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天使と鬼畜   (後編)

 雨が流れるコンクリートを踏みしめて。昭子は佐藤、そしてホテルまで様子を見に来てくれた梨々香、陽子、和泉と戦いの場……学校への道を歩いていた。

「……峰子ちゃん大丈夫かな」

申し訳なさそうに呟き、佐竹が峰子から預かってくれたお守りを握りしめる昭子。『今日は行かれない、ごめんなさい』と映るスマホを不安げに見つめる梨々香と陽子と和泉。そんな彼女たちへ佐藤はピシャリと言った。

「佐竹先生によると命に別状はないそうですよ。それより貴方達、中間テストの勉強はしていますか? 体育祭の前にあるんですよ。容姿がイマイチな上に馬鹿なんて救いようがありません。しっかり対策しなさい。特に山田さん」

「してますよ! クソババア!」

自分を睨んで見上げる地味なスピッツに、佐藤は溜息を吐いた。

「どうせ日本史しかやってないのでしょう。それから貴方は私を罵るときにいつもクソババアか死ねの二択ですね。さすがに死ねはやめていただきたいし、クソババアも事実ですがもっと他は無いのですか? 老害とか、お局様とか」

「そういう言葉はくっさいです! でも……他か…うーん……」

ステンドグラス調のデザインの傘の内天井を見上げ、数色に染まった顔で唸る和泉。彼女は連なったニンニクを模した傘の柄を強く握りしめてぶつぶつ言葉を紡ぎ出す。

「あ、悪魔? 悪魔だ! 悪魔教師だ!」

得意げな笑みで飛び跳ねる彼女に、水しぶきを足に受けた佐藤は小馬鹿にしたような冷めた息を吐いた。

「どこかで聞いた事があるような単語ですね。そんな貧弱な語彙と発想力では、いつまでたっても傾奇者にも小説家にもなれませんよ。今度罵詈雑言辞典と類義語辞典を貸してあげますから、勉強しなさい」

「類義語辞典は聞いた事ありますけど、ばりぞうごんじてんって何ですか? ばりカタとかあるしラーメン用語ですか?」

「鈴木さんは本当に食への関心が強いですね。お菓子作りも得意ですし。それが今回人助けになりましたが」

佐藤は口を右手でおさえてクツクツ笑い、説明を始めた。……罵詈雑言辞典とは。人をけなすための言葉を集めた辞典である。佐藤のざっくりとした説明を聞き、陽子は目を丸くした。

「そ、そんな嫌な辞典があるんですか!」

「あるんですよ。初めて図書館でその本を見つけた時は本当にうれしかったですね。即座に担任とクラス全員分の例文を作りました。非常に楽しかったですよ」

「うわぁ……性格わるっ!」

和泉の言葉に頷く皆。だが佐藤は雨よりも冷たい皆の視線をあびつつも校門を見据えていた。

「田中昭子五番勝負ですね」

「はい」 

昭子はいつもよりハッキリとした声で深く頷いた。 

     2

 校長室には、校長のほかに昭子の両親と桜井の両親がいた。

 ……最初は『話し合い』のはずだったのだが。次第に昭子の父母と桜井の父母の会話は穏やかな小波から荒れ狂う大波へと変化していった。

「本当に息子が田中さんを突き落としたんですか? 見間違いの可能性はないんですか? 息子だという証拠はあるんですか? 田中さんが虐待されているならお兄さんにやられたのではないんですか?」

頭から血を流した昭子が発見されたのは学校の階段。そして第一発見者は通りがかったのは二人の生徒……高橋真里奈とその友人である。ちなみに佐藤はその二人に呼ばれて救急車と石田先生を呼んだ為事情を熟知しており。両親に発見された場所などをなめらかに説明。昭子の母はこれ幸いと攻めに転じた。

「あきこちゃんは桜井くんにひどい嫌がらせをされていたんです! だからぁきっと今回も桜井くんですよぉ! あきこちゃんかわいそうに……」

目頭をハンカチで押さえる母。またいつもの嘘泣きか。昭子は先日の大奥に向けた苦笑交じりの目ではなく。もっと冷えきった心で母をみつめる。一瞬言葉につまった桜井両親だが、すぐに反論した。

「百歩譲ってうちの息子が田中さんに嫌がらせをしていたのなら、田中さんが嘘をついたという可能性はないんですか? うちの息子に恨みがあったから、階段を滑り落ちたのを息子のせいにしようとしたとか。それほどうちの息子が田中さんを傷つけたのなら謝ります」

「う、うそなんかつきま」

昭子の言葉を遮るように桜井両親は早口でたたみかける。

「虐待も田中さんの被害妄想ということはないんですか? CD店のことは単なる兄弟げんかでは?」

虐待も殺人未遂もすべて昭子の被害妄想ということにしよう、そういう方向に動き出した桜井両親。黙りこむ昭子両親。ここまで言うのかと驚きあっけにとられる昭子だったが。すぐに我に返って助けを求める様に佐藤を見た。佐藤はそんな彼女の肩をがんばれ、と軽く叩いた。……そうだ。ここが正念場なんだ……。唇をきゅっと噛んだ昭子は立ち上がると、たどたどしくも精一杯の声で訴えた。

「被害妄想では…あ、ありません。ビ、ビデオ店の会話の様子をここで再生させていただきます」

「私達は忙しいんです。今回の話と関係ないことは…」

イライラしたように時計をみる桜井両親。だが今度は昭子が彼らの言葉を遮った。

「桜井君のお父さんとお母さんが私の被害妄想を疑っているので、そうでないことを証明したいんです。きちんとした判断力があることを証明したいんです」

昭子がそう言い終わると同時に、佐藤は店で撮影した動画(昭子と昭太以外はぼかし加工済み)をPCで上映した。それはどうみても兄弟げんかとは言い難い、一方的に兄が妹を痛めつけるような動画であった。桜井両親はえっ、と小さく呟くと。微かに軽蔑の眼差しで昭子両親を見つめる。校長もまた厳しいまなざしを両親に送る。それを受けた昭子の父はフラフラしながら立ち上がった。

「わ、私は仕事が……」

「お願い。お父さん。そばにいて。助けて」

真剣な眼差しでぎゅっと父親の腕をつかむ昭子だが……父親はそれを強く振り払った。

「か、家庭の事は全て母さんに任せてあるから。私は仕事に行かないと……」

「あなたはいつもそうだわ! 昭太のことも! 本当は私ひとりじゃ不安なの! お願い……」

泣きわめいて父親に縋りつく昭子母。それも振り払って父親は逃げる様に走って校長室を出た。あきらめたように長い息を吐いた昭子へ。床に手をついて立ち上がった昭子の母は出窓に走り。そこにあった花瓶を掴んで昭子に殴りかかった。昭子を守るように立った佐藤はピンクの分厚いファイルを頭上に抱えて一撃を受け。その直後に校長は昭子母親を取り押さえた。茫然と自分を見つめる昭子に、昭子母はぽつりといった。

「その目が……そのぼうっとした細い目が嫌いなのよ……なんであのババアに似ているのよ……」

昭子母の手からするりと落ちた赤いガラス瓶は彼女の手元で血しぶきのように飛び散り。そのガラス片がもっと砕けそうなほどのキンキン声で昭子母は泣き叫ぶ。

「やっとあのババアが死んで地獄の日々が忘れられると思ったのに! あんたはババア似の細い目にくらい性格に生まれてしまった! あんたが……もっと……明るくて私達を照らしてくれる子だったら……陽太さんだって……!! なんであんたはいっつものろくてくらくてばかなのにいいたいこともふだんいわないくせにこういうときだけーーー!! どうせくらいならいっしょうだまってりゃいいのよおおおおおお!」

昭子は、自分が母をいびっていた祖母似であることを自覚していた。愚痴を聞かされていたし八つ当たりされていたからだ。でも。わかっていてもやはりはっきりこうまで言われると……そもそもいくら祖母似でも私は祖母じゃないのに……毎日家事もやっているのに…そう言いたい昭子だったが、もう気力が無かった。心を刃物でぐりっと抉られた彼女は涙目で俯いた。でも俯いても、目を閉じても、視界に入らない筈の母の姿が見える。昭子はもう直接目で見なくても、両親の真の姿が瞼の裏に焼き付いている。……親じゃない。人間じゃない。愛情もないから動物でもない。知識もないから悪魔でもない。エゴしかもたない鬼畜だと。

思わぬ修羅場に桜井両親は目をパチパチさせてお互いの顔を見合わせていたが。すぐに口を開いた。先程とは違い、昭子に同情的な……寧ろ昭子両親よりも微かだが温かみのある声だった。

「わかりました。田中さんに正常な判断力があることも、虐待されていたことも……。それは気の毒に思います。ですが、今回は息子は田中さんを突き落としたことはずっと否定しています。親ばかですが、この子は本当正義感の強い優しい子で……やはり息子が田中さんを突き落としたとは思えません。玲に似た人違いではありませんか?」

「ごまかすんじゃないわよ! 慰謝料払いなさいよ! 通院代も払いなさいよ! うちはそんなにお金ないのにこのばかのちりょうだいでかつかつなのよ!!! こせきじょうはむすめだからかねださないとしろいめでみられるのよーーーー! さっきからへりくつでうるさいのよ!」

昭子はすみません、と佐藤や校長、さらに桜井両親にまだ痛む頭を下げると。校長や佐藤と一緒に母親を取り押さえた。半狂乱に暴れる超音波発生装置を制御しながら、昭子は思った。やけにこの鬼畜Aが桜井の両親を責めていたのは、金が欲しかったからなのか。鬼畜Bは鬼畜Aすら振り払って逃げたし、もうこいつらは……それにしても桜井がうらやましい……。昭子はだんだん娘より自分を守ろうとする人型の鬼畜と、ずるくても何が何でも息子を守ろうとする桜井の親を比べて悲しくなった。やっと大人しくなって元・親が座り込むと、それを見て枯れたはずの涙がに落ちる。床に散らばった赤い破片が自分の心のように彼女は感じた。……そんな姿を見た校長も少しだけ昭子側に立ち始めていた。

「桜井さん、息子さんを信じるのは当然の事だと思います。ですが、一応佐藤先生の話も聞いていただけませんか。……佐藤先生。佐藤先生はどうして桜井君が犯人だと思ったのですか? 田中さんに言われる前から犯人だとわかっていたとのことですが……き、きみたち……」

「玲が悪いことするわけねーだろ!!」

「こら! お前ら授業中じゃないか!!」

「山田さんもどさくさに紛れて侵入するんじゃないよ!」

校長室の扉を開けて騒ぎ、体育教師につまみだされる桜井の友人のサッカー部員。そして首根っこを掴まれた猫のように大奥に放り出された和泉。和泉は尻をさすりながら叫んだ。

「いたい! けどあたしよりもっと痛い昭ちゃんも負けんなアア! 板垣死すとも昭子は死せずだーー!」

「板垣さんはとっくにお亡くなりだよ! 皆様申し訳ありません!」

 バタン、と閉じた校長室のドア。それを茫然と見ていた昭子ははっとしてポケットに手を突っ込んだ。お守り、そしてプリクラが手に心に触れる。そうだった。負けたらだめだ……昭子はその少し細い目を見開くと、佐藤が説明するはずだった事柄を口に出していた。

「確かに私は桜井君に恨みがあります。そんな私が桜井君が私を階段から突き落とした犯人だと言うのは、桜井君を大事に思う桜井君のお父さんとお母さんからしたら、恨みによる嘘だと思うのも仕方ありません。証拠が無ければ信じたくないと思うのも当たり前です。だって、親ですから。でも私はこの目で見たんです。桜井君は学校で二番目のイケメンですから見間違えません。証拠もあります。その前に……桜井君」

 さっきから真っ青な顔で爪を噛んでいた桜井に、昭子は視線を映した。

「桜井君が高橋さんに振られたのをざまぁみろと思って笑ったことはすみませんでした」

軽く頭を下げる昭子。桜井の顔はだんだん赤くいらだっていく。一方昭子は佐藤のPCを見た。もうあの画像が出ていた。梨々香がくれた巨大蒸しパンについていた、桜井の手形。リュックの外ポケットに入れていた蒸しパンは、桜井が昭子を押した時にくっきりと手形がついたのだ。

「この蒸しパンはリュックの外ポケットに入れていたものです。つまり、リュックを強く押さないとこの蒸しパンには手形がつきません。そしてこの手形は桜井君のものです。だってこんなに大きな手の人は中々いないし、小指が少し短いのも桜井君の手だと示しています」

 魚拓ならぬパン択。通学時についたのでは、と問う桜井両親。だが昭子はこの蒸しパンは放課後にもらったもので、手の跡が付いていなかったと説明してくれる証人もいると説明。さらに。昭子は桜井を見た。

「桜井君、スマホ出して」

聞こえないふりをする桜井だったが、両親に言われて渋々スマホを出す。

「いつもつけてたイヤホンジャックはどうしたの?」

「……盗まれたんだ」

「高橋さんは呼び出された時に桜井君がスマホを弄っていたのを見てるよ。イヤホンジャックがその時はあったのも見たって。もしそのあと盗まれたとしてもなんで先生に言わなかったの? オクでも中々でない珍しいものだって言ってたのに。桜井君のファンが体操着を盗んだ時はすぐに佐藤先生に言ってたよね」

目が泳ぐ桜井。一方両親は額の汗を拭っていった。

「それがどうしたと?」

「私の背中に落ちていたそうです。そうですよね、佐藤先生」

 深く頷いた佐藤は、本人達に許可を得て録音しておいた高橋達の証言の音声を再生した。しかし。桜井両親はすぐに口を開いた。

「息子が田中さんを突き落とした現場は誰も見ていないんですよね? たまたまどこかで彼女のリュックを押して、たまたま彼女が倒れていた現場にイヤホンジャックが落ちていただけです。状況証拠にすらなりません! もしかしたら息子を陥れたい人間がイヤホンジャックを盗んで現場に置いて行ったのかもしれないいですし! そんなに疑うならこちらも名誉棄損で訴えますよ!!」

 詰めが甘かったか……佐藤は微かに背中に汗をかいた。ここまで強気に出るとは判断できなかった自分の愚かさを責めた彼女だったが。チラリと見た昭子は今まで見たことが無いくらい堂々と落ち着いていた。これなら……佐藤はつばを飲んだ。それと同時に昭子は口を開いた。

「そうですね……桜井君のお父さんとお母さんのおっしゃる通りです。桜井君疑ってごめんなさい。仲直りがしたいから二人で話がしたいです」

 俺を疑うような奴と話がしたくない、と主張した桜井だが。校長のとりなしもあり、両親は彼を置いて部屋を出た。続いて校長も昭子母も佐藤も出て行く。雨音と時計の音が混ざる校長室で、昭子は静かに口を開いた。

「なんで私を突き落としたの? なんで私に嫌がらせをしたの?」

「全部お前の思い込みだろ。俺はやってないよ」

「本当に?」

「ああ」

 昭子は俯くと弱弱しい声で言った。

「ごめんね。ずっと桜井君が犯人だと思ってた」

「気にするなよ」

「ありがとう……これいらなかったなぁ」

 昭子はポケットからICレコーダーを取り出して、その黒い物体をじっと見つめる。それを見た桜井は素早くそれを奪い。スイッチをオフにする。そして次元の裂け目に埋まった光るキノコのように不気味に目を輝かせた。

 目をギョロギョロさせた昭子へ、桜井は勝ち誇ったように言った。

「お前の考えなんてお見通しなんだよ」

「え?」

 耳をほじって首を傾げる昭子。そんな彼女に聞こえる様に桜井は声のトーンを大きくして言った。

「顔と頭だけじゃなくて耳も悪いのかお前! 二人っきりになった途端に俺がなにか言うって思ったんだな! 馬鹿! ……さっきの質問に答えてやるよ。お前を階段から突き落としたのは、お前が俺を呪って不幸にしたからだよ!! あのまま死んじまえばよかったのに! 運だけはいいなブス!」

「な、なんのこと? 呪いって……」

 思いがけない問いに驚いて後退る昭子へ、桜井は激しく言葉を言い募る。

「お前はあのへんなキーホールダーで俺の事を呪ったんだろ!」

「そんなことしてない! そもそもキーホルダーかなんかで呪いなんてかけられない!」

「お前の不気味な細くて暗い目ならそれができるんじゃねーの?? 細目ブス!」

「出来るわけない! そんな力があったらとっくに家族を思う通りにしてる!!」

 さっきの様子を見ていて思わず納得してしまった桜井だが。昭子如きに論破されたのが悔しくなったのか、真っ赤な顔で昭子に怒鳴った。

「わかったよ! じゃあさっきの問いに答えてやる。なんで俺がお前に嫌がらせをしたか」

「もう……もういい…聞きたくない」

 耳を塞ぐ昭子に聞こえる様に。桜井はニヤニヤしながらさらにトーンと声量をあげて言った。

「お前と三年間クラスが一緒だったけど、お前はいっつも体育祭で足を引っ張りやがった!! だから体育祭は二年の時しか優勝できなかったんだ! 俺がお前のペットボトルに何か入れるのをみーーーんな知ってたよ! お前がのろくてうざい嫌われ者だったから! みんな笑ってたぜ!」

 青ざめて震えだす昭子へ、桜井は笑顔で続ける。

「お前を嫌いなのは俺だけじゃないんだよ! お前の暗い雰囲気もおどおどした様子ものろい行動もブスな顔もみんなが嫌いなんだよ! わかった?」

 スッキリした、と高らかに笑い出す桜井。思わず顔を覆って座り込む昭子の頭にぐりぐりと足を乗せる。

「お前は一生そのツラを」

 決め台詞を言い終える前に。桜井は体育教師に羽交い絞めにされて、連れていかれた。


      3

 校長室を出て行く前に、佐藤は鞄の中からポーチを出すフリをして超高性能録音機をセットしており。校長室の隣の部屋で校長室の音が聞こえるようにしていた。人権侵害だと騒ぐ桜井両親だが。佐藤は凛として言った。

「もし桜井君が無罪なら、私は責任を取って辞職します」

「貴方が辞職するしないなんてどうでもいい! 息子の人権が……」

「昭子さんの人権はどうなるのですか。桜井君の様子が尋常では無かったのを見ておられたでしょう」

「あれはきっとあられもない疑いをかけられて動揺して……」

「内申書には答辞も送辞も立派にこなし、いつも冷静で……とありましたが」

 長々つづく押し問答。突然校長はシッと指を立てた。そう。桜井の自白が再生されたのである。ガックリと桜井の両親は膝をついた。

 数日後。佐藤は長縄、二人三脚リレー、遅い生徒ばかりあつめた100mリレーの視察をすると、珍しく口笛を吹きながら職員室への道を歩いていた。クラスがまとまって来た、と彼女は上機嫌。特に嬉しかったのは以前にも増して死に物狂いで練習している昭子を見たことである。朝のランニングでも、目が生気を感じさせる様になったし、話し方も少しだけ以前より聞きやすい声になった……これなら…きっと。

「説教する必要はないですね」

佐藤は、中学時代も含め桜井の悪行はいじめ、いやいじめという範疇を超えた犯罪だと認識しており、今回の件は桜井が完全に悪いと思った。しかし佐藤はまた、暗くて覇気の無い昭子を見てイライラしたという桜井の気持ちも理解出来るのだ。

「暗くてとろい人間は、私やS君だけでなく他の人にも好感を持たれにくいですからね。この機会に無理をしない程度に少しだけ変わっても良いでしょう。それにしても」

結局、いじめ側の気持ちを理解してしまうのは。自分が未だにそっち側の人間だからなのかもしれない。佐藤は溜息を吐くと、職員室に帰った。



※「自分の子供が同級生にケガを負わされても、子供が勘違いしたorケンカの延長だったことにして同級生を責めない」という2ちゃんまとめサイト???かなにかの話を設定として参考にして、アレンジした部分があります

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