来訪者
玄関のドアを開いた先に待っていたのは…
「…久しぶり、連絡もしないでいきなり来ちゃってごめん。どう?夏休み、満喫してる?」
同じ中一の同学年で、元人魚水球クラブの仲間の内の一人、桂木 修平くんだった。
「桂木くん!?久しぶり!どうしたの?…まぁ、入って」
あたしは少し驚きながらも、桂木くんを招き入れながら、そう言う。
桂木くんは
「じゃあ…お邪魔します」
そう言いながら靴を脱いで、それをしっかり揃えると
「風間コーチのこと…連絡網が来て…」
声のトーンが暗くなる。
「うん…突然のことでびっくりしたよね…」
そう言いながら二人一緒にリビングへと向かうと、あたしは桂木くんに椅子を勧め、自分は飲み物を入れるため、キッチンへ向かう。
「オレンジジュースでいい?」
あたしがリビングの桂木くんに声を掛けると
「あ…、お構いなく」
そんな桂木くんの声が返ってくる。
あたしは冷蔵庫から取り出した、果汁100%のオレンジジュースを手早く二つのコップに注ぎ入れながら…他の飲み物を、氷入りで頼む誰かさんとは大違い過ぎる…。
そんなことを考えつつ…トレイにその二つのコップ載せると、急いでリビングへと向かった。
「はいどうぞ」
オレンジジュースを桂木くんの前に静かに置く。
「ありがとう。いただきます」
桂木くんは丁寧にそう言ってから微笑むと、オレンジジュースを一口飲んだ。
「中学校のほうは、どう?」
あたしが桂木くんの正面の椅子に腰掛けながら、尋ねると
「うん…まぁ、普通…かな?でも正直言うと、健太や美心ちゃんと一緒の中学校が良かったかなぁ…って」
桂木くんはそう言ってから、また微笑む。
…ほんわりとした雰囲気で、誰にでも優しい、誰からも好かれる桂木くんは、小学校はあたしと健ちゃんと同じだったのだけれど、中学校からは私立のお坊ちゃま学校の受験に合格して、あたしと健ちゃんとは別の学校へと通っていた。
「会うのは、小学校を卒業して以来かもね」
あたしがそう言うと
「うん…本当にごめん、突然来ちゃって…。でもどうしても風間コーチのことが気になったから…。美心ちゃんのお父さんは確か…刑事さんだったと思って。何か…知ってるのかなぁ…って」
桂木くんは申し訳なさそうに言う。
「ううん、そんなんじゃなくて!全然大丈夫!!あたしは夏休みでゴロゴロしてただけだし…一人きりでお留守番で、丁度話し相手も欲しかったところだし!」
せっかく来てくれたのに、申し訳なさそうにしている桂木くんを見て、何だかあたしのほうが申し訳なくなってきて…必死になってそう言い繕いながら、あたしは続ける。
「あたしもそんなに詳しくはないんだけど…桂木くん、ほら覚えてる?プールに慣れるために、たまにみんなでやった “タイル取りゲーム” のこと」
「あっ…うん、プールの底にある色付きのタイルを潜って取って来るゲームだよね?」
「そうそう、そのゲーム。どうやら風間コーチは、そのゲームをしている最中に溺れて…亡くなったそうよ。お父さんは事故死だ…って」
「そう…なんだ…」
桂木くんは、あたしの話しを何か考え込むように聞いていると
「…健太も、その場にいたの?」
次の瞬間、そう言った。
「…えっ?あっ…うん」
あたしは頷きながら
「健ちゃんは…小学校を卒業した後もコーチ補助みたいな感じで、水球クラブを手伝いに行っていたみたいだから…」
そう応えると
「そっか…」
桂木くんは思い詰めたように頷くと
「自業自得…なんだ…。健太に感謝しなきゃ…」
そう呟いた。
「…えっ?」
あたしが驚いて、思わず声を出すと。
桂木くんはいつもの優しい雰囲気に戻って
「ううん…何でも…ない」
そう言って静かに微笑んだ…。




