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スクラップ&スクラップ

 呼応するように周囲の空気がピリッ、と張りつめる中、今日は黒いゴシックドレスに身を包んだ姿が眩しいエカテリーナ様が悠然とした足取りで現れる。


「ごきげんよう、ハジメ」

「ごきげんよう、エカテリーナ様。本日も麗しいですね」


 既に恥ずかしくなくなったお嬢様っぽい挨拶を返すと、エカテリーナ様は手にした扇子で口元を隠して優雅に笑う。


 この場にエカテリーナ様がいるということは、事情も知っているだろう。


「エカテリーナ様、教会を取り壊すことを決めたのはあなたですね?」

「ええ、期限までに税金の納付が成されませんでしたから。約束一つ守れない方には、この街には相応しくありません。そう思いません?」

「さ、さあ? 俺には何とも……」


 いきなり同意を求められても、俺としてはどう答えていいかわからないが、税金が払えなかったという理由だけで、いきなり教会を取り壊すことまでする必要があるのだろうか?


 教会はかなり立派な建物だったようだったが、既に解体が半分くらい進んでラックが絶賛していた建物は見る影もない。


 光の御子が建てた教会について、元婚約者だったというエカテリーナ様には思うところがあったのかもしれないが、税金が払えないというくらいで牧師を追い出すのではなく、建物を取り壊すのはいかがなものかと思う。


 ただ、先程のラックたちの会話の中で気になる文言があったので、それについてエカテリーナ様に尋ねることにする。


「エカテリーナ様、教会には毎年多額の補助金が送られてきているそうですね?」

「ええ、それが何か?」

「今年は補助金が送られて来なかったそうですけど、それについて何か知ってますか?」

「まさかハジメは、わたくしが補助金を横取りしたと?」

「そんなことは思っていませんよ。ただ、補助金が打ち切られた理由ぐらいは知っているんじゃないかと思っただけです」

「さあ? わたくしは何も存じ上げませんわ」

「そう……ですか」

「そうですわ。ええ、それ以上は何もございません」


 この話はこれで終わりとでも言うように、エカテリーナ様はニッコリと笑う。


「さあ、皆さん。手が止まっていましてよ」


 暫く俺の顔を見ていたエカテリーナ様は、手を叩きながら作業員たちに声をかける。


「時間は有限ですわ。必要なものを運び出して再利用できるものは回収、残りは廃棄してしまいなさい。残業なんて無駄なこと、わたくしは絶対に許しませんわよ」


 時間内に仕事を終わらせろ。暗にそう言われたと察した作業員たちは、慌てて自分の作業に戻っていく。


 再び賑やかになる現場に満足気に頷いたエカテリーナ様は、項垂れている牧師に軽蔑するような冷たい視線を送る。


「あら、あなたには早く出て行けと言ったはずですけど、何時までいるつもりですの?」

「わ、私は聖職者ですぞ! 教会から正式に派遣された私に出て行けということは、教会を敵に回すのと同義ですぞ!?」


 牧師は自分の置かれた立場を盾に脅迫しようとするが、


「それがどうしましたの?」


 エカテリーナ様は全く意に介することなく、逆に不敵に笑ってみせる。


「生憎とわたくし、宗教に興味はありませんの」

「な、ななっ!?」

「例え相手が教会であろうと、金が払えないのであれば用などありませんわ」


 そう言ってエカテリーナ様が手にした扇子をパチンと鳴らすと、黒いローブに身を包んだ男たちが現れる。


「ご自分で立ち去るつもりがないなら、力尽くでお帰り願うことになりますけど?」

「ヒィィッ!? や、やめて! わ、私に触らないでええええええぇぇぇぇ!」


 過去に男たちと何かあったのか、牧師は悲鳴を上げながら立ち去っていった。



 牧師の立ち去った後の教会は、粛々と解体作業が進んでいた。


「それでハジメ、あなたはどうしてここに?」

「えっ? あっ、はい、実はですね……」


 エカテリーナ様の質問に、俺はアリシアさんに街を案内してもらっていたこと、彼女の祖母であるオリガさんに弟子入りしたことを報告する。


「そう、オリガおばあ様のもとに……」

「はい、これから錬金術師としてどんどんスキルアップして、期日までに借金を耳揃えて返してみせますから」

「フフフ、それは頼もしいことですわね」


 エカテリーナ様は閉じていた扇子を開くと、口元を隠して流し目を送って来る。


「ですがハジメ、あの方と同じ目に遭いたくなければ期日を守ること、ゆめゆめお忘れなきように」

「わかってます」

「よろしい、ではわたくしは公務がありますので……」


 忙しい仕事の合間を縫ってやって来たのか、エカテリーナ様は挨拶もそこそこに黒いローブの男たちを引き連れて去っていく。


 残されたのは、残業が発生しないように黙々と教会の解体作業を続ける男たちと、


「酷いクマ……パーン様が皆のために造った教会が……」


 教会に特別な思い入れがあったのか、涙を流して呆然と立ち尽くすラックに、俺は何て言葉をかけていいかわからないでいた。

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