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魔法の身分証明書

 ここまでの話の流れで何となく察したかもしれないが、冒険者ギルドにはいくつもの役割があるようだ。


 冒険者たちにクエストの斡旋をするのは当然として、様々なアイテムを取り扱う道具屋、そして食事や酒も提供してくれる酒場としての役割もあるそうだ。


「他に質問はございますか?」

「いえ、今日のところは十分です」


 他にも聞きたいことはあるが、色々と有益な情報を得られたし、あまり多く質問しても覚えきれなかったら意味がない。


「また何か気になることができましたら、改めて質問させて下さい」

「わかりました。それでは最後にハジメ様にこちらを渡しておきますね」


 そう言ってクオンさんは、エプロンのポケットからカードのようなものを取り出す。


「こちらはギルドの会員証です。これがあればこの街だけでなく、何処のギルドでもアイテムの納品ができますので、ぜひお役立てください」

「ありがとうございます」


 頭を下げて受け取ったギルド会員証は、名刺サイズの銀色の硬質なプレートだ。


 プレートには何やら氏名や年齢といった個人情報を記載する欄があるのだが、金属のように固い板にどうやって記名したらいいのだろうか?

 もしかしたら油性マーカーのようなものでもあるのだろうか? と思っていると、目の雨に何やら生け花で使う剣山のような刺々しいものが差し出される。


 何だろうと思っていると、クオンさんが棘の上に指を置くジェスチャーをする。


「ハジメ様、こちらを使って会員証の上に血を一滴垂らして下さい。後は自動で登録がされますから」

「あっ、は、はい……」


 何だかよくわからないが、指示されたからには従った方がよさそうだ。


 おそるおそる手を伸ばして剣山に人差し指を置くと、指先にほんの僅かに痛みが走り、血が玉となって溢れ出てくるので、俺はクオンさんの手振りに従うようにプレートの上に血を垂らす。


 俺の血がプレートに触れた途端、まるでプレートに薄い膜が張られるように色が銀色から白へと変わる。


「あっ!?」


 さらにいつの間にかプレートの個人情報の欄に俺の名前と年齢、そして職業のところに錬金術師と書かれていた。


「す、凄い、まるで魔法だ」

「まるで、じゃなくて魔法ですよ。その反応、本当に他所の世界からいらしたんですね」


 子供のようにはしゃぐ俺を見て、クオンさんはクスクスと上品に笑う。


「アイテムボックスを見た時は、あまり驚いていらっしゃらなかったので、内心でちょっと残念に思っていたんですよ」

「そ、それは……申し訳ないです」


 アイテムボックスの時は驚きよりも不思議さ、不気味さが上回っていたのと、見た目が地味だったのでこれといったリアクションが取れなかったのだ。


「この世界には色んな魔法がありますので、これから沢山経験していって下さいね」

「はい、そうさせていただきます」


 ちなみにギルド会員証の役割は、免許証のような個人の証明書以外にも、主に三つの役割がある。


 ・ギルドでのアイテムの納品、売買が行えるようになる。


 ・ギルドの後ろ盾で、事業を興すことができる。


 ・ギルド会員証を持っている同士での契約、誓約を結ぶことができる。


 特に最後の契約、誓約に関しては口約束や紙での締結とは違い、絶対に裏切ることができない強制力を持たせることができるらしい。

 この強制力のお蔭で何かしらの行動を起こす時、新米が最も危惧すべき『無知故に騙される』というリスクを大きく軽減できるというわけだ。


 起業する予定は今のところないが、冒険者でなくともギルド会員証のお世話になる機会はかなり多そうだった。


 キラキラと輝く白いプレートを見ていると、この世界の住人として認められたようで自然と笑みが浮かぶのを自覚する。


「ええっ!?」

「わっ、びっくりした……」


 突如としてすぐ隣から大声が聞こえ、俺は声の方へと目を向ける。


 アリシアさんが大きな目をさらに大きく見開いて、こちらを驚いているに気付いた俺は、おそるおそる彼女に話しかける。


「な、何でしょうか?」

「ハジメさんって若く見えるのに、今年で三十六歳なんですか?」

「あ、はい……」

「私より少し上かな? くらいに思っていたのに、ハジメさんって思ったよりおじ……」


 言ってる途中で失言だと気付いたのか、アリシアさんは反射的に口を押えて目を逸らす。


 そういえば、アリシアさんと自己紹介した時に年齢については触れていなかったことを思い出す。


 かと言って、年齢なんて生まれ変わり出もしない限り覆すことはできないので、俺は口を押えたまま固まっているアリシアさんに年齢について話さなかったことを謝罪する。


「思ったよりおじさんなの、黙っていてすみません」

「えっ? いえいえ、ちょっと驚いただけなので、謝らないで下さい!」


 謝られると思っていなかったのか、アリシアさんは慌てたように眼前で両手を振る。


「それに、錬金術師は修業期間が長くて一人前になる頃には四十、五十が当たり前ですから……ハジメさんの年齢で錬金術師を名乗れるなんて異例の若さですよ。本当、凄いです!」

「でも俺の錬金術はラックからもらったものなので、修行なんて大層なことは何にもしてないですよ」

「あうあぅ、で、でもですね……」


 俺の解答を聞いたアリシアさんは、その後も必死になって俺のフォローをしようとしてくれたが、


「その、失礼なことを言ってすみませんでした」


 最終的に頭を下げて謝罪して、自分の年齢が今年成人したばかりの十八歳であることを教えてくれた。

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