『とびら』と『わたし』
『わたし』の目のまえに、『とびら』がありました。
木でできた、『わたし』より、すこし大きい『とびら』です。
こげちゃいろで、ところどころ、くろいろの『とびら』です。
『わたし』は、『とびら』の、とっ手をつかんで、右にまわしました。
かぎは、かかっていなかったので、『とびら』は、すんなりと、ひらきました。
『わたし』は、さきに、すすみます。
すると、『わたし』の目のまえに、『とびら』がありました。
石でできた、おもそうな『とびら』です。
まん中だけ、くろいろで、へこんでて、ざらざらした、『とびら』です。
『わたし』は、へこんだところに手をおいて、おしました。
『とびら』は、おもくて、なかなか、ひらきません。それでも、ゆっくりゆっくり、ひらいていきます。
そして、『わたし』の目のまえに、あったのは、ふすま、でした。
白一しょくで、きれいな、『とびら』でした。
ふと、『わたし』は、きづきます。
いつから、『わたし』は、ここにいるのでしょうか。
わかりません。
つぎの『とびら』は、上はんぶんがガラスで、下はんぶんが木でできた『とびら』でした。
その『とびら』の、とっ手をつかんで、おして、ひらきます。
どうして『わたし』は『とびら』を、ひらいて、くぐりつづけているのでしょうか。
わかりません。
左がわと右がわに、わかれている『とびら』が、ありました。
りょう手で『とびら』をおして、ひらきます。
『とびら』の、さきには、『とびら』しか、ないのでしょうか。
わかりません。
『わたし』は、いったい、だれなのでしょうか。
『わたし』は、いくつ、なのでしょうか。
『わたし』は、どんなかおを、しているのでしょうか。
ぜんぶ、わかりません。
ただただ、目のまえにある『とびら』をひらいて、さきに、すすんでいくこと。
それだけは、わかっています。
『わたし』の右がわ、や、左がわ。
いちども、ふりかえって、見たこともない、うしろにも。
なにがあるのか、わかりません。
かんがえごとをしながら、『わたし』は、びょう、がうってある、『とびら』を、ひらきます。
ここの、さきには、ずっとずっと、さきには、なにか、あるのかもしれません。なにも、ないのかもしれません。
きょう、という、じかん、があるのかも、わかりません。
にぶく、かがやく、ぎんいろの『とびら』を、ひらきます。
『とびら』に、のばされる手は、こんなにも、しわだらけ、だったでしょうか?
『とびら』を、ひらくのに、ここまで力が、ひつよう、だったでしょうか?
『とびら』の、さきにある『とびら』は、こんなにも、ちかくにあったものでしょうか?
それらは、そうであった、のかもしれませんし、そうでは、なかったのかもしれません。
いくつの『とびら』を、ひらいたのでしょうか。
わかりません。
『とびら』が、とじた、おとを、きいた、おぼえはあったでしょうか。
それも、わかりません。
わかることは、一つだけ。わからないことは、たくさん。
ですが、きにすることは、ありません。
『わたし』は、『とびら』を、ひらく。
『とびら』を、ひらく。
それだけなのです。
そう、それだけなのですから。