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不良☆神崎ダイト


「ねーねーチカ〜なんかあの子格好よくない!?」


私はそう言われて、一番前の席で頬杖をついている男を見る。


何よ…遅れて来たくせにその態度は…


一言くらい皆に謝るとかできないわけ!?


私、小泉千佳はそう思いながら、「全然!」と答えて遅刻男の背中を睨みつけた。


せっかく話しかけてくれた幼なじみの由香にそっけない態度をしてしまったのは悪いと思ってるけど、ああいう時間にだらしない男を見るのが私は一番嫌いだ。


「顔がよけりゃ何してもいいわけじゃないでしょうが…!」


私はその男を見ながら、そう呟いた。


あの男とは、関わらないようにしようという意思を込めながら。



なんか変なクラスだな〜…


人のことじろじろ見てくるやつらばっかだし…まぁ遅れた俺が悪いけど


担任はなんかもの凄い暗そうな奴だし(担任の明石は冷太が自分の受け持つ組の生徒と知ってから、極端に元気がなくなっていた)…


何より…


俺はちらりと後ろを振り返り、また向き直した。


あの一番後ろの席の女…他の奴と段違いの雰囲気で見てくる…感情丸出し過ぎるだろ…


俺は思いやられる先を考え少々ため息をこぼした。


すると突然、俺の隣の席に座る金髪にピアスを空けた男が、座ったまま俺の机を中々の強さで叩いてきた。



その結構な音のでかさに、教室中その男に注目している。



てか何でこんなやつが入れたんだ…本当に大丈夫かこの高校…



俺がそんな一抹な不安を抱えていると、その不良の少年は俺に向かって口を開いた。



「俺の名前はよォー、神崎ダイトって言うんだけどよォー…」


そう言って「神崎ダイト」と名乗る少年は一呼吸間を空けて、いきなり俺の襟を掴み



「お前ェー、ちょっぴり調子に乗りすぎてねーか?…」



そう言った。



本当なんで入れたんだよこいつ…



俺は目の前の昭和のヤンキーが金髪になっただけのような男を見ながら、本気でそう思った。



はぁ…適当にやり過ごすか。これ以上問題起こすのはさすがにな…



俺はそう思い、この場を穏便にすませようと口を開いた。



「別に思ってない…遅刻したことに対して怒ってんなら謝るよ、ごめん。」



そう言って俺は、自分の襟首を掴んでいる神崎ダイトの腕を外そうとした。



しかし…



「…離してくんない?」


「……」



その腕は今だ俺の襟首を力強く掴んだまま離れず、むしろさっきより力を入れてるような気がした。



「…聞こえなかった?離」


「俺はよォー…」



俺がもう一度同じ言葉を発しようとした途端、神崎ダイトは俺を睨みつけながら何かを話しだした。


本当やめてくれ…友達できなくなんだろうが…




「俺はよォー、今まで散々人をコケにしたことはあってもよォー、されたことはなかったんだぜ…」



…わけがわからない。何を言ってるんだこいつは



…イライラしてきた



俺は段々アドレナリンの出始めた自分を抑えつけながら、相手を刺激しないように口を開いた。



「ああ、そうなんだ、凄いじゃん、だからもう離せ」


…よし、完璧だ。



そう思い、俺はこれから腕を外すだろう神崎ダイトの顔を見ると、その顔は先程とは比じゃないくらい


怒りで染まっていた。



「今までによォー…初対面でこんなに腹が立つ相手は会ったことが無いぜ…完全に俺のこと舐めてんなお前…」



な ん で そ う な る



俺は何を言っているのか全くわからないこいつに、徐々に苛々が抑えられなくなってきていた。



その証拠に、右のまぶたが痙攣しているのが自分でもわかった。



「お!?」



神崎ダイトは、何故か俺の怒りに震える顔を見てようやく嬉しそうな顔をした。



「どうしたおい!泣きそうなのかお前?ようやく、俺の怖さがわかったのか?」


と、さっきとは打って変わった弾んだ口調で言ってきた。



何を…言ってんだこの馬鹿は…



神崎ダイトがそう言った途端、クラス中俺が泣きそうで震えていると思ったようで、見下すような目で見てくる者や、含み笑いをする奴もいた。



俺はこいつの勘違いっぷりと頭の悪さ、加えてこの堪え難い屈辱に、もう爆発寸前だった。



次なんか言われたら堪えられる自信がねぇ…




大体こいつらも止めろよ…



俺はそう思いながら周りを見渡すと、全員もう俺のことを弱者を見るような目で見ていた。



右まぶたの痙攣が、さらに激しくなった。



しかし俺はここで、一つの策を思い付いた。



この策を使えば、お互いこのまま事が大きくならないままうやむやで終わりにできるかも知れない。



その策とは…



俺はそう思い、「策」の方向へと目を向けた。



担任!



自分のクラスの生徒が危険な目にあっているとなれば、教師という建前上止めないわけにはいかないだろう。まぁこんな恥をかかされて多少不本意ではあるが、ここで事を荒らげるよりは全然いい。



俺は「助けろ!!」という意思をこめた視線を、担任の明石に向けた。



すると奴は俺の気持ちが届いたのか、今まで黙っていた罪悪感からかは知らないが、ようやく口を開いた。



よし…これで何とかこの場は…



「お、お前らー!仲がいいのはわかったから、もう少し静かにやれよ!」



…………







は?



ちょっと待て…何だそれは…



「はーい、わかりました先生ー」



仲が良い…?この状況を始めから見てたお前が、何でそんな馬鹿げたことを言えるんだ…?



「じゃ、じゃあ先生は職員室に行くから、静かにしてるんだぞー」



おい、ちょっと待て。まさかお前…担任のくせに逃げようとしてるのか?



面倒事に自分が巻き込まれたくないから、職員室に避難しようとしてるのか?





「ちょっと待て…」



俺はそう言って、ドアを開け教室から出ようとした明石を止めた。



「あーやべ…


あー…


あーもう駄目だ…限界だ…」



突然そう言いだした俺を見るクラスメイトを無視して、俺は俺の襟首を掴む神崎ダイトの右腕を掴んだ。



そしてそのまま、力いっぱい握りしめた。





「痛っ…痛ででででっ!!」



クラス中が目を疑っていた。



それもそうだろう、俺は自分の腕の何倍もある太い腕を握力のみで外したのだから、信じられずとも無理は無い。



「て…てめェー!」



俺はそう言って掴み掛かってこようとする神崎ダイトの首の後ろに、軽く手刀をかました。



「おー本当に気絶するもんなんだ」



すると先程まであれほど元気だった神崎ダイトが、まるで電池を抜いたゲーム機のように、その場で気絶し、倒れた。



そして俺は倒れた神崎ダイトの服を掴み、そのまま唖然としたクラスメートが見守る中、教室を出ようとした。



しかし、一つやり残したことがあるのを思い出し、くるっとクラスに向き直った。



その瞬間、クラス中の男子生徒が一瞬体を震わせたのは明らかだった。



そして俺は、最後に淡々とした口調で



「このクラスにはろくな奴しかいないってことがよくわかった…それと担任…あんたのことは色々と報告させてもらうから」



そう言って、俺は強く扉を閉めて廊下に出た。






俺はふと、片手で神崎ダイトを引きずりながらある場所に向けて歩くのを止め、あることを思い出した。



そういえば…さっきの俺を睨んでたあの女、他の奴が笑ってた時、あいつ一人だけ笑ってなかったな…。



あいつだけ、あの状況で神崎ダイトを睨んでた…



ま、どうでもいいか…



俺は考えるのを止め、再び神崎ダイトを引きずりながら歩きだした。




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