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没ネタ集

カゲヨリ

作者: 髪隠禿

立ち込める暗雲に怯えるように、月が、星が、その姿を眩ました夜。


不気味に寝静まる静寂の街の一角に、溶け込むような人形の影があった。


――――駄目だった!! 俺には出来なかった!!


膝を突き、固い地面を力の限り殴り付けた。身を焼く様な怒りに焦燥、自分の不甲斐なさに呆れ、重く深い後悔に苛まれる。


喉の奥から嘆きの音が滲み出た。


あと一歩、あと一歩だったというのに。


長い間、五十年以上の時を費やして準備してきた、父から託された悲願の計画。


調査に調査を重ね、万全に万全を期し、絶対的な自信を持って挑んだ此度の計画の実行。


然し、それでも…………失敗した!!


全てはあの男の掌の上だった。最も信用していた忠臣は、あの男によって送り込まれた身中の虫であった。


自分に付いてきてくれた部下を、共に歩んできた友を、仲間を、永遠の愛を誓い合った最愛の伴侶を……全てを失った。


得たものはなにもなく、自らの腕から零れ落ちて行く、掛け替えのないもの達を、唯眺めていることしか出来なかった。


見渡す限り広がる、深い闇の様な空を見上げ、男は一瞬、漆黒の瞳に自らの心を写した様な錯覚に捕らわれた。


――――このまま終わって堪るものか!!


心中で憎悪の炎が滾る。


自分では無理だった。今回は失敗だった。


だからどうした。今回が駄目ならば次回成功させれば良い。


然し、残念ながら自分は限界が近かった。ならば、自分以外のものに託せば良い。


そうだ、種を巻こう。反逆と崩壊、我が絶望と憎悪を秘めた種を。


それは、男に許された最後の足掻きで、然れど男には限りなく妙案に思えた。


男は遠い空に伸ばす様に、血に(まみ)れたその腕を、天へと掲げた。


――――種よ、芽吹け!! 肥えろ!! あの男に、あの男の治めるこの国に、絶望を届ける身中の虫となれ!! 奴の血を絶やす、死神の鎌となれ!!


掲げた掌の上に、闇より黒い影が集まりだし、ついには球形を為した。


「必ずや、貴様の一族に終末を届けて見せるぞ、白き怨敵共よ!!」


男の叫び声を引き金に、影の玉は天空高く打ち上げられた。


上昇を続け、空を満たす暗雲にも届こうかという時、影は幾十の小球に分裂し、急激にその進路を反転させる。


まるで畑に種が蒔かれる様に、影の小球は街全体へと降り注いだ。

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