最高の舞踏会を、愛しい貴方と共に
煌びやかな明かりが、夜を照らす舞踏会。
そこは、貴族達の社交の場であり、婚約者探しの場であり、最愛の人と踊る事が出来る素晴らしい場でもある。
そして今日。伯爵令嬢である私は、何度も足を運んだ大好きな舞踏会に、婚約者の侯爵令息であるイーシスと参加していた。
「アスター。やっぱり舞踏会、緊張するね」
「そうね、イーシス。けれど、回を重ねているから、慣れたかもしれないわ」
「すごいね、アスター!僕も見習って慣らさないと」
私の隣にいるイーシスは、大きく深呼吸を三度してから、はにかむように笑った。
本当に愛らしい、私の未来の旦那様。
これでも、ダンスはプロ並みに上手いんだから、驚いちゃうわよね。
でも、私も負けていられないわ。
だから、舞踏会の曲が流れた途端、イーシスの腕を掴んで引っ張り、会場のど真ん中に陣取った。
「そろそろ舞踏会が始まるわ。一緒に踊りましょう?」
「うん!とても素敵で、最高な舞踏会にしよう!」
私とイーシスは、お互いの身体をくっつけあって腕を組み、右へ左へくるくると華のように舞う。
やっぱり、踊りというのはとても楽しいわ!永遠に時間を忘れてしまいそう!
けれど、私はもう知っていた。
目の前にいるイーシスは、もう既に還らぬ人だってこと。
私は昔から霊感が強いから、愛しい婚約者が霊として彷徨ってたのを知っていた。
だから、天国へと悔いなく行けるよう、彼が大好きな舞踏会へと一緒に向かったの。
ほら、踊っているうちに、イーシスの身体が透け始めたわ。
だから私は、踊りの途中で、目の前の彼にこう囁いた。
「イーシス、もう未練は無くなったかしら?」
「っ!アスター…もしかして、そのために僕を…」
「ええ。愛しい貴方を大好きな舞踏会に連れて行きたくて。最高の舞踏会、楽しかったかしら?」
「うん!もう、悔いはないよ。ありがとう、アスター。君も早くこっちに来てね」
「ええ…そうするわ」
舞踏会の曲が止まり、イーシスは幸せそうな笑みを浮かべて、会場の空気と共に消えていく。
それを見守りながら、私はゆっくりと、その場で目を閉じたのだった。
※※※
舞踏会が始まる数日前、イーシスとアスターが馬車の転落による事故で既に亡くなっていたのは、貴族の間では有名な話だ。
けれど、たまたま舞踏会に参加していた霊が見える占い師は、のちにこう語ったという。
『あの舞踏会の夜に、イーシスとアスターが会場の真ん中で、それはそれは幸せそうに踊っていたんだ』と。
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