「こなた」と「かなた」
女の子は、うたい、おどりつづけけていました。
目のまえを、とおりすぎていく人たちの、まえで。ふるいふるいおみせの、がらすのむこうで。
ひらり、ひらり、おどる、おどる。女の子は、まいにち、うたい、おどりつづけていました。
ですが、女の子を見てくれる人は、いません。みんな、とおりすぎていきます。
「……あ」
ある日、男の人が、女の子のまえで、たちどまりました。
「そ、そんな……」
どうしたというのでしょう、男の人は女の子を見て、これいじょうないほど目をひらいています。
その日、ふるいふるいおみせから、女の子はいなくなりました。
「いもうとさんが、見つかったらしいな」
「そうなんだ」
それから、なんにちかして、男の人は、いちばんの友だちと、れすとらんにいました。
友だちは、どうしてか、ふあんをおぼえながらも、えがおをうかべた男の人へ、よかったな、とこえをかけて、たずねます。
「いもうとさんは、どこにいるんだ」
「じつは、いっしょにきたんだ」
「いっしょに、だって」
「ああそうさ。おどろいたか」
友だちがびっくりすると、男の人はすわっていた、そふぁーへ手をのばします。
どうやら、友だちに、いもうとを、しょうかいするようです。
「ほら、あいさつするんだよ」
「…え………」
そこにあらわれたのは、青いわんぴーすをきた女の子でした。そふぁにもたれかかります。
男の人のいもうとを見て、なにごとか、いいかけた友だちでしたが、男の人が、うれしそうでしたので、口をとじました。
「どうだ、かわいいだろう」
「あ、ああ」
友だちも、男の人につられて、ひきつったえがおを、うかべました。
「いもうとさんと、どこで……あったんだ」
「このあいださ。またいっしょにくらせるなんて、おもいもしなかった」
男の人は、目をほそめて、いとおしそうに女の子のあたまをなでました。
「それは、それは………よかったな」
友だちは、いちど、にど、さんど、とうなずくと、目をさまよわせます。
「こんど、いもうとと二人で、かいものにいくんだ」
「その……ふたり、きりで、か」
「そうさ。うらやましいだろう」
とてもとても、しあわせそうな男の人に、友だちは、ただ、そうだな、といいました。
「そうかい。兄ちゃんには、そう見えないけどなあ」
のどかな、こうえんの中で、こえがきこえてきました。なにかしらと、とおりかかった女の人が足をとめます。
女の人が、こえのぬしをさがしてみると、ちかくのべんちに男の人がいました。
だれかが、となりにすわっています。それはどうやら、女の子のようでした。
そして、女の人は、あんぐりと口をひらきました。
「ここにきたのは、ひさしぶりだもんな」
男の人は、はなしかけました。女の子のこえは小さくて、きこえてきません。
「なんねんぶり……ごめんごめん、なんかげつぶりだったな」
男の人は、あわててあやまりました。女の子はあたまを、かくん、とさげました。
「おなかがへっただろう、だいすきな、あいすでも……」
男の人は、女の子のあたまに手をのせて、わらいました。女の子は、なにもいいません。
「いまはくれーぷ……そうか、じゃあ、くれーぷを、たべにいこう」
男の人はうなずきましたが、やっぱり女の子のこえは、きこえてきません。
「ほら、たって。さあ行こう」
男の人は、女の子をたちあがらせると、いってしまいました。
あとには、からになったべんちが、あるだけです。
そのようすを、だまって見ていた女の人は、おもいだします。女の子のすがたを、おもいだします。
女の子の、くろい目は、まばたきをしていませんでした。
女の子の、ちのけがひいて、かさついたかおは、ぴくりとも、うごきませんでした。
女の子の、ほそすぎるうでは、だらりと、さがったままでした。
女の子の、赤いくつをはいた足は、さいごまで、じめんについていませんでした。
そんな女の子へ、男の人は、せなかがこおりつくほど、しあわせそうなえがおを、むけていました。
女の人は、とてもとても、とってもしあわせそうな男の人を見て、なにもいえませんでした。
男の人の友だちも、とてもとってもしあわせそうな男の人を見て、なにもいえませんでした。
お久しぶりです。
タイトルは漢字にすると「此方」と「彼方」になります。
…童話らしくないと感じた方、すいません。
…とりあえず、語尾を「ですます」調にして、平仮名多めにすれば童話だと思うなよ、と感じた方、すいません。
それだけです。