◆2日目◆
んー、知名度が低いからか、文章が来ませんね……。困った……。
事務所の場所は、すぐに分かった。
なんということはない。宿屋の親父に聞いたのだ。流石は地元の人間。地図なんかよりもよっぽど役に立つ。
結局、最後の最後まで解読できなかった地図をくしゃくしゃに丸め捨てながら、俺は新しく宿屋の親父に書いてもらった地図を頼りに事務所へと足を運んだ。
今日は、幸先がいいな。
空から降り注ぐ朝陽が、まるで俺の今日一日を祝福してくれているかのような錯覚さえ覚えてしまう。――実に清々しい気分だ。
なんとなく、今日はツイているのかもしれん。
――というのは、勘違いだった。
「おいおい。勘弁してくれよ」
眉間に突き付けられた銃口に辟易しながら、俺はそう呟く。
まさか、事務所を訪れた途端に拳銃を向けられるとは思わなかった。
「お客さんを拳銃でお出迎えするのが、ここのルールなのか?」
「――社会のルールというものが分かっていないようですね。いいですか? ドアの鍵を壊して無断で侵入してくるような人間は、世間ではお客様と呼ばないのです」
「――鍵の件は済まなかった。ちょっと、豪快にドアを開けて中の人間を驚かそうと思っただけなんだ。軽いお茶目心だったんだ」
「ええ、ええ。十分、驚かされましたよ? ――遺言はそれだけですか?」
いや、人違いだから。アンタじゃなくて、別の人間を驚かそうと思っただけだから。まさか、ドアの向こうに女が裸でいるなんて思いもしなかったんだ――!
そんなことを叫んだところで、女は聞く耳すら持たない様子でこちらを目で射抜いてくる。……殺る気満々な彼女の瞳は、絶対零度の冷たさを帯びていた。そんな彼女の右手は拳銃を構え、逆の方の手は身体を唯一覆っているバスタオルを押さえている。
そう、バスタオルだ。彼女の髪が微かに湿っていることから察するに、恐らく湯浴みから出てきたところだったのだろう。そこへ、俺が事務所内へと入ってきてしまったわけだ。
運が悪いというかタイミングが悪いというか、そんなわけで俺は、侵入者及び湯上り直後の女性に襲いかかろうとした変質者として、こうして拳銃を突きつけられているわけ。
今の御時世、治安なんていう言葉はドブの中に沈んでいるも等しい。大通りを若い女が一人で歩いているだけで、路地裏に連れ去られるような時代だ。それはこの星だけに限らない。
そういう点では、彼女の行動は非常に正しいものだった。怪しい人物には、拳銃を突きつけるくらいの気概がなくては生きていけない。
むしろ、疑われるような行動をしてしまった俺が悪かった。――もっと言えば、今日の俺の運勢というモノが悪かった。誰だよ、今日はツイてるなんてほざいてたヤツ。
ただ、一つだけ言い訳させてくれ。俺はアンタの裸なんて見ていない。バスタオルで包まれていたからな。
「だから、ノーカウントってわけにはいかないか?」
「…………」
どうやら駄目らしい。手を挙げて降参の意を表明する俺のこめかみに、銃口をゴリゴリと押し当ててくる。ヤベェ、俺、ここで死ぬかもしれん。
「――当たってるんだが」
「当ててるのよ」
まさかこんな状況で『当ててるのよ』の台詞を聞くことになるとは思わなかった。全然、これっぽっちも嬉しくないけどな。
「それで、貴方は誰ですか? 頭に穴を開けられたくなければ、正直に答えるのをお勧めしますが?」
「だから、さっきも言っただろうが? 俺は――」
「――!?」
身体に力を込めた。
――と、そこで俺が動くことを敏感に感じ取った彼女は即座に引き金を引くが――遅い。
首を捻る。僅かなその動きだけで、銃口の先から俺の頭は消える。射線をずらしたわけだ。
結果、引き金を引かれた拳銃は機械的に銃弾をその口から吐き出し、咆哮と共に事務所の壁を穿つ。
「――俺は、ただのお客さんだよ」
「――なっ……!」
バスタオル一枚の女性が、銃弾が外れたことに驚きの表情を見せた。すぐさま、次弾の装填に取り掛かるが、そんな隙を俺が見逃すわけがない。
何も難しいことをするわけじゃない。ただ、自分の足を彼女の足に引っかければいい。そうすれば、全てが終わる。
案の定というか、足を引っかけられた彼女はその場で後ろに転倒した。
その際に彼女の細い腕から離れて地面に転がった拳銃を蹴り飛ばし、彼女の手が届かない場所へ追いやる。
「――くっ!?」
自分の不利を感じ取ったのだろう、彼女の表情からは俺への敵意に加え、これから自身に襲い掛かる未来への不安が浮かび上がって――って、俺にそんなつもりはサラサラねぇよ。
彼女に近づく。勿論、無防備にではない。武器を失ったとはいえ、彼女の気概はまだ失われちゃぁいない。いつ、反撃が飛んでくるか分からないからな。
万が一にでも股間を蹴り飛ばされたら、戦場帰りの俺でも悶絶する自身がある。アレは、男性における絶対の弱点だ。
俺が一歩足を進めるたびに、目の前の彼女がビクリと肩を震わせる。
恐らく、これから自分は犯される――とか、そんなことを考えているんだろう。勘違いさせるような行動をとっているのは自分とはいえ、そんな反応をされると結構傷つくな……。
そうして、床に腰を付けたままの彼女に手を伸ばした。――おい。襲わねえから。犯したりしないから、そんな怯えた表情を見せないでくれよ。あ、目を瞑った。
「――あー、立てるか?」
「ぇ……?」
とりあえず、声をかけることにした。そこで、ようやく彼女が俺の顔を直視する。彼と同じ銀色の髪の下で、ブロンドの瞳が揺れて動いていた。
俺はそんな彼女の不安を和らげるため、自分に出来る精一杯の笑顔を顔に張り付けることにした。
……失敗した。これじゃぁまるで、威嚇している動物だよ。ほら、彼女がまた脅えっちまったじゃねぇか。俺の馬鹿野郎。
「……すまねぇ。脅かすつもりはなかったんだ」
手を加えたことも失敗笑顔の件も引っくるめて彼女に謝りながら、彼女の左手を強引に掴む。再び、彼女の身体がビクリと震えるが、それに構わず強引に引っ張り上げ、彼女を起こし上げた。
「――っと。ついでに言わせてもらうと、ココにアンタみたいな女性がいるなんて思ってもみなかったんだ。古い友人がココを経営しているって聞いたもんだから、会いに来ただけで……。だから、アンタを襲うつもりはコレっぽっちもない。こんなことをしておいて、信じてくれるか分からねぇけどさ……」
「え……? じゃあ、アナタが……」
右手の親指と人差し指で一ミリの隙間を作って『コレっぽっちもない』を表現する俺の姿を見て、彼女は驚きの声を上げた。
どうやら、彼は少なからず俺のことを彼女に伝えていたらしい。彼女の動作から、そのことが読み取れた。
……どうせなら、俺の外見も伝えておけよな。そうしたら、今回のハプニングは回避できたかもしれないのに。
――ともあれ、どうやらこの場は無事、収まったようだ。僅かに警戒の念は持っているようだが、彼女の表情から溢れんばかりに見えていた敵意が、そこからすっかり抜け落ちていた。
……だが、俺にはもう一つ、やらなければならないことがあった。
「……あー、すまないお嬢さん。もう一つ、謝らなければならないことがある」
「――? ハイ、なんでしょうか」
彼女が不思議そうに首を傾げる。
「いや、あのな――? アンタ、さっきまで左手でバスタオルを押さえていたじゃないか?」
だが、彼女を起こす際に俺はその左腕を掴み取って、おまけに引っ張っている。
「えー、つまり、バスタオルを押さえていた左手を引っ張り上げっちまったものだから……」
――簡単に言ってしまうと……、
「アンタ、今、真っ裸の状態なんだウェイ!?」
「――――!?」
言うが早いか、声にならない叫びと共に、彼女の見えない速度で振るわれた右掌が俺の顎に直撃した。
それは問答無用で俺の脳を揺さぶり、軽い脳震盪状態を引き起こす。
だが、ソレで終わりではない。そうしてガードが緩んだ俺に、次なる攻撃が叩きこまれた。
男として生まれた全ての生き物が恐怖する技――去勢拳だ。
「最低ですね、貴方はっ!!」
そんな罵声と共に放たれた蹴りが俺の股間を打ち、思わず身体が浮き上がる程の痛みが襲いかかる。
繰り返して言うが、股間は男性における絶対の弱点だ。
そこを突かれた俺の意識は、一瞬で暗転した。
┏──────────≪LICENSE CARD≫──────────┓
┃[NAME] : ニクス・ライリー
┃[SEX] : male
┃[RANK] : G
┃[MONEY] : 100M
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┃[STATUS] :
┃■ STR : E ■ VIT : E ■ DEX : E
┃■ AGI : E ■ LUC : F
┃
┃[EQUIP] :
┃■ HEAD : none
┃■ BODY : 一般の服
┃■ RIGHT ARM : none
┃■ LEFT ARM : none
┃■ LEG : none
┃■ WEAPON : none
┃
┃[ATTACK] : E
┃[DEFENSE] : E
┃
┃[SPECIALITY] : ???
┗──────────────────────────────┛
ちょっと、この小説の案出しのルールを変更したいと思います。
流石に、最初から「なんでもいいよ」なんて丸投げされても、皆さんもどうしたらいいか分からないでしょうから……。
――というわけで、次回からしばらくは、募集する案をこちらで指定したいと思います。
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募集する案は、【主人公の装備品】です。私生活用の服でもいいですし、戦闘用の武器や防具でもいいです。
銃だろうが剣だろうが、なんでもどうぞー。
詳細まで読者さんが決めてしまってもいいですし、武器の名前とか能力とか……形式番号だけというのもアリです。
期限は、【次話が投稿されるまでの間】で、【先着五名様】までの意見を採択します。
……とまあ、こんな感じで。
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作者は、便りを待っています。(むしろ、無いと結構ツライかもしれません……)
あ、質問やら感想は常に受け付けておりますよ?