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陰気童話  作者: 古風
9/10

「こなた」と「かなた」

 女の子は、うたい、おどりつづけけていました。

 目のまえを、とおりすぎていく人たちの、まえで。ふるいふるいおみせの、がらすのむこうで。

 ひらり、ひらり、おどる、おどる。女の子は、まいにち、うたい、おどりつづけていました。

 ですが、女の子を見てくれる人は、いません。みんな、とおりすぎていきます。


「……あ」


 ある日、男の人が、女の子のまえで、たちどまりました。


「そ、そんな……」


 どうしたというのでしょう、男の人は女の子を見て、これいじょうないほど目をひらいています。

 その日、ふるいふるいおみせから、女の子はいなくなりました。




「いもうとさんが、見つかったらしいな」

「そうなんだ」


 それから、なんにちかして、男の人は、いちばんの友だちと、れすとらんにいました。

 友だちは、どうしてか、ふあんをおぼえながらも、えがおをうかべた男の人へ、よかったな、とこえをかけて、たずねます。


「いもうとさんは、どこにいるんだ」

「じつは、いっしょにきたんだ」

「いっしょに、だって」

「ああそうさ。おどろいたか」


 友だちがびっくりすると、男の人はすわっていた、そふぁーへ手をのばします。

 どうやら、友だちに、いもうとを、しょうかいするようです。


「ほら、あいさつするんだよ」

「…え………」


 そこにあらわれたのは、青いわんぴーすをきた女の子でした。そふぁにもたれかかります。

 男の人のいもうとを見て、なにごとか、いいかけた友だちでしたが、男の人が、うれしそうでしたので、口をとじました。


「どうだ、かわいいだろう」

「あ、ああ」


 友だちも、男の人につられて、ひきつったえがおを、うかべました。


「いもうとさんと、どこで……あったんだ」

「このあいださ。またいっしょにくらせるなんて、おもいもしなかった」


 男の人は、目をほそめて、いとおしそうに女の子のあたまをなでました。


「それは、それは………よかったな」


 友だちは、いちど、にど、さんど、とうなずくと、目をさまよわせます。


「こんど、いもうとと二人で、かいものにいくんだ」

「その……ふたり、きりで、か」

「そうさ。うらやましいだろう」


 とてもとても、しあわせそうな男の人に、友だちは、ただ、そうだな、といいました。




「そうかい。兄ちゃんには、そう見えないけどなあ」


 のどかな、こうえんの中で、こえがきこえてきました。なにかしらと、とおりかかった女の人が足をとめます。

 女の人が、こえのぬしをさがしてみると、ちかくのべんちに男の人がいました。

 だれかが、となりにすわっています。それはどうやら、女の子のようでした。


 そして、女の人は、あんぐりと口をひらきました。


「ここにきたのは、ひさしぶりだもんな」


 男の人は、はなしかけました。女の子のこえは小さくて、きこえてきません。


「なんねんぶり……ごめんごめん、なんかげつぶりだったな」


 男の人は、あわててあやまりました。女の子はあたまを、かくん、とさげました。


「おなかがへっただろう、だいすきな、あいすでも……」


 男の人は、女の子のあたまに手をのせて、わらいました。女の子は、なにもいいません。


「いまはくれーぷ……そうか、じゃあ、くれーぷを、たべにいこう」


 男の人はうなずきましたが、やっぱり女の子のこえは、きこえてきません。


「ほら、たって。さあ行こう」


 男の人は、女の子をたちあがらせると、いってしまいました。

 あとには、からになったべんちが、あるだけです。

 そのようすを、だまって見ていた女の人は、おもいだします。女の子のすがたを、おもいだします。


 女の子の、くろい目は、まばたきをしていませんでした。


 女の子の、ちのけがひいて、かさついたかおは、ぴくりとも、うごきませんでした。


 女の子の、ほそすぎるうでは、だらりと、さがったままでした。


 女の子の、赤いくつをはいた足は、さいごまで、じめんについていませんでした。


 そんな女の子へ、男の人は、せなかがこおりつくほど、しあわせそうなえがおを、むけていました。


 女の人は、とてもとても、とってもしあわせそうな男の人を見て、なにもいえませんでした。

 男の人の友だちも、とてもとってもしあわせそうな男の人を見て、なにもいえませんでした。










 お久しぶりです。

 タイトルは漢字にすると「此方」と「彼方」になります。

 …童話らしくないと感じた方、すいません。

 …とりあえず、語尾を「ですます」調にして、平仮名多めにすれば童話だと思うなよ、と感じた方、すいません。

 それだけです。

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