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人魚姫  作者: 霜月黎夜
12/46

 ルーシャンはひとつかぶりを振った。

(…それにしても、広い屋敷……物が少ないから、とても)

 ゆっくりと首を巡らせる。と、すぐ近くにあった扉が、目に留まった。

 また、好奇心が疼き出す。

(…ちょっと、覗くだけ)

 …その扉も鳴いた。

 開けた途端、ムワッと、埃と湿っ気がルーシャンを襲う。

 慌てて、口を守ったルーシャン。

(―――……)

 部屋の有様は、そう、整然としているのだが、“塵も積もれば山となる”を実現してしまっている。一体、埃は何センチあるのか…

(…スゴイ部屋。でもここだけなの、かも……)

 と、思ったが、小瑪の言葉を思い出す。

 ――…ここが一番マシな部屋。

 他の誰でもない、小瑪が言ったのだ。

 ルーシャンは、左にある扉を見た。借りている部屋と、今見た部屋の間にある扉。

(…ここは)

 ノブに手を掛け、

 キイィ、パタンッ…

 薄く開いて中を見て、一秒が経つか経たないうちに扉を閉めた。

(ここも、埃…!)

 次に、後ろの扉を振り返る。

 キィ、パタンッ

(埃!)

 次は、その右横、ルーシャンが借りている部屋の向かい。

 ギ……

(……)

 ルーシャンは安心すべきか迷った。

 そこは書庫のようなもので、埃は言うほどないが、書物で埋め尽くされている。壁一面に並んでいる本棚は、窓まで隠してしまっていた。その本棚に入りきらず、足の踏み場もなく、書物が床に溢れている。とにかく、何百何千冊という書物が突っ込まれていた。

(――…)

 大量の書物に圧倒され、扉を閉める。

 ルーシャンは、そこから向こうの廊下の端まで歩き、左手側にある扉の前で止まった。

 キュイィ……バタンッ

(ダメ、埃!)

 へぅ、と、呆れて肩を落とす。

 小瑪のために掃除をしてあげようかと思ったが、気持ちがとうに萎えてしまっていた。

(小瑪は独りだから、部屋はひとつでいいと思ったんだわ。私が来るなんて、思いも寄らなかったでしょうね……)

 ルーシャンは、カーディガンをパタパタはたき、埃を払う。

(…じゃあ、小瑪はどこで寝ているのかしら? 唯一の部屋は、私が使うことになってしまったから……)

 思い至り、左斜め後ろを肩越しに振り返った。

 まだ見ていない、最後の扉。

(……ここかな?)

 二階にある部屋の中で、一番広そうな部屋。

(どんな部屋だろう…)

 恐る恐る、ノブに手を掛け――

(?)

 扉はビクとも動かなかった。

(あ…)

 鍵穴がある。

(ここだ。ここの鍵なんだ…)

 ルーシャンは階下を覗き、耳を澄ました。

(…小瑪はまだ帰ってこないよね……)

 ゴクリと唾を飲み、鍵を取りに戻る。

 …真紅の薔薇が嗤った。ルーシャンの行為がとてつもなく愚かだと――白い茨が、秘密を守ろうとする――暗い底には、鍵が横たわり、成り行きを傍観していた。

(…鍵が掛けられているのは、誰の立ち入りも拒んでいるから。そこにある秘密を、私は暴こうとしている……ううん、秘密なんてないのかも…ただの部屋かもしれない。小瑪の部屋…)

 心臓をバクバクさせ、鍵を握り締める。

(知りたい。私は、真実を…小瑪を…)

 最早、どんな気持ちよりも好奇心が勝っていた。

(小瑪はまだ帰ってこない。ちょっと見るだけ…黙っていれば、大丈夫)

 ルーシャンは、玄い箱に背を向ける。

 ルーシャンの悪い癖…好奇心に勝てず、高を括る。そのせいで、人間に捕まったというのに、少しも直らない。

(何が、あるのかしら…)

 鍵を、鍵穴へ――

(やっぱり、ここだった…)

 時計回りに、鍵を動かす。

 カチッ…――――

 …扉は、鳴かなかった。


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