突然の死
「…美心、起きなさい、美心」
お母さんの声が、手が、あたしの鼓膜を…身体を…揺さぶる。
眠気眼で、ベッドから起き上がってみれば
「おはよう…というか、もうお昼過ぎよ。一体いつまで寝てるつもり?中学生になってから、初めての夏休みでしょ?しっかりしなさいよ」
お母さんはそう言ってから、あたしの部屋のカーテンをゆっくりと開ける。
「…おはよう」
あたしが目を擦りながら、まだ半分眠っている脳ミソで居心地の良いベッドの中から、そんなお母さんの様子を眺めていると…。
…あれ?何だかお母さん、いつもと雰囲気が違うような…?
普段は、お気に入りの可愛いヒヨコの柄が入った、黄色いエプロン姿のはずなのに…今日は、黒。
うん、やっぱり黒は、女を美しく魅せるっていうからね。
お母さん、何の変化かイメージチェンジ?
…ぅん?よく見ると違う。
…あれれ?お母さん、喪服姿?
少しはっきりしてきた脳ミソが、活動を“ON“に切り替える。
「お母さん、その格好…。誰か…亡くなったの?」
あたしは布団の中から抜け出すと、ベッドに腰掛けながら尋ねる。
「そうなのよ…美心、落ち着いて聞いてね。さっきね、人魚水球クラブの三枝コーチから電話で連絡があってね…。風間コーチが亡くなったって…」
「…えっ!?風間コーチが…?なんで?どうして?」
パニくりそうな自分を何とか抑え込みながら、あたしはそう言ってお母さんを見つめる。
お母さんは、そんなあたしの隣りにゆっくりと腰掛けると
「お母さんもさっき聞いたばかりでね。あまり詳しくはないんだけれど…。どうやら、水球クラブ活動中での事故死らしいわ」
そう言って、あたしの頭の上に優しく手のひらを置く。
「何でも、タイル拾いゲーム?…が原因とか…。プールの中で亡くなったらしいわよ」
静かに、そう続けた。
…風間コーチが、死んだ。
若くて爽やか、絵に描いたような体育会系のイケメン。
確か今は、大学の四年生だったはず…。
あたしが水球クラブに在籍していたときには、保護者からも他のコーチからも、とても人気があって、信頼もあって、面白くて、明るくて…。
…そんな風間コーチが、死んだ…。
「それでね、美心。美心はもうお世話にはなっていないといっても、やっぱりお母さん、手伝いに行こうかと思って…。健太くんのお母さんと一緒に、これから風間コーチのご自宅に行って来るわ」
お母さんはそう言うと、あたしの頭の上に置いていた手のひらで、あたしの頭を軽くポンポンと叩くと
「さあ、お母さん出掛けるから、さっさと起きてちょうだい。ご飯は一階のテーブルの上に置いてあるから温めて食べてね。それとお父さんはお仕事で出掛けているから、お留守番しっかり頼むわよ」
そう言って、部屋を出て行った。
あたしは何だか信じられない気持ちで、風間コーチの日に焼けた笑顔を、透き通った声を、思い出して…いた。




