◆3日目―①◆
とりあえず、前回から書き始めたライセンスカードについて説明しますね。
ここには、主人公のステータスが記載されています。能力値は固定ではなく、イベント等で上下することがあります。
主人公は決闘士なので、色々な敵と戦っていくわけですが……、能力値が足りないと、試合に負けてしまうかもしれませんね。その際は DEAD END となります。ご了承ください。
以下、ステータスの説明。
[NAME] : 主人公の名前です。
[SEX] : 主人公の性別です。
[RANK] : 主人公の決闘士としてのランクです。勝ち続けると、上のランクに上がります。
[MONEY] : 主人公の所持金です。後々、買い物やら行楽やらデートやらで使うことがあるでしょう。
[STATUS] : 主人公の基礎能力です。下で細かく説明します。能力のランクに関しては後述。
STR : 膂力
VIT : 生命力
DEX : 器用さ
AGI : 敏捷性
LUC : 運の強さ
[EQUIP] : 主人公の装備です。下で細かく説明します。
HEAD : 頭の部位です。
BODY : 体の部位です。
RIGHT ARM : 右腕の部位です。
LEFT ARM : 左腕の部位です。
LEG : 脚の部位です。
WEAPON : 主人公が装備している武器です。
[ATTACK] : 装備品の能力や主人公の能力等から計算される、攻撃力です。この値が高ければ高いほど相手に多くのダメージを与えられます。
[DEFENSE] : 装備品の能力や主人公の能力等から計算される、守備力です。この値が高ければ高いほど相手からのダメージを防ぐことができます。
[SPECIALITY] : 主人公が持つ特殊能力です。
以下、ランクについて。ランクはS、A、B、C、D、E、F、Gの七つがあります。Sが一番高く、Gが一番低いです。
身体能力も武器も、Gランクが世の平均に値します。つまり初期主人公は運の強さ以外は平均よりも二段階強いわけですね。……良いのやら悪いのやら。
と、ステータス設定はこの小説ではこのようになっております。これからも、徐々にルールが明かされていくでしょうから、その度に前書きで説明していきます。
もう一度言いますが、主人公の能力値等はイベントによって変動します。逆を言えば、そういう内容のイベントを上手く引き起こす(作者がイベントを募集した際に感想等でイベント内容を送る)ことができれば……?
空が、暗い。
汚染された雲の幕が天に広く張られている中、茜色に染まった陽が今にも沈もうとしていた。
……詳しい時刻まではわからないが、少なくとも今が夕方なのは間違いないだろう。
「――って、夕方までノビてたのかよ、俺。情けねぇなぁ……」
「正確に言うと、翌日の夕方――ですけれども」
目を覚ました俺に気づいたのか、机で何やら書き物をしていたバスタオルの女――当然、今は服を着込んでいる――が、こちらへと近づいてくる。
……おい、ちょっと待ってくれ。今、なんて言った?
「ですから、翌日の夕方ですと言ったんです」
「つまり、俺は丸一日以上ノビていたことになるのか?」
「そうなりますね」
俺の問いにシレッと答える彼女。その、いかにも私は悪くありませんよとでも言いたげな態度に、少なからずムッとする。原因はともかくとしても、下手人はアンタでしょうに。
それにしても、ココが戦場でなくて良かった。仮にココが戦場だったとしたら、間違いなく俺の生命は無かっただろう。
――捕虜? そんなものはもっと位が高い人間の話さ。俺のような下の人間は、情報を聞く価値もなしということで即座に殺されてしまうのがオチだ。
「ハァ……」
溜息を一つ。戦場から離れてしまったことで、腑抜けてしまったのだろうか……?
取りあえず、身を起こすことにした。今になって気がついたのだが、俺は事務所のソファーの上にタオルケットを掛けられた状態で寝かされたようだ。少なくとも、地べたで寝転がされるようなことにはならなかったらしい。
――と、目の前にトレイが差し出された。
顔を上げる。そこにはさっきのバスタオル女が立っていた。
「丸一日も寝ていたのですから、お腹が空いているでしょう? 合成食料でも良ければ、どうぞ?」
この御時世じゃあ、天然物の食材なんて滅多に口にできるものではない。世に出回る食べ物の大半は、ソレを模した合成食材で作られている。
そういうわけで、俺には合成食料だからといって断る選択肢など存在しなかった。
「……ああ、悪い。ありがたくいただくよ」
簡単に礼を述べながら、トレイを手に取る。
リゾット――だろうか? トレイの上にある一枚の皿には、湯気を吐き続けている米料理の姿があった。試しに一口、スプーンで口に運んでみる。
……美味い。
『栄養価は高い。だが、味は反比例』が通説となっている合成食料独特のゴム臭さはあるものの、料理がまだ温かかったためか、それとも彼女の腕前によるものか、ソレが気にならないくらいに美味かった。
ちなみにこの合成食料――『ソイレント』なんていかにも豆を彷彿とさせるような名前をしてはいるが、実際の原材料は石油という代物だ。
詳しいことはよく分からねぇが、栄養剤と石油を固めた上に申し訳程度の味付けをした物を、天然食料を模して形どったモノと言われている。コイツがゴム臭いのは、その名残だろう。
一時は『原材料は人間だ』なんていうくだらねぇ噂も流れたが、今では誰もソレを信じている人間はいない。っていうか、その噂を流した奴は、間違いなく旧時代の古典小説の読みすぎだと思うぜ?
……なんてことを考えている間も、スプーンの動きが止まらない。見る見るうちに皿の料理が俺の胃袋の中へと消えていった。
「そういえばアンタは誰なんだ? 事務所にいるってことは、ココの従業員か何かか?」
料理を綺麗に平らげ、食後の合成コーヒータイムを楽しんでいた際にふと湧き上がってきた言葉を、そのまま口にする。当然ながらコレも彼女の奢りだ。今の俺にコーヒーを頼む金銭的余裕なんてないからな。……なんだか餌付けをされてる気がしないでもない。
――と、言ってしまってから気づいたが、彼女がただの従業員である可能性は低いだろう。
ただでさえ警戒心の強いあの彼が、大して信頼していない人間に事務所の浴室や調理場を使わせるとは思えない。考えられるとすれば、彼の女であるか、あるいは肉親か。
「……妹ですよ。貴方の友人、レナード・カーティスの妹――ソフィア・カーティスです」
……今回は後者だったようだ。
「そうか。俺はキミの兄さんの友人で――」
「存じています。ニクス・ライリーさんですね」
「……その通りです」
自己紹介しようとしたところ、目の前の彼女に出鼻をポッキリと挫かれた。そういえばさっきも、俺のことを知っているような素振りをみせていたっけか。
「しかし、彼に妹さんがいるなんて初めて知ったよ」
「そうですか? 私は、兄から貴方のことをたくさん聞かされましたけど?」
「……例えば、どんな?」
嫌な予感に苛まれながらも彼女――ソフィアに尋ねてみると、彼女はなんとも言えない邪悪な笑みをニヤリと口元に表した。
「――ん。そうですね……初陣から帰ってきたその日の夕食時、初めて人を手にかけた貴方は、あろうことか部隊員全員分のカレーが入っていた大鍋の中に、勢いよく胃液をぶち――」
「ああ、よ~く分かった。アンタは間違いなく彼の妹だよ。……人の早く忘れ去りたい記憶をわざわざほじくり返そうとする、その性格の悪さもそっくりだな!」
ヤケになり、手に持っていたコーヒーカップを豪快に傾ける。ミルクの入れすぎで薄茶色と化した液体が喉元を走り去る感触を味わいながら、俺は徐々に精神を落ちつけていく。
「まあ、いいさ。……そんなことよりも、兄さんがどこにいるか知らないか? 昨日、いや、もう一昨日だな。決闘者になったものだから、専属の興行師を頼まれてくれないか聞きたくてさ」
「……兄は――」
一変、ソフィアの表情が暗くなる。瞳は伏せられ、その唇は急に重くなったかのように動かなくなる。
……何気ない質問のつもりだった。
だが俺にとっての何気ない一言は、彼女にとって同義ではなかったらしい。
「兄、は……」
ポツリ、ポツリと、噛み締めるように、あるいは小出しに吐き捨てるように、言葉を徐々に発していく。
「――もう、ココにはいません」
「そんなことがあったのか……」
「ハイ。残されたのはこの事務所だけ……。――あとは、ココを建てる際の借金が幾らか残っているくらいでしょうか」
彼女は淡々と言葉を零していく。
……俺の位置からはソフィアの表情は窺えない。
悲しんでいるのか、悔しがっているのか。あるいは全く別の表情を見せているのか。……下を向き、自身のカップを見つめ続けている彼女の表情は、自身の長い髪に隠れて見えなかった。
その視線の先には、すっかり冷めきった合成コーヒーがテーブルの上に置かれている。
湯気も立たない、たまに周囲の振動を受けて小さな波紋を生み出すだけの、苦い漆黒。ソレがまるで、彼女の今の心境のようにも思えた。
「まさか、行方不明になるなんてな……」
ソフィアの話では、彼――レナードは優秀な興行師として、この星で手腕を働かせていたらしい。
だが、借金完済を目前に控えたある日のこと。彼は突然姿を消してしまったという。
軍人時代でも超が付く程マメであった彼が、連絡も残さずにどこかへ行ってしまうとは考えにくい。
何らかの事故に巻き込まれたのか、あるいは彼を恨む誰かの仕業なのか――いずれにせよ、彼がソフィアの前に姿を現すことは二度となかったという。
「ええ……。治安警察にも捜索をお願いはしたのですが……」
「見つからない、だろうなぁ」
基本的に、治安警察の人手は足りていない。
答えは簡単だ。戦争の影響。この言葉に尽きる。
戦争のせいで、人々の心は荒んでしまった。その結果、犯罪が増える。
ソレに対して、国の財源が戦争の影響で少なくなってしまい、治安警察への給与も戦前よりも大幅に減っ(カットされ)てしまった。――にも拘わらず、犯罪は減る素振りを見せない。それどころか、より多く、より凶悪になってしまっている。
そんな状況の治安警察に入る人間など、滅多にいない。いたとしても数は知れている。
……そういうわけで、彼らは大きな犯罪が――それこそ国や星が揺らぐような――起きない限り、滅多に動こうとしないのだ。
このご時世では大して珍しくもない行方不明事件などに、彼らは見向きもしないだろう。現に、ソフィアが彼の捜索願いを提出してから僅か二日後に、捜索打ち切りの通知が届いたのだという。……その二日の間に、本当に捜索に出たかも怪しいところだ。
だが、こんなご時世だ。彼女も、レナードが発見される可能性はゼロに等しいと考えたのだろう。既に――棺の中が空ではあったが――葬儀も済ませたとのことだった。
「……答えたくないんだったら答えなくてもいいんだが、借金はあとどれくらい残っているんだ?」
「――およそ、二〇〇〇〇〇Mと言ったところですね。この事務所を売り払ってしまえば返すことができる額なのですが……兄の残したココを売り払う気持ちにはどうしてもなれなくて……」
「そう、だろうな……」
ソフィアの反応を見る限りでも、彼女がどれだけ兄を慕っていたかということが手に取るように分かる。そんな彼女が、兄の遺したこの事務所を売り払うとは考えられなかった。
そう言いつつ、俺は手持ちの残額を確認してみる。……五〇Mか。余裕があれば、と考えていたのだが、これではなんの足しにもならないな。それどころか、明日から俺はどうやって生きていこうかと心配になってしまう数字だ。
ヤレヤレ。俺は嫌な考えを振り払うように、首を軽く横に振った。
「とりあえず、借金の件についてはなんとかしていくつもりです。つい先日、興行師の資格を取得したことですし……」
「へぇ、ソイツぁ凄いな。兄さんの跡を継ぐっていうことか?」
興行師の資格といえば、超が三つ並んでもおかしくないくらいに取得が難しい資格じゃないか。ソレを持っているだけでステータスになる、それくらいに凄い資格だ。少なくとも、俺では逆立ちしても取ることはできない。バカだからな!
「ハイ。いつまでもクヨクヨしていられませんから……カーティス興行事務所も、近々再開させてみせますよ」
「――そうか。まあ、何かあったら言ってくれ。俺に出来ることなら、手伝うからな」
「え……」
彼女が呆けたように俺を見つめてくる。
俺はその視線が妙に気恥ずかしく、顔を背けてしまった。
「……兄さんには世話になったからな。せめてもの恩返しってやつだ」
「……ありがとうございます」
その言葉に、彼女は微笑む。
初めて見た彼女の純粋な笑みは、夕暮れの中にあるという幻想的な光景の中にあるからか、妙に綺麗だった。
ぽかんと口を開いたままの俺を見て、ソフィアが首を傾げる。
「どうかしましたか?」
「――いや、なんでもない。……コーヒーのおかわりをくれないか?」
照れと気恥ずかしさを誤魔化すように、コーヒーの催促をする。……なんというか、今日は目の前の彼女にペースを乱されてばかりいる気がする。不思議と、そんなに嫌な気はしないのだが。
二杯目の合成コーヒーに口をつけた。豊潤な香りとは程遠いゴム臭さを噛み締める。そんな時――、
「……僕にも一杯くれないかな、ソフィア?」
――入口から声が聞こえた。
┏──────────≪LICENSE CARD≫──────────┓
┃[NAME] : ニクス・ライリー
┃[SEX] : male
┃[RANK] : G
┃[MONEY] : 100M
┃
┃[STATUS] :
┃■ STR : E ■ VIT : E ■ DEX : E
┃■ AGI : E ■ LUC : F
┃
┃[EQUIP] :
┃■ HEAD : none
┃■ BODY : 一般の服
┃■ RIGHT ARM : none
┃■ LEFT ARM : none
┃■ LEG : none
┃■ WEAPON : none
┃
┃[ATTACK] : E
┃[DEFENSE] : E
┃
┃[SPECIALITY] : ???
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そういえば、初めての投稿がありましたー。オリキャラの案ですね。
本来なら武器の案の募集でしたが、初めての投稿ということもあって、採用させていただきましたー。(パチパチ)
ですが、結構な強(凶?)キャラでしたので、登場は先のことになりそうです……。
遭遇フラグに関しては、適当に散りばめておきますが。(作者が行先の案を募集した際に、人気のない路地裏に行く――みたいな案を送ると……? みたいな感じで)
とりあえず、今回も武器の案を募集します。先着一名様で、期限は次話が投稿されるまで。
少しだけネタバレしますと、その案が主人公の初期武装になります。つまり、このまま案の投稿がなければ、主人公は手ぶらの状況で戦わなくてはなくてはならなくなるやも……。(汗