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◆3日目―②◆

アイテム一覧を制作しました。

所持アイテムの能力や解説はこちらを見てください。

「ヴァリス、さん……」


 立ち上がって声の主を見たソフィアが、身体を強張らせる。何事かと振り返ると――屈強な男たちを周りに囲わせた、長髪の男が立っていた。

 その身体つきには無駄な脂肪がなく、一見細身に見えるがその実、よくよく見てみるとその身体は鋼の様な筋肉に覆われている。――その点から察するに、まず間違いなく一般人ではないだろう。

 だが、兵士崩れかとも思ったが、どうやらソレも違うようだ。ああいった人間たちが持つ独特の雰囲気オーラが一切感じられない。なんというか、……そう、チグハグな感じがする男だった。優れた力を手に入れた子供――とでも言うべきか? 精神と肉体が全く噛み合っていない、そんな感じ。

 俺の視線を感じたのか、ヴァリスと呼ばれた男は一瞬だけこちらを睨みつけてきた。――が、特にそれ以上どうこうするわけではなく、すぐに視線をソフィアへと移し替えた。その表情はさっきとは一転、とてもにこやかだ。


「久しぶりだね、ソフィア。――うん、相変わらず綺麗だ。日に日に美しくなっていく。……天国の兄さんも、きっと誇らしいだろうね」


 紳士的――少なくとも、俺よりは口調は丁寧だ――な口調だと思った。その美麗な外見を合わせて考えるに、さぞかし女にはモテることだろう。

 にも拘わらず、彼と相対しているソフィアの表情は優れない。叶うことならば、今すぐにでもこの場を離れたいとでも言わんばかりの表情だ。


「……誰だ?」

「――以前、ウチに所属していた決闘士デュエリストの方の一人です。もっとも、すぐに辞めていかれましたけど」

「嫌だな、ソフィア。アレは、キミのお兄さんのやり方に納得がいかなかっただけさ。僕は褒められて伸びるタイプだからね。彼のような泥臭いやり方は性に合わないのさ」

「……兄の悪口は、やめてもらえないでしょうか?」

「ああ、ゴメンゴメン。そういうつもりはなかったんだよ。ただ、僕と彼は合わなかった――それだけさ」


 そう言って、その無駄に長い髪をかき上げる。……見ていてイライラするな、こういう輩は。

 ヴァリスには内容が聞こえないよう、ソフィアに耳打ちをする。


「……とりあえず、軟弱野郎ナルシストだってことは分かったよ」

「ああいう性格ですから、ウチにいた頃は全く勝ち星を上げることができなかったんです。……今はどうだか知りませんけれど」

「――ところでソフィア、借金の返済の充てはできたかな?」


 俺達の会話に割り込むように――恐らく、故意だろうが――ヴァリスがソフィアに話しかけた。まるで俺のことなど眼中にないかのようだ。――いや、現に無いのだろう。

 ……軍人崩れになど用はないということか。

 その間にも、ヴァリスの足は止まらない。どんどんどんどんソフィアへと近づいていき――、ついには彼女の脇に立った。


「いえ、まだです。――ですが、先日興行師マッチメーカーの資格を取りましたので、近々返しに伺えると思います」

「へえ。お兄さんの跡を継いで、自分も興行師になろうって?」


 そんなことを口にしながら、ヴァリスはソフィアの肩に手を回す。


「――!? 放してくださいっ!」

「相変わらずツレないね。僕とキミの仲じゃないか」

「ふざけないでください! 誰が、赤の他人である貴方なんかと――!」


 ヴァリスの行動に、必死に抵抗するソフィア。だが、相手は腐っても決闘士。一般人の力程度で跳ね返すことなんかできるはずもない。

 それどころか、押し放そうとして出した右手を絡めとられてしまう。

 流石にこれ以上は見過ごせない。そう思い、ソファから立ち上がろうとするが……。


「……チッ。――俺の勘も鈍ったかね……」


 電磁警棒スタンロッドを身体中に突き付けられる。いつの間に近づいていたのか、ヴァリスが連れてきていた護衛達が自身の獲物を俺へと向けていた。

 警告のつもりなのか、スイッチこそOFFになっているようだが……、コレがONになったが最後、警棒から流れ出る電流はたちまちの内にこの身をこんがりと焼きつくすことだろう。

 これが銃などであれば、まだ対処のしようはあった。だが、電流が相手ではどうしようもない。舌を打ちつつ、ソファに再びどっかりと座り込む。

 せめてもと護衛の男たちを睨みつけるが、効果はなし。まな板の上の鯉を――いや、実験動物モルモットを見るかのような目で俺を見返してくる。……気にくわねぇ。

 護衛達の数は四人。一人で相対するには数が多すぎる。加えて、アレ(・・)は連続撃ち(ファスト・ドロウ)が出来るような品物ではない。……納得はいかないが、今はこの場を静観するしかないようだ。


 ……そうこうしている間に、向こうの方も状況が動いたらしい。


「――今、なんと仰いました?」

「ん? 聞こえなかったかな? ……キミと興行の契約してあげようかって言ったんだよ。優秀な決闘士であるこの僕がね。嬉しいだろ?」

「……話になりませんね。お引き取りください」


 両手をヴァリスに拘束された状態で、しかしそれでもソフィアは気丈に構えている。

 勿論、怯えなどとといった感情が無いわけではない。現に、彼女の瞳は動きが封じられたことに対するものか、微かに揺らいでいる――が、それでも彼女は頑なに振舞っていた。


「…………」


 その姿は、かつてのレナードを彷彿とさせるものだった。彼はどんな戦況においても、どんなに追い詰められても決して諦めることのない、強いハートを持っていたものだ。

 そしてその気丈な心は、どうやら彼女にも受け継がれているようだ。……これも血ってヤツ、かね?


「まあ、待ちなよ」


 だが、その程度ではヴァリスも折れない。彼女を拘束する腕に力を込め、それによってソフィアが苦悶の声を上げる。


「優秀な決闘士である僕が、無名の興行師キミと契約してあげようと言っているんだよ? 新人であるキミにとっては、とても喜ばしい話のはずだろう? そこは、首を縦に振るべきなんじゃないかな?」


 専属契約は無理だけどね、と付け加えながら、ヴァリスは更にその腕に力を込めていく。


「……!?」


 ミシミシと。彼女の細腕が軋む音がこちらにまで聞こえてくる。アレでは、いつ折れても不思議ではない。

 最早、コレが話し合いではなく脅迫に類するものだということは、誰の目から見ても明らかだった。

 そんな中、ヴァリスは彼女の耳に自分の口を近づける。

 

「キミには借金がある。ソレを返済するための資金が必要だ。……だけどね? 僕と契約して興行を回せば、大量のお金が手に入るんだ。知っていたかい? 僕の決闘士ランクは、Dにまで上がっているんだよ。……当然、決闘士のランクが高ければ高いほど、より多くのお金を回すことができることはキミも知っているよね? ――どうだろう、考え直してはもらえないかな? 僕はキミを、助けたいんだ」


 そう、耳元で囁く。時と場合さえ違っていたら、恋人同士の逢瀬かと間違われてもいいくらいの光景だ。

 ――だが、現実はその真逆。男は嫌がる女を押さえつけ、弱みに託けて自分と興行の契約をさせようとしていた。

 彼を止めたくても、俺の動きは電磁棒で封じられている。俺が動き出そうとしたが最後、身体を駆け巡る電流がこの身を焼きつくすだろう。つまり、手出しができないってわけだ。

 

「どうして……」


 彼女の唇が動く。


「どうして、そこまで私との契約に拘るのですか? 話を聞く限り、今の貴方は別の契約相手がいる様子。……わざわざ私と契約を結ぶ必要なんてないですよね?」

「ハハハッ、そんなことか。――簡単だよ、僕はキミを助けたいんだ。守ってあげたいと思っている」


 彼女の腕から手を放し、大仰に手を構えながら答えるヴァリス。……自己の世界に陶酔しているのか、目の前でソフィアがさっきまで押さえつけられていた手を痛そうに押さえていることにすら気づいていない。

 ……その様をみて、ヤツは子供だと感じた。自分の考えに酔い痴れた、子供。身に余る力を手にしただけの、子供。世界は自分を中心に回っているのだと言わんばかりの、余りにも幼稚な人間。

 一方的な自分の考え。それがただの押し付けであることに、ヤツはまだ気づいていない。


「――愛しているんだよ、ソフィア。初めて会ったときから、キミのことが好きだったんだ。……僕がキミを助けようとする理由、理解してくれたかな? 僕はキミを守りたいんだよ」


 ――軟弱野郎ナルシストは愛を叫んだ。

 それを受け、ソフィアはニッコリを花のような微笑を浮かべ、


「結構です」


 そう、力強く告げた。






「……ハハッ、よく聞こえなかったよ。すまないけど、もう一度言ってもらえないかな?」

「結構ですと言ったんです。私は、貴方と契約するつもりは一切ありません」


 こめかみに青筋を立てながら再度尋ねかけてくるヴァリスを、ソフィアは一言の下にバッサリと切って落とした。

 だが、彼女の口撃・・はここで終わらない。


「この際ですから言っておきますが……、私は貴方の気持ちにはとっくの昔に気づいていましたよ? ……ここに所属していた時は、毎日会う度に私の身体にその粘着質な視線を纏わりつかせてくれましたよね。正直に言いますと、全身を舐め回されているようで非常に不快でした」


 余程その思い出が不快なものだったのか、彼女はその表情を嫌悪に歪ませる。

 だからかどうかは知らないが、そこで言葉を止め、一息の深呼吸。それだけで、彼女の表情は和らいでいく。


「……だって――」


 彼女は、邪悪ニコヤカな笑顔でヴァリスに止めを刺した。


「だって――私は初めて会ったときから、貴方のことが大嫌いでしたから。……ついでに言わせていただきますと、私は三流物語のヒロインではありませんから、相手にただ守ってもらうだけの存在になんてなりたくないですね」


 ……ハハッ。

 声には出さないが、俺は思わず笑みを溢してしまう。

 あのお嬢さん、大したタマじゃないか。自分よりも強い存在にあれだけの毒を吐ける人間なんてそうザラにはいないぜ? 普通なら、間違いなく縮こまる。少し度胸があっても、あそこまでは言えない。


 ――気に入った。


 外見でも、人柄でもない。それよりももっと内面――それこそ、彼女の原点そのものに。


「――レナード。あんた、とんでもないヤツを残して逝きやがったな」


 恐らく、もう二度と会うことの叶わないかつての友へと語りかける。

 興行師の資格を取るくらいなのだから、彼女の知能は一級品だ。加えて、度胸もある。

 俺はまだ決闘士になって間もない新人(鼻垂れ坊や)だが、それでも、彼女が大成することは容易に想像できる。話に聞くかつての彼と同等、いや、それ以上の興行師になれるかもな。


 ――そもそも、俺の目的はなんだ?


 興行師との契約だ。それも、出来る限り優秀な興行師が望ましい。だからこそ俺はレナードを頼ってここにやってきた。


 ――生憎、彼はここにいなかった。だが、ソフィアはもしかしたら彼以上に輝くことができる宝石の原石なのかもしれない。気にはならないか?


 ……YES。


 ――そんな存在を、あんな軟弱野郎(キザ野郎)に取られてもいいのか?


 ……答えは、NOだ。絶対に、NO。


 ――だが、このままではソフィアは取られてしまうだろう。彼女にはこの状況に抗うだけの力(暴力)は持ち得ていない。決闘士ヴァリスが本気を出してきたら、いくらソフィアでも耐えきれない。


 となれば、やることは一つしかないな。俺は――、






「ハハ、ハッ、――アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!」


 突如、室内にヴァリスの哄笑が響き渡った。

 何事かと、この部屋にいる全員の視線がそちらへと集まる。


「そうか、そうかそうかそうかそうか。断る、か」


 何が可笑しいのか、顔に手を当てながら彼は尚も室内で一人、笑い続ける。

 ……そして、ゆっくりとその手が顔から剥がされた。


「――ふざけるなよ、小娘ぇ? ちょぉぉぉぉっと気にかけてやったくらいで、調子に乗りやがってぇぇぇぇぇ!!」

「カ――フッ――!?」


 刹那、彼の腕がソフィアに叩きつけられる。正確には彼女の喉を掴み、そのまま壁に押し付けたのだ。

 ……驚いた。今の速度は、並みの人間が出せる速度ではない。もしかしたら彼は、薬物投与による身体能力の強化を施された、強化人間ブーステッドなのかもしれない。

 まあ、この技術は別段珍しいものでもないから、言うほど驚きはしていないのだが。

 むしろそれよりも、ソフィアの体調の方が心配だった。壁に叩きつけられた衝撃と、首を締められる苦しさによるものか、彼女はパクパクと小さく口を開いている。


「なあ、もう一度考えなおせよ? 俺の女になれ。そうすれば、さっきの発言は見逃してやってもいい」


 そこには、人はここまで嫌な表情を浮かべることができるのかと逆に感心してしまうくらいに、憎悪と色欲と暴力による愉悦に歪み染まった笑みが浮かんでいた。

 さっきまでの口調は鳴りを潜め、今では荒々しい口調が表に出ている。成程、コレがヴァリスの素か。

 それを受けたソフィアは、弱々しくも笑みを絶やすことはなかった。むしろ、蔑む目線を送り返している。


「――フフッ。ほん、の、ちょっと前までは、守りたいと――っ言っていた人に手を上げるなん、て……。所詮、貴方の想いなんて、その、程、度だったんです、ね――――――!?」


 負けじと挑発を飛ばした彼女だったが、この状況でのソレは悪手だ。

 更に、腕に力が込められた。悪態を吐いていたソフィアだが、ついに言葉を発することもできなくなってしまったようだ。


「そうかよ。――俺の思い通りにならない女なんて必要ねえ。ここで死ねよ」


 そして、更にヴァリスの腕に、指に、力が込められて――。






「その手を放せよ、クズ野郎」






 ――そうなる前に、俺の銃が相手の後頭部に突き付けられた。

 『S&W M五〇〇〇』――それが、コイツの名前だ。人類がまだ太陽系から出ることすらできなかった時代から続く、武器の老舗中の老舗『S&W社』が作った、超がつくほどの大口径の拳銃だ。

 戦闘機、空中戦艦、機人ロボット……そんなヤツラを相手にすること前提で作られたこの銃は、人に向けるには十分すぎるほどの威力を持つ。例えそれが、強化人間ブーステッドだったとしてもだ。


「……邪魔をするなよ、テメエ。コイツがどうなってもいいのか?」

「お前がソフィアにどうこうするよりも早く、お前の脳漿がぶちまけられることになるぞ? それでもいいのか?」


 売り言葉に買い言葉。俺はゆっくりと引き金を絞っていき、


「――チッ……」


 絞り切る前に、相手が先に折れたようだ。拘束から解放されたソフィアが、ゆっくりと床に崩れ落ちていく。


「――カハッ――ハッ……ッ……」


 即座に欠乏しかけていた酸素を脳内に送り始めるソフィアを横目に、俺は後ろへと飛び退った。

 刹那。一陣の風が吹き荒ぶ。

 ヴァリスが、懐にしまっていた振動ナイフを振り返りざまに抜き放ったのだ。幸い、攻撃こそ躱したものの、上着の裾がズタズタに引き裂かれてしまった。くそ、俺の一張羅が。


「護衛の奴らはどうした? テメエが勝手に動き回らないように、しっかり見張っておけって言ってたんだがな?」


 ヴァリスの問いに、俺は背後の床を指して見せる。ヴァリスが哄笑を上げている隙を見て気絶させたヤツらだ。幸い、彼らの視線もヴァリスに集まっていたからな。隙を突くのは簡単だった。

 ついでに電磁棒も失敬させてもらった。まあ、慰謝料ってヤツさ。


「そこでオネンネしてるさ。……この星は夜になると結構冷えるからな。――風邪を拗らせる前に、連れて帰ってやった方がいいと思うぜ?」

「ケッ、役に立たねえな。――で? なんの用だよ。俺は今、お取り込み中なんだ。関係ない奴は邪魔をしないでもらいたいんだがね?」

「残念ながら俺は無関係な人間じゃないから、そうはいかないな。なにせ――、」


 そこで彼女をチラリと見つつ、


「――なにせ、彼女は俺と専属契約を交わしてあるんでね。お前のようなクズ野郎に、彼女を壊されるわけにはいかないんだよ童貞坊や」

「――ああ? なんて言いやがった、テメエ?」

「俺のケツを舐めろって言ったんだよ、クズ野郎」


 ピキリと。ヴァリスの血管がブチ切れる音を幻聴した。

 ……いや、ソレは恐らく幻聴ではなかったのだろう。そう思ってしまうくらいに、目の前の男は憤怒に包まれていた。


「……へえ、俺に喧嘩を売ってるわけだ?」

「違うな。最初に売ってきたのはお前だ。ソレを俺が、ソフィアの代わりに買い取っただけの話さ」


 会話の応酬が続く。だが、この場に起こっているのは何もソレだけじゃない。

 言葉を交わし続けながらも、俺達は緊張を解いていなかった。いつ、どこで奇襲を受けるか。あるいは仕掛けるか。ここでこう出たら、相手はどう返してくるか。……実際に手を出してはいないものの、水面下では、いや識意下では激しい攻防が繰り広げられていた。

 

「面白いじゃねえか。話を聞く限り、テメエも決闘士なんだろ? だったら、この喧嘩はコロッセオで決着をつけようじゃねえか。日にちは明日だ。決闘デュエルの登録はコッチで済ませておいてやる。ここまでお膳立てしてやったんだ。まさか、逃げねえよな?」

「とんでもない。むしろ願ったり叶ったりだ」


 なにせ、明日の生活にすら困るような身空だからな。金が入ることは素直に喜ばしい。


「その言葉、後悔するなよ……? ――俺が勝ったら、テメエもソフィアも、殺してやる」

「好きにしろよ」


 流石に強化人間ブーステッドでも拳銃相手では分が悪いと判断したのか、おとなしく引き下がっていく。……最後に何か言っていたようだが、別に気にするようなものでもないだろう。

 どうせここで俺が何もしなかったら、ソフィアは死んでいたんだ。ならば、明日俺が負け(殺され)ることでソフィアが壊されることになろうとも、別に気にすることではないだろう。なにせ、結果は変わらないんだから。

 ――若干の気負いは生まれたけどな!




 


 嵐は過ぎ去り、俺とソフィアは合成コーヒータイムの続きと洒落こんでいた。違う点があるとすれば、二人の間に沈黙が降りていることくらいだろう。


「…………」

「………………」


 互いに無言。ただ、合成コーヒーを啜る音だけが室内に響く。

 とはいえ、いつまでもこうしているわけにはいかないだろう。頭をポリポリ掻きつつ、俺は意を決してソフィアへ話しかけた。


「あー、勝手に話をつけてしまってすまなかったな。おまけに、専属契約を交わしただなんて嘘まで付いてしまったし……。あの話は、この試合が終わったら解消してくれても構わないからさ」 


 俺がそう言うと、彼女は口に付けていたカップをソーサーに戻し、俺へと向きなおった。


「いえ、その点は気にしていません。私を助けようとしての発言だと理解していますから」


 ですが、と彼女は前置きをし、


「どうして、私を助けようとしたんです? あのまま何もしなかったら――私が殺されるのを黙って見ていさえすれば、貴方はヴァリスと戦うことにもならなかったはずです」

「……いや、人が殺される光景を黙って見ていられるわけが――」


 俺が反論しようとするも、彼女はキッパリと――それこそヴァリスにしてみせたように――切って落とす。


「嘘ですね。人の生き死になんて、この時代では大したことではありません。戦場帰りの貴方なら尚更、そうです。見知った誰かが死にそうになっているからといって、自分の命を顧みずにソレを助けようとするような――安い正義感は持ちあわせていないと思いますが?」

「……なんか、俺のことを馬鹿にしていないか?」


 実際、その通りなんだがな。

 戦場では、そんな安い正義感を持ったヤツから死んでいく。

 生き残りたいがために、生きることに貪欲になること。自分の利益を最優先に考えて行動すること。逆に自分の益にならないことは絶対にしないこと。……その三つを最優先に考えて行動していた。し続けていた。

 そうでもなければ、あの戦争では生き残れなかったからだ。

 だが、生き残れるほど、生き続けるほど、それだけたくさんの死と向き合うことになる。

 仲間が死んだ。友人が死んだ。敵が死んだ。男が死んだ。女が死んだ。死んで死んで死んで死んで死んでまた死んで――、どれだけの死をこの目で見てきたのか分からなくなった時には既に、死に対する感情そのものが死んでいた。

 PTSDに認定なんてされもしなかった。なにせ、その症状は同じ戦争を生き残った全ての兵士達に――いや、大なり小なりを含めれば、民間人を含む全ての人類に発症していたからだ。

 ……幾多の星の、全ての人間がその(同じ)症状を患ったのだ。そうでもなければ、決闘デュエルなんてものがこうまで流行るわけがない。

 人類は、狂っていた。

 だが、全体の内の一〇〇%が病んでいたとしても狂っていたとしても、それは健康と判断される。なにせ、周囲と何も違わないのだから。周りと比較しても、一切の差異が見られないのだから。そして、診断する側も狂っているのだから。

 生死への道徳観が崩壊した、狂った世界。それが、この世界の現実リアルだった。

 ――話を戻そう。


「――なら。目の前に優秀な興行師の原石がいたから、助けだして恩を着せようと思ったっていうのはどうだい?」

「本当にソレだけを考えて動いている人なら、そんなことは口にしませんよ」


 俺の起死回生の口撃・・は、アッサリと回避された。ちくしょう。

 ……っていうか、行動理由の大半は今のだったんだが――? 彼女から見て、俺はいったいどういう人間に見えているのだろうか。

 悩む俺の姿を見て、彼女は小さく溜息を吐いた。そのあと、何やら呟いたようだが内容までは聞き取れない。


「……ん。まあ、その話は置いておきましょう。今は明日のことを考えるべきです」


 そんな彼女の言葉に、俺は佇まいを正す。確かにその通りだ。決闘は明日なのだから。


「ヴァリスのランクは、本人の言葉が正しければDランク。ですが、ニクスさんのランクは――」

「最下位のGランクだ」


 なにせ、先日登録したばかりだからな!

 そんな俺の姿を見て、彼女は再び溜息を吐く。そんなに頼りないかな、俺?


「いえ、そうではなく……。ランクが二段階も上の相手に、何の準備もなしに挑もうとする人の表情じゃないな、と。何か、策でもあるのですか?」

「いや、ないな」


 相手のこともよく知らないからな。作戦の立てようもない。だが、どうにかなるという確信だけは心の中にあった。

 むしろ、アイツにすら勝てなければこれから先、生き抜くことはできないだろうとすら思っている。


「明日は任せておけよ。こんな成り行きで決まった、頼りない決闘士デュエリストだけど――、ソフィアの命だけは勝ち取ってみせる。だから、その分たっぷり稼いでくれよ」


 そう言って、手を差し出す。掌を開いた、握手の体勢だ。

 ソフィアはそれを見、微笑みを浮かべながら、


「そうですね。確かに貴方は、無断で事務所に侵入してきた挙句、人の裸を盗み見た変態さんですけれど――」


 それはわざとじゃねぇって!


「――けれど、貴方は信頼できる人だと思います。守るだなんて一方的な気持ちをぶつけてきたあの人なんかよりもずっと……。――改めまして、ソフィア・カーティスです。一緒に(・・・)頑張って、良い興行ビジネスにしていきましょう!」


 しっかりと、握手を交わすのだった……。












「ところで、ヴァリスよりも信頼できるって、誉め言葉じゃなくないか?」

「誉めてませんもの」

「そ、そうですか……」















<<『PARTNER』の欄が解放されました!>>

<<現在、ニクスは『【S&W M五〇〇〇】』を装備しています!>>

<<【S&W M五〇〇〇】の解説が解放されました!>>

<<【電磁棒】の解説が解放されました!>>

<<【電磁棒】は装備されていません!>>







┏──────────≪LICENSE CARD≫──────────┓

┃[NAME] : ニクス・ライリー

┃[SEX] : male

┃[RANK] : G

┃[MONEY] : 一〇〇M

┃[PARTNER] : ソフィア・カーティス

┃[STATUS] :

┃■ STR : E  ■ VIT : E  ■ DEX : E

┃■ AGI : E  ■ LUC : F

┃[EQUIP] :

┃■ HEAD : none

┃■ BODY : 一般の服

┃■ RIGHT ARM : none

┃■ LEFT ARM : none

┃■ LEG : none

┃■ WEAPONⅠ : 【S&W M五〇〇〇】 : E+

┃■ WEAPONⅡ : none

┃■ WEAPONⅢ : none

┃■ WEAPONⅣ : none

┃■ WEAPONⅤ : none

┃[ATTACK] : E+++

┃[DEFENSE] : E

┃[SPECIALITY] : ???

┗──────────────────────────────┛

さて、いよいよ次回は戦闘――の前準備の回となります。具体的には、主人公の戦闘の方針やら作戦やらを募集することになりそうです。


……ということで、今回のアンケートです。


今回のお題は2つあります。


1つ目は、今回手に入れた【電磁棒】を装備するかしないか。

2つ目は、新しい人間キャラの設定。ただし、非戦闘キャラで(名前やら職種だけ等でも可)


以上の2つの返答をお願いします。今回は、『投稿時間が8月6日0時00分に最も近かった』人の意見を採択します。


あ、上記の時間に投稿された意見は必ず採択しますが、それ以外の時間帯に送られた意見も、内容が面白ければじゃんじゃん採択していきますので、皆さん気楽に投稿してみてくださいー。

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