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1柱(A)_不束者ですが。末永くよろしくお願いします。

初めて自分で書いて投稿してみました。

続けて投稿していきますので、もし気に入ってくださったのなら気長に待って頂けると幸いです。

Aパートです。

初夏の終わりだというのに30度越えを記録する日々が続く。


蝉の声が暑さを助長する外の世界とは無縁とばかりに、自作した帆布のカーテンで日光を遮り、エアコンのよく効いた涼しい部屋の中で椅子に座り、デスクに上体を横たえて寝息をたてる青年が一人。

実に気持ちよさそうに寝息をたてている。


が、その憩いの終わりを告げる足音が近づく。


バーーーン!!!

たける! いつまで寝とるんじゃ! 早う起きい!」

「どわぁ!」


鼓膜を破らんばかりの大声と、ドアを蹴破った衝撃音に驚いて椅子から転げ落ち、デスクが揺れた衝撃でスリープ状態だったPCのモニターが明るくなる。


真っ白な小袖に緋袴姿。

腰まである長い黒髪を後ろで一つにまとめており、いかにも"巫女さん"といった出立ちの人物は、もんどりうって床で頭を強打して悶える俺を尻目に、ズカズカと部屋に侵入して窓にかけられた厚手のカーテンを躊躇なく開ける。

一気に部屋に差し込んだ光が俺の柔肌をジリジリと焦がしだしてきた。


「ぐわぁ! 体が灼ける! カーテン閉じてくれよ婆ちゃん!」

「軟弱者が! ちっとは日に焼けんか!」


窓を開け放ち、皺皺の手でベッドの上に被せられた布団を叩くと埃がまい上がる。

婆ちゃんは顔を顰めて身を反らした。


「まったく、毎晩のように机に突っ伏しおって。これじゃ布団が可哀そうじゃろ」


そう言うと部屋のエアコンを止め、隅に置いてあった扇風機を窓に向けて強風スイッチをONにする。

布団から埃たちが一斉に飛び立ち、窓の外の大空に羽ばたいてゆく。


キンキンに冷えていた部屋は、容赦なく照り付ける夏の日差しにより一気に灼熱地獄に早変わりだ。


「クーラーを切るなよ婆ちゃん。今日も猛暑日なんだぜ?」

「部屋におらんようになるのにいらんじゃろ。飯食ったら今日も手伝え。明日はお前も成人になるんじゃから、もちっとシャキッとせんか!」


婆ちゃんは言いながら部屋を出て階段を下りて行った。

全くせわしないババアだよな。

年寄りなのに何であんなにパワフルなのかねぇ?


嵐が過ぎ去った事に安堵の溜息を吐き、壁の時計を確認するとまだ8時だった。

今日の講義は2コマ目からだし、だいぶ時間がある。

大学へは車で20分ほどだから”日課”を手伝っても時間は大丈夫か。


俺、山門尊やまと たけるは大学入学と同時に婆ちゃんの家で世話になっている。

余計なお金もかからないしそれ自体はありがたいのだが、住むにあたっていくつか条件もあり、そのうちの一つが”婆ちゃんの起床に合わせる”というものだ。

婆ちゃんはいつも7時には起きているから、俺が寝たままだと今日みたいにたたき起こされるという訳だ。


着替えを済ませ、お気に入りの腕時計を置いてある棚に腕を伸ばした時、棚の横に置いてある姿見が自分の全身を写し出した。

大学こそは彼女を作ろうと決心して色々勉強し始めた時に、服のコーディネートを確認する為に買ったものだ。


背筋を伸ばして鏡の前に立ってみると、中に写った男が目つきの悪い顔でこちらを見つめ返している。

これで背が高ければまだマシだったんだろうけど、残念ながら170センチにも届かない身長と細身の体では、何の威圧感も無いしカッコ良くも無い。


この見た目のせいで、街で絡まれた事もある。


学校では絡まれないように目立たないよう過ごしていたら、友達すらほとんどできずに高校を卒業してしまった。


これじゃダメだと思い直し、大学こそは普通に友達や彼女を作りたいと、できる範囲で努力してきたつもりだった。


そんな努力も無駄だったのかもしれないけどな。

まぁ、今更うじうじしたってしょうがねぇ。


棚に置いてあるレオニダスの時計を取って腕に装着する。

これは親父から大学の入学祝いで貰った時計で俺のお気に入りだ。


今時には珍しいアナログタイプで、黒い文字盤にシルバー部品のアクセント、3時と9時の位置にクロノグラフも付いている。

ビンテージだからそれなりに傷や汚れが付いているが、それがまた渋くてカッコイイ!


1階へ降り、襖を開けて居間に入る。


その瞬間、程よい冷気が溢れてきて俺の体を冷やしてくれた。

ちゃぶ台の上には俺の分と思しき朝食が並んでいる。

トースト二切れにバターとジャムの瓶、熱々の紅茶にお好みでミルクと砂糖。


相変わらずの事ではあるけど。

バリバリの日本家屋で、しかも常に巫女服を着た婆さんが用意する朝飯がこれだ。

まぁでも、居候の初日こそ驚いたけど、慣れてしまえば存外こういう物だと割り切れるから不思議だ。


用意してくれた本人はすでに食べ終えていたらしく、居間に隣接している台所の流し台で食器を洗っていた。

俺は座って目の前のトーストにバターを塗りながら、婆ちゃんの後姿を見る。


子供の頃に見た婆ちゃんはとても大きくて、綺麗な見た目だったと思うんだけど、今じゃ身長は俺の方が倍くらいあるし、見た目はまるで某映画の○ーダ様だ。

だがその歳に反して足腰は強靭で真っすぐだし、目も耳も良いときた。

飯もたくさん食べるし、夜飯の後は毎日酒を飲んでいる。

昨日の夜だって、「飲むか?」とか言いながら俺に日本酒が入ったコップを突き出してきやがった。

100歳を超えても元気そうだ。


そんな事を考えながら、俺はバタージャムのトーストを齧り甘々のミルクティーを飲む。


婆ちゃんは洗い物が片付いたのか、タオルで手を拭きながら振り返った。


「食い終わったか? 尊」

「もう食べ終わるよ、ごちそーさま」

「皿は洗い桶の中に浸けとけ。それじゃあ行くぞ」

「了解りょーかい」


そう言って、俺は最後の一口になったパンを口に押込み、ミルクティーで流し込むと、食器を流しの中の桶に浸けてから婆ちゃんについて行く。

これから、その"日課"が始まるのだ。


玄関の引き戸を開ける。

ガラガラという音と同時に、外の熱気がまた俺の全身から冷気を奪い去った。

瞬く間に噴き出る汗を拭いつつ、目的地へ向かって歩く事5秒。

神社の入り口である鳥居の前に来た。

家の真隣である。


石造りの簡素な鳥居だが、約500年前からここにあるらしくて小さいながらも重厚感を感じる。

婆ちゃんの家はこの古い神社の隣に建てられており、うちの家系は代々この神社の神職として神様に仕えてきた歴史があるとか。


鳥居の前。

婆ちゃんが参道の左側に立って一礼した後に左足から先に鳥居をくぐったので、俺もそれに倣って鳥居をくぐった。


(にゃー)


なんでも。参道の真ん中は神様の通り道らしいので、人は左右のどちらかを歩いて神様に道を譲るらしい。

そして鳥居は神様の世界と人の世界を繋ぐ扉の様な物で、言ってみれば神社は神様の家だ。

ちょっと失礼しますよ。

的な感じだと思う。

さらに鳥居をくぐる時に左足を先に出したのは、鳥居で参道の真ん中にいる神様に失礼にならない様、お尻を見せない為なんだとか。

確かに、野郎やババアの尻を見ても嬉しく無いだろうしな。


((にゃーー))


普通に参拝する分にはそこまで気にしなくても良いらしいが、俺だって婆ちゃんの手伝いで神社に入る訳だ。

ちゃんとしといた方が神様の心象も良いだろう。

何かあった時に助けてもらえるかもしれないし。


婆ちゃんの後ろについて歩き、拝殿から見て右手にある小さな社務所(掘立て小屋にしか見えないけど、そう言うと婆ちゃんが怒る)の鍵を開けて入ると、婆ちゃんは掃除道具入れからバケツと雑巾を取り出して俺に渡してきた。


「今日は本殿のところを頼むぞ」

「はいよ」

(((にゃーーー)))


そう言って自分は竹箒を手に持ち、早速社務所の周りの落ち葉を集めている。


「さてと。ちゃっちゃとやりますか!」

((((にゃーーーー))))


社務所裏にある水道でバケツに水を半分くらい入れたら、それを持って拝殿の裏にある本殿へと向かう。


ここは小さい神社ではあるが。

本殿

幣殿

拝殿

社務所

御神木

と、

中々に本格的(神社に本格も何もあるかは知らんけど)な神社だ。


(((((にゃーーーーー)))))


さて……。

皆さんお気付きだろうか。

この愛くるしい鳴き声に。


実は鳥居をくぐった瞬間から俺の足元には一匹、また一匹と猫が集まり、現在十匹近くの群れとなっている。

もし無視して掃除を始めようものなら、こいつらは俺の邪魔ばかりしてきて全く捗らない。

ならばどうするか。


「よーし、わかった! オーケーオーケー!」


俺は一旦バケツを置くと、足元にいる茶トラの猫を撫でくりまわし始めた。

途端に気持ちよさそうにゴロゴロと喉を鳴らす茶トラくん。


「お前ら! こいつみたいに撫でて欲しければ一列に並べ!」


猫相手に何を馬鹿なと思うかもしれない。

だが俺が言えば。

ほらこの通り!


先程まで俺の足元で絨毯かと思うほどひしめき合ってた猫達が、ちゃんと一列に並んだではないか。


なぜかはわからないが俺は昔から"動物には"好かれやすいみたいで、どんなヤンチャな犬猫、その他の動物だろうと俺にはすぐに懐いてくれるのだ。

この特殊能力のおかげで"調教師"なんて呼ばれてしまった事もあるほどだ。

この力が少しぐらい人間の女の子にも影響すれば良いのにとは思わなくも無い。


そうして長い列の最後の猫を撫で終わった時。


「うなーーーん」


一際ドスの効いた鳴き声が響いた。


「やっぱりお出ましか」


俺は声のした方に目を向ける。

するとそこには。


猫。


白猫がいる。

確かに猫だ。

だがデカい!


顔がデカいし、歩くたびにフリフリ揺れる玉(どこのとは言わないが)もデカい。

だが、そもそも体がデカい!


他の猫の3倍はあろうかという体躯だ。

虎やライオンの赤ちゃんだと言われても信じてしまいそうな程である。

いや、虎やライオンの赤ちゃんでも、こんなにふてぶてしい顔はしてないか。

明らかにボスの風格である。


デカ猫が現れると、撫でられ終わって俺の足元で波のようにうごめいていた猫達が、サッと2つに割れて道を開けた。


(今日も出た! モーセ!)


猫の波の中に現れた道を、のっしのっしと歩いてくるボス猫。

この光景からインスピレーションを受け、俺はこいつを"モーセ"と呼んでいる。

そして俺の前まで来るとモーセはその場に香箱座りをして。


「うなーーーん」


撫でろと命令してくる。

いや、言葉はわからないが絶対にそう言ってるはずだ。


「はいはい、仰せのままに」

「ぅなん」


"はい"は一回でよろしいって言ったに違いない。

だがそう言っていられるのも今のうちだ。

撫でくりまわしてお前のアヘ顔晒してやるぜ!


まず手を下からそっと近づけて顎をナデナデしてやる。

気持ちよさそうにゴロゴロ言ってやがるぜ!

そして、撫でる手を頭へ、そして背中へと移動させる。

そうして一頻り撫でてやると、三毛猫は満足したのか徐に伸びをしてどこかへ歩いて去ってしまった。

まだまだアヘ顔にさせるには腕が足りないらしい。


「うなーーーん」

モーセが去り際に一鳴きすると、周りの猫達もボスを追いかけて一斉に去っていった。


「ふぅ……これでようやく掃除に取り掛かれる」


雑巾を水につけて搾り上げる。

まずは目の前の本殿正面扉から拭き始め、壁、欄干、床板、階段と、次々に拭き上げる。

いや、磨き上げると言っても良い。

それくらい、俺が拭いた部分は輝きが違って見える。


ここで暮らすに当たって出された条件のもう一つが、この”神社の掃除を手伝う事”だった。

最初は「掃除くらいなら楽勝じゃん」とか思っていたが、慣れていない始めの頃は時間がかかったし、拭き残しだって沢山あった。

婆ちゃんにチェックされては汚れが残っているのを指摘されて、毎回竹箒の柄で叩かれていた。

しかし、1年も続けた甲斐あってか、今では掃除に1時間とかからなくなったし、太陽の光を反射して輝くほど、拭きあげるのが上手くなった。

婆ちゃんも太鼓判を押してくれて、毎回チェックされて固い竹箒で頭を叩かれることももう無い。


神社には掃除をしちゃダメな日っていうのがあるみたいだけど、そういう日以外は毎朝掃除をしている。

それを約1年も続けた訳だから、そりゃ掃除スキルも上がるだろう。


そうして、始める前とは見違えるほど光の反射具合が良くなった本殿に満足した俺は、チラッと腕時計を確認する。


時刻は9時半を回ったところだ。

準備をして出発すると考えると、ここらが切りの良いところだろう。


「さてと、そろそろ大学へ行かないとな」


俺は社務所に戻って掃除道具を片付けると、婆ちゃんに声をかけようと参道と拝殿の方を見まわした。


お!

いたいた。


拝殿から見て左手側には、この神社の御神体が祀られた時から立っているという”御神木”がある。

人が2人抱きついても手が回らないほどの太い幹をそびえ立たせ、樹齢数百年の老木とは思えないくらい青々とした葉を茂らせている楠木だ。


その御神木の下。

竹ぼうきでせっせと落ち葉を集める婆ちゃんがいた。

俺が近づいていくと、向こうも俺に気付いたらしく手を止めて声をかけてきた。


「終わったんか? 尊」

「バッチリよ! だから、ちょっと早いけど大学に行こうかと思ってさ」

「そうか、ありがとな。気をつけて行くんじゃぞ」

「わーってるよ」


そう言って行こうとしたが、一つ思い出した。


「ところでさ、前言ってたやつだけど。明日は任せて大丈夫?」

「あぁ、任せんか。腕によりをかけてやるわい!」


婆ちゃんがサムズアップして言ったので、俺は敬礼でこたえて神社を後にした。

出る時も、もちろん作法は忘れてない。


一度俺の部屋に上がり、ノートやら何やらが入ったリュックを取ると、玄関を出て左手にあるガレージに向かう。


ガレージと言えば聞こえは良いが、昔は農具やトラクターなんかを保管する納屋だった場所を、俺が車を入れる為に片付けたり改造したりしただけだ。


閂を外して木製の両開き扉を開ける。

元々が納屋として使っていた為、土やカビの匂いがあふれ出てきた。

だが、慣れてしまえばこれが意外といい匂いに感じてくるから不思議なもんだ。


扉が開き、目の前に現れた1台の車。


小さくて丸っこくて、グレーの車体が渋可愛い!

”フィアット ヌオーバ500(チンクエチェント)”


「今日もよろしく頼むぜ! ジョバンニ!」


ボンネットをぽんぽんと優しく叩きながら声をかけてやる。

俺が免許を取ってから今日まで、ずっと俺を運んでくれる相棒だ。

ちなみに"ジョバンニ"とはこのフィアットの名前なのだが、前のオーナーがそう呼んでいたらしいので俺もそう呼ばせてもらっている。


運転席のドアを開けて助手席にリュックを放り込んだら、運転席に座り込んでダッシュボードの鍵穴にキーを差し込み、回す。

そして。


「かかってくれよ~、エンジンちゃん♡」


そんな念にも似た思いを込めつつ、座席右手側のフロアに生えているスターターを引き上げる。


ブルルル!

ドドドドッ

ドドッドドッドドッドドッドドッ...


「よしよし! いい子だ!」


無事にエンジンが始動して気分が上がる。

とは言えすぐに出発はできない。

何しろこいつは旧車も旧車。燃料噴射にはキャブレターを使用している。

エンジンを温める為の”暖機”が必要なのだ。

その為しばし待つ事5分ほど。


ドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッ...


「よし! それじゃあ行くか!」


これらのエンジンをかけるまでの操作とかかった後の暖機を含めて、俺は"儀式"と呼んでいる。


俺は右手でギアを1速に入れ、じわじわとクラッチをつないだ。

ゆっくりとジョバンニのタイヤが転がり、ガレージから出てきた車体が太陽の下に晒される。


一度車から降りてガレージの扉を閉じ、再度乗り込んで発進した。

ミッションには現代車のようなシンクロも無い為、ダブルクラッチを使いながら丁寧にシフトアップする。


バイク並みの馬力なので加速は良くないが、この"操ってる感"が堪らなく楽しい。

エアコンが無いから今日みたいな日は地獄だけどな。


止まらない汗のせいでシャツが体に張り付いてしまい、気持ち悪くてしょうがない。

大学に着いたらサッサと着替えよう。

この季節は替えのシャツは必須だ。

それまでは申し訳程度に取り付けた扇風機に頑張ってもらうしかない。


「こんな日にはあの道から行くに限るな」


家の前を流れる小川沿いを少し走るとT字路に突き当たった。


片方は大きな幹線道路に出られる道で、大学まで15分くらいで到着できるから、急いでいる時なんかはそっちから行くのだが。


「今日は絶対にこっちだろ!」


ハンドルを切り、幹線道路とは反対の道へと向かう。

この道は家の裏山へと続く山道で、曲がりくねっている為スピードを出せず、大学へは30分ほどかかってしまう。

だが、この季節はそれを上回るメリットがあるのだ。


「涼しいー! 生き返る!」


曲がった瞬間から道路の両側には木々が立ち並び、強烈な日光を遮ってくれた。

外気温は30度をこえているというのに、この山道は違う世界なんじゃなかろうかと思うほど快適だ。

ルーフのキャンバストップも開放して、入ってくる空気中のマイナスイオンを全身で感じる。


途中までずっと上り坂が続くこの山道。

他の場所の上り坂であれば、ギアを落として唸りを上げる必要があるエンジンもこの道に限ってはそんな必要も無く、いつも以上にパワーを感じる。

やっぱり空気が良いとエンジンにも良い影響があるんだな!


曲がりくねった道を、口笛を吹きながら優雅に流して大学へと向かう。




大学へ着いて駐車場に車を停めた。

と、そこへ。


「ほら! やっぱり尊だよ!」

「・・・」

「おー! お疲れ! 優、空」




声をかけてきたこいつは"無常優むじょう すぐる"。

小さい頃からずっと一緒にいる俺の親友だ。


中々に爽やかな性格と声をしており、さらには背も高く顔も良いときたもんだから、大学に入ってすでに10人以上から告白されたりアプローチされたりしている。

しかも俺が一緒にいるにも関わらずだ。

絶対こいつが一人の時にも来てるだろうから、実際の人数はもっと多いとは思う。


で、無言のこっちは"三橋空みはし そら"。

優と同じく幼馴染であり、俺の唯一の”女友達”というやつだ。


身長170センチに整った顔立ちと前下がりのボブカット。スタイルも抜群でパンツスタイルがよく似合うから、どっかのモデルさんだと言われても驚かないくらいだ。

宝塚っぽい雰囲気だからか、こいつも女の子からモテていて、同性から告白されているのを何度か見てしまった事がある。




「相変わらず古いのに乗ってるね。音で尊だって丸わかりだよ」

「ほっとけ! 俺の相棒は唯一無二なんだから古いとか言うなっての。お前だって似たようなの乗ってんだからブーメランだぞ?」

「ふふふ! ごめんごめん」


優は謝りながらもクスクス笑っている。

こんな冗談が言い合えるくらいには仲が良い。

優もマニアックな車に乗っていて俺と話が合うから、本気で言っていないことくらい分る。


「明日は予定通りに尊の家で誕生パーティーをするけど大丈夫そう?」

「何も問題ねえよ! 婆ちゃんも任せろって言ってたから料理は期待してくれ。泊りの用意もしてあるから遠慮なく飲もうぜ!」

「ハハハ! よっぽど嬉しいんだね。空も大丈夫?明日は僕と一緒に行く?」


「・・・明日は私も参加できる。・・・私は自分の相棒で行く」


ぼそぼそと喋った空は握った両拳を前に突き出して右手をしゃくった。

空が乗ってるバイクの事だろう。

こう見えてこいつは結構な物好きだ。

凄いのに乗ってるし、最初に出会った時だって空はこのフィアットに引っ付いて(文字通りにへばり付いて)見ていた。

意外に思われる事が多いけど、俺達は話が合う。


「そういえばさ。"アレ"はどうなったの?」

「"アレ"?……あぁ。アレか……」

「うんうん、メッセージ送るって言ってたよね? 返事は来たのかなって」


実は昨日、以前から一緒の講義を受けていて、それなりに話したりもして仲が良い(と思っていた)女の子にメッセージで告白したのだ。

講義で顔を合わせると結構話も盛り上がるし、何より俺が乗ってる"ジョバンニ"に「乗ってみたい!」なんて言ってたんだ。

ワンチャン行けると思ってたんだよ。


「まぁ、返事"は"速攻で来たよ」

「歯切れが悪いね」


優は俺の態度と返事で察したらしい。


「今はそんな気は無いんだとよ。これからも友達でいてくれってさ」

「それは気まずくなって友達でもなくなっちゃうパターンだよ」

「わかってる。どの恋愛系ブログにも書いてあった……」


届いたメッセージを開いた瞬間の気持ちを思い出してしまい、滝のような涙があふれてくる。


「うおぉぉおぉおぉ! 俺はもうダメだぁ……このまま一生彼女ができずに年老いて、一人寂しく死んじまうんだぁ!」

「そんな大げさな」


俺と彼女は話も盛り上がってたから、大学に入ってようやく俺にも春が来るかと思ったんだが。

結局は今までと変わらないらしい。

コンプラが厳しいこのご時世、一度断られた相手と話したり遊びに誘ったりするのはストーカーなんかと間違われそうで怖くなり、結局俺が告白した相手は例外なく俺と疎遠になる。

動物相手なら今朝のようにモテモテだというのに。

その力を人間にも適用させて欲しいよ。


「まぁ、僕はこれで良かったと思うよ」

「何だよ! 人の不幸は蜜の味ってか!?」

「そ、そんなんじゃ無いよ! ほら! 明日は土曜日だしさ。いっぱい楽しんで忘れようよ。ネガティブになっちゃうと、次の恋だって成功しないと思うし」

「そう言ってくれる友達なんてお前だけだよ……」


優が俺の肩に手を置いてヨシヨシと慰めてくれる。

男二人の慰めあいを横でジッと見ていた空が一言。


「・・・恋?」

「違う!!!」

「ふふふ!」




その後。

俺たちは一緒に2コマ目の授業を受けた後、大学の外に昼飯を食べに行き、戻ってきて午後の3コマ目の講義も一緒に受けた。

次の4コマ目は講義を取っていないので、今日はもう終了である。


まだ14時半なのでどこかによって行こうと思って優と空を誘ったが、どうやら明日の準備があるとかで2人とも先に帰ってしまった。


一人でどっかに遊びに行くのもなんだしな。

今日はもう帰るか。


俺は駐車場のジョバンニに戻り、儀式をしてからゆっくりと発進して帰路についた。

最後まで読んで頂いてありがとうございます!

ついでにリアクションやブックマーク、感想なんか頂けると凄い嬉しいです!

気に入ってくださったら幸いです。

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