というのは厄介である。疲労感はありありと感じているのに、きっぱり切りあげる気持ちが起こらず、ただ非能率的な時間を過ごすだけになるからだ。
恐怖する主人公の心理描写を、どうしても書きあげてしまいたかった。俺は椅子から立ち上がり、部屋の明かりを消した。執筆中に寝落ちしてしまうかもしれない、と思えたからだ。しかし、なにぶん書いているのはホラーである。部屋が暗くなった瞬間、ジトッとした恐怖が背中にまとわりつくのを感じた。だが、創作意欲には勝てず、俺はデスクへと戻った。
異変に気がついたのはその時だった。パソコンの画面が妙に薄暗いのだ。普通に考えて、暗闇の中でディスプレイは眩しいぐらいに輝くものだろう。画面設定など変更していないのに、奇妙だ――。俺はそんな疑問を覚えながらも、顔を近づけてなめるように画面の文字を見つめた。
ジジ……ジジ……――。
ふいに画面が乱れたと思った瞬間、パソコンの画面がプツッと切れた。俺はどきりとした。すると、部屋の外からミシミシと階段をあがる音がする。そして一拍置いて――、
ドンドンドン! ドンドンドン!
部屋のドアを思い切り叩く音が聞こえた。心臓が縮みあがるほどの恐怖が俺を襲う。
ふと後ろに気配を感じた。振り返りたくなかった。何が立っているのか、得体が知れない。しかし、後ろの“何か”に対して、背を向けているのはもっと危険であろう。俺は意を決して、バッと後ろを振り返った――。
なんと、そこにいたのは――俺の嫁だった。
「ごめんね、驚かせちゃった? 私、あなたにどうしても逢いたくって、次元を飛び越えてきちゃった」
彼女ははにかむような笑顔を見せる。俺はふぅ、とため息を吐いてから立ち上がり、彼女のもとへと歩いた。
「こいつぅ――」
と俺は、彼女の額を指先で突いたのだった。
かくして、俺と彼女との、次元を超越した愛の生活が始まったのだ――。
新年に起こった奇跡――。
A Happy New Year!!