表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/54

交渉相手は手強そう

 刺々しい杭が何本も並んだ堅牢な門を抜けると、木造の同じ形をした小屋が目に付いた。


 入口は一つ、窓もない質素な小屋たちを見て思わず鉱員たちの生活環境を想像していると、


「あれは採掘した鉱石を保管している小屋です」


 俺の思考を予測したようなマイクさんの説明が入る。


「我々が行うのは主に採掘で、買い取りは他所から来た商人が行うので、入口に近い方が便利なんです」

「なるほど……ですが防犯対策は大丈夫ですか?」


 入口付近に鉱石を保管していたら、夜中に不届き者が現れて盗まれたり、仕事が辛くなった住人が逃げ出す時に持ち逃げしたりしないだろうか?


「えっ?」

「……えっ?」


 管理者として当然の疑問を口にしたのだが、マイクさんだけでなく、護衛の人たちまで信じられない者を見るような目で見ている。


 あれ、そんなに変なこと言っただろうか?


 場の空気を変にした責任を取ろうと、俺はマイクさんに質問する。


「あの……私の発言、そんなにおかしかったですか?」

「いえ、ハジメさんはやはり異世界からいらした方だと認識しました」

「そ、そうですか?」

「はい、外からはともかく、中の者が盗むという発想はちょっとなかったです」

「あり得ないと?」

「はい、あり得ないです」


 俺の疑問をマイクさんは一蹴すると、懐から名刺サイズのカードを取り出す。


「中からの盗みがあり得ない理由はこれです」

「ギルド会員証?」

「はい、ハジメさんもお持ちだと思いますが、このカードの中にはあらゆる情報が記載されます。その中でも犯罪に関する記述は、特別な意味を持ちます」


 ギルド会員証に犯罪の記録が記されると、何処に行っても犯罪者として扱われ、特に街の中で暮らすことが難しくなるという。

 言うまでもないが、街の中で暮らせないということは、魔物がいる中で常に怯えながら生きていかなければならなくなる。


 中には犯罪者でも受け入れてくれる街もあるらしいが、その場合は奴隷同然の扱いを受けたり、別の犯罪の荷担をさせられたりと、どちらにしても待っているのは地獄しかないという話だ。


「というわけで、中の者が盗みを働くことは、ほぼないと言えるのです」

「なるほど」


 いろんな機能が付いているとは聞いていたが、まさか犯罪の記録まで残るとは思わなかった。


 ちなみにギルド会員証に刻まれる情報は、カードではなく本人に依存するとのことで、例え無くしても再発行で刻まれる中身は変わらないそうだ。


「はぁ……そう聞くと改めて魔法の凄さを思い知りますね」

「そうですね。人によっては監視がキツイと思うそうですが、我々の立場としてはありがたい限りです」

「そうですね。心配事が一つ減るだけで、心の持ちようが大分楽になりますからね」

「全くです」


 マイクさんは頷きながら、再び村の中の説明へと戻る。


 鉱石を収納している小屋を抜けると、今度こそ村人たちが住む居住エリアへと入る。

 そこにはいくつもの商店や、木造三階建てのアパートメント、くり抜いた岩を活用した住居、噴水のある公園など、狭いながらも暮らしていく上で十分な施設が揃っていた。


 他にもクライスの街へと向かう乗合馬車というのもあり、シフトが休みの鉱員たちが遊びに行くそうだ。


 思った以上に充実した施設群に、俺は素直に感嘆の声を上げる。


「限られた範囲を有効的に使った、よく考えて造られた村ですね」

「ええ、先人たちの叡智の賜物です。この村の素晴らしさをわかっていただけて何よりです」


 マイクさんはニッコリと笑うと、俺たちを奥にある事務所へと案内してくれた。



 案内された事務所は、書類が山と積まれた大きさの割に少し手狭に感じる部屋だった。


「すみません、片付けはどうしても苦手で……」

「構いませんよ、私共も遊びに来たわけではありませんから」


 俺はかぶりを振って、勧められた椅子に付く。


「すまない、遅くなった」


 全員が席に着いたところで、入口の扉が開いて白髪の長いあごひげを蓄えた逞しい老人が姿を現す。


「父です。大事な商談と聞いたら話に参加させろとうるさくて……」


 すかさずマイクさんからの小声のフォローがはいるが、耳に届いたのか、老人は不機嫌そうに「フン」と鼻を鳴らして乱暴に席に着く。


「ルドだ。つまらん話だったら、異世界人だろうがつまみ出すから覚悟しろ」

「……わかりました」


 敵意剥き出しのルドさんの視線に、俺は神妙な顔で頷く。


 やはりこの場が設けられたのは、俺が異世界から来たという謳い文句が効いたようだ。

 この期待に応えるためにも、しっかりとしたプレゼンをしなければと思う。


 柔和なマイクさんは前向きに捉えてくれそうだが、問題は父親のルドさんだ。

 村長のルドさんの信頼が得られなければ、今回の商談も無に帰してしまうだろう。


「すぅ……はぁ……」


 俺は深呼吸を一つして、スイッチをビジネスモードに切り替えて話し始める。


「今回、皆さんにご提案したいのは、ポーションを使った定額サービスのご案内です」

「ポーションを使った……」

「定額サービス?」

「はい、と言ってもいきなり理解はできないと思いますので、こちらをご覧ください」


 そう言って俺は、事前にクオンさんたちに協力してもらって用意した資料を取り出す。


「こちらに簡単な料金プランと、提供するサービスが書かれています」


 念のため複数枚用意していた資料を、マイクさんとルドさんの親子、それと事務方の仕事を請け負っている職員、そして興味本位でやって来たであろう全員に配る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ