よびだし
あの後先生達がいっぱい集まって、巨体の神崎ダイトに毛布を被せてどこかへ運んでいた。
新学期からあんなことがあったら、学校側としても色々やばいのだろう…
そしてその噂は、当然その日のうちに学校中に知れ渡った。
しかし、誰がやったかと言う点に関しては、どのクラスの生徒も知らなかった
いや…正確には一クラスだけ、完璧にその人が誰だか全員知ってたけど…
私達の中に、他の誰かに言える人なんていなかった。
もし自分まで似たような目に合わされたらと思うと、皆自然と口を閉じていた。
結局犯人探しは教師も生徒も心当たりは無く、迷宮入りという形で幕を閉じた。
そして、荒木冷太がやったことはこれだけでは無かった…
学校中の生徒が騒いでいる間、ビクビクしている私達のクラスメートとは裏腹に、荒木冷太はいっこうに教室には戻ってこなかった。
そして戻ってこないまま30分が経ち、私達の誰もがほっと胸を撫で下ろしていた時だった…
ピンポンパンポンの放送とともに、クラス中が静まり返る。
それは、学校の生徒、もしくは教師を呼び出す時に流れるチャイムだった。
そして、私達は先程の荒木冷太の言葉を思い出していた…
「「あんたのことは色々報告させてもらうから」」
自分の担任を、蔑むように見ながら放ったあの台詞…
普通だったら頭がおかしいやつとか、どうせするわけないとか思うところだが、あの神崎ダイトをあんな目に合わせた男が言った言葉と思うと、冗談に聞こえなかった。
明石にいたっては、青ざめて何やらぶつぶつ言っていた。
「大丈夫だ…大丈夫…」
…と
しかしその明石の淡い期待もむなしく、放送ではしっかりと
「…明石先生、明石先生、至急職員室まで」
と言っていた。
「なんでだ…俺が何をした…」
私達は職員室に向けてゆっくり歩く担任の姿を見ながら、改めて荒木冷太の恐ろしさを知った。
そしてそれと同時に、ある疑問も浮かんだ。
握力だけであの神崎ダイトの太腕を外し、手刀一発であっさりとあの180cmはある巨体を沈めた荒木冷太…
何故あれほどの力を持ちながら、最初は神崎ダイトに抵抗もせず、ましてや下手に出ておとなしくしていたのか…
そして何故、急にキレたのか…
あのやり取りの中に、荒木冷太の触れてはいけないスイッチを押してしまった者でもいたのだろうか…?
そして、今の放送…
今の放送は、絶対に荒木冷太が関わっている
しかし…何故高校生になったばかりの荒木冷太に、一人の教師を呼び出す程の力があるのだろうか?
普通だったらありのままの事実を報告しても、入学式初日からそんなことがある筈ないと、取り合ってもくれないと思うが…
私にそんな考え出したらきりがない疑問が浮かんでいた時、ふと横を見たら由香がじっと私の方を見てるのに気がついた。
それは皆のように、いつクラスに戻って来るかわからない荒木冷太に怯えたような顔ではなく、ニコニコといつもと変わらない笑顔だった。
一方私はと言うと、いつ来るかわからない荒木冷太に、とても笑顔なんて作れなかった。
何でこの状況で笑っていられるの…?
私が心の底からそう思って由香の顔を見ると、急に由香は私に顔を近付けてきた。
そして、多分この中でこの娘以外そう思ってる者等いないだろう、信じられない発言をした。
「楽しいクラスになりそうだね!」