プリンと彼女
桂木くんが帰った後、あたしは当初の目的通り…。
冷蔵庫から取って置きのプリンを取り出して、リビングの椅子に一人座って、それをモクモクと…まるで機械が何かの作業をするみたいに、スプーンを動かしながら食べて、いた。
小学校五年生、六年生の二年間ずっと…人魚水球クラブに通っていたあたしのことを、風間コーチから守ってくれていた健ちゃん…。
そして…あたし以外の健ちゃんを含めた男の子達全員が風間コーチから受けていた残酷な事実…。
そのことを思うと胸の辺りが痛くなる…。
…ううん、張り裂けそうに、なる。
それでも…風間コーチの日に焼けた爽やかな笑顔を思い浮かべる度に、どこかでそのことを信じ切れないあたしもいる…。
でも…桂木くんは嘘を付くような人じゃない。
仮に嘘だったとしても、こんなことを話して一体誰の得になるのだろう…。
“…言いたくても、言えなかったんだよ。風間コーチはあの倉庫の中に、隠しカメラを仕掛けていて…その行為の一部始終を記録していたから”
ふいに…桂木くんの言葉が、頭の片隅に甦る。
“行為の一部始終を記録…?”
…じゃあ、その記録していたモノは今どこにあるの?
プリンをすくっていたスプーンの動きが、あたしの手が、止まる。
そして突然、ある人の言葉が…脳裏に浮かび上がって、来る…。
“美心ちゃんとは、たった二人の女の子同士だもの、仲良くしようね”
…どうして今、三枝コーチのことを思い出す…の?
“男の子達には内緒ね。実は私、風間コーチと付き合ってるの…”
あたしはハッとして…どうして今まで思い出さなかったのだろう?
そうだ、風間コーチの彼女の三枝コーチなら、もっと色々なことを…。
その…記録したモノのことも含めて、何か知っているかもしれない。
…でも、この二年間で二人が別れている可能性は?
それでもここで、こうして何もしないで悩んでいるよりかは、全然いい。
あたしは容器の片隅に残っていたプリンの欠片を、スプーンも使わずに口の中に放り込むと…。
…急いで自分の部屋へと向かい、机の引き出しの中から人魚水球クラブのメンバー住所録一覧を取り出す。
「…あった!」
あたしは口に出してそう言うと、その中から三枝コーチの住所を確認してメモに書き移し、そのメモを握りしめ、手短に外出の準備を済ませると、家から飛び出した。




