不老と不死
ある日、ひとりの男の子のまえに、ひとりの男の子があらわれて、こう言いました。
「きみは、ふろうふし、になってみたいかな?」
ふろうふし? なんだろう、と男の子は、くびをかしげました。むずしいことばを、つかった男の子は、つづけてこう言いました。
「ふろうふし、になれば、けがをしてもすぐなおるし、びょう気にもならないんだ! おとなにも、ならないから、ずっとずっとあそんでいられるよ!」
それをきいた、男の子は、きのうから おねつで、くるしそうにしてた、いもうとのことを、おもいだします。
いつも、ゆうがた、になると、友だちと、あそんでいる男の子を、ひっぱっていく、おかあさんを、おもいだします。
それが、ぜんぶぜんぶ、なくなるというのです。なんて、すばらしいことなのでしょう!
「すごいや! ぼく、ふろうふし、になってみたい!」
「そうかいそうかい。それなら、いまから、きみは、不老不死、さ」
「やったあ!」
男の子は、とっても、よろこびました。これから、いたいおもいも、おかあさんに、おこられることもないのです。
いつのまにか、ふろうふし、をくれた男の子は、いなくなっていましたが、男の子は、きがつきませんでした。
そうして、つぎの日に、なりました。
「げほっ、げほっ」
「まあ、おねつかしら」
おかしいなあ。男の子はまっかになった、ひたいを、おかあさんになでてもらいながら、ふしぎに、おもいました。
ふろうふし、になったのだから、びょう気にならないはずなのに! なんでだろうなあ?
「ごほっ、ごほっ」
「きょうは、がっこうを、お休みにしましょう。先生にも、れんらくをしないと」
びょうきに、ならないって言ったじゃないか! ひどいや!
ふろうふし、をくれた男の子へ、もんくを言おうとして、男の子は、ふと、きがつきました。
「あの男の子、どんなかっこう、してたっけ?」
男の子は、ふろうふし、をくれた男の子の、かおも、こえも、すがたも、ぜんぶ、わすれていました。
「げほっ、ごほっ」
「ほら、もうねなさい」
でも、おかあさんが、きょうはやさしいから、いいや!
それから、なん年か、たちました。
「あっ、ちびだ!」
「ちびだ、ちびだ!」
男の子が、さんにんのいじめっ子に、ちび、といわれていました。
「ぼくは、ちび、じゃない!」
ふろうふし、になった男の子が、いじめっ子たちに、いいかえします。
「やあい、ちび! ちび!」
「ちび、ちび、ちび!」
まわりは、みんなせがのびて、こえがひくくなっているのに、男の子だけが、なにもかわりません。
なにひとつ、かわりません。
「やあい、やあい!」
「くやしかったら、大きくなってみろ!」
いじめっ子たちは、そういって、はしっていってしまいました。
「くやしくなんか、ないや!」
ひとりぼっちの男の子は、そう、いいかえしました。
つきひはながれ、すう十年が、たちました。
「ぼく、さっきから、ひとりだけど、まいごかな?」
「いいえ、ちがいます。いもうとを、まっているんです」
とおりがかった女の人が、おみせのまえで、ぽつん、と立っていた男の子に、きがつきました。
「いもうとさん? えらいわねえ」
「あ、おにいちゃん!」
「あら、あの人が…えっ?」
はしってきた人を見て、女の人のえがおが、きえました。いったい、どうしたというのでしょう?
「おにいちゃん、いきましょう」
「うん」
男の子が、いもうと、と言っていた人は、おとなの、女の人でした。こえを、かけてきた女の人よりも、おとなでした。
目をまあるくした女の人のまえで、男の子と、いもうとは手をつないで、いってしまいました。
ときはながれ、すう百年が、たちました。
「ふろうふし、けがはすぐなおって、びょうきもしない、年もとらない…」
男の子が、ひとりで、ふらふらと、おそとを、あるいていました。
男の子の、おとうさんも、おかあさんも、いもうとも、もういません。ずっとずっとまえに、しんでしまいました。
「あっはっは! ほんとうに、ふろうふしは、たのしいなあ!」
みんながみんな、どんなけがをしても、へいきで、なんねんたっても、大きくならない男の子のことを、ぶきみにおもって、ちかづこうとしませんでした。
それでも、男の子は、男の子のまま、すう百年を、すごしていました。
そのあいだに、たくさんの、やさしい人にあって、たくさんの、いじわるな人にあいました。
ですが、ふろうふし、の人は、ひとりも、いませんでした。みんな、みんな、いつか、しんでしまいました。
「たのしいなあ! たのしいなあ! ふろうふしは、たのしいなあ!」
男の子は、ひとりで、もうかぞえきれないほど、ながくながく、生きていました。
そうして、ある日のこと。
ひとりの男の子のまえに、ひとりの男の子があらわれて、こう言いました。
「君は、不老不死、になってみたいかな?」
大変長らくお待たせいたしました。
いつも通り、よくある展開となっております。ホラーを書いた後なので、どことなくホラー臭がするかもしれませんが、気のせいではないです。
以上、ここまで目を通していただき、有難うございます。