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告白

“どんなに辛いことでも、本当のことが知りたい”


あたしはその想いを、真っ直ぐに桂木くんにぶつけた。


桂木くんは、そんなあたしから目を逸らすと


「…いや、僕は別に…」


そう歯切れ悪く応える。


でも、心を決めたあたしは、ただそんな桂木くんを見つめ…次の言葉を待つことしか出来なかった。


…。

……。

………沈黙の時間ときが流れる。

あたしにはその時間がもの凄く長く感じられたのだけれど、きっと5分も経っていなかったと思う。


「…独り言」


目を逸らしたまま、桂木くんがふいに…そう言葉を発した。


「今から僕が言うことは全部…独り言だから…」


あたしは何も言わずに、小さく頷いた。


桂木くんは心を決めたように小さく息を吐き出すと…ポツリポツリと話し始めた。


「…あれが、あれが始まったのは…人魚水球クラブに入って、半年くらい経った頃のことだったと思う。…丁度、今みたいな夏休みに入ってから、すぐくらいの頃。…そう、小五の…夏休み…。ほら、覚えてる?クラブが終わった後の器具の後片付け…風間コーチと生徒の一人がいつもそれをしていたこと…。そして…その後片付け役の生徒の一人を、いつも風間コーチが名指しで決めていたということ…」


桂木くんはあたしから目を逸らしたまま、まるで思い出すかのように遠くを見つめながら続ける。


「…器具の後片付けにしては、倉庫の中にいるかんが少し長かったよね…。しかも…後片付けをしない生徒達は、さっさと更衣室に向かわさせられて。…プールの横の倉庫の中に残るのはいつも…風間コーチと後片付けをするように名指しされた生徒の一人だけ…」


あたしはハッとして、桂木くんを見つめ直した。


「…そうだよ、まるで生贄いけにえみたいさ。僕達は毎週毎週代わる代わるあの倉庫の中で、風間コーチからご丁寧にご指名を受けて、悪戯されていたんだよ…」


驚くほど冷静に、桂木くんはそう言い切ると…よどみなく真っ直ぐにあたしを、見た。


「そ…そんなことって…」


動揺どうようしながら、やっと発したあたしの言葉をさえぎるように


「そんなこと、あり得ないって?」


そう言葉を発した桂木くんは、次の瞬間、ちょう気味に鼻で笑うと


「美心ちゃんが人魚水球クラブに入れたのは、外見が可愛らしい男の子みたいだったからさ。本来は少年専用の水球クラブだったからね」


「…でも…あたし…」


「そうだよね」


やはりあたしの言葉を遮るように、桂木くんは頷きながらそう言うと続ける。


「美心ちゃんは一度も、後片付けをしていない。美心ちゃんが名指しされるたびに健太が、何かに理由をつけて代わってやっていたからね…『美心は今日、体調が悪いから、俺が代わりに後片付けやります』…とか、『み~ちゃんは今日、早く帰らないといけないから、俺が代わりに後片付けやります』とかね…」


…。

…健ちゃんが身代わりとして、あたしのことを守ってくれて…いた?

…健ちゃん、そうだったの?

…健ちゃん、本当に?


…。

どうしてだろう…変なの…。

こんなときくらい…爽やかな笑顔の健ちゃんの顔を思い出したいのに…。

浮かんでくるのは不貞ふて腐れた顔や、そっぽを向いてるときの健ちゃんの顔ばっかり…。


あたしは居た堪れなくなって、声をしぼり出すように


「…ねぇ…どうして?どうして誰にも言わなかったの…?」


そう桂木くんに問い掛けた。

桂木くんはそんなあたしの問いに、首を小さく左右に振ると


「…言いたくても、言えなかったんだよ。風間コーチはあの倉庫の中に隠しカメラを仕掛けていて、その行為の一部始終を記録していたから…。それに…風間コーチは他のコーチや保護者からは、とても人気があって信頼もされていて…誰もそんなことを疑うことすらしなかったよね。…だから…だから僕達は、我慢するしかなかったんだよ…」


…。

…どう、言葉をかけていいのか。

そして…あたしの身代わりになってくれていた健ちゃんのことを思うと…あたしはどうすればいいのか…。


“分からない”


そんなあたしを見つめながら桂木くんは


「…本当はずっと、誰かに話したかったんだ。すべてを話すことで、少し楽になれるような気がして…。そう簡単に、すべてが終わったこととは割り切れないけど…。健太がずっと言ってくれていたから、『いつかみんなで、あいつを地獄に突き落としてやろうぜ』…って、『潜っているときにみんなで抑え込めば、あいつの息の根を止められるから』…って、そのことを考えるだけで、色々と頑張れた…。その日が来るのを楽しみに待つことが出来たから…。それなのに僕は、そんな大事な日に健太達と一緒にいることが出来なかった…一人だけ、健太達を裏切たんだ…」


そう言って、うつむいた。


「桂木くん…」


今のあたしには、名前を呼ぶことが精一杯だった…。


「美心ちゃん…刑事であるお父さんに話す?健太に…僕達全員に…風間コーチを殺す動機があったということを…。そしてそれを水球クラブのOBとして、コーチ補助として、実行することが出来たということも…」


あたしは首を小さく左右に振ってから


「心配しないで、約束したもの。…勇気を出して話してくれて、本当にありがとう」


そう言ってから、無理に微笑んで見せた。

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