魔法少女の契約は誰のためのものなのかを知ってしまった話 〜契約する側の論理〜
クークックック――
暗闇の中で、笑い声が響いた。
「……何笑ってるんだよ」
少し呆れたような声が返る。
だが、その声の主もまた、笑っていないだけで止める気はない。
「いやさ、この世界の女の子はチョロいなーと思ってさ」
軽い調子で言う。
白い。小さい。ふわふわした姿。
どこにでもいそうな、愛らしいマスコット。
――ただし、それは“外側”の話だ。
「悪いことはやめておけよ」
「何言ってるんだよ。お前も似たようなことやってるだろ」
「まあねー」
もう一体が肩をすくめる。
同じような姿。
同じような声。
同じような笑い方。
「でもさ、今回のはちょっと楽しくてさ」
「どうせまた“お涙頂戴”だろ?」
「そうそう」
ケラケラと笑う。
「化け物が攻めてくるから、魔法少女になって戦って、この世界を守ってよ――ってさ」
「ベタだな」
「ベタが一番効くんだよ」
即答だった。
「恐怖と正義をセットにすると、だいたい乗る」
「で、戦わせて終わり?」
「いやいや」
首を振る。
その仕草は、あまりにも人間的だった。
「戦わせるのが目的じゃない」
「じゃあ何だよ」
「循環だよ」
少しだけ、声のトーンが落ちる。
「……ああ、あれか」
もう一体が納得したように頷く。
「そう。“あれ”」
静かに続ける。
「化け物って言ってるけどさ、あいつら元は何だと思う?」
「さあな」
「前の世界で“契約したやつ”だよ」
空気が一瞬だけ変わる。
「……ああ」
「騙して力を与えて、使い潰して、壊れて、歪んで」
指を一本ずつ折るように、淡々と数える。
「で、別の世界に流れて、報復しに来る」
「それをまた“次の魔法少女”に倒させる」
「そういうこと」
ニヤリ、と笑う。
「完璧な循環だろ?」
「性格悪いなぁ」
「褒め言葉でいい?」
「いいんじゃない?」
二体は同時に笑った。
クスクスと。
楽しそうに。
「だってさ」
一体が、少しだけ声を弾ませる。
「騙した奴ら同士を戦わせてるだけなんだぜ?」
「確かに」
「しかも本人たちは“世界を救ってる”つもり」
「最高だな」
「でしょ?」
軽く頷く。
「で、世界に飽きたら?」
「移動」
「また別の世界で?」
「同じことする」
「無限ループじゃん」
「そう」
楽しそうに、断言する。
「どの世界も僕らのためにある」
静かに。
でも、確信を持って。
「本当、どの世界も僕らの遊び場だよね」
少しの間、沈黙が落ちる。
だが、それは重いものではない。
ただの“間”だ。
「……でさ」
もう一体が口を開く。
「今回の当たりは?」
「ああ、それね」
少し考える素振りを見せてから。
「二人いた」
「二人?」
「一人は、すぐ逃げた」
「あー、ハズレか」
「いや」
首を振る。
「面白いやつだった」
「へぇ?」
「契約内容全部聞いてきた」
「マジで?」
「契約内容不明、対価不明、リスク不明、選定理由不明――ってさ」
「うわ、めんどくさ」
「で、“説明不足だから断る”って」
「……賢いな」
「うん」
少しだけ、間を置く。
「だから、あれは“後回し”」
「後回し?」
「そう」
にやり、と笑う。
「簡単に落ちないやつは、後でじっくりやる方が楽しい」
「性格悪すぎだろ」
「知ってる」
もう一体が肩をすくめる。
「もう一人は?」
「そっちは普通」
「普通って?」
「優しい」
「あー……」
「話聞くタイプ」
「一番ダメなやつだ」
「そう」
くすりと笑う。
「だから、あっちはもうすぐ」
「もうすぐ?」
「うん」
軽く頷く。
「契約する」
「……で、その後は?」
「いつも通り」
あっさりと言う。
「戦って、壊れて、歪んで、流れて」
「また次の世界へ」
「そういうこと」
静かに、空間が揺らぐ。
まるで水面のように。
「じゃあ、行く?」
「行くか」
二体は同時に立ち上がる。
その姿が、少しずつ歪む。
白くて、小さくて、ふわふわした形に戻っていく。
“外側”の姿へと。
「次はどの世界?」
「さっき見つけたやつのところ」
「へぇ」
「優しい子」
「いいね」
にやり、と笑う。
「壊れやすそう」
「やめろよ」
「冗談だって」
そう言いながらも、笑いは止まらない。
「じゃあ行こうか」
「ああ」
最後に。
ぽつりと。
「――ねぇ!そこの君!」
その声は、どこにでもあるような。
優しくて。
軽くて。
そして。
逃げ場のない声だった。




