ワタシと・・・
彩音ちゃんはお風呂に入る前に、「顔を剃りたいから・・・」という理由で母親にカミソリを借りてきた。
そして、それを持ってお風呂に入る。
もちろん、カミソリを借りた理由は、“顔を剃るため”なんかではなく、“自殺をするため”・・・。
しかし、そんなことに気付くはずもない母親は、彩音ちゃんのためにカミソリを渡した・・・。
そして、彩音ちゃんが死んでから後悔をするのだろう・・・。
それは、木村と同じように・・・。 いや、木村よりも、もっと―――――。
さて、今、彩音ちゃんはお風呂の中で歌っている。
それは言うなれば、自分へ送る鎮魂歌。
彩音ちゃんは誰も自分のために歌ってくれないことを思い、歌を自分のために歌う。
なんと健気なのだろう・・・。 それが、自殺へ向かう者の姿勢だろうか?
――私は少しだけ彩音ちゃんに感心した。 だが、想いは変わらない。
変えることはできない。 後戻りなんて、今更できないんだ・・・。
だから、私はもう一度、覚悟を胸に彩音ちゃんの耳元で囁いた。
私「死になさい・・・」
「私のために、自分が楽になるために死になさい・・・」
そう言うと、彩音ちゃんは私の合図を待っていたかのように勢いよく手首を切った。
溢れ出る血。 真っ赤な真っ赤な色をした。
溢れ出る血。 お湯と混ざり合って、じんわり微かに薄くなる。
溢れ出る血。 それは涙も赤く染める。 湯船に垂れた、一筋の涙。
温かい身体。 それは徐々に冷たくなっていく。 お湯が冷めるように。
温かい身体。 それはすでに冷たくなっている。 心が冷えているために。
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彩音ちゃんが急に私の前に現れた。
それは、少し透けた身体で・・・。 そう、幽霊の身体で・・・だ!!
そして、少し透けている私と真っ赤な湯船に浸かっている自分の身体を眺めている。
それから、私の目を見て、静かに口を開いた。
彩「私って、死んだの?」
「それか、楓花は生きてたの??」
それは、自分と私に対しての素朴な疑問。
だから、私はその答えを教えてあげた―――。
私「ううん、私も彩音ちゃんも死んでるよ?」
「そして、私は今から“成仏”するの・・・」
「だって、彩音ちゃんを殺したから♪」
「木村がね?言ってたのっ!!」
「俺はお前を殺したから“成仏”できるって!!」
「だから、私も誰かを殺せば“成仏”できるってことなの!!」
「それで・・・彩音ちゃんを殺したってわけ・・・」
「Est-ce que vous pouvez comprendre?[訳:意味わかる?]」
彩「えっ?どういうこと・・・?」
「楓花の言いたいことが、わかんないよ・・・」
「なんで、木村君の名前が出て来るの??」
「なんで、私が楓花に殺されなきゃいけないの??」
「なんで、私を殺したら“成仏”できるようになるの??」
「私には、楓花の言いたい事ががわかんないよ・・・」
私「あははっ!! そんなこともわからないんだ!!」
「彩音ちゃんは、《テルテル坊主の誘惑》っていう名前の都市伝説知ってる?」
「それについて考えれば、馬鹿な彩音ちゃんでもわかるようになるよ♪」
彩「・・・どういう・・・こと??」
「なんで、今それが関係あるの?」
「それに、なんで“ちゃん”付けなの??」
「わかんないよ・・・私にはわかんないよ・・・」
「ねぇ? なんでなの?? なんで私を殺したっていうの?」
「私、何か殺されなきゃいけないことした? 恨まれるようなことした??」
「ねぇ、楓花!! 答えてよ!! 私に解るように答えてよ!!!」
私「やーだねっ!!」
「私も、木村からそんだけの事しか聞いてないんだもんっ!」
「だから、後はそのスカスカの自分の頭で考えたら??」
「将也君にもフラれた、その出来そこないの頭でさっ!!!」
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