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もう一つの幼なじみ

あたしのことを真っ直ぐに見つめている…三枝コーチの瞳の奥にあるもの…。

あたしはそれを探し出すように、見つけ出すように、そっと…唇から発した言葉は、自分でも意外なものだった。


「…あたし、何となく三枝コーチの気持ちが…分かるような気がします…」


あたしがそう言葉を発した瞬間に、三枝コーチの瞳から大きな涙の粒がこぼれ落ちた。

…あたしはポケットから花柄はながらのハンカチを取り出すと、三枝コーチにそっと差し出す。


「…ありが…とう…」


三枝コーチはそう言って、あたしからハンカチを受け取ると、それを両頬にてがった。


…。

風間コーチと三枝コーチの関係は…どこか健ちゃんとあたしの関係に、似ている…。

なぜか腐れ縁で、小さい頃からずっと一緒の…幼なじみ。

いつも隣りにいるのが当たり前で…でも友達以上 恋人未満…。


その大切な幼なじみが、自分とは全く違う世界にいると知ったとき…。

そして…その世界から逃れ切れず…。

そのことで、他の誰かを苦しめ、悩ませ、悲しませ、怒りをかっているということを知ったとき…。


三枝コーチは、選んだんだ。


風間コーチを…大切な幼なじみを…自分の心の中だけで “キレイに生き続けさせる” という方法を…。


…ふいに、健ちゃんの真剣な顔が脳裏を横切る…。


もしあたしが、三枝コーチと同じ立場になったとしたら…。

あたしも、三枝コーチと同じ事をしたのだろうか…?


「…でも…私、罪を…おかしたのよ…」


溢れ出る涙をハンカチで押さえながら…三枝コーチは弱々しくそう言って、続ける。


「…あのとき、おかしいな?…と思ったあのとき…私がゲームを中断していれば…プールの中に飛び込んでいれば…でも、私はそれをしなかった…。それに…私、美心ちゃんのお父さんに事故のときの様子を聴かれたときに、良介の体調があまり良くなかった…なんて、嘘まで付いたわ…」


あたしはあわてて


「でもそれは、健ちゃん達を…水球クラブの生徒達を守るための嘘ですよね…それなら…」


“…それならきっと、仕方がない…”


あたしがそう言おうとしたのを、三枝コーチは遮るように


「いいえ、それは違うわ…。私は良介を…良介をただ単に、永遠に、自分だけモノにしたかっただけ…。そして…そのさいも、大好きだった水球の…プールの中で、殺人ではなくて…事故死としてむかえさせることが出来そうな、このチャンスに…けてみただけ…」


そう言って、三枝コーチは視線を絨毯の上に、ばら撒かれたUSBメモリに向けると


「このおぞましい撮影記録を…水球クラブの男の子達全員を苦しめ続けた、この撮影記録を…どうして良介の部屋から、私の部屋に持って来たと思う…?」


あたしは無言で、左右に首を小さく振る。

三枝コーチは寂しげな顔で、そんなあたしを見つめると


「私と水球クラブの男の子達…生徒達以外には、誰にもその真実を知られないように…素敵な爽やかなイメージのままの“風間 良介”で、いさせてあげたかったからなのよ…」


三枝コーチはそう言ってから、ハンカチではぬぐい切れない涙に濡れた顔のままで…どこか満足そうに微笑んだ…。

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