6柱(B)_名前とはこの世にある事の証明
先週の土日は体調がすぐれず、1回しか投稿できませんでしたからね。
今回は明日も投稿予定ですよ!
幼女と鬼女は山道から外れて山の斜面を駆け上がっていく。
雨は止んでいるものの、地面は大量の水分のせいでぬかるんでいる所も多い。最悪の足元であるが、そんな事は微塵も感じさせないような足取りだ。
これが神種と妖怪の特性なのかと言えば、そうではない。
これは尊の腕時計に宿った付喪神。
幼女呼ばわりされた物の異能によるものだ。
幼女の賜った異能である、
Manipolare il tempo
尊はこの異能について、単純に”時間を止める能力”と思ったようだが、実際には少し違う。
現時点におけるこの異能の詳細は、
”使用者が指定した空間内に存在する、物質の時間と移動を操る事が出来る能力”
である。
この異能を使い、着地する部分の地面だけを指定して固定する事で、足がぬかるみに沈む事なく、力強く地面を蹴る事ができている。
先ほど、モーセを固定した時はその体積分を10秒止めるのが精一杯だった。だが2人分の足が着地する部分だけ、しかもコンマ数秒のみとあれば、幼女の小さい神力でも十分であった。
難しいのは、地面の時間を停止・解除するタイミングであるが、幼女は時計の付喪神。
時間管理は最も得意とするところであり、幼女にとってはまさに息をするにも等しかった。
そうして斜面を駆け上がった2人は、山頂にたどり着いた。
そこは平らな台地状になっている広場で、周囲を円形に生えそろった木に囲まれており、中央には大きな木が一本そびえ立っている。
雨の影響で所々に大きな水たまりはあるものの、周囲を気にすることなく修行するにはとっておきの場所だった。
「ほぁー。広い場所なのです!」
「あぁ」
2人は、広場の中で水溜りの少ない場所を求めて、中央の木の下までやってきた。
大きな木の枝葉に遮られていた地面は乾いており、柔らかそうな下草も生えていて実に都合が良い。
「ここなら思う存分修行できるのです! 師匠! 早速さっきの続きをするのです!」
「あぁ」
幼女は早速、鬼女に対して構えを見せると、鬼女の方もそれに応えて構えをとる。
幼女の方は腰を深く落とし、足も広めに開く。自身の身長の低さも相まって、かなり低い位置に重心があるため、長身の鬼女にとってはやりづらいだろう。
鬼女の方はというと、幼女に対して右足を引いて半身にはなったが、足は肩幅程度でほぼ直立と言ってよく、両手も下げたままの自然体である。
「じゃあ、行くのです! やあぁ!」
低い姿勢のまま突っ込んできた幼女に対し、
鬼女は前に出していた左足を少しだけ左前に出す。
そして、幼女が掴みにかかった瞬間に合わせて右足を引くと、自然と上体が回り、幼女の両手が空を切る。
その流れのまま幼女の後頭部に添えると、軽く前に押し出した。
それだけで。
「うわあぁ!」
突進の勢いを殺せない幼女は、頭を押された事で前のめりになってしまい、そのままバランスを崩して顔から地面にダイブした。
力強く、勢い任せに突っ込む幼女の立ち回り。
自然体で、流れるような鬼女の身のこなし。
正に対局である。
幼女は一方的に投げられるばかりだが、何度も立ち上がり手合わせを挑む。その相手をする鬼女は頭巾で隠れた表情を見ずとも、楽し気なのが伝わって来る。
「あいたたた……も、もう一度なのです! ……師匠?」
擦れた鼻を押さえながら顔を上げた幼女は、再度手合わせを挑もうと、立ち上がりつつ振り返ったのだが。
「あぁ、あぁ……あぁ……」
「ど、どうしたのです?」
鬼女は腰を低くし、しきりに周囲を警戒していた。
その様子を見た幼女は、何かあるのだと瞬時に理解して同じように警戒する。
すると。
「がはははは! 遠くに神気を感じると思えば、その根源の方から来てくれるとはなあ。俺様にもツキが回ってきたぜえ!」
突然。
どこからともなく空気が震えるほどの、太く大きな声が響いた。
「だ、誰なのです!?」
声の発信源を見つけられず、辺りを見回す2人に再び声が聞こえてくる。
「ハッ! どこを見てやがる! 俺様は”熊童子”。この山は俺様の縄張りだ!」
ようやく声の元が頭上にあると分かり上を仰ぐ。
広場中央の木の上、そこに声の主がいた。
体長3メートルはあろうかという体躯と太い手足は、出会うものに恐怖を与える。
全身を覆う体毛は黒く、不気味さと邪悪さを感じさせ、相手の心を挫く。
鋭い爪と口元から見える白い牙は獲物に致命的な傷を負わせる。
日本の野生動物における、最強種であろう動物だ。
「……クマちゃんなのです?」
「だっ! 誰が”クマちゃん”だ!」
はちみつでも舐めていそうな感じの、気の抜けた愛称で呼ばれた熊童子は太い木の枝から飛び降りた。
ドォンッ!
「わ! わわわ!」
着地の瞬間、大きな音と共に地震かと間違うほどの揺れが発生する。
幼女は揺れに耐えきれずによろけてしまい、とっさに鬼女が支えた。
「いいぜ。遊んだ後に縄張りから追い出すだけにしといてやろうと思ったが……気が変わった。テメェを食って神気を取り込んでやる。覚悟しろよ?」
「何を言うのです!」
熊童子が言い放った、その不遜な物言いに幼女は怒りを露わにして言い返す。
頭に血が上った幼女は鬼女の制止も振り解き、前に出てさらに続けた。
「ご主人の強い思いから生まれた私は、同じように強いのです! お前なんかケチョンケチョンです! 覚悟するのです!」
「言うじゃねぇか。じっくりといたぶって、テメェの高ぇ高ぇ鼻っ柱をへし折ってやらねぇとな!」
言うが早いか熊童子は四つ足の姿勢を取り、幼女目掛けて突っ込んできた。
「わ! あわわわ!!!」
生まれたばかりで組組手しか経験の無い幼女は、始める際には何かしらの合図なりがあると思っており、まさか開始の合図も無しに突進してくるとは思っていなかったのである。
だが、これは組手や仕合とは違う、ルール無用の”闘い”だ。
幼女は、凄まじい速度で迫って来る熊童子に対して怯んでしまい、回避のために動く事ができなかった。
ぶ、ぶつかるのです!
避ける事が出来ない幼女は、自分の顔を腕で覆った。
防御でも何でもなく、ただ危険が迫った時に起こる条件反射である。
衝撃を覚悟して葉を食いしばった。
その時。
「あぁ!」
幼女の前に出て、熊童子との間に立った鬼女が、両手で素早く印を結ぶと結界を張った。
「守ってるつもりか! テメェも一緒に吹き飛ばしてやるぜ!」
結界を認識できない熊童子は速度を落とすどころか、より速度を増した。
そして。
ガアァァァン!!!
「ガァッ! ぐおぉぉぉ!!!」
勢いそのままに自分の顔面から結界に衝突した熊童子。
痛みに耐えかねてその場に倒れ込み、必死にもがいて痛みを紛らわせようとしている。
「ぷぷ! 自分の鼻っ柱が折れたのです?」
先ほど、あれだけビビり散らかしていたものの発言とは到底思えないが、そんな事は都合良く忘れた幼女は熊童子を笑って煽る。
折れてはいないが、潰れて少し血も出ている鼻を押さえて熊童子はゆらりと立ち上がる。
「テメェ……楽に死ねると思うなよ?」
「うっ!」
「……」
熊童子からあふれ出る力が数段上がる。
そこに至り、幼女はようやく熊童子の実力を感じ取ることができた。
自分とは異なる力。
それに自分よりも強い力。
感情では認めたくないが、本能で理解してしまった。
私では……勝てないかもしれないのです。
思わず後ずさり、額に薄っすらと汗が滲む。
■
2人と熊童子が対する少し前のこと。
俺たちはトンネルの中で途方に暮れていた。
「まだかかりそうか? ジョバンニ」
「凄いよこれは、相当強力だね。あの鬼女さんは妖怪として生まれてから100年以上経っているんじゃないかな?」
「関心してる場合かよ、このままじゃアイツを探すどころじゃなくなっちまう」
「まぁまぁ、旦那様。急いでは事を仕損じるものでございます」
「そりゃそうだけど……」
このトンネルに着くまでに結構な距離を運転していたが、迂回できそうな分岐などは全く見当たらなかった。回り道をして追いかけるんなら、だいぶ戻る必要がある。
そこで、どうにか結界を解除できないかとジョバンニに試行錯誤してもらっていたのだが、思うようにいかないようだ。
ジョバンニから聞いた話が本当なら、なるべく早く幼女に合流する必要があるというのに。
「しかし……結界かぁ」
俺は右手を伸ばしてみた。
確かに感触がある。
俺の目には何も見えないのに壁があるというのは、何とも不思議なもんだ。どんなに押してもビクともしない。
俺はふと、やってみたい事が思い浮かんだ。
「よ! ほ! あっそれ!」
「何をなさっておられるのです? 旦那様」
「パントマイムだよ。マジで見えない壁があるからな、メッチャ上手く見えるだろ?」
「相棒の背中しか見えてないだろうけどね」
ジョバンニが横で笑っている。なんか呆れているようにも感じるな。
「しょうがねぇだろ? 向こう側からなら、俺の超絶パフォーマンスを見せてやれるのになぁ。それそれそれ!」
そう言いつつ、結界に手を当てたまま雑巾掛けの動作をした時だった。
フッ
「うぉっ! ……へ?」
先程まで手のひらに感じていた感触が突然無くなった。
結界があったはずの場所に手を伸ばしてみるが、手が空を切るばかりで何の感触も無い。
本当に結界が消えたようだ。
「どうして結界が解けたんだろうね? 時間制限があったのかな」
「何にせよ、これで先へ進めます。早く彼女を見つけましょう」
「あぁ、そうだな。頼むジョバンニ!」
「わかった!」
フィアットに変化したジョバンニに乗り込むと、2人の後を追ってトンネルを抜けた。
俺たちがトンネルの中でまごついている間に、雨は止んでいたようだ。
分厚い雲は空を覆いつくしたままだが、空はいくらか明るく感じる。
フィアットの非力なエンジンをぶん回し、上り坂に入った山道を一生懸命に登っていく。
あれぇ?
ラブコメを書こうと思ってプロットとか作ってたんですけど。
「こういうのも面白そう!」
「あ! こういうことも書きたい!」
「こっちの展開の方が好きだな~」
とか思って書いてたらなんか不穏な展開に……。
(; ・`д・´)
物語が自分で進みだしたという事か?!




