廃部の危機!
赤峰烈火は今、大いなる一歩を踏み出していた。
校長室の重い扉を開く。
「校長先生!話とは何ですか!」
後ろを向いていた校長がゆっくりと椅子をこちら側に回転させる。
「廃部だ!」
余りの大声に烈火は後ろに吹き飛びそうになる。
だが、耐える。
耐えねばならぬ。
なぜなら、赤峰烈火はオカルト研究部の部長だからだ。
「ど、どうしてですかっ!」
「最近、流行っているものがあるな」
「なんですかっ」
「少子高齢化に決まっているだろう!」
「それと廃部は何の関係が……」
「入学する生徒数が減って、この高校が使えるお金も少なくなった」
烈火はごくりと唾を飲み込む。
「部活動に関する予算を削ることが決定したのだ!」
「どうしてオカルト研究部なのですか!」
「何の成果も、ないからだ!だから廃部。廃部しかない!」
「で、ですが!バレー部は地区予選2回戦負け。バスケ部も一回戦負け。野球部は部員が足りなくてそもそも大会にも出てないじゃないですか!」
「大バカ者!その違いも分からぬか!」
「すみませんっ!分かりませんっ!」
「部活の目標とは優勝だ!優勝を目指す意思が青春だ!」
夕日が傾き、校長の顔に影が落ちる。
「私は、よく分からない物を集めて遊んでいるだけの人間にお金を出すつもりはない!」
「校長っ!」
「一週間後にはオカルト研究部の部室は運動部のトレーニングルームの改装が始まる。それまでに荷物をまとめるように」
膝から崩れ落ちた烈火は、カーペットで涙を拭いて堪え続けている。
「野球部に転部するつもりはないか。昔は野球でエースだったんだろう?」
「確かに、そうですが……」
「さっき君が言った通り野球部は部員が足りなくてな。君が野球部を甲子園に導いてくれ!」
烈火はカーペットをぐっと握りしめる。
「それは、無理です……」
「自分の才能を生かさなくていいのか!」
高校に入って2年。いろんな人に言われ続けてきた言葉。
これが。
これが反撃のときではなくて何だというのか。
烈火はゆらっと立ち上がる。
「校長室に優勝旗が欲しくないですかっ!」
「な、なに!」
「オカルト研究部の優勝旗をここに置いてみせましょう!」
校長はその勢いに自分の過去を重ねていた。この高校の野球部で将来のことなんかどうとでもなると信じて疑わなかったあの頃の自分と。
「一週間。一週間後、また来ます」
「なに!」
「優勝旗とともにっ!」
夕日は落ち終える瞬間が一番明るい。その光が烈火の顔を照り付けていた。
「では、退室しますっ!」
オカルト研究部の部室は特別棟二階にある。その古めかしい教室に男女がいる。
赤峰烈火と氷室雪乃の二人だ。
「っと、そういう訳でして。先輩」
烈火は緊張しながら雪乃の返答を待つ。
「そう……」
雪乃は軽く咳をしながら本を読み続ける。
「先輩!絶対優勝旗を持ってきてオカルト研究部を守ってみせます!」
「ありがとう。だけど野球部に入ってもいいんだよ?」
「そんな……俺は先輩と、先輩と……」
「私と……?」
烈火はぎゅっと瞼を閉じる。
「……なんでもないです」
「そう?」
雪乃は本に視線を戻す。
「でもオカルト研究部に甲子園はないよ」
「そうなんですっ!」
烈火は不敵にふふふと笑いながら続ける。
「だからこれから作るんですよっ!」
「つくる……?」
「安心してください!内容はまだ考えていません!」
「そうか……」
烈火は自分用にお茶を入れながら雪乃を視界の端に入れる。俺が先輩を初めて見たのは部活動紹介のときです。あのときの先輩の姿、表情、雰囲気。
一目惚れでした。
すぐに入部届にオカルト研究部と書きました。俺は先輩との二人きりの空間を守りたいんです。だから、ここをむさ苦しいトレーニングルームになんて、
「溢れてるけど、お茶……」
「熱っ!」
雪乃がティッシュを探している中、ズボンがびちゃびちゃの烈火は閃いた。
優勝旗を引っ提げて帰ってくるためのアイデアが!
「厚紙を持ってきますっ!」
烈火は風のように駆けていった。
静けさが訪れる。
「厚紙を持ってきましたっ!」
騒がしさが訪れる。
「なにに使うの?」
「オカルト大会の宣伝ポスターを作ります」
マジックペンで、でっかく『オカルト大会!5月17日開催!』と書く。
「どんな内容にするの?」
「オカルト話を一人ずつ話していって、一番面白かった人が優勝です」
「どうやって面白いか決める?」
「それは……」
「それは?」
「もう民主的に!選挙で決めます!
普通選挙、平等選挙、秘密選挙、直接選挙でいきます!」
マジックペンを走らせる。
「完成したっ!
コンビニ行ってきますっ!」
烈火はコンビニでポスターを厚紙印刷する。
町を自転車で駆けずり回ってポスターを貼る。
そして部室へ戻ってきた。
「今日から一週間、大会に向けて特訓しますっ!だから……」
だから、だから、だから……
その先は言えない。
とっくに冷めきったお茶を一気に飲み干す。もう夜で、どうしようもなく寂しい。唇が震える。
「私はなにをすればいい?」
雪乃は下から覗き込むようにして尋ねる。
烈火はコップを口に持ってきて、もう空なのに気づく。
先輩ももう三年生になる。春には卒業してしまう。だから今ここで言わなくちゃダメだ。
ダメなんだっ!
「付き合ってくださいっ!……特訓に」
「うん」
「じゃあっ!帰りますっ!」
烈火は全速力で自転車を漕ぐ。
言った!言えた!
漕ぐ速度が上がっていく。
今はオカルト大会について考えるんだ。考えなきゃいけないんだ。
オカルトネタのストックをためる必要があるんじゃないのか。
だが、月明かりの下を立ち漕ぎしながら言葉にならない声で叫び続けた。
一瞬の感情を永遠に続くと思ってしまうのが青春だからである。




