犠牲と結果
そのせかいは、ゆるやかに、あれはてていました。
人はたくさんいますが、ほかの生きものは、どんどん、すがたをけしていました。
よくよく、じしんがおきて、雨がたくさん、ふるようになりました。
けれども、みんな、いつものことだと、気にしません。
そうして、すこしずつ、すこしずつ、せかいは、おわりにちかづいていました。
「きみは、ほかの人と、ちがうんだ。
えらばれた、とくべつな人なんだ」
しょうねんは、せかいにせまっている、きけんをしりました。
せかいのひみつを、しりました。
「きみは、このせかいが、おかしくなっていることを、しっている」
まじめなこえに、そうだと、しょうねんは、くびをたてにふります。
しょうねんに、こえをかけているのは、くろいかみのけに、くろい目、くろいふくに、くろいくつの、けんじゃでした。
けんじゃは、まじめなかおをして、くもった空に、目をむけます。
「きみは、かみさまに、えらばれた。
だから、しかくがある。
ここでぎしきをして、みんなの、くるしい気もちを、とりこむんだ」
しょうねんと、けんじゃは、とうのてっぺんにいました。
ずっとむかしの人たちが、かみさまとお話をするために、いろんなぎしきをしていた、とうでした。
かぜがふいて、しょうねんと、けんじゃのふくが、はためきます。
「そうして、さいごに、ここから、とびおりるんだ。
せかい中のくるしい気もちを、とりこんだ、きみ。
きみが、そのおもいといっしょに、いなくなる。
それで、このくにの、いいや、このせかいに生きている、みんなを、たすけることができるんだ!」
けんじゃは力づよくいい、しょうねんへ、ぎしきにつかう、どうぐをわたしました。
けんじゃは、どこかがいたいみたいで、けがでもしたような、かおをしました。
「かなしいけれど、これはきみにしか、できないことなんだ」
けんじゃは、とてもくるしそうです。
しょうねんから、目をそらします。
「ぎしきをしなければ、このせかいに、ひどいことがおきてしまう。
だから、このぎしきを、やってほしい」
けんじゃは、ふるえごえでつぶやいて、立ちさってしまいました。
「みんなを、たすけることができるのは、ぼくだけ」
まいにち、なんかおかしいな、とおもいながら、生きていたしょうねん。
けんじゃは、そんなしょうねんに気づいて、せかいのひみつを、はなしていたのです。
しかし、なんとおそろしいことでしょう。
このままだと、せかいが、たいへんな目に、あってしまうというのです。
そして、せかいを、すくうことができるのは、いま、ここにいる、しょうねんだけなのです。
「ぼくだけが、みんなをたすけることが、できるんだ」
このとうから、はなれたところでは、みんながわらって、たのしく、くらしています。
「ぼくだけが、みんなをたすけることが、できるんだ!」
しょうねんは、せかいの、ききをしらない人たちのことを、つよく、おもいます。
みんなのえがおを、まもらなくちゃと、つよく、つよくおもいました。
それから、なんにちかした、よるのことでした。
ひっそりとたつ、とうのおくじょうから、しょうねんが、とびおりました。
せかい中のくるしい気もちを、とりこんだ、しょうねんが、とびおりました。
そうして、せかいは、へいわになりましたとさ。
「めでたし、めでたし」
じめんに、人がたおれていました。
あの、しょうねんでした。
「なあんてな!」
しょうねんのふくに、あかい、しみがひろがっていきます。
しみは、ひろがりつづけて、土にまで。
しょうねんの、あたまは、へこんでいました。
しょうねんの、うっすらあいた目が、うごくことは、もう、ありません。
しょうねんは、いきも、していませんでした。
たかいとうから、とびおりた、しょうねんは、しんでいました。
「あっはっは!」
かぜがふいて、すながとんできます。
もう、にどとうごくことがない、しょうねんに、すなが、つもっていきます。
「ほんとうに、とびおりた!」
人を、こばかにしたようなこえが、空からきこえてきました。
「おもいつきを、しんじて?
しんじて、とびおりた!」
しんでしまった、しょうねんのよこに、人が、やってきました。
くろいくつに、くろいふく、くろい目に、くろいかみの毛の人でした。
それはなんと、せかいのきけんをおしえてくれた、けんじゃです。
「ばかか? ばかだ!
ただのにんげんが、一人で、せかいをすくえるわけがない!」
あっはっは!
けんじゃは、こころのそこから、わらっていました。
おや? けんじゃのせなかから、なんと、白いはねが、生えてくるではありませんか。
あたまのてっぺんに、わっかがあって、きらきらと、ひかっています。
「きみは、へいぼんなにんげんだ!
てんしさまのひまつぶしを、しんじてとびおりた、ばかなにんげんだ!」
ああ、なんということでしょう!
けんじゃは、てんしだったのです。
「とってもたのしくて、ばかばかしい、げきだったよ!
おもしろすぎて、わらいをこらえるのが、たいへんだ!」
白いはねをうごかして、てんしは、じめんをけりあげました。
ぜんしんがくろい、てんしの、きれいなこえが。
だれもいない、はらっぱに、ひびきます。
「そう、きみのぎせいは、なあんのいみもない!
きょうも、あしたも、あさっても!
なあんにもかわらず、せかいはつづくのさ!」
ゆうがに空をとびながら、てんしはわらいました。
「あっはっは!
なあんのいみもない、ぎしきをして、たかいとうから、とびおりて。
それが、むいみだった、かんそうは?
ああ!
きみはもう、しゃべることも、できない!」
てんしは、ずっとずうっと、わらいつづけました。
あかい、しみがひろがったじめんに、まっ白なはねが、いくつも、いくつも、おちてきました。
やがて、よがあけ。
きれいな青空に、あさをしらせる、かねのおとが、なりひびいたのでした。
おしまい。
お久しぶりの、一読有難うございました、です。
色々ひねくれ過ぎて、どうしようもなくなった結果が、これでした。
後味の悪さを感じていただければ、幸いです。
…趣味が悪い?
それは、気のせいで、ございます。