◆1日目◆
意見の投稿は――まだないようですね。
まあ、いきなり投稿してくれるとは思っていませんでしたが……。
引き続き、皆さんの投稿をお待ちしてます。ネタでもガチでも、なんでもいいですのでー。
「おーい、ニクスくん。ライセンス発行手続き、終わったぞぃ」
足音の主――ここ、バゼラート商会の事務員である爺さんに話しかけられた。
爺さんの名前は、最初に会った時に聞いたんだが……正直に言って、忘れてしまった。まあ、野郎の名前なんて覚えるつもりはさらさらないし、なんか用がある時は、爺さんとでも呼べばそれで済むし――問題ないだろう。
……若い頃はそれなりにモテたなんて本人が言っていたが、それこそ過去の栄光というものだ。今のように髪も薄い上に腹まで出ているとくれば、女の子はまず寄りつかないだろう。
まるで、千年戦争を始める前と後の、俺達人類の移り変わりを見ているかのようだ。
……おお。そう考えてみると、なんだか目の前の枯れた爺さんがありがたい存在に見えてくるから不思議だ。とりあえず、拝んでおくか?
――そんな爺さんの高く上げられた手には、一枚のカードが握られてある。爺さんの話から察するに、アレが剣闘士のライセンスカードなのだろう。
「……何を拝んでおるんじゃ?」
「いや、なんとなく?」
「――フン、まあええわい。ほれ、コレがライセンスカードじゃ。落とさんよう、気をつけるんじゃな」
案の上、ライセンスカードだったようだ。そこには、先ほど俺がうちこんだ個人情報が書き込まれてある。
「へえ、意外と早いんだな。もっとかかるかと思ってたんだが?」
カードを受け取りながら、爺さんにそう告げる。
これは、本心だ。なにせ、登録を済ませてからおそらく五分と経っていない。
「なぁに、決闘者になるのに時間なんてかかりはせんよ。かける手間が勿体ないくらいだ。どうせ、鼻たれ坊や(新人)の大半は初戦で死んでしまうからなぁ」
「ちなみに、残りの奴らは?」
俺の問いかけに、爺さんは少し考える素振りを見せた後――、
「数戦経験してから死ぬ……ってところじゃな」
「まぁ素敵」
――淀みなく告げた爺さんの言葉に、俺は思わず声を上げる。
「ソレってつまり、生きて退職を迎える奴なんていないっていうことだろ?」
「――そうとも言うのぅ」
そうとしか言わない、の間違いだろ。
とはいえ、そんなことくらいで剣闘士になることを諦めるわけがない。
戦いの中に身を置くんだ、死ぬ覚悟なんてとっくの昔に出来ている。……戦争に初めて参加したその日からな。
「キミとは長い付き合いになれると良いんだがな。まあ、せいぜい死なない程度に頑張ってちょうだいよ」
爺さんの言葉に手を振って返しながら、俺はバゼラート商会を後にした。
決闘。
――簡単に言ってしまえば、人間同士の賭け試合だ。
バゼラート商会の管理の下、この星に一つしかないアリーナで行われるソレは、この星において主要産業の一つとして位置している。
自分の食い扶持の為に、互いの命を賭けて金を稼ぐ最低の商売。
……俺のような奴にとっては、最高に似合いの場所だった。
とはいえ、そんな決闘を行うにも色々と制約がある。
一つは、剣闘士として認められた者に発行されるライセンスカード。これを持っていないと、選手としてアリーナに上ることは許されない。
そしてもう一つは、興行師……いや、戦いの場を用意する存在だから、興行師と呼ぶべきか……?
――早い話が、頭脳面の仕事を担当してくれる存在だった。
「んっ……と?」
俺達剣闘士は、ただ戦うだけで金がもらえるわけではない。
いや。金がもらえないどころか、一回試合(殺し合い)を行う度にアリーナの使用料としてバゼラート商会に金を納めないといけないわけだから、結果的には赤字になってしまう。
そこを上手くやり繰りしてくれるのが、興行師の存在だ。
剣闘の流れとしては、凡そこういう風になっている。
まず、興行師に試合を組んでもらい、俺達剣闘士が定められた相手と対戦する。
で、興行師は俺達の試合を見に来る客から入場料、視聴料を集め、更に博打の元締めを行う。そこで得た金が、俺達の収入の元になるわけだ。
さっき見ていた試合だと、「賭けた賭けた」とか言っていた賭博屋。アレも興行師となる。
――で、観客はその勝敗を楽しみ、博打をし、俺たちは興行師が得た金からファイトマネーを出して貰う。
興行師と商会には、たっぷりと金が手に入る……という仕組みだ。
戦うことしかできない俺たちにとっては願ったり叶ったりの話だし、戦争で文明が廃れたため、常に娯楽に餓えている市民たちにとっても、悪い話ではなかった。
つまり決闘をするには、商会に登録してライセンスを貰った上で、興行師と契約し、利益の出るような試合を組んでもらう必要があるわけ。
古い言葉を使えば、アイドルとプロデューサーのようなもの――らしいが……?
「ここを右、いや、左か……?」
ああ、そうだ。一つだけ言っておく。
別に、必ずしも興行師と契約する必要はない。自分だけでどちらの仕事も回すことができるという傑物がいるのならば、興行師の存在は無意味だろう。収入も増えるだろうしな。
――だが、そんなこと俺に出来るはずがないだろう?
腕っ節だけならともかく、頭を使う仕事なんざ今までやってきたこともないし、これから先もやるつもりは一切ない。
第一、俺なんかに興行を全て任せてみろよ。絶対に立ち行かなくなるのが目に見えている。確定していると言ってもいい。筋金入りの馬鹿だからな、俺は。
そういうわけで、今、俺は興行師を探している。
幸いなことに興行師のアテはあった。軍を退役する前からの知り合いだ。なんでも、この街で興行師として働いているらしい。
俺がこの星にやってきたのも、その人物を頼ってのことなんだが……。
「――ちっとも分かんねえな」
地図の解読を諦めた。
どう見ても毛虫がのたうち回っているかのようにしか見えないこの文面だが、彼曰く『事務所への地図』らしい。
「相変わらず、絵心だけはないみたいだな」
図を起こすことが出来ないとは――情報士官としては、致命的な弱点だっただろう。他の面では群を抜いて優秀な人だったから、それでもなんとかやって行けたらしいが。
「…………」
彼が、軍を退役する際に残した言葉を思い出した。確か、「僕は、絵心を必要とされない職場で働くことにするよ」だったか。
それが今では興行師――夢が叶ったようで何よりだ。
「っと。もうこんな時間か」
空を見上げれば、陽が沈みかけていた。
放射能に汚染された空と消えゆく陽の光が合わさって、なんとも言えない不気味な色が空一面に広がっている。
――とりあえず、事務所探しは明日に回すか。
毛虫の地図を折り畳み、懐に戻し、俺は歩きだした。
まずは、今晩を過ごすための宿を探す必要がある。――格安の、な。
以上です。
……こんな少ない文章量で大丈夫か? 大丈夫だ、問題ない――と思いたい。