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魔法少女の契約は誰のためのものなのかを知ってしまった話 〜契約する側の論理〜

作者: 兎山紬
掲載日:2026/04/06

 クークックック――


 暗闇の中で、笑い声が響いた。


「……何笑ってるんだよ」


 少し呆れたような声が返る。


 だが、その声の主もまた、笑っていないだけで止める気はない。


「いやさ、この世界の女の子はチョロいなーと思ってさ」


 軽い調子で言う。


 白い。小さい。ふわふわした姿。


 どこにでもいそうな、愛らしいマスコット。


 ――ただし、それは“外側”の話だ。


「悪いことはやめておけよ」


「何言ってるんだよ。お前も似たようなことやってるだろ」


「まあねー」


 もう一体が肩をすくめる。


 同じような姿。


 同じような声。


 同じような笑い方。


「でもさ、今回のはちょっと楽しくてさ」


「どうせまた“お涙頂戴”だろ?」


「そうそう」


 ケラケラと笑う。


「化け物が攻めてくるから、魔法少女になって戦って、この世界を守ってよ――ってさ」


「ベタだな」


「ベタが一番効くんだよ」


 即答だった。


「恐怖と正義をセットにすると、だいたい乗る」


「で、戦わせて終わり?」


「いやいや」


 首を振る。


 その仕草は、あまりにも人間的だった。


「戦わせるのが目的じゃない」


「じゃあ何だよ」


「循環だよ」


 少しだけ、声のトーンが落ちる。


「……ああ、あれか」


 もう一体が納得したように頷く。


「そう。“あれ”」


 静かに続ける。


「化け物って言ってるけどさ、あいつら元は何だと思う?」


「さあな」


「前の世界で“契約したやつ”だよ」


 空気が一瞬だけ変わる。


「……ああ」


「騙して力を与えて、使い潰して、壊れて、歪んで」


 指を一本ずつ折るように、淡々と数える。


「で、別の世界に流れて、報復しに来る」


「それをまた“次の魔法少女”に倒させる」


「そういうこと」


 ニヤリ、と笑う。


「完璧な循環だろ?」


「性格悪いなぁ」


「褒め言葉でいい?」


「いいんじゃない?」


 二体は同時に笑った。


 クスクスと。


 楽しそうに。


「だってさ」


 一体が、少しだけ声を弾ませる。


「騙した奴ら同士を戦わせてるだけなんだぜ?」


「確かに」


「しかも本人たちは“世界を救ってる”つもり」


「最高だな」


「でしょ?」


 軽く頷く。


「で、世界に飽きたら?」


「移動」


「また別の世界で?」


「同じことする」


「無限ループじゃん」


「そう」


 楽しそうに、断言する。


「どの世界も僕らのためにある」


 静かに。


 でも、確信を持って。


「本当、どの世界も僕らの遊び場だよね」


 少しの間、沈黙が落ちる。


 だが、それは重いものではない。


 ただの“間”だ。


「……でさ」


 もう一体が口を開く。


「今回の当たりは?」


「ああ、それね」


 少し考える素振りを見せてから。


「二人いた」


「二人?」


「一人は、すぐ逃げた」


「あー、ハズレか」


「いや」


 首を振る。


「面白いやつだった」


「へぇ?」


「契約内容全部聞いてきた」


「マジで?」


「契約内容不明、対価不明、リスク不明、選定理由不明――ってさ」


「うわ、めんどくさ」


「で、“説明不足だから断る”って」


「……賢いな」


「うん」


 少しだけ、間を置く。


「だから、あれは“後回し”」


「後回し?」


「そう」


 にやり、と笑う。


「簡単に落ちないやつは、後でじっくりやる方が楽しい」


「性格悪すぎだろ」


「知ってる」


 もう一体が肩をすくめる。


「もう一人は?」


「そっちは普通」


「普通って?」


「優しい」


「あー……」


「話聞くタイプ」


「一番ダメなやつだ」


「そう」


 くすりと笑う。


「だから、あっちはもうすぐ」


「もうすぐ?」


「うん」


 軽く頷く。


「契約する」


「……で、その後は?」


「いつも通り」


 あっさりと言う。


「戦って、壊れて、歪んで、流れて」


「また次の世界へ」


「そういうこと」


 静かに、空間が揺らぐ。


 まるで水面のように。


「じゃあ、行く?」


「行くか」


 二体は同時に立ち上がる。


 その姿が、少しずつ歪む。


 白くて、小さくて、ふわふわした形に戻っていく。


 “外側”の姿へと。


「次はどの世界?」


「さっき見つけたやつのところ」


「へぇ」


「優しい子」


「いいね」


 にやり、と笑う。


「壊れやすそう」


「やめろよ」


「冗談だって」


 そう言いながらも、笑いは止まらない。


「じゃあ行こうか」


「ああ」


 最後に。


 ぽつりと。


「――ねぇ!そこの君!」


 その声は、どこにでもあるような。


 優しくて。


 軽くて。


 そして。


 逃げ場のない声だった。

 

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