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2柱(B)_押しかけ女房の正体

「そしてこの家の隣にあるのがぁ、その神社だって訳よぉ」


話し終わったモーセは再び茶を啜った。

また”あ‘‘あ‘‘ぁ~~~”とか言ってるよ。

間違いなくオッサンだ。


「あの。伺ってもよろしいでしょうか? モーセ様」


彼女が発言した瞬間、モーセが飛びあがる。


「よしてくれぃ御姫様ぁ! 俺を”様”なんて止めてくれぃ! ……どうか”モーセ”とぉ」


そう言って、よく時代劇とかで見るような綺麗な土下座(座礼というらしい)を見せた。

それを見た彼女は口に手を当てて上品に笑う。


「では改めて。モーセ、わたくしを隠していたと言うのですよね? なぜ今、結界を解いてわたくしを外へ出したのですか?」

「今の御姫様は片割れですからなぁ。そんなじょうたいじゃぁ黄泉にも行けねぇんでぇ、消滅する前に出てもらったって訳でぇ」


そう言うとモーセは腕を組み、目を閉じた。


「まぁ。今なら何とか出来るかもしれねぇしなぁ」

「"今なら"ってどういう事だよ? それに"片割れ"って?」

「おっとぉ! 今できる説明はここまでだぁ。これ以上は今話しても理解できねぇしぃ、まだ早すぎるからなぁ」


肉球をビシッ! と俺に突き出して言った。

なんか腹立つ顔してるな。

猫なのに表情豊かなのはどういう事なんだよ。


「まぁ、しばらくは大丈夫じゃ。部屋も余っとるし、御姫様はうちで預かろう」

「頼むぜぇ、立巳ちゃんよぉ」

「ち、ちょっと待てよ! この子がうちに住むのか?!」

「なんじゃ尊? 彼女が欲しいと言うとったろ? それをすっ飛ばして嫁ができたんじゃ。もっと嬉しそうにせんか」

「でも彼女は幽霊なんだろ? 他の人には見えなかったり」

「御姫様は実体化しているからなぁ、全く問題無いぜぇ」

「俺……彼女の名前すら知らないんだぜ?!」


そう言うと婆ちゃんとモーセは二人して目を見合わせて頷きあうとこう言った。


「「だったらお前が名前をつけてやれ」ぇ」

「だから息がピッタリなんだよ! 熟年夫婦かっての!」

「誰が熟年じゃ!」

「突っ込むとこそこかよ! って、そんな事じゃねえ! 二人がこの子を知ってるって事は、名前だって知ってるんだろ? 教えてくれよ!」


名前があるならそれで良いじゃん。

と思ったが、婆ちゃんは首を振った。


「それじゃいかん。尊、お前が名前をつけてやれ」

「わたくしからもお願い申し上げます。是非とも尊様に名を頂きとう御座います」

「えぇ、マジかよ。そんな急に言われても……」


彼女本人からも頼まれてしまい、どうにも断れない雰囲気だ。

名前をつけるなんて初めての事だし、しかも産まれたての赤ちゃんじゃなく年頃の女の子だぞ?

こんな事なら女の子の名前についても勉強しておけば良かった。


俺は何か良い名前のアイデアが無いかと辺りを見回し、ふと居間に面した庭に生えている木が目に入った。


濃い緑色の葉が茂り、綺麗で艶やかな赤い花を付けたその木の名は。


「……椿つばき


「!」

「ほほぉ」

「へぇ」


うん。

響きも良いと思うし、御淑やかって感じの彼女にピッタリじゃないか?


「どうかな? 君に似合うと思ったんだけど……」


恐る恐る彼女に聞いてみる。


「椿……とても良い名ですわ。」


そう言う彼女の目から、一筋の涙が零れた。


「ど、どうしたんだよ! やっぱり駄目だったか?!」


いきなりの事態に俺が慌てていると。


「いえ、違うのです。ただ、何だか懐かしい気持ちになりまして」


指先で涙を拭った彼女がスッと俺に向き直る。


「”椿”の名を賜り、大変嬉しゅう御座います」


そう言うと三つ指をついて綺麗な礼を見せてくれた。

そしてゆっくりと顔を上げ。


「これからよろしくお願い申し上げます。”殿との”!」

「と、殿?!」


「身分の高い夫婦の夫を、昔は殿と呼んだんじゃよ」

「あぁ、なるほど。でも殿ってのはなぁ……」


しかし、俺に嫁かぁ。


と、その時。

4発大排気量と、V6NA3.2リッターの排気音が奏でるデュエットが聞こえてきた。


「やべぇ! 優と空が来ちまった!」

「どなたですの?」

「尊の友達じゃよ」

「まぁ! では是非ご挨拶をしませんと」

「え?! 会うのか?!」

「いけませんでしょうか……」


う!

そんな目で見ないでくれ。

あぁ〜、どうするか。


「いいじゃねぇかぁ、どの道いつかバレるんだぁ。早いに越した事はねぇよぉ」


「わかったわかった! でもモーセは喋るなよ!」


俺がそう言うと、モーセは親指(?)を立ててライクして、さらにはお口にチャックのジェスチャーまでしてきやがった。

本当に器用なやつだな。


玄関が開く音が聞こえた。

俺、婆ちゃん、椿ちゃんは玄関まで行くと、やって来た二人を出迎える。


「来たよ! 尊!」

「・・・尊。・・・出迎えご苦労」

「オッスオッス! 来てくれて嬉しいぜ!」


随分な荷物の量だ。

俺の為にこれだけ準備してくれたのだと思うと、今までの事を忘れて嬉しくなる。


「お婆さん。今日はよろしくお願いします」

「・・・お婆ちゃんヨロシク」

「ありがとな、わざわざ。今日は楽しんでけ」


婆ちゃんとも挨拶した優と空は、俺の後ろにいる3人目のお出迎えに気付いた。


「えっと。こちらの方は?」

「あぁ! その。何て言ったら良いか……」

「・・・誘拐?」

「断じて違う!」


しまった。何て説明するか全く考えて無かった。

どう答えれば良いか分からずにいると。


「殿。わたくしからご挨拶させて頂きとうございますが、宜しいでしょうか?」


「よ、よろしいです」


("殿"?! 殿って言ったよね? 今)

(・・・モテなさすぎて、新たな境地に達した?)


二人してコソコソ喋ってるつもりだろうが、全部聞こえてんだよ!


そんな二人のやり取りを聞こえないふりか、マジで聞こえて無いのかわからないが、椿は二人の前に出て言う。


「わたくし。本日より殿の正室を務めさせて頂きます、椿と申します。どうぞよろしくお願い申し上げます」


椿は綺麗に腰を折って礼をした。


いや、もうちょい経緯の説明とか無いのかね?

ほら、二人も固まってるし。

どうすんだよ、全く。




「へぇ! だから椿さんは尊の所に来たんだね」

「そうなのです。これからわたくしの生涯を殿に捧げるつもりです」

「・・・これが愛?・・・尊の為ならタヒねる?」

「たひ?」


椿ちゃんと二人は思いの外すぐに打ち解けた。

元幽霊?だと知ってなお、こんな感じで話が弾み、居間で一緒に誕生パーティーの飾りつけをしている。


ちなみに、俺も一緒に飾りつけをしようと思ったら。

「尊は主役なんだから、ゆっくり待っててよ」

とか言われてしまった。

それなら婆ちゃんの料理を手伝うかと思い、台所へ行くと。

「主役はどっしりと待っとれ!」

とか言われて追い出された。


どうしよう。

何もやる事がない。


明日、バイト先に持って行くデータは完成してるし、月曜日の講義で提出するレポートも、昨日の夜にメールで出した。


俺は自分の部屋に戻ってベッドに寝転がる。

おととい婆ちゃんが掃除してくれたので埃が立つ事はない。

仰向けになり、頭の後ろで手を組む。

朝から色々ありすぎて、時間はまだ昼前だというのに一日中労働していたかのような疲労感を感じる。


だめだ。結構眠いな。

まぁ、準備ができたら、起こして、くれる。だろ……。


眠気が導くまま、俺は意識を手放した。




◼️

どれくらい寝ていたのだろうか?

誰かの話声で目が覚めた。

目は閉じたままだが、瞼の向こうに光を感じるのでまだ昼過ぎくらいだろう。


誰かが起こしに来てくれたのか?


目を開けて確認しようと思うが、目を開けられない。

開けようという意識はあるのに体が動かなかった。


これが金縛りってやつなのか?


などと呑気に考えていて、以外にも恐怖や焦りを感じる事はなかった。

むしろ安心感すらある。


その時、

誰かが階段を上がって来る足音が聞こえ、話し声は聞こえなくなった。

誰だったんだろう?


ドアを開ける音が聞こえた。


と思ったらすぐに閉じた?

様子を見に来ただけなのか?

と思ったが。


いや、違う。

気配を感じる。

これは!


俺が目を開けると。

(・ω・)

「うおぉ!」

視界いっぱいの美少女だ!


眠気なんか一瞬で吹き飛んじまった。

今までにないくらい女の子と接近したからか、心臓がバクバクよ。


「本当にこれで起きますのね」

「・・・そう。これは世の妻達が自分の旦那を起こす為の正式な作法。・・・これで尊は椿氏にメロメロで心臓鷲掴み間違い無し」

「左様ですか。いかがでしょう? 旦那様。めろめろで鷲掴みでしょうか?」

「・・・ふふふ。所詮男は狼。尊も今夜は椿氏とズコバコ「止めろ! 起きてるから、もう良いだろ!」


こいつは椿ちゃんに何を吹き込んでやがんだ!

純情がビッチにジョブチェンジしたらどうしてくれる。


「旦那様。支度が整いましてございます。さ、参りましょう!」

「分かった。ありがとな、起こしてくれて」

「いえ、これも妻の務めです。」

「ところで、その"旦那様"っては……」


と言ったところでハッと気づいて空を見た。

いつも通りの無表情のまま、親指を突き立ててきやがった。

やっぱりお前か、このやろう。

まぁ、"殿"よりマシか。


「ところでさ、他に誰か俺の部屋に来たか?」

「いえ、わたくし達だけですが、いかがなさいましたか?」

「いや、大丈夫。何でもないんだ」

「・・・大丈夫、椿氏。・・・尊は寝ぼけてるだけ」


まったく、適当なこと抜かしやがって。


時計を見るとすでに16時だった。

結構な時間寝ていたらしい。

それにしても、さっきの話し声は俺の夢だったのか?


「・・・準備ができたから。・・・尊は後から来て」


とのことなので、少しだけ待つことにする。

と、”待つ”というほどの間も無く。


「尊! 下りてきて良いよ!」


呼ばれたので、階段を下りて居間へと向かった。

廊下に面した襖を開けると。


パパーーーーーン!

パーーーン!


クラッカーが鳴り響き、カラフルな紙テープが俺にへばりついて来た。

遅れて鳴ったのは椿ちゃんのクラッカーらしい。

クラッカーの音にちょっとビックリしたみたいだ。


「誕生日おめでとう!」

「・・・おめでと」

「あぁ、ありがとう」


嬉しさと気恥ずかしさで、笑顔と言わないまでも思わず笑みがこぼれてしまう。


「旦那様。おめでとうございます」

「ありがとう、椿ちゃん」


三つ指をついて深々と礼をする椿ちゃんにつられ、俺も正座して頭を下げる。

礼儀や作法に疎いからこれで良いのかわからないけど、頭を上げた椿ちゃんが微笑んでくれるとどうでも良くなってしまうから不思議だ。


(見てよ、尊のあの緩み切った顔。早速のろけてるね)

(・・・これがリア充の波動。・・・爆発しろ)


「の、のろけてなんかねぇよ! 早く料理を食べようぜ!」


俺の誕生日を祝ってくれる友達がいて、嫁までできた。

これまではパッとしないと思っていたけど、20歳になったこの日から俺の人生は良くなってきそうだ。


過去なんて関係ない。

これからみんなで青春を満喫してやる!

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