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思ったより早い再会

 どうして白スーツ姿の男性がいきなり現れたのかはわからない。


 だが、彼が現れて予想外だったのは、俺だけじゃなかったようだ。


「こ、これはファルコ様」


 マイクさんが慌てたように立ち上がって白スーツ姿の男性に頭を下げたかと思うと、ミーヌ村の鉱員たちも一斉に頭を下げる。


「申し訳ございません、突然の訪問で何も用意が……」

「よい、今日はお前たちに用があったわけじゃないからな」


 そう言って白スーツ姿の男性は、こちらを見て白い歯をキラリと光らせて笑う。


 ………………正直言って、吐きそうだ。


 どうして俺がこの白スーツ姿の男性に気に入られているのかは全くもって不明だが、とりあえず彼について知っていそうなマイクさんに質問する。


「あの、マイクさん……この失礼な人は一体誰なんですか?」

「ちょっ、ちょっとハジメさん、ファルコ様になんて口の利き方をするんですか!?」


 マイクさんは白スーツ姿の男性の前へと駆け寄ると、流れて来た汗を拭いながら彼の紹介を始める。


「この方はファルコ様、我がミーヌ村で採れた鉱石を買い取って販売して下さっているラファール商会の時期商会長です」

「ファルコだ。生憎とまだ商会長の息子という立場だが、俺が長となった暁にはラファールを世界一の商会にする。知っておいて損はないぞ、ハジメ」


 そう言って再びニヤリと笑ったファルコは、手をヒラヒラと振るように差し出してくる。


「どうも……」


 ファーストコンタクトではまともに挨拶しなかったが、手を差し出された以上は無下にするわけにはいかないと、ファルコの手を握りながら気になったことを質問する。


「それで、未来の商会長様はどうしてここに?」

「なに、ちょいと金のにおいがしたからな、そしたらハジメがいたというわけだ」

「金の……におい?」

「ああ、金のにおい……つまりの金儲けのにおいがするってやつだよ。才能なのかな? 昔から何となくわかるんだよね」


 そう言ってファルコは筋が通った高い鼻をトントンと叩いてニヤリと笑う。


「まっ、そんなわけで予感がして足を運んでみれば……何やら面白そうなことが起きてるじゃないか」


 本当に何も知らなかったのか、ファルコは緊張した面持ちで立っている鉱員の一人から資料をひったくると、あごひげを撫でながら興味深そうに読む。


「へぇ……なるほど、いざという時の備えを担保に金を稼ぐのか。扱うのはポーションなのに、ポーションを売らないというのは新しいな」

「ああ、これはポーションを買う価値を売る商売だ」

「なるほど、よく考えられている。おそらくこれの真の目的は、毎月安定した収入を得ること、契約者数を増やして収入を増やすこと、違うか?」

「……その通りだ」


 軽く目を通しただけで、儲けの仕組みを理解するファルコの理解力に素直に驚く。


 一見するとふざけた野郎かと思うファルコであるが、握手した手はゴツゴツして苦労が伺える手をしていたし、何より物事への理解度が高い。

 ついでに言えば、新しいことを受け入れる度量もあるようだし、ミーヌ村への影響力も大きいであろうファルコに興味を持ってもらえたのは大きいかもしれなかった。


 だが、それだけに解決できない問題があるのが痛かった。


 俺の表情から何か察したのか、ファルコが不思議そうに片眉を吊り上げる。


「それでどうした? 見た限り話がまとまりそうだったのに、何か問題が起きたのか?」

「ああ、残念ながらね……」


 期待されては悪いと、俺は改めてファルコに問題点を告げる。


「毎日、大量のポーションを運ぶ必要があるから専用の箱を用意したんだけど、残念ながら安全に運ぶことができなかったんだ」

「それか……」


 俺の背後に置かれた巨大な箱に気付いたファルコは、大股で歩いて箱のすぐ横にしゃがむ。


「ふむ、キチンと仕切られているし、緩衝材も十分入っている。高さも問題ないし蓋も悪くない。となると問題は……」


 ファルコは割れている瓶を一本手に取ると、人差し指でピンと弾く。

 経年劣化が進んでいたのか、それともファルコの叩く力が強いのか、たった一度指で弾いただけで複雑な形の瓶は粉々に砕けてしまう。


「脆いな……使い過ぎだな。ハジメ、ここへは外の荷馬車で来たのか?」

「えっ? そ、そうだけど……」

「そうか、あの荷馬車じゃダメなわけか……」


 一人で何か納得した様子のファルコは、


「箱は使い回すとして……荷馬車はあれか…………後は…………」


 あごひげを撫でながら、ブツブツとひとりごとを言い始める。


「あっ、おい……」

「ハジメさん」


 ファルコに声をかけようとすると、マイクさんが手を伸ばして俺の肩を掴んで止める。


「いいのです。ああなったファルコ様には、何も聞こえていませんから」

「そ、そうなんですか?」

「はい、後はなるようにしかなりませんから、おとなしく待ちましょう」

「はぁ……」


 どうやらファルコが自分の世界に浸ることは珍しくないようだ。

 会話の途中で放っておかれた方としては何とも言えないのだが、ファルコの目には俺の姿など全く映っていないようだ。


「…………」


 だが、何故だろう……不思議とブツブツとひとりごとをするファルコから目が離せない。

 それは俺だけじゃなく、他の人も同じようでマイクさんをはじめとした鉱員だけじゃなく、ルドさんやアリシアさんも同じようにファルコを見ていた。


 これが上に立つ者の魅力……カリスマというやつだろうか?


 口惜しいがファルコの顔立ちは、俺とは比べものにならないほど良い。

 鼻筋が通った堀の深い顔立ちに、野性味溢れる鋭い目、顔全体のバランスも整っており、均整の取れた肉体と相まって街に出れば、女性たちが放っておかないのではないかと思われる。


 …………別に、羨ましくなんかないからな。


 ファルコから無理矢理視線を外した俺は、所在なさげに佇んでいるラックとプルルを連れて外の空気でも吸っておこうかと思った。


「よいしょっと……」


 掛け声と共に立ち上がろうとすると、


「よし、決めた!」


 ファルコがパン、と手を叩くと、俺の方を見て白い歯を見せて笑う。


「ハジメ、お前の商売に俺も一枚噛ませろ」


 それは思いもよらない提案だった。

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