幼なじみ
あたしは健ちゃんをリビングに通すと
「オレンジジュースでいい?」
そう言いながら、自分はキッチンにある冷蔵庫へと向かう。
健ちゃんは、リビングの椅子に腰掛けながら
「この猛暑の中、歩いて来たんだぜ?氷入りカルピスでよろしく!」
…なんて言う。
猛暑の中、歩いて来たって言うけど…。
健ちゃんの家とあたしの家…片道5分もかかんないじゃない!本当にもう!!
…なんて思いつつも、あたしは
「はいはい」
そう言いながら、冷蔵庫からミネラルウォーターとカルピスの原液を取り出して、カルピスを作り始める。
そんなあたしに向かって健ちゃんは
「 “はい” は1回!…だろ?」
なんて偉そうに言ってくる。
あたしは冷蔵庫から氷を取り出して、作ったばかりのカルピスの入ったコップの中にいくつか入れると…それをトレイに載せて健ちゃんが待つリビングへ…。
そして健ちゃんの座っているテーブルの前に、その氷入りカルピスをトンッ!と置くと
「はい!」
とキツめな声で言ってから、健ちゃんを少し睨んだ。
そんなあたしを見て健ちゃんは
「か、軽いジョークじゃねぇか…。こんなことで怒んなよ…」
と少しビクついている。
その様子に、あたしは何だか心が暖かくなって…
「怒ってないわよ。軽いジョークじゃない」
そう言い返して微笑んだ。
そしてあたしは、健ちゃんの正面の椅子に腰掛けると
「…それで、風間コーチのことなんだけれど…」
話題を切替えるように、言う。
健ちゃんは、飲んでいたカルピスのコップをテーブルの上に置いてから
「うん…山口にも以前、少しだけ話したかもしれないけど…俺さ、小学校を卒業しても、たまに水球クラブにコーチ補助として手伝いに行ってたんだ。今日の午前中もそうだったんだけど…山口覚えてる? “タイル取りゲーム” のこと」
…中学に入ってから、健ちゃんはあたしのことを声に出しては “美心” とも、あだ名の “み~ちゃん” とも呼ばなくなっていた。
そして気がつけば…あたしのことを苗字の “山口” と呼ぶようになっていて…。
そしてあたしも気がつけば、健ちゃんのことを二人以外のときと、親しい人の前以外では “高崎くん” と、健ちゃんの苗字で呼ぶようになっていた。
「タイル取りゲーム…確か、プールの底に落ちてる色付きのタイルを拾うゲームのことだよね?」
あたしがそう言うと、健ちゃんは頷きながら
「そう、それ。それを風間コーチと生徒のみんなで一緒にやってて、その最中にコーチが溺れて…」
健ちゃんはここで、一呼吸置くと
「…そのまま亡くなったんだ」
そう言ってから、あたしを真っ直ぐに…見た。




