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人魚姫  作者: 霜月黎夜
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 空も海も蒼く、心静かにただ歩く。

 視界の先に、大陸が見えたきた。白い砂浜が、キラキラと広がっている。

 人間と人魚は共通して、そこを“人魚浜”と呼んでいた。

 砂浜の左右にはそれぞれ岬があり、向かって左の岬には館がある。それは、人間と人魚の交流があった時代から存在した。

 一方、右の岬には人為的な物がない。林の中から鼻を高く突き出しており、その岬の下に自然のアーチがあった。

 アーチを潜ると、“人魚の椅子”と呼ばれるいくつかの岩がある。海上に突出したそれは、ちょうどソファような形とスツールのような形をしていた。

 遥か昔、人魚たちがそこに座り、“集いの席”と呼ばれる空間に人間たちが集い、二つの種族が交流していたのである。

 それらの過去を透かすように、謎の人は顎を引いた。

 海面に波紋を描き、ひとつしかないソファ形の“椅子”にそっと腰掛ける。足を組み、顎に手を宛がった。

 まるで過去に耽るような、そんな恰好で、細く細く息を吐き出す。



 ルーシャンを部屋から追い出した小瑪は振り返り、壁に掛かる絵を見つめた。

「…何も知らない……」

 コツ、コツ、と、亀の如くのろく、絵の前へ歩いていく。

「…近くに、いるのか?」

 服の上から、鎖骨の中心を押さえた。

 胸は熱く、いつまでも焦がれる。

 ルーシャンの言う通り、小瑪は待っている…愛する人を。

 小瑪の、望みは……

「…エミール」

 絵の中に存在する銀色の人魚は、あの時のまま……



 ◇◆◇◆◇◆◇



 デゼロの死は、生々しく、小瑪の腕に遺っている。

 親友が、手も、声も届かない処へ逝ってしまって、悲しくない…と言える人はいるのだろうか。

 小瑪は、彼の死を悼んだ。静かに、騒ぐことなく…

 親友は、デゼロだけ…胸にはポッカリ穴が…彼はもう、どこにもいない。

「…こんな状態カタチで別れたくはなかった」

 以前よりも広く感じられる部屋で、ソファに沈み、両掌を見るともなく見ていた。

「いずれ、別れがあるとは、判っている…だが、こんな、すれ違ったまま…」

 ぐっと拳をつくり、わだかまった感情をどうすることもできず、深く頭を垂れる。

 首筋にかかる髪は、喪を彩っていた。

「…俺が、記事を気にしなければ、すれ違いはなかった…」

 顔を上げれば、親友の死の原因であろう銀色の人魚が微笑んでいる。

「だが、あれは、親友ともの身を案じたからだ…!」

 この絵が実物通りであるなら、人々が騒ぐのも無理はない。人間には決してない完璧な美を有し、それでありながら近寄り難さがなく、愛らしくあった。

 ―――本当に美しい人魚でね、一度見ておくといい!

 小瑪は薄く微笑を洩らす。

「…そうだな、会ってみようか…お前が薦めるのだから…」

 立ち上がり、歩み、銀の額縁に触れた。

「俺でも、皆と同じように、この人魚に心奪われると思うか?」

 皮肉った質問を親友に向け、コツと踵を鳴らす。


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