天使と鬼畜 (中編)
深い紺色に染まった空に関せず白く輝く建物内。両手に食料品がパンパンに詰まったビニール袋を持つ制服姿の少女・昭子は。頭頂に緩く歪んだ軌道を描く包帯をそっと押さえ、海底に沈んだかのような暗い眼だけを動かして隣の青年を見る。彼女の何か訴えるような眼差しの先には、CD店入口の等身大特撮ヒーローPOPよりも背が高い青年がおり。彼は昭子の思いに気付かずに、手を太陽のように輝くライトに伸ばして、何かを書くように指を動かしている。そしてその指先が自分の足もとに到達した時、よし、と頷き。目を輝かせて店内へ入って行った。
「お兄ちゃん……今日は何にも買えな……」
「五月蝿い! 今日は鈴木先生の、書道パフォーマンスブルーレイディスクの、発売日なんだ。お前金持ってんだろ。出せよ!」
「ないよ……先週渡したので全部だから……」
「嘘つくな!」
「本当に……ない…ないよ……」
「そんなわけないだろおおおおおおおお!」
地割れから噴き出すマグマのような目を向け。真青な顔を伏せた昭子の背中の色あせたリュックを開ける兄・昭太。彼は食料品が詰まったリュックの奥からくたびれた合皮の財布を取りだし、中身を見た。だがいくら数えても469円しかない。おまけに銀行のカード等も入っていなかった。
「金ぐらい持ち歩け! 馬鹿! 馬鹿! 馬鹿ーーーーーーーー!」
冷たい床に寝っ転がり。駄々っ子のように長い手足をバタバタさせてわめく昭太。騒ぎを聞いて店員を従え飛んできた、青い坊主頭の男は。真っ赤な顔のゴーレムのような青年を見上げて、ため息を吐いた。
「他のお客様のご迷惑になりますので静かにしていただけますかぁ?」
「五月蝿いな!」
けたたましい声で昭太は叫び悶え。Blu-rayDiscのケースがタイルのように正面を向いてずらっと並んだラックを蹴飛ばした。ガラガラと音を立てて床にケースが散らばり。店員は急いでそれを拾い始めた。
「も、申し訳ありません……」
昭子はペコペコ頭を下げて即座に荷物を置き。朦朧としつつも這いつくばりながらケースを拾って棚に戻していたが。そんな彼女の横で、昭太は隣のスチールラックをガンガン蹴飛ばし始める。このままでは埒が明かないと思った昭子は、よろよろと立ち上がって昭太の腕をそっと掴んだ。
「お兄ちゃんやめて……」
「放せよ!」
水をかけられた犬のようにぶるっと体を振るわせる昭太。彼の腕を弱々しくつかんでいた昭子はバランスを崩し。ぼす、っと音をたてて冷たい大理石にひっくり返った。
「う……」
昭子は頭を押さえて低く呻くと、昭太を怯えた目で見上げ。ゆっくり後退る。昭太はそんな彼女につかつかと近寄り、髪をひっつかんで金切声を発した。
「お母さんの言うとおりお前は本当にウザイブスだ!! いつも声が小さくて何言ってるのかわかんない!俺は兄なんだぞ! なんでおまえに命令されなきゃいけないんだ! ブス! 馬鹿!」
一通り罵り終えると、再び店長を睨んで唸る昭太。騒然となるCD店。坊主頭の男……店長は、聖太に怯えて立ちすくんでいた店員達へあごを突き出して言った。
「あいつをつまみだせ。ぼさっとすんな! 給料カットするぞ!」
ごくりとつばを飲み込み。ひきつり小刻みに揺れる体で翔太に立ち向かう店員達。必死の形相の彼らに取り押さえられても喚き続ける昭太。店長はそれを横目で見ると。落ちたケースを荒い息で這いつくばって拾う昭子へ、言葉を吐き捨てた。
「妹ならきちんとあの動物を管理してくださいよ。それから落としたBlu-rayDiscを弁償してください」
「さ、騒いだのは申し訳ありません! でも、落ちたケースは軽くて、あの軽さはBlu-rayDISCは、入ってないはずです!」
弁償という言葉に慌てた昭子は、珍しく大きな裏返った声でそう答え。ケースを次々と開き、空の中身を店長に見せつけていく。それを見た店長は舌打し、くっきりと大きな足跡のついたラックを見て言った。
「でも迷惑料は払っていただきます。あとラック代も」
昭子は慌てて壁の様に並ぶスチールラックを見た。確かに兄の靴跡は付いているのだが、背が高く頑丈な銀色のスチールラックは壊れたりへこんだようには見えない。
「も、申し訳ありません……うちはお金が無くて…ラ、ラックは壊れていないようなので私が汚れを拭きます………迷惑料は、わたしの怪我が治ったら、働いて弁償します!」
ラックの汚れを手でゴシゴシ拭うと、ずきずき痛む重い頭を床にこすりつけて許しを乞う昭子。彼女にして素早い動きとハキハキした声ではあったのだが。それでもどこかおどおどした表情としぐさは体育会系の店長の苛立ちをさらに増幅させた。
「兄の世話すら出来ない無能を雇えわけないでしょう!! 親を呼んでください!」
「申し訳……ありません……今電話します…」
昭子は店長に吐かれたつばが乗っかった頭をのっそりと持ち上げ。ダー携(一般的に普及しているスマホ電話よりも安いダーウィン携帯)を取り出して、ボタンを押す。しかし。
『この電話は、電波が届かない場所にあるか、電源が切られています』
冷たい一本調子の声で母はいないと答えるダー携。昭子は一瞬ためらったが。祈るような気持ちで父親に電話した。しかし。
『この電話はお繋ぎ出来ません』
「え……」
むなしく響く機械音。その繰り返しを聞いた昭子の手からダー携はぽろっと落ち。乾いた音をたてながら転がって行く。一方店員を振りほどいた翔太は、まるで紙製の等身大POPを掴みあげるかの如く店長を軽々と持ち上げた。
「坊主なんか嫌いだ! おじいちゃんのお経を適当に読みやがって! いつも偉そうで!!」
天敵を見つけた獣のような昭太の雄叫び。それを浴びて身も心も硬直する店長。夕立の直前のような暗い表情でうつむいたままの昭子。怯えて立ちすくむ店員達。それを遠巻きに眺めて騒めく人々。誰も昭太を止めない。止められない。昭太はもはや生ける剥製となった店長を高々と持ち上げた。その時だった。
「鈴木鐘遥ですぅ! みなさん、しょどってますかーーー?」
「す、鈴木先生!」
甲高い中年男の声を聞き、昭太があたりをキョロキョロと見回した瞬間。体格のいい少年の集団が昭太の蹴っていたラックの上や脇から飛び出した。
「ギャァ!」
ラックの上に押し上げられた少年は昭太の顔面に薄めた催涙スプレーを噴射。脇から飛び出した少年達の一部と細い青年は放り投げられた店長をキャッチ。残りは目をこすって唸る昭太を羽交い締め。鈴木鐘遥が映るPC片手にその様子を監督していた中年女性は、傍らの小柄な中年女性と棒立ちの店員にあとはよろしく、と声をかけ。俯いたまま震えている昭子に近寄った。彼女の頭のほどけそうな包帯には血がにじみ、制服のスカートには水滴が落ちている。 銀縁眼鏡の中年女性は、そんな彼女をそっと抱きしめた。
2
数時間後。念のため病院で診察を受けさせられた昭子は、昭太を捕まえた生徒達の顧問・大奥とビジネスホテルに居た。尚、先ほどの銀縁眼鏡の女性は昭太達と警察にいる。
「まったくひどい話だねぇ! ぶっ殺してやりたいよぉ!!」
大奥は枝垂れ桜の鞭で空中をビシビシ叩き、床をダン! と踏みつけた。昭子は下の部屋の人に迷惑だから、と彼女を慌てて宥め、時計を見た。
「先生、ニューズのライブ中継が始まっていますよ」
昭子がパッとテレビをつけると、画面にはキラキラ輝く笑顔とスパンコールのド派手な衣装のアイドル達がドアップで映る。大奥はその画面と昭子を交互に見て言った。
「いやああああ手塚くうううううーーーーんステキぃ……あ、そうじゃなくて…いいのかい? 頭に響くんじゃないの?」
「ボリュームを少し控えめにしていただければ大丈夫です」
「ありがとうね! まさかビジネスホテルでも見れるなんて思わなかったよ!」
大奥は満面の笑みでテレビをつけ、美少年にうっとりしながらくるくる踊り出した。オタ芸という範疇ではない。完全に振り付けをマスターしている。奇声を発しながら時には踊り、時には画面に投げキッスまでする大奥を、昭子は冷めた目で見つめていたが。携帯の着信に気が付いて立ち上がった。
「すみません。佐藤先生が今ロビーに来いと仰ってるので行ってきます。あ、その先生はそのまま踊っていて大丈夫です」
―――数分後。昭子は佐藤を連れてホテルの自室に戻った。彼女は相変わらず踊り続ける大奥を背景に、佐藤と重苦しい雰囲気でこれからのことを話し合っていた。
「事情は理解しました。田中さん。これが貴方の正念場です。貴方が本気で戦うのなら私も力になります。でも今まで通り何もしないで不運が通り過ぎるのを耐える、というのなら。私は貴方を助けられません」
「ちょっと待ちな! こんなボロボロになった生徒を見捨てるのかい!!」
イヤホンを引き抜いた大奥は踊りを止めて佐藤に詰め寄る。佐藤はそんな彼女の熱い眼差しをドライアイスのような目で押し返した。
「私も自分の身を守りたいですからね。出来れば厄介な案件には近寄りたくありません。他の生徒達の事もありますから、田中さんだけ特別扱いはできませんし」
「特別扱いって……特別扱いしなきゃいけないほど緊急事態じゃないか! そもそも何が厄介だって言うんだい! 兄と母に虐待されてて、父親は連絡が取れなくて家族に味方がいない、おまけにクラスメイトには階段上から蹴られて死にかけて……そんな生徒を見捨てるなんてアンタは教師、いや人間じゃない! アンタが田中さんを見捨てるなら私が助けてやるわよ!」
「それは心強い。ありがとうございます。これから長丁場になると思いますが、よろしくお願いしますよ」
佐藤は珍しく目のはしも下げてニッコリと笑うと、右手を出してガッチリと大奥と握手をした。また根性悪にはめられた! と一瞬歯ぎしりした大奥だが。闇夜を凝縮して頭から被ったかのような昭子を見て、テレビを消した。そしてテーブルの上の書類を手に取ってベッドにどっかり座る。……これで大奥も完全に巻き込んだ……そう思った佐藤は一瞬だけ口の端のみ上げてと笑うと、再び真剣な眼差しで昭子に向き直る。 「厄介だと言ったのは、貴方が戦わないといけない相手達が強力だからですよ。貴方が戦わないといけない相手は五人います。一人目はパート先でもどこでも愛想がよいお母さん。外面がとてもいいから傍目には虐待しているように見えませんね。証拠をキッチリ掴んで訴えないと、貴方が被害妄想だと思われてしまうでしょう。そして二人目がお兄さん。彼は知的障碍者ですから、下手な訴え方をしたら障がい者差別がどうのこうのだとか、家族なら許してあげなさい面倒を見てあげなさいとか言われてしまうかもしれません。まぁ彼に関しては病院の診断書も、それを裏付けるために田中さんに書かせたメモもあります。それに私もCD店もバッチリ映像にとっているから大丈夫でしょう。証人もたくさんいます。……わざわざ学校にあなたの危機を知らせてに来てくれた小林さんも、力になるから昭子ちゃんを助けて欲しいと言ってくれました」
「小林さんですか……」
細く弱弱し気な頼りない青年を頭に浮かべ、複雑な表情を見せた昭子へ。佐藤は諭すように言った。
「知的障がい者といっても色々いるんです。貴方のお兄さんのように理性を失った獣もいるし、小林さんのように優しくて天使のような人も、自分の限界まで頑張る立派な人も、周りが何とかしてくれて当たり前だと甘える人も、本当に色々な人がいますよ。それは私達と同じです。必要以上に神格化して保護するのも、差別もどちらも良くないのです。まぁ一緒に居たら私達が助ける立場に回ることは多いですが、人間いつ障がい者になるからわからないのでお互いさまです。助けるのは自分に余裕のもてる範囲でいいと思いますけどね。……まぁ、うざい理想論の説教はここまでにして、三人目です」
桜井君、と佐藤が言うより先に。大奥はバンッとテーブルを叩いて苦い顔をした。
「桜井か! 玲とかいう美しい名前と顔にアタシは騙されたわ! 美少年に悪い子はいないと思ったのにぃ!」
「……先生…それは…」
「私も人の事は言えませんが、大奥先生もいい年こいて本当に気持ち悪い偏見の持ち主ですね。ロリオ先生といい勝負です」
佐藤と昭子は呆れたような冷やかな目で大奥を見ると、再び向き直った。
「その桜井君ですが。彼のご両親は弁護士です。正面から戦って桜井君の全面敗訴を勝ち取るのは無理です。示談しかありません」
「示談? 散々田中さんにあんなに酷いことしといて! 今回の件なんか殺人未遂じゃないか! それに今回きっちり罪を償わせないとまた被害者が出るんだよ!!」
大奥は身を乗り出して強く熱く佐藤に訴え、続いて昭子を見る。彼女はずっと苦し気に俯いたままだ。佐藤は溜息を吐くと、少しだけ苦々し気に言った。
「大奥先生の仰る通りです。しかしああいうタイプは死んでも改心しませんよ。反省したフリをするだけです。まぁロリオのことはそれなりに尊敬しているように見えますし、高学歴の人間の言うことは聞くのでしょうが。……話を戻します。とにかく両親が権力者で外面が良い桜井君を追い詰めるのも難しいし、追い詰めすぎれば逆恨みされかねません。彼の腐った根性なら確実に逆恨みして復讐をしてくるでしょう。それに未来の被害者なんて知ったこっちゃありませんよ。私達は目の前の生徒を救う事に集中しないといけません。……と、私は考えているのですが、田中さんはどう思いますか? これは貴方の問題です。貴方が答えを出さなきゃいけません。」
佐藤に促されて顔を上げた昭子だが。相変わらず暗い顔のまま押し黙っている。……数十秒の沈黙の後、やっと彼女は口……感情の扉を開いた。
「……もう、何もかもいやです。何も考えたくないです! お母さんもお兄ちゃんもみんな嫌い!あんな奴等しんじゃえばいい!! なんでこんな目にあわなきゃいけなのかわからない!!」
涙も鼻水も流して流して泣きわめく。テーブルをバンバン叩く。おまけに貰って来た新聞もビリビリ破いてなんで! なんで! と叫ぶ。大人しい彼女らしくない行動にあっけにとられる大奥。一方佐藤はそんな昭子の背中を軽くさすり。一分程経ってから口を開いた。
「ほかに言いたいことはありますか。聞いてあげるから今吐いてしまいなさい」
「桜井もぶん殴ってやりたい! ぶっころしたい! 体中に豆詰め込んで破裂してしまえばいい!」
「あとは?」
「お父さんもきらい!! 私達がめんどくさいって……だったらお母さんと結婚しなけりゃよかったのに!! バカだ!! 死ね! 死ね! 死ね!」
しゃくり上げる様にまた泣き始めた彼女を、あやすようにトントン叩き、うんうん、と頷きながら佐藤はは彼女の思いを聞き。少したってから口を開いた。
「あとは?」
「……ないです。ちょっと言い過ぎました……死ねとか…なんでそんなことを…」
言いたい事を言い終えた後の彼女は今度は自己嫌悪にとらわれ、また暗く俯いてしまった。隣でギャンギャン泣き出した大奥をトイレに閉じ込めた佐藤は、昭子を諭すように言った。
「そうですね。しんじゃえはまずかったですね。私も貴方の立場なら同じことを思いますけどね。それに世間は厳しい。例え本当に親のせいでも、親のせいというと白い眼で見られます。多くの人は貴方程酷い親なんて想像できませんし、酷い親を乗り越えた人間が苦労は宝だとか演説しますからね。乗り越えられた人間は全く悪気はないし、人として強くてまっとうで立派ですが、それゆえに未熟で弱い人間の心はわからない。貴方の気持ちは同じ立場で同じ強度の心の人間しかわかりません。悲しいですけどそうなんです」
絶望しきって虚ろな目になった昭子へ、佐藤は言葉を続けた。
「絶望しないで下さい。貴方には味方はいます。相手への復讐ではなく、正当な権利を掴む戦いをしませんか。四人目の敵は貴方の無責任で無慈悲なお父さんですが、五人目の敵は貴方の中の諦めがちな貴方です。ハッキリ言って手強いですよ。ですが、今ならきっと勝てます。本当のあなたはそこそこ賢くて、そこそこ善悪の判断が出来て、それなりに気が利く、中々見どころのある女の子です。今夜はゆっくり考えて、しっかり休みなさい」
「あ、あの私はお金がな……」
「出世払いでいいですよ。三人部屋ですから安いですしね」
佐藤はそういって穏やかに微笑むと、トイレから大奥を引きずりだした。
……二時間後。もう深夜。疲れたのか、佐藤達といることで安心したのか、すやすやと眠る昭子を見て、大奥は小さな声で佐藤に尋ねた。
「あのお母さんから田中さんを引き離せてほんとよかったねぇ」
「田中さんが思ったことをやっと言えて本当に良かったです」
泣きじゃくりながら、お願いです、一人にしてください、と迎えに来た母親に訴えた昭子を思いだし。佐藤は長いため息を吐き。大奥は涙を拭った。CD店でのことが日常茶飯事なら、ああも言いたくなるのも、さっきのように泣きわめくのも仕方ない。昭子のすこやかな寝顔を見て彼女達はそう思った。
「かわいそうに……でも何で思ったことを言うのにいちいち苦労するのかねぇ……。正直、今回の事件が起こるまでよくわからない子だなって思ってたんだよ」
「自分の考えが正しいのかとか、こんなことを言って嫌われないのかとか、悩むからでしょう。肯定された経験が無いから、自分に自信が無いんでしょうね」
そうだね、と頷いた大奥は、佐藤を見て首を傾げた。
「自信過剰で意地悪な佐藤先生がよくわかったねぇ」
「私も一時期、自信を失った時期がありましたからね。自分の何もかもが間違っていたと悩んで悔やんで……償いきれないほどの罪を犯しましたから……」
「な、なにやったんかい? とりあえず田中さんの悩みの解決のメドが立つまでは追及しないけどさ……」
「内緒です」
目を見開いて驚く大奥の問いを遮るように布団を被って佐藤は目を閉じた。
……二人が布団をかぶり直す前から、昭子は夢を見ていた。今までの辛いこと、そして……お見舞いに来てくれたらしい梨々香達からのメールを思いだした。
また家に招いてくれるという梨々香、昭子と同じクラスの友達からノートを借りてコピーしてくれたという陽子、見舞いにポエムを書いたというありがた迷惑な和泉。そして……。自分もつい数日前まで体調を崩していたのに見舞いに来てくれた峰子。
……峰子ちゃんは大丈夫だろうか。なんでまだ出会って一月の自分にここまでしてくれるのか。いろんな心と疑問がマーブル模様になった昭子だが、プリクラをとった時のみんなでの誓いを思いだした。
『ブスでもバカでも、絶対楽しい高校生活を送ろう! そしてエラソウでムカつく佐藤先生を見返そう!』
そうだ。私はこれから楽しい高校生活をみんなと送る。絶対に。
……次の日の朝。昭子は一番早く起きて身支度すると、包帯にマジックで「必勝」と書き込んだのだった。