マンションの前で
“○○町3丁目108番地 グランドハイツホワイト 202号”
手のひらに握りしめた、三枝コーチの住所が書れているメモをポケットにしまい込むと、あたしは目の前にそびえ立つ、その名前の通り真っ白なマンションを見上げていた。
あたしの家から数十分の距離…。
案外近かったんだ。
あたしは手のひらで、軽く両頬をピシャッと叩くと
「よし!」
そう声に出してから、三枝コーチの住むマンションの中へと、一歩を踏み出した。
自動ドアが開いて、もう一枚のドアはオートロック。
あたしは近くにあった呼び出し機で、三枝コーチの部屋のナンバーを押すと、応答を待った。
…どうしてか分からないけれど、とても胸がドキドキとする。
呼び出し音を聞きながら、あたしはなぜだか左手で胸の辺りを押さえていた。
勢いで、家を飛び出して来たのはいいものの…。
よくよく考えてみれば、三枝コーチにどういう風に話していいのか、分からない…。
もし今でも二人が付き合っているとすれば、ただでさえ彼氏である風間コーチの突然の死を、まさにこの瞬間に、悲しんでいるはずなのに…。
そこに…風間コーチの隠された秘密を聞き込もうとしているあたしが、いる。
…もし、三枝コーチがそのことを知らなかったとしたら?
ただ単に、三枝コーチを傷つけることになるだけなのでは…?
…ふと健ちゃんの顔が、桂木くんの顔が、脳裏を過る…。
弱気に、ならないで…どんな些細なことでも、いい…。
あたしは本当のことが知りたいんだ…。
それでもそのことに…三枝コーチを巻き込んでしまってもいいものなのだろうか…?
揺れ動く気持ちの中…三枝コーチに会いに来たことを、安易に呼び出しボタンを押してしまったことを、あたしが少し後悔し始めた頃…。
「…はい、どちら様…あら!?美心ちゃん?美心ちゃんなの?」
三枝コーチの明るい声が、呼び出し機のスピーカーのようなマイク部分から聞こえて来た。
あれ…あたしの姿、見えてるんだ。
ふとよく見れば、呼び出し機には覗き穴のような小型のカメラが付いているのが分かる。
ああ…それで…あたしの姿が見えてるのね!…なんて納得してる場合じゃなくて。
…せっかく、ここまで来たんだもの。
会って話していくだけでもいいよね…。
あたしは呑気にそう自分に言い聞かせてから、急いでそのマイク部分に顔を近づけると
「こんにちは!お久しぶりです。こんなときに突然…すみません」
そう言って、カメラに向かって小さく会釈をした。




